いつか見た夕日・・・・(後編) 投稿者: 秀さん
浩平は手術室の前で落ちつき無く終わるのを
待っている・・・
今一番大切な人が受けている試練を
ただの傍観者となって見ている心境だ・・・
ほんとは共に試練を受けたい
しかしこれはみさきにしか受けられない試練なのだ・・・
目が見えない者だけが受けられる試練・・・

・・・角膜の移植手術・・・

目が見える者には決して受けれない試練
しかしただ待つ事もまた1つの試練・・・
二人を扉で別つ時間は長く長く長く・・・
ただ待つ事だけの時間・・・
時の流れが止まっているかのような静寂・・・
辺りに人影は無い・・・
ベンチに浩平とみさきの両親が座っているのみ・・・
浩平は検査が良い事で喜んでいたみさきの事を思う・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

みさきの検査の報告を待っていた浩平・・・
いつもなら気がつけば過ぎているほどの短い時間に済むはずなのに長く感じる
ただ検査の結果が良い方に出るのを祈る・・・
そこにみさきが診察室から出てきた・・・
「ただいま〜浩平くん」
「おかえり、先輩、でっどうだったの結果は?」
「うんっいいんだって、角膜が適合したから手術受けられるんだよ」
「そっそうか〜おめでとう先輩」
浩平は嬉しさのあまり大きな声を出してしまった・・・
浩平は通りかかった看護婦に『静かに』と注意されしまった
「あはは〜ありがとう浩平くん」
みさきはそんな浩平を笑いながら礼を言った
「よしっ今日は盛大に祝うぞ〜」
浩平は張り切っている
「わぁほんとに〜じゃぁ私はお寿司がいいな」
「ぐはっいきなり寿司か〜もう少し安いのにしない?」
「えっ盛大に祝ってくれるって言ったの浩平くんだよ、だから私は素直に行きたい所を言っただけなのに・・・」
「はぁ〜わかったよ寿司食いに行こう・・・」
浩平は溜息まじりにみさきの希望をかなえる事にした
「うんっありがとう浩平くん、嬉しいよ」
「はは、お安いごようさ、先輩」
『はぅっこれで次の給料日まで漬物とご飯だけだな・・・』
浩平は引きつった笑みを浮かべつつみさきに言ったものの心の中ではそう思った・・・
その日はみさきが大量に寿司を平らげたために浩平の財布は隙間風が吹く羽目になる・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

もう手術が始まってどれだけ時間がたったのだろう・・・
移植手術だけあって大手術だ・・・
長い時間・・・
みさきが見たいと言っていた物を浩平は頭の中で反芻する・・・
・・・俺の顔・・・
・・・学校の屋上から見た夕日・・・
そして思う・・・手術が成功してくれよと・・・
手術室の『手術中』のランプが消える・・・
みさきが運び出されて行く・・・
執刀した医師が出てくる・・・
「先生、手術は・・・みさきの手術は成功したのですか?」
みさきの両親が医師に聞く・・・医師は・・・
「大丈夫、成功です、後は経過を見て包帯を取るだけです」
「そっそうですかありがとうございます」
両親は医師に礼を言うとみさきが運ばれて行った病室へと
歩き出した・・・
浩平も医師に一礼すると後を追うようにみさきがいる病室へと
歩き出す・・・
『やったじゃないか、手術は成功だってさ、先輩』
浩平は喜びをかみ締めつつ足早に麻酔が効いて眠りについている
みさきの元へと急ぐ・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

手術からそれなりに日にちがたちいよいよみさきの包帯が取れる日がやってきた・・・
この日まで包帯を目の所に巻いたみさきが痛々しかったが
いよいよその包帯が取れる日が来たのだ・・・
浩平は感慨深げに手術後のみさきの事を思う・・・
目が見えた時の事を想像して嬉しそうに、恥ずかしそうに
話すみさきを浩平は横で目を細め自分も嬉しそうに眺める・・・
目が見えるようになったら色んな所に行こうと約束して・・・
そして病室に医師が入ってきた・・・
いよいよ包帯が取れる・・・
医師はみさきの横に行きそろそろと包帯を取り始める・・・
そして包帯が取れる・・・
医師は手をみさきの前にかざして振ってみる・・・
「川名さん見えますか?」
医師は聞く・・・
見えるか見えないのか緊張の一瞬・・・
「はい、見えます」
みさきは答える、その答えに浩平と両親は喜ぶ
「では、これは何本ですか?」
と言い指を1本だけ立てる・・・
「はい、1本です」
「では、これは・・・」
こうして医師が見えるのかチェックして行く・・・
「おめでとう、もう大丈夫ですね」
医師は笑顔を見せながらみさきを初め浩平達に告げる・・・
「では、私はこれで、失礼しますよ」
医師は一礼して病室を出る・・・
「はいっありがとうございました」
両親は医師に一緒に来るように言われ一緒に出て行く・・・
病室にはみさきと浩平の二人残される・・・
「浩平くん?浩平くんだよね?」
みさきが浩平に聞く・・・
「そうだよ、先輩」
「うふふ、やっぱりそうなんだね、想像していた通りだよ」
「えっ何が?」
「浩平くんの顔だよ、私ずっと浩平くんの顔ってどんな顔してるのか想像していたんだよ」
「先輩・・・」
「うふふ、夢みたいだよ、本当に浩平くんの顔が・・・見れるなんて・・・思ってもいなかったから・・・」
みさきは声を詰まらせながら言う・・・
「泣いているのか、先輩?」
「うんっうれし泣きだよ、凄く嬉しいから涙が出てきちゃったよ」
「そうか、うれし泣きか・・・」
「そうっだって目が見えるなんて考えもしなかった・・・ずっとこのままだと思ってたから・・・そう思うと凄く嬉しくて、涙が出るんだよ」
みさきは今までの想いを話す・・・
「ははは・・・そうか、でもこれからは嫌と言う程俺の顔なんか見れるさ」
浩平も少しぐっと来ているがそれを隠しみさきに言う・・・
「そうだね、これからもよろしくだね、浩平くん」
「あぁ〜よろしくな、先輩」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今二人は学校の屋上で夕日を眺めている・・・・
奇麗な・・・ゆっくりと街並みを照らしながら沈み行く夕日を・・・
退院後二人は色々な所へ行った・・・
映画館、展望台など、今まで見れなかった分を補うかのように・・・
一番最初に行った場所は勿論この学校の屋上・・・
夕日を見る為に・・・
そして再びここに戻ってきた・・・
二人が出会い、そして再会した場所・・・
二人のすべての関係が始まった最初の場所・・・
今、二人は寄り添い夕日を眺めている・・・
二人共笑みを浮かべ幸せそうに・・・

・・・いつもある風情・・・
・・・見なれた景色・・・
・・・でも忘れないで・・・
・・・それを見たくても・・・
・・・見れなかった事を・・・
・・・今はもう見れるけど忘れないよ・・・
・・・だってそこにいたのはもう一人の私だから・・・
・・・悲しいけどいつもそれを隠して生きてきたもう一人の私だから・・・
・・・決して忘れたりはしないよ・・・

・・・PS、今、私は凄く幸せだよ・・・
・・・もう一人の私へ・・・

・・・終・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こんにちは〜(^^)
ようやく書き終わりました〜(^∇^)
長くなりましたけど如何でしょう?

感想を下さった方へ・・・
中編では大変沢山の感想を頂きまして
ありがとう御座いました〜m(__)m
でも各々の方へのレス返せなくてすいませんですm(__)m

では〜(^^)

http://www2.plala.or.jp/omo/