忘れ得ぬ日常・・・ 投稿者: 藤井勇気
キーンコーンカーンコーン・・・・・・。
退屈な授業の終わりを告げるチャイムが、鳴り響いた。
「ふぅ〜っ、やっと終わったか」
枕にしていた腕をぱたぱたと振り、俺は大きくのびをした。
さて・・・、これからどうするか・・・。まだ冷め切らない頭で、
 そんなことを考える。 
ふと横を見ると、のろのろと帰り支度を始めている椎名の姿が見える。
その姿を見て思わず苦笑してしまう。
・・・そうだな、考える必要もなかったな。椎名がいるじゃないか。
昨日も一昨日も一緒に帰っている。そして今日も俺が
 誘えば一緒に帰るだろう。いつもの笑顔で・・・。
だってクリスマスの日から椎名は・・・、俺の彼女なんだからな。
「椎名」俺は小さな恋人の名を呼んだ。
「みゅっ?」椎名がきょとんとした顔でこちらを向く。
「一緒に帰るか」
いつも椎名と帰るときに言う台詞を、いつもと変わらぬ調子で言った。
「・・・」
だが椎名はいつもと同じような笑顔で頷かず、申し訳なさそうな表情で、
 首をぶんぶんと振った。
「どうした?何か用事でもあるのか」
「・・・」返事は帰ってこない。
「ハンバーガー食べたくないのか?」
「う〜・・・」
「一体、どうしたってんだ?」
少しいぶかしく思い俺はもう一度訊いた。
「・・う・・や・・」
微かだが、椎名が何か喋った。
「えっ?今なんて言ったんだ」
「・・うら・・や・・ま・・」
「裏山・・・?裏山って学校の裏山のことか?」
と、俺がそう聞くより早く、椎名は教室を飛び出していってしまった。
「おっおいっ、椎名っ!」
「ちょっと、どうしたの浩平っ!繭、凄い勢いで出ていったけど?」
「いや・・・、俺にもよくわからんのだが、裏山になにかあるらしい・・・」
「裏山?」
「とにかく、俺は椎名の後を追うからお前は先に帰ってろっ」
「えっ、で、でも・・・」
「心配するなって、椎名も子供じゃないんだから、何か無茶やらかすような
 ことはしないだろう」
「・・・うん、・・・解ったよ。繭のことは浩平に任せるよ」
「ああ、任せとけっ」
そう言って俺は教室を出て、廊下を駆けだした。椎名がいると思われる裏山えと・・・。

朝とは違って、夕方の裏山は、薄暗く不気味な印象を受ける。
木々を吹き抜ける風も心なしか、強く冷たく感じた。
俺は両腕で上着を押さえて、迫りくる寒風に耐えた。
(そう言えば、前に裏山へ来たのはいつだったっけな・・・)
ふと、そんなことを思った。
確か去年、長森と一緒にきたんだよな、
 そして椎名に初めてあったんだよな。そこで椎名は・・・。
はっ!と、今考えたことをもう一度反芻する。
そうかっ、なんで忘れちまってたんだ、こんな大事なことを。
そうだった。ここは俺と椎名が初めてであった場所。
そして、あいつの親友が眠っている場所でもあったんだ・・・。
俺は駆け出した。あいつの大事な親友が眠る場所、みゅーの墓へと・・・。

「・・・」
思ったとおり椎名はそこにいた。
ちょこんとみゅーの墓の前に座っている。墓は前に俺が置いた墓標代わりの石と
 その上に、・・・何故かハンバーガーが置かれていた。
 椎名が置いたのだろうか?。
「椎名・・・」
静かに椎名の名を呼んだ・・・。
「・・・」
何も答えない。いや、聞こえなかったのかもしれないな。
「椎名・・・」
もう一度、呼ぶ。
「・・・」
又も返事はない・・・。いや、近づいてみて解ったが、
 椎名の肩が微かに震えている。
泣いて・・・いるのか・・・。
椎名は必死で泣くのを堪えているようだった。
「椎名・・・」
もう一度椎名の名を呼ぶ。今度はゆっくりと優しく・・・。
そして、ぽんっと椎名の頭に手を置く。
「こういうときはな・・・、思いっきり泣いたって良いんだよ。
 我慢なんかしなくっても、思いっきり泣けば良いんだよっ」
その瞬間、椎名が振り返ってため込んでいたものを吐き出すように・・・。
「うああぁぁぁーーーーーっっ、みゅーっ、みゅーっ・・・」
俺に泣きついてきた。
俺は椎名が泣きやむまで、ずっと頭をなでてやった。そしてみゅーの墓を見て思った。
(こんな良いご主人様に巡り会えて、お前も幸せだったろうな)
椎名にこれほど大切に思われていることを、俺は心底うらやましいと思った・・・。

