繭のとくべつなみゅー(7) 投稿者: 奈伊朗
  どーも、最終回で〜す。
  今回も住井がペラペラ喋り捲って、住井SSみたくなってますの。
  この辺は特に未消化な部分で、読む度に直してたりしますぅ。

  群衆A:「ちゃんと書いてから投稿せんか〜いっ!」

  申し訳御座いません。ちゃんと書くには、能力と根気が足りない様です。(涙)
  ヒトツ大目に見て、読んでやって下さい。
  そして、宜しければビシバシ突っ込んでやって下さいませ。

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  空が明るくなって、ぼくの最後の一日が始まった。
  マユが目を覚まし、ベッドから起き上がってカーテンと一緒に窓を開ける。部
屋に流れ込んでくる冷たい空気を、胸一杯に吸い込んで、
「はうぅーっ」
  っと、身体を伸ばす。

  ぼくが・・・・・・。
  ――おはよう、マユ。ぐっすり眠れたかい?

  って、いって・・・・・・。マユが・・・・・・。
「おはよう、みゅー。わたしは絶好調だよぅ♪  ――今日もいっしょに学校いこ
うね」
  って、いって・・・・・・。

  学校には、コウヘイ兄さんがいて。ミズカ姉さんがいて。マモル兄さんやルミ
姉さんもいて・・・・・・。

  こんな幸せな日常が、永遠に続いたら・・・どんなにいいだろう。

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                 『繭のとくべつなみゅー』最終回            大須 奈伊朗 
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  早朝・・・人けのない学校・・・・・・。寂しい廊下をテクテクと教室に向かうマユ。
「うーっ・・・ねえ、みゅー。誰もいない学校ってチョット不気味だねー」
  ――う、うん・・・そうだねぇ・・・・・・。

  ユウレイのぼくが、いったい何を怖がるのかって訊かれると困るけど、怖いも
のはやっぱり怖い。なんてとこと考えてる内に、マユの教室に着いた。

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「繭ちゃんおはよう。それにしてもずいぶん早いな。いつもこんな時間に登校し
てるのかい?」
  ・・・・・・と、教室に入った途端マモル兄さんに挨拶された。窓際で、例の手帳に
視線を落としている。どうやら窓からマユが校舎に入るのを見ていたようだ。
  そこに、
「ふわぁぁー・・・・・・」
  と、大きなアクビをしながらルミ姉さんが入ってきた。
「ったくぅ・・・・・・。こんな朝っぱらから呼び出して、少しは人の迷惑を考えなさ
いよ。ん・・・?  あんた繭まで呼んだの?」
「いや、これは想定外だよ・・・けど・・・・・・。アハハ・・・まあいいや。あとは主役の
登場を待つばかりだな」
「ふんっ・・・お生憎さま。広瀬なら来ないわよ、それどころか今日は学校休んじ
ゃうかもねーっ」
  そういってルミ姉さんは誇らしげに胸をはる。マモル兄さんは無言だ。
「――あの件は、あたし流のやり方でケリを付けたから。広瀬はきっとまだ布団
に包まってピーピー泣いてるわっ」
「七瀬さん・・・まさか、何か無茶なことしたんじゃ・・・・・・」
  その時。
「バカは無茶するモノなのよっ!」
  と、いいながらガラッと戸を開けてヒロセが入ってきた。
「――ふざけんじゃ無いわよっ!  誰がピーピー泣いてるですって?  放課後、
雌ゴリラに襲われたくらいで学校を休むほど、ヤワなあたしじゃないわよ!!」
  どうやら廊下で、二人の話しを立ち聞きしていたようだ。
  ――雌ゴリラ・・・そんなのがいるんだね。マユ・・・危ないから、今日は寄り道せ
ずにまっすぐ帰ろう。

