笑顔で行こう 投稿者: 藤井勇気
「ふえぇぇ〜〜ん。遅刻しちゃうよ〜」

私は全力疾走していた。
「もう!お母さんだって起こしてくれたって良いのに」
昨日は深夜までラジオ放送を訊いていたので、寝過ごしてしまったのだ」
・・・確か家を出たときには8時20分頃だと思った。このままは知れば何とかなるかも。
私の家と学校の距離はだいたい50メートルくらい、こういうときはつくづく感謝してしまう。
なんて事を考えていると、校門前までたどり着く。家を出てからまだ5分もたっていないはず
「ふう、何とか間に合ったみたい」
私は安堵の息をつく。しかしそれが油断となってしまった。

「うおー!急げ長森ー」
「えっきゃあ!っ」
「ぐあ!っ」

ゴッチーーーン。

鈍い音とともに突然の衝撃。私は痛さのあまりその場にしゃがみ込んでしまった。
「ふえ、い、いたいよ〜」
おでこがじんじんする。目尻にはうっすらと涙も出てくる。
多分ぶつかったのは、私と同じく遅刻寸前で走ってきた生徒なんだろう。あっそん
 な事考えてないで、早く謝らなくちゃ。
「あ、あの大丈・・・」
「浩平ー、大丈夫?」
私の言葉は後から来た生徒にかき消されてしまった。え、浩平って?
 もしかして浩平君?。
「て〜、ああ、何とか大丈夫だ」
「やっぱりその声は、浩平君?」
「ん、み、みさき先輩!っそうかぶつかっちまったのは先輩だったのか」
「やっぱり浩平君だったんだ。えへっ浩平君とぶつかっちゃうなんて、これで
 二度目になっちゃったね」
「ああ、そうだな。大丈夫か先輩?立てるか」
浩平君が私の前に手を差し出す。
「う、うん。ありがとう」私はその手を取って立ち上がる。走ってきたためか、
 浩平君の手は温かかった。
「ねえ、この人、浩平のお友達なの?」
不意に、浩平君の隣から女の子の声が聞こえる。さっきの生徒なのだろう。
「馬鹿っこの人は川名みさき先輩と言って、俺達の上級生だろうが」
「あっそ、そうだったんですか。す、すみません川名先輩」
女の子が慌てて私に謝る。
「クスッいいんだよ、そんなに畏まらなくても、私のことはみさきって呼んでよ」
「そうですか?じ、じゃあ・・・みさき、先輩」
「うん、それでいいよ。それじゃ・・・え〜と」そう言えばまだ名前を聞いていない。
「あっ悪い先輩自己紹介がまだたったな、こいつは長森。まあ、幼なじみって奴だ」
「長森瑞佳です。よろしくね、みさき先輩」
「私は川名みさき。こちらこそよろしくね、瑞佳ちゃん」

キーンコーンカーンコーン・・・

二人の自己紹介が終わると同時に、チャイムが鳴り響いた。
「ぐあっ結局こうなるのか。悪い先輩、おれたち急ぐから」
「あっまってよ浩平ー。あ、あの、みさき先輩、私も急ぎますからこれで」
言うや否や、二人は急いで走っていってしまう。
「まっまって〜私も遅刻しちゃうよ〜」私も急いで後を追う。

(幼なじみか・・・)

