嘘と真実 1 投稿者: 藤井勇気
雪が降るやもしれない一月の上旬。この日、浩平は茜に呼び出され、人の住める場所とは思えないほどの
寒風と寒気を身に纏った屋上に、来ていた。4時限目も終了した昼休みである。

「あかねぇ〜。こんなクソ寒い場所に呼び出して、一体なんの用なんだぁ〜?」
既に茜は屋上に来ている。フェンスに手を掛け、ミニチュアのような町並みを…この大空を見ている。
空は、白く霞みがかったような雲に覆われ、日の光が顔を出すことはない。冬特有の空模様だ。

「…浩平に聞いて貰いたいことがあります」
「…金なら無いぞ」
「……」
「……」

…一瞬の間。茜は未だフェンスの向こうを見ている。その為表情は解らないが、心なしか肩が震えて
いるような気がする。

「浩平…真面目に聞いて下さい…」
「いや、本気だったんだが」
静かに茜が振り返る。相変わらずの不機嫌そうな表情だが、いつもより険のある感じがした。
(もうちょっと明るくなれば、他の奴等も黙っちゃいないんだろうけどな……)
胸中でそう呟きながらも、浩平は振り返った茜の双眸をまっすぐに見つめる。透き通るような
綺麗なエメラルドグリーン。しかしその双眸から放たれるのは、暗い色……。悲しみしか
生み出さない瞳…。茜の笑顔は見たことがあるが、真にその瞳から悲しみが抜けたのを
見たことがない。いや、もう抜けることなど無いのではないか…。何故か浩平はそう感じ取った。

「わかったわかった、ちゃんと聞いてやるから。で?わざわざこんな場所で話しをするなんて事は、
 人には聞かれたくないって事なのか?」
「…もうみんな知ってると思います」
「はあ?話が見えないんだが…う〜寒む」
震える肩を両手で抱くようにして、浩平が愚痴る。茜も同じ条件のはずなのに、眉一つ動かさず
浩平を見ている。寒さを忘れる程の話なのだろうか?

「…詩子に…好きな人が出来ました」
「……」
「……」
「はい?」
一瞬、この世の時間が全て止まったのではないかと思う程の間が訪れた。

「す、すまん…最近耳が悪くなっちまってな…もう一度言ってくれないか?」
「…詩子に好きな人が出来ました」
「悪い!もう一度…」
「…詩子に好きな人が出来ました」
「歯垢に墨が出来ました?」
「…詩子に好きな人が出来ました」
「……」
「……」
「マジか?」
「…マジです」

シイコニスキナヒトガデキマシタ………

「もしかして…相手は女とか?」
「男です」
「あっ!実は好きになった奴って、犬とか猫とかサンショウウオとか…」
「人間です」
「……」
「……」
「マジ?」
「マジです」

マジデスマジデスマジデスマジデスマジデスマジデスマジデス………

「すまん……ちょっと気分が…」
「なんで気分が悪くなるんですか?」
「いや、だってなあ…あんな奴に好かれるなんざ、相手の野郎も不幸だよな〜」
「そう…ですか……」
「茜?」
緑色の双眸が僅かに曇る。それは詩子のためを思ってか、相手のためを思ってかのことは解らない。
ただ…彼女にとってこの事は、どうやら思わしくはないようだった…。

「とりあえず教室に来てくれませんか。詩子がいると思いますから…」
「柚木が来てるのか?だから屋上で話したのか…」
「多分わたしの席に座っていると思いますから…」
「あ、ああ……」

まるで南極にでも来たような、この極寒に包まれた屋上を後にして、浩平達は教室へ向かった。

「ところで茜…」
「…はい」
多少小走りで歩きながら、ふたりは行く。廊下は暖房こそ無い物の、先程の屋上の寒さに比べれば
天と地である。浩平は自分の少し後ろに付いて歩いている茜に、振り返らずに訪ねる。
「その柚木が好きになった奴って……誰なんだ?」
「浩平のよく知っている人です…」
「オレの知ってる……もしかして髭かっ!?」
「なんでそうなるんですか?」
「結構自身あったんだけどな〜」
「…先に行きます」
白い息と共に小さなため息を吐いて、浩平の前を行こうとする。浩平はあわてて自分を追い越そうと
している茜の腕を取った。
「待てよ、冗談だって」
「…嘘つきは嫌いです」
「嘘じゃなくて冗談だよ」
「…同じようなものです」
「で、実際誰なんだ?オレには皆目検討も……」
「…南」
「今向かってるのは、北校舎だぞ」
「…南なんです」
「いや、オレとしては南校舎より北校舎……」
「詩子が好きになったのは南なんです…」
「……」
「……」
ぴたりとふたりの足が止まる。そして沈黙。これで今日何度目の沈黙なのだろうか……。
「実は柚木ではなくて北川が南を好きになったのを、茜が勘違い…」
「…そのネタはKOHさんです」
「冷静につっこまないでくれ…」
多少うんざりしながらも、茜はもう一度その禁句を唱えた。
「…詩子が南を好きになったようなんです」
「やっぱり……マジ?」
「大マジです」
「……」
「……」


雪が降るやもしれない一月の上旬。ここに一足早い春が訪れようとしていた……。
空は…相変わらずの冬曇りだった。


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勇気「はいよっす♪(謎)無謀にも南君救済SSを書いてしまいました〜」
華穂「あの…木ノ下留美さんのSSは……」
勇気「すいませ〜ん(TT)ついついこれを書いてしまいました〜」
華穂「偽善者Zさん怒るんじゃないんですか?」
勇気「だって〜〜仕事してたらいきなりこのSSが浮かんでくるんだも〜ん。忘れないうちに
   書いておこうと思ったら、第1話が出来ました(^^;」
華穂「前回の後書きの続きは?」
勇気「いや、「同棲」のキャラを出すから、再確認のためゲームを起動したんです。
   ところがデータが吹っ飛んでましたわ、はっはっは〜(`∇´)」
華穂「はあ〜〜〜もういいです……」
勇気「う〜ん、早く書きませんとね〜(T_T)では皆さん、またです〜♪」