「みゅー・・・そんな話し聞いたことないよ・・・・・・。そんなのいたら普通、全国的
なニュースになると思うんだけどな・・・・・・」
  うーん・・・確かにマユのいうとおりだ。不思議だなぁ・・・不思議といえば、
ヒロセの左眼の周りを囲んでいる、あの紫色の模様は何だろう?  前に見た時は、
あんな模様なかったのに・・・・・・。
  マモル兄さんはうつむき、首を振る。
「滅茶苦茶だよ七瀬さん・・・メチャクチャ過ぎる・・・・・・。“ガツンと一発かます”
ってのは比喩表現じゃ無かったのかぁ〜」
  ルミ姉さんが、ヒロセを睨みつけながら静かにいった。
「あんた・・・右眼にも蒼痣つくって、狐だか狸だか見分けが付かなくしたげよー
か?」
  マモル兄さんとマユが、同時に一歩あと退った。ヒロセもすっかり腰が引けて
いる。
「なな何よっ!  やや・・・やれるるもんなら、遣ってごごご覧なさいよっ!!」
  ヒロセの言葉は、ドモっているうえ所々声が裏返っていて、とても聞き取り難
かった。マモル兄さんがコホンと、咳払いをする。
「あっ、あ〜・・・広瀬さん、こんな朝早くから呼び出して済まなかったね。悪い
けど、君の事を少し調べさせて貰ったんだ」
「ふんっ・・・よくそんな事が!  大したハイエナね」
  ルミ姉さんが、ニヤニヤ笑う。
「なぁーるほど。広瀬の弱みを握って、それで脅迫して呼び出したのね。――あ
んたもワルねぇ・・・・・・」
「済まない。手段については謝るよ、こうしなければ来てくれないと思ったんだ。
でもハイエナは心外だなぁ、俺は腐肉は食わない主義なんだ」
  そういってマモル兄さんは、手帳をめくる。
「――ところで・・・親類縁者、近所の人、友人、誰に聞いても。広瀬さんは家族
思いの礼儀正しい娘だっていうんだ。とにかく、悪い評判はまったくないね」
  ルミ姉さんがフンッと鼻で笑う。
「おやおや、猫かぶりが御上手なことで」
「七瀬さん。人は誰でも他人に対して、様々な自分を演じているもんさ。そして、
それはべつに偽りではないと思うよ。きっと人の心は、そうゆう多面的で曖昧な
モノなんだろう」
  いいながらマモルん兄さんは、広瀬に向き直る。
「――この前の・・・学食での繭ちゃんとの一件。偶然居あわせて一部始終を見て
たんだが、どうも引っ掛かってね・・・・・・。だって普通イジメなんて、人に見られ
ないようにするだろ?  何故わざわざ人の多い学食で?  しかも仲間と打ち合わ
せまでして?  ――それで調べてみたんだ・・・・・・」
  ルミ姉さんがイラついた声をあげる。
「前置きは良いから、要点をいいなさいよっ」
「はいはい・・・それはね。繭ちゃんをイジメるのは目的ではなく手段だったから
だ。――広瀬さんが今の家に貰われたのは、10年前の12月21日・・・・・・」
  ヒロセは、窓からぼんやりと外の景色を眺めている。
「おやまぁ・・・よくそんな本人ですら忘れているような事まで・・・・・・。――そっ
か、今日は広瀬真希の10歳の誕生日なんだ・・・・・・」
  ルミ姉さんが、ヒロセを無視してマモル兄さんに訊いた。
「そんな事より、広瀬が繭をイジメた目的って何よ?」
「ある人物にそれを見せるためさ・・・学食の購買にいるオバサン知ってるかい?」
「おユキさん・・・でしょ」
「そう・・・あのオバサンは、乙舞 由希(おとまい ゆき)っていうんだよ」
  そういってマモル兄さんは、ルミ姉さんに手帳を見せた。
「あのオバチャンが乙舞 由希とは・・・また随分な名前を付けたものね」
「おユキさんだって、あの姿で産まれてきた訳じゃないだろ。若い頃は美人だっ
たらしいよ」
「やめてよ。歳をとるのが怖くなるじゃない。――で・・・そのある人物が、おユ
キさんなの?  いったい何のために?」
「学食での一件でもう一つ俺が気になったのは、おユキさんの態度だ。あの世話
好きのオバサンが、なぜ繭ちゃんにああまで厳しく当たったのか・・・・・・?。それ
でね・・・おユキさんのことも調べてみたんだが・・・あのオバチャンには子どもがい
るんだね。――そして広瀬さんが、今のに家に来る前の旧姓が・・・・・・」
  その時ヒロセがマモル兄さんに振り向き、校舎中に轟く程の大声で叫んだ。
「うるさい!  あんた、黙りなさいよ!!」
  ルミ姉さんが、ハッとした表情で目を見張りヒロセを見る。
「まさか!?  そんな・・・おユキさんは独身のはずでしょ?」
  マモル兄さんは、手帳に視線を落としたままページをめくった。
「そうさ・・・でも、おユキさんに娘がいるのは事実だ、しかも10年前に養子に
出している。それに乙舞なんて姓そんなに無いだろ?  偶然にしちゃあ出来すぎ
だ」
  そしてマモル兄さんは、手帳からゆっくりと視線を上げヒロセを見る。
