私だけの王子様 投稿者: 藤井勇気
「フ〜フフ〜フ、フ〜ン」
今日の私は機嫌が良かった。
なぜなら今日は折原と、デートの約束をしていたから。
あいつが私の所へ帰ってきてからはや数ヶ月。そして今日、久しぶりにデートを
 することになったのだ。
もう、嬉しくって嬉しくって仕方がなかった。
「留美っ留美っ、ちょっと聞いてるのっ留美っ!」
突然の呼びかけに私の意識が現実に戻される。
「あっお母さん?」
「あっお母さん?じゃないでしょう。さっきから呼んでるのに、
 全然答えてくれないんだもの。何かにやにや笑ってるし…」
お母さんがすねたような目で私を見る。
「えっそうだったの?…ごめんなさい、ちょっと考え事をしてて」
私は照れ隠しのため、テーブルにあるレモンティーをずず〜と飲んだ」
「もしかして…、これから彼氏とデート?」
ぶうっ!!。
母の突然の言動に、思わず飲んだレモンティーをテーブルにぶちまけてしまった。
「そ、そ、そ、そんなことないわよ。い、一体何を、こ、こ、根拠に…」
いきなり核心をつかれてしまった…。
「ほらっ、あなたって顔に出ちゃうタイプだから、すぐに解るのよ。
 ま、乙女の感ってやつ」
もうすぐ四十手前の女性が乙女も何もあったもんじゃないような気もするが…。
「それより留美。時間は良いの?」
「へっ?時間って…」
時計をちらっと見やる。
「も、もうこんな時間っ?やばいっ!遅刻だわっ!」
「遅れるとまずいんじゃない?」
必死で朝食と格闘している私を後目に、母はのほほんと
 週刊誌なんぞを読んでいる。
「もーっ、何でもっと早く言ってくれなかったのよっ!」
「あら、さっきから言ってあげてるのに、へらへらしながら無視してたのは
 誰だったかしら?」
うっ、て言うことはやっぱり私が悪いってことなのね…。
「と、とりあえず急がなきゃっ!」
すぐに部屋へ戻って支度をする。
緑色の小さなリボンで、きゅっと髪をひとまとめに束ね、
 水色のワンピースに着替える。
最後に鏡に向かって、何気なくポーズなどをとってしまう。よし、完璧だわ。
「いってきま〜す」
朝食を口に詰めるだけ詰め込んで、素早く身支度を済ませると、
 慌てて玄関を飛び出した。
「彼氏によろしくね〜」
後ろから聞こえる母の言葉を無視して…。

「はあ…はあ…、お、折原〜、遅れてごめ〜ん」
待ち合わせ場所には、既に折原の姿があった。
当たり前だが折原は私服である。
制服姿を見慣れているせいか、新鮮に感じてしまう。
「おう、七瀬。心配すんな、俺も今きた所だ」
折原は大きく手を振りながら、私を歓迎してくれる。
「え、そうなのよかった〜」
私もそれに答え、走る速度を上げながら手を振り返す。
「…なんていって、実は一時間前から来てた」
ずざざぁぁぁぁぁーーーーーーーっ………。
私は豪快に頭から地面に、ヘッドスライディングをかましてしまった。
「…七瀬。お前も相変わらず変わってないなあ〜」
「だ、誰のせいでこうなったと思ってんのよっ」
私は顔だけ上げて、折原に抗議する。
「いや、でも、一時間前に来てたのはほんとだぞ」
「ふう、だったら始めっからそう言いなさい」
「一度言ってみたかったんだよあの台詞、ほら手、貸そうか?」
すっと目の前に大きな手が差し出される。
「う、うん…」
少し遠慮がちにその手を掴む、折原の手は大きくて、そして…暖かかった…。
立ち上がった後も暫く折原の手を握っていた。
「七瀬。いつまで握っているつもりだ?」
「えっあ、ごめん…」
ぱっと握っていた手を離す。何となく寂しかった…。
「よしっ、それじゃあ早速出発と行きますか」
「ええ、そうね」
「七瀬はどっかいきたい所あるか?好きな所連れてってやるぞ」
「私は別にないわよ。折原の好きなところで良いわよ」
「そうか、だったら前みたいにキムチラーメンを…」
「それだけは嫌っ!」
「はっはっは、冗談だよ七瀬。本気にするな」
「あんたの冗談て、本っ当に笑えないんだけど…」
「じゃあ、無難なところで映画なんかどうだ?」
「うん、それいい、それにしましょう」
「よし、決定だな」
そう言って折原は一人、商店街の方へ歩いていこうとする。
「あのね…折原…」
「ん?何だ」
「手、つながない…」
思い切っていって見た。自分でも顔が真っ赤になっていくのが解る。
「……」
折原は黙って私の顔を見ている。
「…折原?」
「ばーか、そんなことできるわけねーだろーが」
「えっ?」
ぶっきらぼうに折原は、そう答えた。
「だから、そんなことできるわけねーていってんだよ」
「そ、そう…」
無理にとは言わないけど、そう無下に言われると何か悲しい…。
「手をつなぐことは出来ねーけどな…」
私の顔に今度は、折原の肘が突きつけられる。
見ると折原は手を腰に当てて、立っていた。
「腕を組んでやることならできるぞ…」
私の方には顔を向けず、ぶっきらぼうにそう言った。
「えっ、折原?」
「ほらっ、何狐に摘まれたような顔してんだよ。するのか?しないのか?
 それともやっぱ手、つないだ方がいいのか?」
「う、ううん。そんなことないわよ」
慌てて、折原の手を掴む。
「よ、よしっこれで良いな。それじゃ今度こそ出発と行くかなっ」
折原は妙に大きな声でそう言うと、腕を組んだまま歩き出した。
「うんっ、早く行こうっ」
笑顔で私も返事して、一緒に歩き出す。その腕を放さぬように…。

