悲しい雪(後編) 投稿者: 秀さん
「はい、もう折原さんは・・・あなたのお母様の命はそう長くはないんです・・・」
浩平と瑞佳は看護婦の口から発せられた言葉に驚きを隠せないでいる
二人はもっと正確に話しを聞くべく母を担当している
医師に会うことにした
・・・一時間後・・・
「どうも、ありがとうござまいした」
診察室から二人が出てきた
瑞佳が礼を言いながら扉を閉める
一時間の間医師から聞かされた話はこうだ
浩平の母は今のままではよくもって半年の命だと言う
もう手術をしても少しだけ延命出来る程度らしい
ようするにもう手遅れなんだと・・・
本来はもっと早く診察室からは出れたのだが
瑞佳が浩平の代わりにと言わんばかりに医師に質問を投げかけていたので
一時間も時間かかってしまった
その間浩平は一言二言しか言葉を発しなかった
浩平は診察室を出ようと掛けていた椅子から立ち上がろうとした時に
医師が言っていた言葉が引っかかっていた
「折原さんはこんな立派な息子さんがおられるのにどうして親族の方は居ないと言ってたん でしょうね・・・」
・・・親族はいない・・
その事は浩平にも母の真意は計りかねていた
「・・・浩平」
「・・・浩平ってば」
「うん、なんだ長森」
「いいの?このまま帰っても?」
「何の事だ?」
「お母さんの事だよ、会って行かなくていいの?」
瑞佳は浩平の心中を察しているのかいないのかそんな事を聞く
「いいよ、あの話しを聞いたとしても、俺はお袋を許せるほど心は広くない・・・」
「浩平、ほんとにいいの、もう本当に会えなくなるかもしれないんだよ、それでもほんとに いいの?今会わなくて後悔するかもしれないんだよ」
「いいんだよ!」
「・・・とにかくまだ心の整理が出来ていない・・・今会った所で結局またさっきの事の  繰り返しだ!」
浩平はそう言い残して病院を出て行く
瑞佳も仕方なく浩平に続く
雪が深々と降り積もる中傘も差さずに

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浩平は今だに迷っている
母にもう1度会うべきか会わないでおく事か
この一周間悩みに悩んだ
その為に眠れない夜もあった
心神喪失状態だったとは言え自分を殺そうとした母に会うべきなのかと・・・
しかしどんなに悩んでもその答えは見つからなかった
そんなある日
「浩平、これを見て・・・」
浩平の家にやって来た瑞佳がそう言って差し出した物・・・それは日記帳だった
「なんだ?これは」
そう言って浩平は日記帳のページを開く
それは母の日記だった
「私ね浩平のお母さんから無理言って借りてきたの」
瑞佳はあれから浩平の母に何度か会いに行っていた
そして母も自分は浩平に会う資格は無いと言っていたのだが
資格なんて関係無いと言い何とか説得して
浩平にもその事を判ってもらう為に日記帳を借りてきたのだ
「何故、俺がお袋の日記なんか見なくちゃいけないんだ!?」
「いいから見る!!」
渋る浩平に瑞佳はいつになく強い口調で言った
渋々見る浩平・・・

・・・母の日記(浩平と再会する前日と当日を抜粋)・・・
○月×日
今外では雪が降り出している
この感じだとおそらく朝には何もかも覆い隠すように
積もっているだろう
看護婦の○○さんや○○先生は私にはなにも言わないが
私に残された時間は残り少ない
その事は自分の身体だからよく判っている
だから色々な景色をこの目で出来るだけ見ておきたい
明日が楽しみだ