「――おユキさんは最初、娘を養子に出す気なんか無かったようで仲介人を物凄
い剣幕で追い返していたそうだ。それがいかなる心境の変化で娘を手放したのか?
  ・・・・・・結局よく判らなかったよ。おユキさんはそれに関して何も語ろうとしな
いし、君を今の御両親に斡旋した高槻という人物は、詐欺罪で服役中だ。――俺
が思うに女手ひとつで子どもを育てるのは不安だろう。いっぽう広瀬家は、裕福
な家庭だ。じゃあ、母親の許を離れて娘はもっと幸せになれたのか?  そんな訳
ないよ。だって乙舞真希と乙舞由希は、お互い掛け替えのない存だったから。で
もね・・・世の中には人の弱みに付け込んで、故意に誤った情報で惑わす人間もい
るんだ。――10年前、君の心は深く傷付いた、当然だ、そんなこと最初から分
かっていたことさ。おユキさんの選択は明らかに間違っていた。でもね、おユキ
さんも君と同じくらい傷ついたんじゃないかな?  だって・・・おユキさんは君を
捨てたんじゃない・・・・・・」
「そんなこと関係ない!  あんな奴、母親じゃない!!  だってあたしは広瀬真希
だ。乙舞真希なんて・・・10年前に死んだのさ」
「それは違うな・・・乙舞真希は死んじゃいないよ。――例えば・・・広瀬さんが知っ
ている住井護。七瀬さんが知っている住井護。繭ちゃんが知っている住井護。ど
れも同じではない、たぶん別人だ。でもそれは本人を中心に繋がっているから、
普段それを意識することはない。でも本人が居なくなったら・・・急に不安になる
のさ。自分の知っている住井護は、本当に住井護だったのか?  ってね。だから
残った者で集まって相談する、
「住井護はこんな奴だったよな・・・・・・」
  って。住井護という“人間”を、住井護という“死者”に置き換えて納得する
のさ・・・それが葬式だ。人が死んで死者になるんじゃない、弔われることによっ
て死者が産まれるのさ。乙舞真希を誰がとむらった?  誰も弔っちゃいないだろ
・・・だから泣いているんだ。10年間ずっと・・・ずっと泣いているんだ・・・・・・」
  ヒロセがマモル兄さんに掴み掛かり、壁際に押し付け襟首を掴んで前後に揺す
る。
「黙れっ!!  おまえに・・・おまえなんかに何が分かるっ!」
  マモル兄さんの後頭部が壁にゴチゴチと当たる。どうしてみんなマモル兄さん
と話すとき、あそこに頭を叩き付けるんだろう?  ぼくが思うに、あらかじめ壁
に両面テープで座布団か何かを貼り付けておいてはどうだろう?  でもマモル兄
さんは顔色一つ変えない、抵抗力が付いて後頭部が強化されたのだろうか?
「君は・・・おユキさんの前で繭ちゃんを苛めて見せて、乙舞真希とは違う自分・・・
親に捨てられ荒んだ娘、広瀬真希を演じた。おユキさんはその繭ちゃんに辛く当
たって見せて、娘を捨てた冷酷な母親、乙舞由希を演じて見せた。でも・・・泣き
じゃくる繭ちゃんと一緒に、君もおユキさんも心の中で泣いていたはずだ。違う
かい?  違うなら、なぜ実の母親と娘が他人の振りして同じ学校に通っているん
だい」
  そういってマモル兄さんはヒロセの眼を見据えた。怯えた顔で後退るヒロセ。
「――ところで広瀬さん、どうして一人で来たのかな?  俺は一人で来いなんて
いってないよ。いつも一緒にいる友達はどうしたのかな?」
「ふん・・・呼んだって来やしないさ、二人ともあんたを怖がってたからね。アイ
ツらは、あたしと連んでると得だからいつも一緒にいるだけの、ただの取り巻き
さ・・・友達なんかじゃない。――あたしには、友達や家族なんか必要ないのさ」
  マモル兄さんは手帳を掲げ、詩を朗読するような口調でいった。
「いや・・・君はそう思ってはいないよ・・・・・・。一緒に来て欲しいと強く願ってい
たはずさ。だからこそ、誘う勇気が出なかったのさ・・・断わられるのが怖かった
・・・・・・。両親の前で他人行儀に優等生を演じているのも、本当の自分を見せたら
また捨てられてしまうのではないかと恐れているからだ。大切な人が離れてしま
うのが君にとって最も怖いことなのさ。だから人との間に距離を置き、自分には
本当の家族も友達もいない・・・必要ないと思い込む。そうすれば、もうあの時の
ように傷つかずに済む・・・・・・。君はそう思っているのさ。――人を信じるのには
勇気がいるよね・・・子を殺す親、親を殺す子は古今東西いくらでもいる。でもそ
の反対のもの・・・人と人の絆だってあると思うよ。でも君はそんなもの見たくな
い。知るのも考えるのも嫌だ。どうでも良いと思っていたい・・・・・・」
  マモル兄さんの話しを、コクコクとうなずきながら聞いていたマユがいった。
「どうでも良いのが、いちばん良くないんだね」
