わんとむ〜ん 第1話 その2 投稿者: 藤井勇気

カツ…コツ……、カツ………コツ………。

沈む夕日ら照らされ、三つの影が校舎の壁に、不気味に映し出される。
その影達がゆっくりと階段を昇っていく………七瀬達だ。


「七瀬……」
「なによっここまで来て怖じ気づいたって言うのっ」
「いや、そうじゃない。何故オレと長森まで行かなくちゃ行けないんだ?」
「なにいってんのっ!か弱い乙女のあたしに一人で行けって言うの?
 …折原、あんた最低ねっ!」
「木刀もってガニ股で階段昇りながら、フンフン鼻を鳴らしている奴が、
 か弱い乙女だったら全国の乙女は一体どうなるんだ…?」

ビュンッ!!

ぶつくさ文句を言ってる浩平の喉元に、七瀬の木刀が突きつけられる。
「……つべこべ言ってないで、黙ってついてくりゃいいのよ」
ドスの効いて声で浩平を説得(?)する七瀬。
「はいぃぃぃぃ……、解りましたあぁぁぁ…」
「ちなみにわたしは、面白そうだから付いてきたんだよ♪」
「とことんいい性格してるわね、瑞佳………」
やっぱりもの凄くやるせない気分になりながらも、七瀬は屋上のドアを開けた。

屋上には夕日を背にして、三人の人影が立っていた。


「…やっと来たわね。七瀬留美」
三人の内、真ん中の人影が口を開く。
逆光で顔がよく見えないが、どうやら声からして女性のようである。
「あんたねっ、あたしの机にあんな事書いたのはっ!。このまま生きて
 帰れるとは思わないことねっ!」
ビシッと木刀をその女性に向ける。
「…その通り、わたしが犯人よっ。そしてわたしの名は………」
そう言ってすちゃっとオーバーアクションをして、その女性は叫ぶ。

「わたしはっ!」
「天沢郁未だろ?」
「へっ…?」

浩平に天沢郁未と呼ばれた女性は、かなり間の抜けた声を出して、こちらを見返した。
「浩平、知ってるの?」
「馬鹿。あんな阿保なポーズ取って自己紹介する奴なんざ、この学校の中じゃ
 あいつしかいねえって。同じ2年で陸上部のエースだとか言われてたけど、
 いつの頃から妖しい宗教団体に入って、行方しれずになって、最近学校に
 戻ってきたと思ったら、不可視の力だとか訳の分からない力を使って、
 影の女番長をやっているらしい野心家だ」

「……」
郁未と呼ばれた女性は(さっきのオーバーアクションを崩さぬまま)
硬直していた。どうやら図星のようである。
「あはは…、先に言われちゃいましたねぇ〜郁未さん」
郁未の後ろにいた女生徒が、笑いながら話しかける。

バキャッ!!
「きゃうっ………」
「…あんたは黙ってなさい、由衣」
目にも止まらぬ速さで裏拳を、由衣と呼んだ少女に食らわせる。
鼻から鮮血を吹き出しながら、ぽてっと由衣は倒れ伏した。
そして郁未は改めて七瀬達の方を見た。

「そこの男の言うとおりよ。ちょっと引っかかるところもあるけれど、
 わたしは天沢郁未。そして後ろにいるのが、わたしの友達(下僕)の
 巳間晴香と名倉由衣よ」

「そう、あんたが天沢郁未なのね。うわさは色々と聞いてるわ」
「…どうせ、悪い噂ばっかりなんでしょうね」
「で、その淫乱ババアがあたしになんの用なのっ!」
「だれが淫乱ババアよっ!!……ともかく七瀬さん、貴方に答えてもらいたいことがあるの」
「あたしに?」
怪訝な顔つきで、七瀬が聞き返す。
「そう、あなた前に相田と言う男子に告白されたでしょう?」
「ええっ!?……なんでそれを?」
あからさまに動揺の色を見せる七瀬。
「なにいぃぃぃっ!嘘だろっ!」
「凄いよ七瀬さんっ、その日はお赤飯だったね♪」
「…頼む。あんた達少し黙ってて」
郁未が頭を抑えて、浩平達に制止の声をかけた。

「……確かに、あたしは相田君に告白されたわ」
「そしてその告白を断った……」
静かに郁未が付け加える。
「なにいぃぃぃぃぃぃぃっ!マジかっ!?」
「非道いよ七瀬さんっ、この遊び人っ!」
「だから黙ってと言うとんじゃろがあぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!」

