Something there 投稿者: ひろやん
それはきっと恋愛感情ではなく、
それはきっと恋の始まりでもない。

「今から合図したら、恋人同士になる」
「うんっ」

分かることはただ一つ。

「じゃあ、スタートっ!」
「うん」
「………」
「ほえ?」

それは……


もうひとつの繭の物語8
『Something there』


 SCENE 01

年が変わって、何が変わった?

「みゅ〜っ」
「って、ぎゃーーっ」
「繭、ダメだよー」

そこにあるのは何も変わらない日々。
まるでずっと前からそこにあるような、そんな毎日。

「いいじゃないか、七瀬。ハゲたところで減るもんでなし」
「髪の毛が減るわよっ」
「七瀬ってケチだな。髪の毛の1本や2本くらいで」
「ケチとかそういう問題じゃないでしょ。それにお下げごと引っ張られてんの、こっちは」

違うんだよな。
変わったんだ。
七瀬が転校してきて、椎名が(非公式に)やってきて。

「なんならオレの髪の毛やるよ、ほら。あ、白髪だ。運いいな」
「死んでもいらない。それとも呪いの人形にでも入れて欲しいのかしら」
「遠慮しておきます」

変わらない日々というのは、変わり続ける日々だって。
気付いてはいるんだよ。


 SCENE 02

「浩平ーっ。ほら、早く起きないと遅刻するよ」
「……」
ぺちぺち。
「無言で頭叩かないでよ〜」
「いや、鳴り止むかと思って」
「私、目覚し時計じゃないもん」

変わらない事なんて、どこにある?
ほら、今も今の瞬間も、こんなにも世界は変わり続けている。

「もういいかげん朝くらい1人で起きようよ」
「そうだな」
「だいたい、こんな“ぐうたら”さんに面倒見られてる繭がかわいそうだよ」
「そうだな」
「…ちゃんと聞いてるの?浩平」
「……」
ぺちぺち。
「だから、無言で頭叩かないでよ〜」

オレは変わろうとしているのだろうか。
変わらずにいようとしているのだろうか。
答えは意外と簡単だったりするのかもしれない。

「おはよう、繭」
「今日も早いな、椎名」
「みゅー。おはよう」

ほらな。
それはそう、そこにあるから。


 SCENE 03

無いはずのものがある。
それを誰も気にしなかったように。
あるはずのものが無くなる。
それに誰も気がつかない。

「……みゅ〜………」

どうしてだろう。
心と体は別なものなのに。
体が結ばれただけで、今まで以上に心が通う。

「…すやすや……」

どうしてだろう。
いつまでもそこにあって欲しいと思う寝顔は、
いつでもそこにあるはずの幸せは、
いつからそこにあったのだろう。

今はただ、
そのうち睡魔に屈してしまうまで、
この幸せな寝顔を見守っていよう。


 SCENE 04

歩くその先に何があるのか。
そこにあるものを見るためにみんな歩いている。
その足が真っ直ぐ出ていれば、それでいい。

「えっと…てりやきのセットふたつに…うんと…もうひとつてりやきに…」

オレはどこに向かって歩く?
そこに何があっても、何も無くても。
それでも歩かなくてはいけない。

「もうひとつてりやきに…ぽてとの大きいのに…もうひとつてりやきに…」

椎名はどこに向かって歩く?
そこに何があっても、何が無くても、
お前ならきっと大丈夫だ。
だから、もう自分の足で歩けるよな。

「…てりやきバーガー、六つですね?」
「うん…」

その先がどんな世界に繋がっていても、歩き続けるんだ。
やがて二つの道が一つになるから。
いつか、きっと。


 SCENE ??

それはきっと恋愛感情ではなく、
それはきっと恋の始まりでもない。

「椎名、卒業おめでとう」

抱きついてくる椎名をしっかりと抱きとめてやる。
その小さな身体の中の1年間も一緒に。
その小さな身体の中の一生懸命も一緒に。

「大人になったな」(もっとも体は1年前にオレが大人にしてやったが)

分かることはただ一つ。

「ホント、大きくなったな」
「ううん、1cmしか伸びてないよ」

それは、オレと椎名二人だけのものなんだ。


おわり
(by ひろやん&光夜じんB)


あとがきのようなもの

3ヶ月ぶりにSSを書きました。
時間があった割には本編シナリオの使い回し的なものですが。
結局1年間かかってもこのくらいしか繭シナリオを消化できませんでした。

まだ僕は繭の、繭シナリオの、ONEの魅力の半分くらいしか分かっていない。
いや、この作品は元からその魅力を全てはさらけ出そうとしていない。
だから、好きなんだな、僕は。
繭も、繭シナリオも、ONEも。