  マモル兄さんは、ちょっと意外そうな顔でマユに振り向きうなずくと、再び
ヒロセに向かって言葉を投げかける。
「だから君は広瀬真希になりきれず、かといって乙舞真希にも戻れない。そして
そんな自分に苛立っている。繭ちゃんに昔の自分を重ね、広瀬さんに今の自分を
重ね嫌悪する。でもね・・・それは自分自身に対する不安の表われじゃないかな? 
 今の君を取り巻く、幸せな日常が壊れるのが怖いんだ」
  ルミ姉さんがかすれた声で呟く。
「た・・・確かに、まるであの手帳に広瀬の心が記されていて、それを読み上げて
いるように見えるわ。――住井を怖がるヤツがいるのも分かる気がする・・・あん
なのされたら堪んないもの・・・・・・」
  マモル兄さんは手帳から視線を上げ、ヒロセに語りかける。
「でもね・・・君は君で、それ以外の何者でもない筈だろ。周りの人達にとって、
既に掛け替えのない存在なんだ。――本人が、それに気付いていないだけだ」
  ヒロセが声を張りあげて叫ぶ。
「あたしは言葉なんか信じない!  だって・・・口でなんか何とでもいえるじゃな
いかっ!!」
  ヒロセの頬を涙がつたう。体を震わせ、込み上げてくる感情を歯を食いしばっ
てこらえる・・・・・・。
  マモル兄さんは髪を掻き上げながら、チラリと窓の外を見る。
「言葉でなんか、何とでもいえる・・・俺も同感だな・・・・・・。だから今から言葉以
外でそれを証明するよ。――自分の眼で確かめれば好い。君が10年間紡いでき
た・・・広瀬真希の絆をね・・・・・・」
  パタパタと廊下を走る音が段々近づき、物凄い勢いで二人の女生徒が教室に駆
け込んできた。ヒロセの取り巻き達だった。
  一人はまるで小型犬のようにマモル兄さんに吠えつき、もう一人はヒロセの許
に走り寄る。二人ともヒロセと同じく、左眼の周りに紫色の模様・・・・・・、流行っ
てるのか?
「やい住井っ!  広瀬になんかしやがったら、あたしがタダじゃおかないからな
っ!!」
「真希・・・・・・。怖かっただろ?  あたい達が来たからもう大丈夫・・・だからもう、
泣くなよ・・・なっ・・・・・・」
「あんた達・・・どうして?  あんなに住井のこと怖がってたのに・・・・・・」
「な・・・何いってんのよ真希。それとこれとは話しが違うじゃない。どうしてあ
たい達に声をかけてくれなかったのっ」
「そうだよ広瀬ぇ。水臭いじゃないかぁ」
「そ・・・そうなんだ。そうだったんだ・・・・・・ぐすっ。ごめんね・・・本当にごめんね
・・・・・・、うぐっ」
  いつの間にかマモル兄さんは、自分の席についていた。
「君は乙舞真希は10年前に死んだといったね。実は、おユキさんも自分の娘は
乙舞真希で10年前に死んだといってたよ。本人がそういうのなら、そうなのか
もしれない・・・・・・。そんなの他人の俺に分かるわけないよ。でもね広瀬さん、ど
っちにしろ君はおユキさんに逢わなければいけない。――10年だよ・・・乙舞
真希は10年間ずっと止まった時間の中で泣き続けてきたんだ。だから・・・もう
いいだろ、見送ってあげなよ。――死者は弔わなければならないんだ」
  ヒロセは大きく息を吸い、10年間の想いを言葉にして吐き出すようにいった。
「死者は・・・・・・、弔わなければ・・・ならない・・・・・・」
  そして6人は、まるで凍り付いたように動きを止めた。教室に時計が時を刻む
音だけが響く。その静寂を破ったのはマユだった。ヒロセに後ろから抱き付き、
囁くように語りかけた。
「あのね広瀬さん・・・わたしのお母さんはもう死んじゃったけど、今は新しいお
母さんがいて・・・どっちもわたしの大切なお母さんなの。だから・・・だからきっと
・・・・・・うぐっ。広瀬さんが望めば・・・家族はできるよ。そして大好きな家族はと
くべつな人だから、いつだって広瀬さんのそばにいるよ。ぜったいに広瀬さんを
おいていったりしないよ・・・・・・ぐすぅ」
  ヒロセは向き直り、マユをその胸に抱き寄せた。
「そうか・・・・・・。おまえが・・・繭がそういうのなら、きっとそうだよな。あたし
は平気だから・・・もう大丈夫だから・・・・・・。だから泣くなよ・・・な」
  そういうヒロセも泣いている。しばらくしてマモル兄さんがいつもの軽い口調
に戻っていった。
「広瀬さん。おユキさんが学食で待ってるよ・・・・・・」
  ヒロセは顔をあげ、取り巻き・・・いや友達を見る。二人は無言でうなずき
ヒロセと一緒に出口に向かう。扉に手をかけたヒロセが、マユに振り向いた。
「ねえ繭。これからは・・・あたしのこと真希って呼んでよ。だって・・・あたしたち
・・・・・・」
  そういってヒロセは教室を後にした。その言葉は途切れたが唇はこう動いた。
  あたしたち・・・ともだちだろ・・・・・・。