私は走りながら、前にいるだろう二人のことを、考えていた。
何故か、胸のあたりがもやもやとした。

「ねえ、雪ちゃん」
休み時間。私は雪ちゃんに尋ねた。
「どうしたの?みさき」
「あ、あのね雪ちゃん。私たちって幼なじみだよね?」
「は?いきなり何を言うかと思えば、そんなこと当たり前じゃない」
「それじゃ・・・もし雪ちゃんが男の子だったら、私のこと・・・好き?」
「・・・」
「・・・」
暫くの沈黙。
「みさき・・・一体どうしちゃったの!?頭でもぶつけたの?それとも
 何か拾い食いしたのね!」
「あの、そうじゃなくて」
「しっかりしてみさき!あんた床に落ちたお寿司でも『上の部分は食べれるよ』
 なんて行って食べちゃう子だから、きっとそれが原因よ」
「私はそこまでしないよ」
「それともあれね!この前学食で『カツカレー十人前食べれるもん』なんて行って
 食べたのが原因ね。だからあれほど私は、五人前までにしときなさいと、
 言っておいたのに」
「ああ、でもあの時は、それと天丼三杯と、中華丼四杯と、デザートに
 焼きおむすびを五個食べたんだけど」
「だったらなおさら悪いわよ!。とにかく保健室に行くわよみさき」
「だからちがうんだってば」
「大丈夫よみさき。私が側にいてあげるから、良い子だから保健室に行こうね」
「ふえぇぇ〜ん。違うって言ってるのにぃ〜」

昼休み。私は学食に向かっていた。
いつもだったら、今日は何を食べようかな?とか、誰かと一緒に食べようかな?
 とか、考えるのだが今日にしては考える気になれなかった。
今朝のことが頭から離れないのだ。
(ふう・・・私何考えてるんだろ。浩平君が幼なじみって言ってるんだから
 それでいいじゃないか。変だな私ってば)
よしっ今日はカツカレー七人前食べちゃおっかなー。
私は気を取り直して学食へ向かおうとした時。
「おっみさき先輩じゃないか」
聞き慣れた声が私を呼び止める。浩平君だった。
「あっみさき先輩こんにちは」
そして、瑞佳ちゃんもいた。
「先輩もこれから学食か?」
「う、うん。そうだよ」
「じゃあ、一緒に食べないか?」
「えっそ、それは・・・」
「そうだね浩平。みんなで食べた方が楽しいもんね」
「そうだろ。でも、みさき先輩の食べっぷりを見たら、楽しいだけじゃ
 すまないかもな」
「ご、ごめんね。悪いんだけど、私は遠慮しておくよ」
「えっそうか・・・まあ無理にとは言わないし、じゃあ又今度って事にしようぜ。
 それなら良いだろ」
「うん・・・それなら」
「よし、じゃあ長森、俺達だけで行くか」
「う、うん。それじゃみさき先輩、失礼します」
そのまま二人は、学食の方へ言ってしまった。
(はあ、何やってるんだろうな私)
結局その日は、カツカレー二人前しか食べれなかった。

