道化人形 投稿者: 藤原白葉
 霧雨の降る中、傘もささずに1人歩く。

 分かっていた。絆なんて存在しないって事。言葉に酔い、身体を重ねてみても、
決して…心は通い合う事はない。ただ壊れた想いを抱きしめられないまま、悪戯に
自分を慰める。

「ずっと…ずっと、そばにいるよ」
 永遠という言葉で、あの時の時間を止めた。失った哀しみと、気付いた本当の想
いを忘れないために。そして、その証…愛を信じたいから、消えていくまでの時間
を焦りながらも生きる。今も…

 …けれど。時が経ち、想いは少しづつ薄らいでいる。今を生きるには、負担が重
過ぎるのだ。無理な愛想笑いを繰り返し、興味のない会話に言葉を交わせて、どう
でもいいとさえ思えてくる。生きる事。世界を見る瞳は、必然的にも冷めていった
。

「僕の事を愛してくれているのなら、どうか殺してほしい」
 最後の望み。彼女との絆の証明。そして、僕の中の永遠。
 今も叶う事なく、無意味な時間を繰り返している。捏造された個性、歪んだ心。
流行り廃りにいいように操られる…人形のように。本来の死への意識など…もう、
何処にもない。僕は生きていない。みんな、生きていない。人形の世界。

 分かっている筈なのに、なぜ僕はここにいるのだろう?

「愛が重過ぎるよ…」
「どうして…どうして、そういう事言うの?」
「こういう風になるって思ってた。…ふふっ」
「慰めて、ほしいんだ…?」
「最近、電話くれないから…」

 雨はまだ降っていた。冷えていく殻だけの身体。奥底に封じた筈の、あの時の想
いも消えかかって…存在を見失いそうだった。
「僕はここにいるのだろうか?」
 届かない…僅かな呟きに答えはなく、闇に消えていく。