  マモル兄さんは、席について後頭部をさすっている。な〜んだ、やっぱり痛か
ったのか。
「アハッ。アハハ・・・なぁんだ、そうだったのか。こりゃ参ったな」
  ルミ姉さんが怪訝な顔でいった。
「ちょ、ちょっと。いきなり何よ・・・打ち所でも悪かったの?」
「いや・・・そうじゃないけどね。俺達は、余計な節介をしちまったようだなぁ」
  そういいながら、ニコニコと頭をさすっている。
「そ・・・そうなの?」
「アハハ・・・そうなんだよ」
  ルミ姉さんも一緒に頭をさすりながら。
「あらあら・・・こぶが成長してるわね・・・・・・。まあ、血が出てないから大丈夫よ」

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  お昼休み・・・・・・。机の上は、山盛りのハンバーガー。
  そして・・・マユの特別な人たち・・・・・・。

  放課後・・・・・・。コウヘイ兄さんミズカ姉さんと、夕方まで遊んで・・・・・・。
  そして・・・お別れのときがやって来た。

  二人と・・・そしてルミ姉さんも、校門でマユを見送ってくれた。
  それを校舎二階の窓から見つめるマモル兄さん。
  その隣りにはヒロセ・・・・・・。

  でも・・・それに気が付いているのは、ぼくだけのようだ。
  フェレットのぼくには、二人の話し声だって聞こえる。
「広瀬さんは見送りに出ないのかい?」
「フン・・・心配無用よ。だって、あの子には・・・みゅーがついてるから・・・・・・」
「みゅー?  誰だいそれは」
「知らないわ。繭がそういってたのよ」
「ふーん・・・そうなんだ・・・・・・」
  そういってマモル兄さんは例の手帳とペンをを取り出し、何か書き込んだ。