その後私達は…。
「ほらっ、折原っ、早くしないと始まっちゃうよっ」
「おいっ、いくら何でも恋愛映画なんぞみれるかっ」
仲良く映画を見て…。
「あーっ、又、私の取ったーっ!」
「いいじゃねーかこれくらい、心の狭い奴だな」
楽しく食事して…。
「あっ見て見て、この服かわいい〜。ねえ、折原買ってよ〜」
「馬鹿っ、値段見ろ、値段。こんな高いの帰るかっ」
一緒に商店街を歩いて…。
気がつくとあたりはもう暗く、さんざん歩き回った私たちは、
 公園のベンチで休んでいた。

「は〜、つかれたな〜」
「そうね、つかれたわね〜、…でも」
「でも?」
「楽しかったわね、今日は」
「ああ、楽しかった。久しぶりだからな、七瀬とデートすんのも」
「うん。あっ見て、星が綺麗…」
「ん?そうだな…」
二人で夜空に散らばる星を見上げた。そのままお互い無言になってしまった。
「お前とこうしていられるなんて、ほんと夢みたいだよな…」
「うん。もうこないんじゃないかって思った…」
「…でも、待っててくれたんだよな」
「待ったわ、一年間ずっと…」
「……」
「来る日も来る日もあなたが帰ってくるのを信じて、あの公園で待ち続けたわ…
 道行く人から失笑を買い、クラスメートにも呆れられ、あなたにもらった
 ドレスが煤けても、私は待ち続けた…」
「七瀬…」
「つらかった。本当につらかったわこの一年。あなたのことだけを
 考えて過ごしてきた、早く帰ってきてって…」
「七瀬っ」
不意に体が引き寄せられる。気づいたときには私は折原の胸の中にいた。
「すまなかった七瀬。つらい思いをさせて」
抱き入れた腕に力が入る。息苦しいくらいに抱きしめられる。
でも、不快ではない。むしろ心地よかった。
「…だったら、キス…して」
「へっ?」
「キスしてっていってんの、こんな事女の子に何度も言わせないの」
「わ、わかったよ…」
静かに目を閉じ顎を少し上げる。上からため息が漏れる音がしたかと思うと、
 私の口をふさぐように、何かが被さった。むろん折原の口だ。
「……」
「……」
暫くお互いの唇を味わう。やがてどちらからともなく口を離す。
少し頭がぽ〜とした。
「お姫様、これでご満足して頂けましたでしょうか?」
わざとらしく折原がそう言う。普段使い慣れない言葉だから
 何かしゃべりがぎこちない。
「ええ、そうね。とりあえず今日はこれで許して上げるわ」
「それはそれは、光栄の至りで…」
「ぷっ、あはははっ……」
私は思わず吹き出してしまった。
「何だよ、ちぇっ、これでも俺なりに王子様ってもんを、演じてみたんだぜ」
「でもね、やっぱりあんたがやると似合わないわ」
「…たくっひでーいわれようだ、もう絶対やんねーからな」
「あはは…、でも折原が、側にいてくれればそれでいいわよ…」
「そうか…、そうだな…」
もう一度折原が私を抱きしめる。今度は優しく包み込むように。
暖かかった。折原の胸の中が。そして何より心が温かかった…。
「明日も晴れると良いな…」
「うん。そうだね…」
そして、もう一度二人で星空を見上げた。いつまでも、いつまでも……。


どうも、藤井勇気です。
書いてしまいましたよ、七瀬ラブラブSS。
書いてる自分でさえ、恥ずかしくなってしまう内容ですが、皆さんいかがでしょうか?
七瀬がメインの話で、しかも浩平とのラブラブな話とゆうのを、あまり見たことがない。
と、言うより無いんじゃないかと思い、今回書いてみました。
相変わらず未熟な文章ですが、感想などしてくれると幸いです。それでは……。