繭のとくべつなみゅー(5) 投稿者: 奈伊朗
  どぉ〜〜〜も〜〜っ。
  御無沙汰しておりました〜。奈伊朗とゆーモノです。
  はたして私を覚えている人がいるのでしょうか?  (半年振りくらいでしょう
か?)

  えー…思いっきり続きモノなんで話しが見えないと思います……。
  既に1〜4話は、りーふ図書館に入れて頂いてますので、(有り難う御座いま
すっ。私の様なインターネットホームレスは、ひたすら他力本願です)宜しけれ
ば読んでやって下さいませ。


  あ…其れと、前回の投稿でメールアドレスを間違えて居りました。

  誤:nairou@mth.bigloe.ne.jp
  正:nairou@mth.biglobe.ne.jp

  ・・・・・・です。↑アホですねぇー

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                             これまでのお話し

  死して尚、繭を見守る偉いフェレット・・・・・・。
  ――其の名を、みゅー。
  繭と共に高校に通うが、そこで繭は悪のクラスメート広瀬真希にバリバリと苛
められてしまう。
  行け!  みゅーっ!!  其処で必殺技を使うんだっ!
  今だ!  みゅーっ!!  此処で決め台詞を言うんだ!

  ・・・・・・だがみゅーには、繭と話す以外に何の能力も無かった・・・・・・。
  ただ見守る事しか出来ないみゅーに、役立たず臭が漂う。

  だが・・・それでも。繭にとって、みゅーとの絆は唯一の拠り所だった・・・・・・。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  ・・・・・・・・・。
  ・・・・・・。
  ・・・。

  うあ―――ん・・・・・・。
  うあ―――――――んっ!

  泣き声が聞こえる。
  誰のだ・・・・・・?
  ぼくじゃない・・・・・・。

  女の子だ!  小さな女の子が檻に閉じ込められて、声をあげて泣きじゃくって
いる。
  ――ねえキミ。どうしたんだい?

「お母さんがいないのっ!  うぐっ・・・・・・。あたしをおいて、ぐすぅ・・・いっち
ゃった」

  誰か・・・この子を助けてあげてよ。この檻から出してあげてよ。ねえ、誰か
・・・・・・。

  ――ねえ・・・マユ・・・・・・。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
                 『繭のとくべつなみゅー』第伍回            大須 奈伊朗 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  ――うーん。だいぶ遠回りしたね。

「うん・・・・・・。けっきょく郵便局までいっちゃったもの」
  家を出るときお母さんに、手紙を投函するように頼まれたマユ。でもポストっ
てのは探すと意外に見つかんないもので、予想外の大回りになった。
  しかも今日は、折悪しく雨。マユは傘をさし、スキップしながら学校に向かう。
  なにぶん家を出るのが早いから、時間はまだ充分ある。

  ・・・・・・ん?  空き地の前でマユが立ち止まった。
「・・・・・・みゅっ?  あの人・・・なにしてるのかな・・・・・・」
  制服を着た女の人が、ピンクの傘をさして空き地にポツンと佇んでいる。ちな
みにマユの傘は透明だ。これが一番安全なのだと、お母さんがいってた。
  きっと色つきの傘は、雨を防ぐ力が弱いんだ・・・・・・。

  シッポが二本生えているところを見るとルミ姉さんと近い品種のようだ。
  制服を着てるのに、どうして学校に行かないんだろう?
  マユは空き地の色傘姉さんのとこまで行き、その横に並ぶ。
  ただ無言で立ち尽くす色傘姉さん。その顔をボーッと見あげているマユ。話す
きっかけが掴めないようだ。
  と・・・その時、色傘姉さんがマユに振り向いた。さっそくマユが尋ねる。
「ねえ・・・なにしてるの?  学校・・・遅れちゃうよぅ」
「わたしは・・・もう少しここに居ます。繭さんはもう学校に行って下さい」
  マユがキョトンとした顔で訊いた。
「はぅっ!?  なんでわたしの名前知ってるの?  あの・・・知らないお姉ちゃん」
「同じクラスですから・・・・・・。繭さんは目立つから、名前くらい覚えます・・・・・・。
――わたしは、里村 茜です」

