前回までのあらすじ。
うっかり財布を落としてしまい、無一文になってしまった浩平君。
財布は捜せど、見つからない…。それでも律儀に腹は減る…。
そこで彼はある名案を思いついた。
『クラスの奴らから、弁当を奪っちまえばいいんだ…』
もはや今の彼に正常な思考など、無くに等しい…。
彼は悪魔に魂を売ってしまったのだ。空腹という名の悪夢から、脱するために…。
そう…、今の彼を揺り動かすものはただ一つ、己の食欲を満たすためだけに、動いている。
ハイエナと呼ばれてもかまわない…。この苦しみから逃れられるのなら…。
既に住井から、やきそばパンを半分。
茜からは、コロッケを恵んで…、もとい奪っている。
さすがに、椎名からハンバーガーを奪うのは、気が引けたので止めることにした。
みさき先輩や、澪と言う考えもあったが、今から探しに行っている時間も無い。
と、なれば次にねらうべき獲物は…、七瀬だっ!。
その三『七瀬留美の場合』
「おいっ、七瀬…」
ずいっと七瀬に、にじり寄る。
「んっ?なによ」
「お前の弁当をよこせぇぇぇーーーっ!!」
「誰がやるかっ!ボケぇっ!!」
どぐしぃぃっ!!
七瀬の右ストレートが、顔面にクリーンヒットする。良いパンチしてるぜ七瀬…。
「あっごめん。いつもの調子でつい…」
「つい、で人の顔を殴りやがるのか、お前は」
「そっそれに、あんたがお弁当よこせなんていきなり言うからよ!」
「もっともな意見だが、殴ることはないと思うぞ。それとも、
それが乙女のなせる技なのか?」
「だからっごめんって言ってるじゃないっ!」
「だったら七瀬の弁当をよこせ」
「嫌よ」
「くそっ、親友の俺が、ここまで頭を下げてやっているというのに、なんて
友達がいの無い奴なんだ」
「あんたと親友になった覚えはないんだけど…」
「じゃあ、恋人か?」
どばきぃぃーーーっ!!
七瀬の裏拳が、顔面にクリーンヒットする。
「殴るわよ…」
「もう殴ってるんですけど…」
くそっ、こうなったら仕方がない、あれだけは使うまいと思っていたが…。
「…七瀬。どうしても弁当は渡さないつもりなんだな」
「まだ、そんなこと言ってたのあんた」
いつの間にか、七瀬が弁当を食っていた…。
「ふっ、いきがっていられるのも今のうちだ、くらえっ!究極奥義っ!
椎名カタパルト弾っ!!」
俺はすぐ隣で、ハンバーガーをパクついていた椎名の襟首を掴むと、
七瀬に向かって放り投げた。
放物線を描いて椎名が飛んでいく。弁当を食っている七瀬の所へ…。
「みゅーーっ♪」
「ぎゃーーーーっっ!ちょ、ちょっとやめなさいっ!!」
「みゅーーっ♪」
「イタイッ!イタイッてばっ!!」
予想通り、椎名が七瀬のお下げを引っ張っている。今がチャンスだっ!。
俺は素早く七瀬の弁当を奪い、天高く掲げた。
「あっあたしのお弁当っ!」
「はっはっはーっ、この弁当はいただいてくぞ。それではさらばだーーーっ」
「おりはらーーーっっ!!後で覚えてなさいよーーっっ!」
「みゅー♪」
まだ椎名に遊ばれている七瀬を後に、俺は教室を出ていった…。
「いや〜、食った、食った」
七瀬の弁当はうまかった。空腹も相まってか俺は弁当を全部平らげてしまった。
意気揚々と教室へ帰った俺を出迎えたのは、もの凄い形相で仁王立ちをしている。
七瀬だった…。頭に椎名をぶら下げながら…。
「お〜り〜は〜ら〜く〜ん。ちょおっと外までいこっかあぁ〜……」
にこっと笑顔でそう言った。こめかみのあたりをピクつかせながら…。
「あっ、悪いっ俺、教室間違えたわっ」
「あっとるわいっ!ボケぇぇぇぇーーーーーーーーっっっ!!!!」
ドカッ、バキッ、グシャッ、ボキッ………。
それから俺の意識は、ぷっつりと途絶えてしまった……。
「はあ…、いつもの事ながらあきれちゃうよ…」
気がつくと、俺は保健室に寝かされていた。横には心配そうな、呆れたような
顔で長森が俺を見ている。
「だってなぁ、腹減ってたんだからしょうがなかったんだよ…」
「だからって、七瀬さんや、住井君、里村さん達のお弁当を取る事はないんじゃない?」
「う〜……」
そう言いつつ長森が、俺の額にタオルを乗せる。冷たくて気持ちいい…。
「これ以上七瀬さん達に迷惑かけられないし、しょうがないからしばらくは、
私が浩平のお弁当作ってきてあげるよ」
「えっ…でもいいのか?」
「うん、いいんだよ。七瀬さん達に迷惑かかるよりましだもん。
それに私もお弁当作るのすきだしね」
「そっか、じゃあ悪いけど頼むわ」
「うんっ、栄養たっぷりのお弁当作ってきてあげるもん。楽しみにしててね」
長森が、ぱっと顔を輝かせる。何か嬉しそうだな…。
「ほら、もう少し休んだ方がいいよ」
「ああ、わかったよ」
長森の見守る中、俺はだんだんと瞼が重くなるのを感じ眠りについた。
そして、頭の中でぽつりとつぶやいた。
始めからこうすりゃよかった………。
皆さんこんにちは、藤井勇気です。
何か、ずいぶん浩平が傍若無人に振る舞っていたわりには
最後はきれいに終わってしまいました。
感想です
>ひろやん様
お褒めいただき有り難うございます。何か凄く恥ずかしい(汗)
ひろやん様の繭SSも素晴らしいです。…ちょっともの悲しいけど。
>ここにあるよ?様
毎回楽しく読ませていただいてます。
留美が主役のSSって少ないから、嬉しいです。これからも頑張って下さい。
>ウィル様
茜がいい味だしてます。個人的に、MOON.のキャラをもっと出してくれると嬉しいです。
(昨日、MOON.クリアーしたばっかなもんで、最近ONEよりMOON.の方が好き)
>風林火山様
続き、無っ茶気になります。すぐに続きはできそうにないみたいですけど、
楽しみにしています。頑張って下さい。
>他の人(特にみさき先輩)バージョンが見てみたいですね。凄そうだし。
一応考えたんですけど…、かなり浩平が鬼畜になっているので、みさき先輩のファンの
方に失礼と思い止めました。(僕もみさき先輩好きだしね)
一応全員分考えたんですけど、澪だけ良いネタが、浮かばなくて
こういう形になっちゃいました。
それでは、長くなりましたがここで失礼したいと思います。