放課後。私はいつもどうり屋上に来ていた。
(ふう、私ってばどうしちゃったんだろ)
今日何度目のため息だろう。私はもう暮れゆくだろう、夕焼け空を見上げて、
 あの二人のことを考えた。
浩平君は瑞佳ちゃんのこと、幼なじみって言っていたけど・・・
 私にはそうは思えなかった。
幼なじみって言うより・・・恋人って感じがする。
でも何で私がそんなこと気にしなくちゃいけないんだろう。浩平君達がどんな
 関係だろうと、私には関係ないのに・・・でもやっぱり気になるな。
それにこの胸が締め付けられるような感じは何?浩平君の隣に瑞佳ちゃんが
 いるって思うだけで、胸がずきずきする。
もしかして私、浩平君のこと・・・。
「ようっ今日の風は何点だい?みさき先輩」
突然後ろから声をかけられる。この声は・・・浩平君だ。
「え!っえっとね〜今日は、は、80点くらいかな?」
「・・・先輩、今風は何にも吹いてないんだけど」
「えっそ、そうだったね。あはは・・・私何言ってるんだろうね、もう・・・」
「先輩どうしたんだ?昼間から様子が変だけど」
「うん。ちょっとね・・・」そう言って私は俯く。
う〜ん、どうしよう。ここは思い切って浩平君に直接聞いてみようかな?
 変だと思われるかもしれないけど。
私はそう思い、顔を上げた。
「あのね、浩平君」
「ん、なんだい?先輩」
「あ、あのね、その、浩平君と瑞佳ちゃんて、つ、つき合ってるのかな?」
「え、俺と長森がつき合ってるかって?ぷっあはははは・・・一体何を言うかと
 思えば、どうしたんだ先輩?」
「そんなに笑うこと無いと思うけど」
「いや悪い、でもな、長森とはそんな関係じゃない。朝も言ったけど
 ただの幼なじみだよ。あいつは昔っから世話を焼こうとしてたからな、
 今じゃすっかり母親気取りさ。鬱陶しい時もあるけど、それ以上に感謝もしてる、
 でも先輩が思っているよう仲じゃない。まあ、兄弟みたいなもんかな?」
「そっか、そうなんだ」何故かほっとした。
「それにしても何だってそんなこと訊くんだ?もしかして俺に気があるとか?」
「ち、違うよ、そんなんじゃないよ」私は慌てて不定する。
「まあ、そんなわけで俺はフリーだから、いつでも声をかけてくれよ」
「だから違うんだってば」
その時一陣の風が私たちの間を通りすぎた。
「先輩そろそろ校舎に戻った方がいいんじゃないか?」
「うん、そうだね」
「俺はこれから帰ろうと思ってるけど、先輩も一緒に帰るか?」
「そうだね、一緒に帰ろっか」
浩平君が、私の前に手を差し出す。私はその手をしっかりと握った。浩平君の手は
 とても温かかった。

・・・浩平君はあんな事と言っているけど、瑞佳ちゃんのこと多分好きだと思う。
でもそれを認めたくないって言うより、認めたくないと言う感じがする。
瑞佳ちゃんも浩平君のことが好きだと思う。幼なじみとしてでなく、一人の男性として・・・。

そして今わかった。私は浩平君のことが・・・好きなんだ。

「じゃあここで、さよならだね」
「ああ、又明日な、先輩」
私は自分の家の前で浩平君と別れ、暫くしてから家に入った。
「ただいまー」
私は挨拶を住ませると、そのまま自分の部屋へ入った。
鞄を置き、ベッドに横になる。そしてさっき私が考えたことを、頭の仲で反芻する。

私は浩平君のことが好きだ。
その想いに偽りはない。
でもそれは叶わぬ想い。
浩平君には瑞佳ちゃんがいるから、そして私には、目が見えないと言うハンデがある。
もし私が告白したら、浩平君はどう答えるだろうか?
OKしてくれるだろうか?それとも断られてしまうだろうか?
もしOKしてくれたら、私は我を忘れて、その場で大はしゃぎしてしまうかもしれない。

でも目の見えない恋人なんて、浩平君にとっては幸せだろうか?・・・ううん
 幸せ何かじゃない!きっと不幸になる。
だから私は自分の想いを隠す。
彼のことが好きだから。好きで好きでたまらないから。
彼に幸せになってほしいから、私は自分の想いを隠す。
光を失った瞳から、大粒の涙があふれ出す。

「グスッ私ったら駄目だな、さっき心に誓ったばかり、涙が止まらないよ」
こんな顔してたら彼によけいな心配をかけてしまう、笑顔でいなきゃ。
彼には笑っていてもらいたい、私には見えないけれど、彼には笑顔でいてもらいたい。
だから私も笑顔で彼と会いたい、彼が笑顔でいてほしいから。
明日、彼にあったらとびっきりの笑顔でこう言おう。

「こんにちは浩平君」と。

そう心に誓い、私は深い眠りに落ちてゆくのだった・・・。


皆さん初めまして、藤井勇気と言います。
初めてSSと言うものを書いてみましたが、無茶苦茶下手くそになってしまいました。
「こんなのみさき先輩じゃない」と、お怒りの方もいるでしょうが
 どうかご勘弁下さい。
それでは長くなってしまいましたが、ここで失礼したいと思います。