○月×日
昨日の夜から降り出した雪は朝起きるとやはり積もっていた
一面の雪景色、凄く奇麗だった
しかし今日は嬉しくそして悲しい事があった
それは息子の浩平と会った事
この奇麗な景色をもっと記憶に留めておきたい
そう思った私は病室を出てホールへ
そこから雪景色を眺めている時に後ろからの視線を感じ振り返る
そこには浩平が居た
その側には可愛らしい女の子が居た
多分浩平の大事な人だろう、雰囲気で判る
浩平は私をじっ見つめていた
そして私は思わず声を掛けてしまった
嬉しくもあったがそれは悲しくいけない事
私は浩平をあの日殺そうとした時からあの子の親である事を
母親である事を放棄してしまったのだから
本当は声をかけてはいけなかった
でも気が付けば近付きそして声をかけていた
とんでもない言葉を言っていた
そしてあの子に拒絶された
これは判っていた
あの子は私を恨んでいるこれは当然の結果
でもそれは悲しくそして辛い事、もし心の中で雪が降り積もるのならば
今私の目の前に広がる雪景色の様に
すべてを覆い隠して欲しいぐらいに
でもそれは悲しみの先送りでしかない
その事も判ってる
でも今はそれでも逃げたい
この悲しみから

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

浩平は母の日記に目を通し閉じる
浩平との再会後この日記には浩平の事ばかり書かれていた
浩平への謝罪の言葉と心配している事
この日記帳に延々と書かれている
そして母はもう自分に残された時間が短い事も悟っているようだった
この時ようやく浩平の中で母との再会後ずっとあったわだかまりが解けた
「どう?これでも浩平はまだお母さんに会いたくないって言うの?お母さんはずっと
 浩平の事で苦しんできたんだよ・・・それでもまだ会いたくないって言うの?」
瑞佳は涙交じりに浩平に訴える
「ねぇ会おうよ、今会わないと浩平はきっと後悔するよ」
「長森・・・」
「ねっ会おうよ浩平・・・」
「・・・判った・・・会いに行くよ」
浩平はそう答えた・・・
母の日記を見てから2日後今浩平は病院に居る母に会うべく
病院へと続く道を瑞佳と共に歩いている
日記を見た後から2日かかったのは
気持ちの整理の為・・・
この日も雪が降り注いでいる
その中を浩平は決意も新たに歩く
さぁもうすぐ病院だ・・・

・・・エピローグ・・・
母とのちゃんとした再会から1年半
今浩平は喪主として葬儀の式場にいる
母は浩平との再会後医者が奇跡と言って驚く程よく持ちこたえた
いいとこもって半年と言われていたのが1年以上も生き続けたのだから
まさに奇跡だろう・・・
その間に浩平の身の回りにも大きな変化があった
喪主として座っている浩平の横に瑞佳がいる
浩平は瑞佳と結婚したのだ
しかも今は妊娠3ヶ月
今は目立たないお腹ももうすぐ
大きくなり目だってくるだろう
母は第一子誕生の報告を浩平から受けた直後
容態が急変しそして息を引き取った
かなり苦しかったはずなのに死の直前母は微笑んでいた
それは浩平の未来が明るいものとして確信し
それを自分の事みたいに喜んでいるかのような微笑みだった
葬儀で浩平は喪主として弔問客に挨拶をして
そしていよいよ出棺・・・
棺を運び外に出る
外はあの日のように雪が深々と降っている
その中を母の棺を乗せた霊柩車は走り出す
全ての悲しみを乗せて・・・
そしてその悲しみを覆い隠すかのように雪は降り積もっていく・・・

・・・終・・・

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こんばんは〜(^^)
続き書くのに詰まっちゃいまして・・・
ようやく書きあがりました(^^;
しかし我ながらこの遅速ぶりは情けない限りです(^^;
出来の方は如何でしょうか?
やっぱきついかな(^^;
浩平簡単におっかさん許しすぎだったかな・・・
しかしこれでなんとか次に予定してるギャグ物に取りかかれますわ(汗)
一応ギャグ物はいちごうさんのHPにあるリレーSSで書かせて貰ったんですが
(あれはギャグになってるかな〜(^^;)
リレーでなく単独で書くのは初挑戦なんで果たしてギャグになるのかが
心配なんですけどね(^^;
どんな感じになるかは私にもわからないです(滝汗)

感想をくださった方へ>
毎回ほんとうに有難う御座います〜m(__)m
毎度の事ながらレスは返せないけど
凄く喜びながら感想読ませて頂いております(^∇^)
重ね重ね有難う御座いました〜m(__)m

では〜(^∇^)ノ

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