  みんなにお別れをいってトボトボと帰路に就くマユ。
  振り返ると小さくなった校舎の窓から、ヒロセだけがまだマユを見送っていた。

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  紙袋いっぱいのハンバーガーと、みんなの想いを胸に抱えてマユがいった。
「みゅー。明日から新しい学校だけど・・・またがんばって、お友達たっくさんつ
くろうね」
  ――ああ・・・そうだね。今のマユなら、そんなの簡単さ・・・・・・。

  マユが町並みを見廻す。
「わぁ♪  もうすぐクリスマスだね。今年はお母さんのケーキいっしょに食べれ
ないけど・・・また家族みんなでお祝いしようね・・・・・・」
  とうとうこの時がやって来た。ぼくは叫び出したいのを抑えていった。
  ――マユ。今まで黙っててゴメンよ・・・今年のクリスマスは、マユと一緒にお
祝い出来ないんだ。

「・・・・・・みゅ?」
  立ち止まり息を呑むマユ。ぼくは構わず続けた。
  ――これは前から・・・ぼくが冷たくなったあの日の朝から決まってたことなん
だ。あの日ぼくは死んだんだよ。でも・・・マユが誰よりもぼくのことを想ってく
れたから、ほんの少しの間だけ・・・こうやってお話しすることが出来たんだ
・・・・・・。でもねマユ、それも・・・もう終わりだよ・・・・・・。あの夕日が沈んだら・・・
ぼくはマユとお別れしなくちゃいけない・・・・・・。

  胸に抱えていた紙袋がマユの腕から滑り落ち、蜘蛛の子を散らすようにハンバ
ーガーが歩道の石畳を転がっていった・・・・・・。
  ――マユ・・・・・・、ぼくはずっと考えてたんだ。ほら・・・コウヘイ兄さんが家に
きた時いっただろ。想いだけじゃ繋ぎ止められない絆もあるって。そうなんだよ
・・・・・・。これはね・・・どうしようもないことなんだ・・・・・・。

「いやだ・・・・・・。そんなの・・・そんなのイヤだあぁぁ―――っ!」
  そう叫びながら、日向かいに駆けだすマユ。
「いやだっ、いやだいやだ。いっちゃイヤだよぉ―――っ!  みゅ―――っ!  
みゅ――――――っ!  みゅ―――――――――っ!!」
  ――無理だよマユ・・・・・・。どんなに走ったって・・・夕日に追いつけるわけ無い
よ・・・・・・。

「みゅ――――っ、みゅ――――っ!  うああぁぁぁ―――――――んっ!  み
ゅ――――――――――――っ!!」
  ――マユ・・・・・・。聞いておくれマユ・・・・・・。

「いかないでっ! どこにもいかないでぇ!!  みゅ――――――っ!」 
  ――聞くんだっ。マユっ!

  立ち止まり、そして・・・・・・。まるで迷子の仔猫のように、その場にうずくまる
マユ。
「うぐぅ・・・・・・。みゅー・・・ぐすぅ」
  ――この10日間あまり・・・辛いことも一杯あったけど。ぼくにとって、掛け
替えのない時間だったよ。ぼくはマユと出会えて幸せだった。お別れするのは悲
しいけれど、思い残すことなんか何も無いさ。だから・・・ぼくは今だってとても
幸せなんだ・・・・・・。

「みゅー・・・・・・。わたしだって・・・わたしだって・・・・・・」
  ――でもね・・・お別れする前に、一つだけマユにお願いがあるんだ。それはね
・・・マユがぼくを檻から救ってくれたように、今度はコウヘイ兄さんを助けて欲
しいんだ・・・・・・。

「ぐす・・・・・・。わたしが・・・浩平お兄ちゃんをたすける?  うぐ・・・みゅーのよう
に・・・・・・?  ――浩平お兄ちゃんは・・・みゅーなの?」
  ――ああ・・・そうだよ。自分という存在の儚さに怯え。この世界に自分を繋ぎ
止めてくれる絆を求めて心の中で泣いていた・・・マユに出会う前のぼくさ。
・・・・・・コウヘイ兄さんはマユに必要な人だと一目でぼくには解かった。でも、な
ぜそうなのか最初は解からなかった・・・でも今は解かるよ。それはね・・・コウヘイ
兄さんがマユと同じくらい、人と人の絆を求めているからなんだ。

