なにかを伝えたかった。
なにかを残したかった。
最後の一瞬まで、愛する、誰よりも誰よりも大切な人を支えたかった。
でもオレの心は、何も伝えられないまま夢幻に消えた。
……消えてしまった。
ほんのささやかな一歩。
外界を歩く勇気。
その勇気を与えることが、オレに出来たのだろうか……。
あるいは恐れを植え付けてしまったのではないだろうか……。
あんな所に、オレは彼女を置き去りにしてしまった。
たった一人で。
彼女を残して。
オレを信じてくれた人を。
オレは裏切ってしまった。
誰よりも大切な人だったのに……。
オレは約束を守れなかった。
いいや……。
彼女は強い人だ。
大丈夫。
きっと、大丈夫だ。
きっと彼女なら、自分だけの世界を抜け出して生きていける。
それに……。
約束した。
そう。
彼女と交わした、約束。
「ずっと一緒にいる……」
それは嘘偽りないオレの願い。
守られることのなかった……オレの心からの願い。
そうだ……。
「どんな事があっても……」
オレは……そう言った。
まだこの約束は……守ることが出来る。
それだけがオレの支え。
あの世界にいた事の……確かな証。
必ず帰る。
必ず帰るから……。
それまで……待っててくれよな。
最初の約束。
守れなくてゴメンな。
でも、絶対守るから。
二つ目の約束は、絶対守るから。
それまで……。
<了>