  マユが話題を最初の質問に戻す。
「茜お姉ちゃん・・・こんなとこで、なにしてるの?」
  アカネ姉さんは、ゆっくりとマユから顔を逸らした。傘の陰に隠れて、もうそ
の表情を見ることはできない。
「わたしは・・・・・・。――ここで、友達を待っているのですよ・・・・・・」
「・・・・・・ほぇ?  そのお友達は・・・お姉ちゃんをおいてっちゃったの?」
  その言葉に、アカネ姉さんが息を呑む。ピンクの傘が小さく震えていた。
「さあ・・・どうなのでしょうね・・・・・・。やっぱり置いていかれたのでしょうか?」
「戻ってくるよ・・・・・・。茜お姉ちゃんがそのお友達のこと大好きなら。・・・・・・そ
んな・・・とくべつなお友達なら、きっと戻ってきてくれるもの。――みゅーのよ
うに・・・・・・」
「繭さん・・・無責任ですっ。そんな無責任なこと・・・・・・、いうものではありませ
ん」
  静寂に包まれた空き地に、雨が地面を打つ音がノイズのように響いていた。
  ・・・・・・それを破るようにピンクの傘の陰から微かに嗚咽が洩れる。

「・・・・・・ごめんなさい」
  マユはそういいながら、アカネ姉さんの脇をすり抜け空き地に分け入る。
  そこでしゃがみ込んで、地面を見つめながらいった・・・・・・。
「この空き地に、茜お姉ちゃんの・・・お友達がうまってるんだ・・・・・・」
「・・・・・・埋まっていません」
「ほえ?  お姉ちゃんが、うめてあげたんじゃないの?」
「埋めてません!」
「そうなんだ・・・わたしのお友達はね、公園奥の林にうまってるの・・・・・・」
「・・・・・・まさか。――うふふっ・・・大人をからかうなんて、いけない子ですね」
「うそじゃないもぅん・・・わたしがうめてあげたんだもの。浩平お兄ちゃんが手
伝ってくれたんだよ・・・・・・」
「なっ、何てことを!  信じ難い噺ですが、世紀末ですからそんなこともあるか
も知れません。――無謀な事をしましたね繭さん。それは死体遺棄とゆう犯罪で
す!」
  そういって振り向いたアカネ姉さんの顔は、心なしか蒼ざめ眉間にシワまで寄
っている。
  アカネ姉さんはマユの腕を引いて立たせると、腰に腕を廻してピンクの傘の中
に引き寄せ、上からマユの顔を覗き込む。
  今までのアカネ姉さんからは想像出来ない、素早い動きだった。
「――いいですか繭さん、今の事はもう決して人に話してはいけません。もし警
察の人がお家に訪ねて来て、何か訊かれても“知らない”と答えなさい。罪は総
て折原君になすり付けてしまうのです。――解かりましたか?」
  アカネ姉さんの口調は冷静だが、膝がガタガタ震えている。
  ――どどど、どうしよう!  警察がマユを捕まえに来るよーっ。警察って犯人
を逮捕して死刑にする人達だよ。逃げると刑事がピストルで撃つんだよ!!  ぼく
のせいだ、ぼくが死んだりするからいけないんだっ!  みんな、ぼくが悪いんだ
あぁぁ―――っ!!

「落ち着いてよみゅー・・・・・・。それはテレビドラマの話しだよぅ。死刑になるの
はね、すっごーく悪いコトした人だけだよ・・・・・・」
  ――じゃあ、どんな事すると死刑になるんだい?

「う〜ん・・・・・・。と・・・ねぇ・・・・・・。空中浮遊とかする人・・・かなぁ?」
  ――なるほど・・・それは良くない。飛行機の邪魔になるからね・・・・・・。

  アカネ姉さんが目をパチクリさせながら訊いた。
「・・・・・・繭さん?  一人で何をブツブツいってるのですか?」
「みゅーとお話ししてたの・・・・・・」
「みゅー・・・って、何でしょう・・・・・・?」
  マユは“ぬいぐるみのみゅー”を見せながら・・・・・・。
「あのね・・・こーゆーの・・・・・・。本物のみゅーは死んじゃったけど、今もちゃん
とわたしのそばにいるの」
  ――マユぅ〜。それは、ぼくに似てないよぉ・・・・・・。アカネ姉さんが誤解する
じゃないかぁ。

「えーっと・・・何かの爬虫類?  死んでしまったペットと話してたのですか
・・・・・・。――まあ・・・子どもには有りがちな事です。でも八百屋さんの前を通る
とトマトが話しかけて来るようなら、ちゃんとお母さんに相談するのですよ。
――ん・・・もしかして・・・・・・。林に埋めたお友達というのは?」
  コクコクと、うなずくマユ。
「ぷっ・・・くくっ・・・・・・。そ・・・そうでしたか・・・・・・。納得しました・・・くくくっ
・・・・・・」
  そういってアカネ姉さんはマユに背を向けた。肩が上下に揺れている。
「――ま・・・繭さん。さ、さっきの話しは・・・・・・。みんな忘れて下さい・・・くくっ」
「はうぅ〜っ?」