どれくらい時間がたったろうか、ようやく椎名も落ち着きを取り戻してきたようだった。
「椎名。もう、平気か?」
「うん・・・」
まだ、万全とまでは行かないがそれでもはっきりと返事をしてくれる。
「そうか・・・、今度来たときはちゃんと花を持ってこような。
 みゅーの喜びそうなやつをな。
「うんっ」
「よしっ、それじゃ腹も減ってきたことだし、ハンバーガーでも食いに行くかっ」
「みゅーっ♪」
それを聞いて大はしゃぎであたりを飛び回る。全く現金な奴だなこいつも・・・。
 まあ、こんなに喜んでくれるんだから、別に悪い気はしないけどな。
そんな椎名の無邪気なところに、微笑んでしまう自分が、何よりも嬉しかった。

結局俺達が家に帰る頃には、日はとっぷりと暮れて薄暗くなってしまった・・・。
俺は椎名を家に送り届けるため、一緒に椎名の家へ向かっていた。
椎名がちょこちょこと危なげに、俺の前を歩いている。
「なあ、椎名」
「ほえっ?」 
くるっと椎名が俺の方を向く。
「みゅーのこと、大好きだったんだな・・・」
「うんっ」
笑顔で答える。
「俺のことも・・・、好きか?」
言ってて恥ずかしくなった・・・。
「うんっ」
これ又同じように答える。
「だったら椎名に聞きたいことがあるんだが・・・」
「みゅっ?」
「俺とみゅーどっちの方が大好きなんだ?」
我ながら馬鹿らしいことを言ってしまったと思う・・・。
椎名は、俺の言っていることが解っているのかいないのか、ほけ〜とした顔をしている。
「うー・・・」
と、思ったら難しそうな顔をしてうなり始めた。一応考えているみたいだ・・・。
暫くして、椎名が俺の方を向いて口を開いた。
「どっちも大好きっ」
笑顔だ答える。
予想通りの答えだった・・・。まあ、こんなもんだろうな。
「そうか・・・、そうだよな、どっちも大好きなんだから決めらんないよな。
「うんっ」
元気に返事をして再びちょこちょこと歩き出す・・・。
そんな椎名を見て俺は、小さなため息をついていた・・・。

「じゃっ、ここでばいばいだな、椎名」
「うん」
そうこう言っているうちに椎名の家についた。
「明日もちゃんと学校に来いよ、じゃあなっ」
「うん。ばいばい」
椎名に見送られて、俺はもときた道を引き返した・・・。

はあっ、何を言ってるんだろうな俺は・・・。 
自宅への帰り道。俺はさっき椎名に言ったことを、思い出していた。
あんな事を聞いてなんになるってんだ。ただ椎名を困らせるだけじゃないか。
全く、何を焦ってるんだかな俺は・・・。そう思ったとたん、自分の頭に?が浮かんだ。
今思ったことをもう一度繰り返す・・・。
・・・焦ってる?俺が?一体何に焦ってるってんだ・・・。
一瞬、自分が何を言っているのか解らなくなった。
最近感じる奇妙な違和感・・・。自分が自分でなくなるような感覚・・・。
自分という存在がこの世から消えてしまうような・・・、
 そんな事を最近思うようになった。
いや、感じるようになったと言うべきだろうか・・・。
馬鹿馬鹿しいっ、そんなことあるわけないだろーが。 
 今日はいろいろあったからな、疲れてるんだな・・・、さっさと寝よう。
そうだっ、今度椎名を映画にでも連れてってやるか。あいつのことだから
 ぐー、ぐー、寝ちまううのがオチかもしれないが、まあ、一度つれてって見るかな。
椎名を自立させるため。いや、それだけじゃないか。
薄々感じてはいたこと、俺にとって椎名は、
 なくてはならない存在になりつつあるという事、
もしかしたらしいなも同じ事を、思ってくれているのかもしれない。
何にしても明日か・・・。明日になって、椎名にあって、いつもどうりの笑顔を向けてくれる。
それで十分だと思った。こういうことがささやかな幸せだと思った・・・。
そんなことを考えながら家に向かう。
春と言っても、まだまだ夜の風は冷たく、そして何故か、もの悲しく思えた・・・。



皆さんこんにちは、藤井勇気と言います。
全然シリアスに書けませんでした・・・。
よもすえ様の瑞佳SSのようなすばらしいものを、書きたいです。
後、ひろやん様達の繭SSとにてしまって、すみませんでした。