「みゅー・・・・・・。わたし・・・どうすればいいの」
  ――今のままでいいよ・・・今のまま一所懸命頑張れば、マユは大丈夫だ。

「わたし・・・がんばるよ・・・・・・。いっぱい・・・いっぱいがんばるから・・・・・・。だか
ら、これからもずっと・・・・・・。繭を見てて・・・みゅー」
  ――もうそんな必要はないんだ。だって今のマユは一人じゃないよ。大切な人
が一杯いるよ・・・・・・。だから・・・・・・、もう君を見守るのは、ぼくじゃないよ
・・・・・・。

「そんな・・・ぐすっ、そんなことない・・・・・・。だって・・・うぐぅ。――だって・・・
お別れしたってみゅーは、わたしから遠くなったりしないものっ。みゅーは繭を、
おいていったりしないものっ。だってみゅーは・・・ぐすっ。みゅーはわたしの・・・
うぐっ・・・・・・。――みゅーは・・・繭の・・・・・・、ひぐぅ・・・・・・」

  行き交う人波の隙間から洩れた夕日がうずくまるマユを照らし、歩道に長い影
が尾を引いた・・・・・・。
  意識が夕日に溶け込み、段々心が希薄になっていく。暖かくてとても気持ちい
い・・・・・・。
  ――・・・・・・ありがとうマユ。ぼくはなんて幸せなんだろう・・・こんな幸せ者の
フェレット、世界中捜したって他にいやしないね・・・・・・。――みているよ・・・ぼ
くはこれからもずっとマユの傍にいて。いつだってちゃんとマユをみているよ
・・・・・・。そうだよね・・・そうなんだよね・・・・・・。

「うああぁぁぁ―――――――――んっ!  みゅ――――――っ!  みゅ―
―――――――――――っ!!」
  夕日がマユの顔を、真っ赤に染めた。頬を伝う涙が、宝石のようにキラキラ光
る・・・・・・。
  ――ほら・・・もう泣かないでマユ。みてごらん、夕日が沈んでいくよ・・・綺麗だ
ね・・・・・・。建物も街路樹も・・・車も人も・・・・・・。みんな段々、影に飲み込まれて
いくね・・・・・・。だから・・・もうお別れだよ・・・・・・。

「みゅー・・・・・・。うぐぅ・・・・・・」
  ――ありがとう・・・ぼくのいちばん大切な人・・・・・・。さようなら・・・ぼくの
・・・・・・、特別な・・・マユ・・・・・・。

「さようなら・・・わたしの・・・・・・、とくべつな・・・みゅー・・・・・・」


  Fin.
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ふ〜ん・・・それじゃあ、みゅーは今でもお母さんをみまもってるの?」
「うふふ・・・そうよ。いつだってみゅーは、ちゃんとお母さんの傍にいるの」

  そういってお母さんは、ぼくをその胸に抱きしめてくれた。
  ぼくの大好きなお母さんは、優しくて、暖かくて、いい匂いがして・・・・・。
  それで・・・それで・・・・・・。なんだか眠いや・・・ぼくはだんだん、夢の世界に引き
込まれていく・・・・・・。
  ぼくは・・・・・・。なんだかとても・・・・・・。とても・・・・・・。


  ――なんだか・・・・・・。とても・・・懐かしい気がした・・・・・・。

(おわり)
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  此処まで読んで下さった皆様。本当に有り難う御座いましたあぁぁっ!
  感想を下さった皆様。超、有り難う御座いましたあぁぁっ!!