「あーっ!  ・・・・・・わたしは今、とでも重要なことを思い出しました・・・・・・」
「・・・・・・なに?」
「学校です。・・・・・・このままでは遅刻してしまいます」

  アカネ姉さんと学校へ急ぐマユ・・・・・・。と思いきやゼンゼン急いでないっ。

  ぽて、ぽて、ぽて、ぽて、ぽて、ぽて・・・・・・。
「・・・・・・茜お姉ちゃん・・・はしろ」
「は・・・走ってます!」

  ぽて、ぽて、ぽて、ぽて、ぽて、ぽて、ぽて、ぽて、ぽて・・・・・・。
「はぅ〜っ。いっしょけんめはしろ・・・・・・」
「こっ・・・・・・。これで・・・精一杯です!!」

  ぽてぽてと、すり足で走るアカネ姉さん・・・・・・。
  これは遅い・・・おそすぎる〜。きっとお母さんだってもっと速いぞ。

  2〜3メートル走っては立ち止まり、また走っては止まりを繰り返して、強引
にペースを合わせるマユ。
  ――マユっ!  希望を捨てちゃ駄目だ。

  一方、マイペースのアカネ姉さん。
  ――これが全速力じゃ仕方がないなぁ・・・・・・。

  それでも、ぎりぎりセーフで遅刻を免れた・・・・・・。
  ――おぉっ、奇跡だ・・・・・・。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  二時限目の授業が終わり、三時限目に備えて教室移動だ。廊下を歩くマユの腕
を、誰かが掴んで引きとめた。
「おーい、チビちゃん。元気にしてたか?  フッフフフ・・・・・・」
  それは、ぼくが・・・そして恐らくマユだって一番聞きたくない声だった。
  マユの身体が一瞬硬直した。そして大きく息を吸い込むとマユはヒロセに向き
直り、その眼を見据えていった。
「・・・・・・なあに?  ・・・・・・広瀬さん」
  ・・・・・・ぼくが聞いたことのない、凛としたマユの声。
  それは最近、漠然と感じていたこと・・・この数日間でマユの中に、今までとは
違うぼくの知らないマユが育っている・・・・・・。
  それは、お母さんやコウヘイ兄さんやミズカ姉さんや・・・・・・。マモル兄さん
ルミ姉さんも未だ気がついていない・・・もう一人のマユ。
「クククッ・・・・・・。おい今の聞いたか?  広瀬さんだとさ。ハハハ・・・・・・」
  ヒロセの後ろにいる二人の女生徒も、一緒にクスクス笑う。学食でマユを後ろ
から押したヤツと、足を掛けたヤツ・・・・・・。いつもヒロセの周りに群れている取
り巻きだ。
「――まあ・・・そんなに尖んがるなって。今日はチビちゃんに折り入って頼みが
あるのさ」
  そういいながら広瀬は、マユの胸倉を掴んで壁際に圧しつけ三人で周りを取り
囲む。
  ――逃げよう!  こんなヤツらと関わっちゃ駄目だよマユ。

「ごめんね・・・みゅー。わたし逃げないよ・・・もう逃げないってきめたから」
「なに一人で、ブツブツいってんだ?  フンッ・・・まぁいいやね。ところでオマ
エ金持ってるか?」
  他の二人がヒロセに耳打ちする。
「広瀬ぇ〜カツアゲはマズイんじゃない?  ――そうだよ真希。セン公にバレた
らコトだろ・・・・・・」
「フンッ。構うもんか・・・・・・。コイツはこの学校の生徒じゃないからな、ガタガ
タ騒いで事を荒立てりゃセンセー連中の立場だって悪くなるのさっ」
「教師はともかく、あのヤローが絡んできてるのは問題だよぉ。――そうだよ
真希・・・アイツは怖いヤツだって、もっぱらの噂だよ。あたいはそっちの方が恐
ろしいよ」

  マユはヒロセに向かっていった。
「お金・・・お昼代の千円だけあるよ・・・・・・」
「ヘヘッ・・・上等じゃないか。あたし今日、家に財布忘れて来ちまってさぁ・・・そ
の金、貸してくんない?」
  ――マユっ!!  こんな奴に、お金なんか貸すことないよ!