肩ではあはあと息をしながら、郁未は焦燥していた。

「……え〜と、どこまで話したっけ?。そうそう、あなたが相田君の告白を
 断ったってところだったわ」
「ええ…、彼には悪いと思ったけどね。実際彼は誠実だとか真面目だとか
 色々と他の生徒から聞いていたし、告白されたときもその噂通りの
 感じだったわ……。どっかの誰かさんとは大違いだしね」

「おいっ、そりゃオレのことかっ!」
「浩平、解りきってること聞いちゃ、自分がよけい惨めになるよ」
「……おい」

「でも…、断ったんでしょう…。どうしてなの?」
淡々とした口調で、郁未が問いかける。
「そうね。悪くはないと思ったわ。こんな事滅多にないと思った。…でもね、
 相田君のことは嫌いではなかったけど、好きでもなかった。
 だから『お友達でいましょ』って言ったの。そんな顔だとか成績の善し悪し
 だとかで恋人は決めたくなかったからね……」
苦笑に近い笑みをしながら、七瀬は郁未を見た。

「でもあーゆうこと言う奴に限って、三十路過ぎても男出来ずに売れ残るんだよな」
「…浩平、それは禁句だよ」
「…外野。聞こえてるわよ……」

「…そう。クックック……、そんな理由で相田君をふっちゃったわけなの…」
郁未の体から言いようのないなにかが、あふれ出してくる。それは……、殺意!?。

「決定ね。どちらにしても、始めからこうするつもりだったけど…。
 七瀬留美っ、あなたを消去します……」
ぱちんと指を鳴らすと、後ろにいた晴香と鼻にティッシュを詰めた由衣が、
前に出てきた。

「ちょ、ちょっと待ってよ!?なんで人ひとりふったくらいで、消されなきゃ
 なんないのよっ!?」
「あ、それはですねぇ〜」
ティッシュを詰め終わった由衣が、にっこりと七瀬を見る。

「郁未さん、相田さんの事が好きなんです。それでヤキモチ焼いてるんだと
 思いますよ。なにせ郁未さんときたら、相田さんの使ってる消しゴム
 盗んだり、体操服を盗んだり、ラブレターじゃなくて不幸の手紙を
 送りつけたり、ストーカーよろしく家までつけていったり、
 無言電話かけたり、相田さんの机に彫刻刀で『ダ・イ・ス・キ♪』とか、
 自分の名前と相田さんの名前で、相合い傘作ったり、極めつけは、
 その机で○○○な事までしちゃうんですよ〜。凄いですよね〜〜………」

ぼぐしゃあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっ!!

「はぐうぅぅぅぅぅぅぅぅっっ……………………」
由衣の後ろから、郁未の容赦の無いかかと落としが炸裂した。
そしてうずくまった由衣の胸ぐらを掴み上げ、怒濤の往復ビンタをかます。

「このっ!このっ!あんたって子はっ!どうでもいいことをペラペラペラペラ
 喋ってっいい加減にしなさいよっ!」
「ふえぇぇぇぇ〜〜ん、ごめんなさ〜〜〜〜〜〜い……………」
「郁未…。それくらいにしときなよ…」
横から晴香が止めに入った。
「ここで仲間割れしてもしょうがないし、後にしなさいよ」
晴香のもっともな意見を聞いて、郁未は渋々と手を止めた。
「はひゃ〜、はるかひゃんありがひょうございまひゅ〜〜〜」
「別にいいわよ。今度のお昼おごってもらうから」
「はひゃ〜〜〜〜……………」

「……さて」
コホンと咳払いをして、郁未が七瀬達を見る。
「あの天然ボケの言う通りよ…。七瀬さん、わたしはあなたが憎いっ!。
 わたしがどんなに相田君に想いをぶつけても、彼は振り向いてはくれなかった……」
「…そりゃあそうでしょうねえ」
七瀬が呆れたように呟く。
「それなのにあなたときたら、相田君のハートを一発で掴んだ挙げ句、
 その想いを粉々に粉砕してしまった……。それだけは許すことが出来ないっ!!」

「逆恨みってやつだな……」
「ああ言うタイプの人って、思いこんだらなにするかわかんないもんね」

「と言うわけで、消去決定ーーーーーーーっ!!。晴香っ!由衣っ!
 やぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああっって、おしまいっ!!!!」

『アラホラサッサーーー………』
郁未の号令と共に、晴香と由衣が七瀬達に向かって、走り込んできた。

「このっ!」
七瀬は木刀を正眼に構え、臨戦態勢を取り。
「くそったれがぁぁぁぁぁぁあああああああああーーーーーーーっ!!」

そのまま、晴香達に突っ込んでいった…………。(続く)