                      ==感想で御座います==

  『ラブレター <後半>』          から丸 様

  浩平も瑞佳も青春してますねっ。依頼者の女生徒が怒りだして、修羅場になっ
ちゃうんじゃないかと小心な私はドキドキしました。


  『ラブレター <前半>』          から丸 様

  瑞佳よ…意外に策士だな。


  『もう・・溶けちゃったよ』          北風 様

  う〜っ。私も小説3巻、読みたいよーっ。


  『お・か・し戦記4』          はにゃまろ 様

  キャスティングで、既に笑えてしまいます。
  大盛りにんにくキムチラーメン留美(笑)
  戦いのとき動き難くて、物凄く不利になりそうです。


  『彼女はきっと』          神凪 了 様

  意外な展開がたたみ掛けてくるので、ビックリしましたぁ。


  『彼と彼女が結婚する日』          神凪 了 様

  南:「茜さんに折原……。何故……、なんで俺を呼んでくれなかったんだあぁ
ぁっ!」
  消えてないのに、コロッと忘れられている南であった……。
  ……って、展開を予想したのですが。←それじゃあギャグSSだって


  『願いはきっと届くから』          神凪 了 様 

  深夜の高校……。――何も動くもののない、闇の世界。
  最初、怪談かと思いましたぁ。


  『セピア色の写真は』          神凪 了 様

  その後。もし浩平が戻ってきたら、浦島太郎みたくなりますね。


  『誰も知らない世界の片隅で』          神凪 了 様

  うーっ…浩平って、結構アブナイ奴ですね。←何をいまさら
  瑞佳はこれから、どうなって(どうされて?)しまうのでしょうか。


  『鉄鍋のだよもん!』          雀バル雀 様

  さすがは瑞佳。素材ではなく調味料にこだわるところが、某、宇宙戦艦のシェ
フみたいで侮り難いです。
  長森家には、世界数百種類の調味料が揃っており、その大半を正味期限切れで
廃棄している…とか?


  『一方その頃…七瀬(番外投稿)』          WTTS 様

  生徒の入部希望を拒否する顧問も、随分と好い性格です。
  七瀬っ!  こんな奴に習っても、乙女になれないぞ。

  瑞佳:「そうだよ七瀬さん。ウチの部においでよ、ずっと七瀬さん向きだよ」
  七瀬:「あんたの部って……。牛乳部?」


  『おねおね動物ランド』          うとんた 様

  私も猫を飼っているので、動物好きな方かもしれません。でも、魚を飼う人の
気持ちは今一つ解からないのです。鳴かないし、一緒に遊べないし。
  きっと、それなりの可愛さが有るのでしょうね。
  でも…矢っ張り私は、魚は飼うより食べる方が好きっ。


  『〜永久(とわ)なる眠り そして・・・〜』          神野 雅弓 様

瑞佳  :「一緒に寝ちゃうもんっ!」
奈伊朗:「ふんっ、良いだろう。近こう寄れ、ふっふっふ……」
群衆A:「何やっとんじゃあぁっ!  オノレはあぁぁっ!!」
効果音:  ゲシッ、ゲシッ、ゲシッ……。
奈伊朗:「ぐわぁっ!  こんな所にまで群衆がぁ!!」


  『アルテミス』          神凪 了 様

  二十五話……。長いの書ける人ってスゴイと思います。
  私は、長さが二倍になると労力が四倍になる感じで。長いの無理ですぅ。


  『贖罪の刻印』          神凪 了 様

  う〜ん…刺激的ですね……。もしかしたら怒る人も居るのかもしれませんが、
個人的には、こーゆーの大好きなの。


  『繭のとくべつなみゅー(6)』      奈伊朗 

  長すぎます。しかもヘタクソなので、読むのが苦痛です。もっと短く纏めなさ
い。
  毎回、次は面白くするって言ってるのに。回を追うごとに、寧ろヘロヘロにな
りますね。
  それと、感想がゼンゼン感想になってません。世間話をするのは止めなさい。


  『アルテミス 第二十四話の改訂版』          神凪 了 様

  改訂版ですか。ログを残してないうえ、記憶力も乏しいので読み比べることが
出来ないの。スミマセン。
  新作をバリバリ書きながら、これまでの作品も直す…立派です。
  私も書き終わったのだから少し直そうかと思うのですが、けっきょくやんない
だろーなぁ……。


『〜永遠に追い求めるもの そして・・・〜』          神野 雅弓 様

雪見先輩:「どーこーいーっーたー」
みさき  :「雪ちゃん、ナマハゲみたいで怖いよーっ」


  『ぼくらの冒険』          雀バル雀 様

  んーっ…良いなぁーっ。『ながもりUFOちょうさたい』ってのが。
  起承転結があって、短編としてスッゴク完成度が高いと思いました。



  な…何という投稿数!  旧ホームページでいちばん書き込みが多いのでは!?