  マユは小さく首を横に振ると、ヒロセの眼を見ながらいった。
「お金貸したら、わたしのお友達になってくれる?  ――それならいいよ・・・
広瀬さん」
  マユのその言葉を聞いてヒロセの顔に怒りの感情が浮かぶ。
「お友達!?  ハハハ・・・おまえ学校に友達を作りに来てんのかよ。まったく笑わ
せてくれるねぇ」
  ヒロセはマユの髪の毛を掴み、その視線を自分から引き剥がした。
「――ほらぁ!!  周りをよく見なよ。みんなオマエを見てるだろ?  見えてんだ
よ!  知ってんだよ!!  でも・・・みんな見て見ぬ振りしてんのさっ・・・・・・。
――オマエのことなんか・・・知らねえとさ」
  ヒロセのいったことは・・・本当だった。みんなマユ達を遠巻きにして冷たい視
線で見つめている。
「うぐぅ・・・・・・」
  ――なんでだよ・・・・・・。どうして誰もマユを助けてくれないんだよぉ。

「なぁ・・・チビちゃん、世の中ってのはこんなもんだ。こうゆう奴らばっかりな
のさ。それでもこんな連中とお友達になりたいか?  ――友達ってのはな、お願
いしてなってもらうモンじゃないんだよ。わざわざ自分が泥を被ってまで、赤の
他人を助けようなんて酔狂な奴が居るもんかよ。チビちゃんに友達が居ないのは
な、オマエと連んでも何の得にもなんないからさ。――やれ友達だ仲間だ学校だ!
  会社だの国家だの・・・そして家族。みんな自分が・・・自分達だけが好い思いした
いから。利潤が一致する者同士が群れてよそ者を排除してるだけさ。――あたし
にいわせりゃ、みんな下衆だね!」
「そんなこと・・・ない・・・・・・」
  ヒロセは、掴んでいる髪を引っ張ってマユを仰向かせ、吊り眼を細めて見下ろ
した。
「そんなこと・・・あるんだよ。役立たずは捨てられるんだ、置いていかれちまう
のさ!  ――なにしろ・・・あたしは実の母親に捨てられたんだからなっ」
  それを聞いて、マユが言葉に詰まる。
「そんな・・・そんな・・・・・・」
「あたしは、母親がどっかの男とサカってるうちに、うっかり出来ちまった子供
なのさ。父親が誰なのか、たぶん産んだ本人にも見当がつかねえだろうよ・・・・・・。
あたしが産まれてくるのを喜んだ人間なんて、この世に一人もいやしない。
――そりゃ捨てられるよな・・・・・・。それが・・・この世界さ」
  そういってヒロセは、喉の奥でクククと笑った。
「広瀬さんのお母さんは・・・どこにいるの?」
「うるせぇ!  そんなことテメエに関係ねえだろーがっ!!」
  ヒロセはマユの髪を持って、ガクガク揺する。込みあげる悲鳴を噛み殺すマユ。
  ――なにすんだよぉ!  やめてよ。マユに酷いことしないでよぉっ!!  うああ
ぁぁぁぁぁぁ――――んっ!  マユ――――――っ!  マユ――――――っ!

「平気だよ・・・こんなの何ともないよ。だから・・・みゅー。泣かないで・・・・・・」
「なに訳の分かんないこといってんだよ!  ――母親がどこで何してようと、あ
たしの知ったこっちゃないさ!  世界で一番、大っ嫌いで逢いたくない人間なん
だからな!!」
  そういってヒロセはマユを突き飛ばし、ハアハアと肩で息をした。
  ――マユっ!  大丈夫かい、怪我してない!?

  マユは、
「うん・・・・・・」
  と、うなずくとヒロセに向かっていった。
「うそだよ・・・広瀬さんうそついてる・・・・・・。――だって・・・そんなはずないもの」
「黙れって、いってんだろーがぁ――――っ!!」
  マユに向かって拳を振り上げるヒロセを、慌てて後ろの二人が押さえ制止した。
「ちょっと広瀬、駄目だよぉ!  さすがに殴るのはマズイって。――どうしたん
だよ真希?  こんなガキのいうことに、ムキんなるなよ・・・・・・」
  ヒロセは、フゥ――ッと大きく息を吐きながら身体の力を抜くと、自分を掴ま
えている二人に、「離しなさいよ」
  と、いった。そして人差し指で頬をポリポリ掻きながらニヤニヤ笑う。
「ふんっ・・・・・・。オマエだって、あたしとおんなじだろ?  ――チビちゃんのマ
マは、もう死んじまったんだってなぁ。あんたを押っ放り出す前にテメエが死ん
じまったんだよな・・・・・・。――ったく、羨ましいねぇ」
「ちがうよ・・・そうじゃないよ・・・・・・」
  マユの言葉を遮るように、ヒロセが語気を強める。
「違わないんだよ!  そうなんだよっ!!  オマエだって今まで、ずーっと厄介者
扱いされて来たんだろ!?  ――皆・・・みーんな。本当は心の中でオマエなんか、
いなけりゃいいと思ってんのさっ!!」
「ちがうよ・・・そんなことないもの。だって・・・だってわたしには・・・・・・。――わ
たしにはね・・・みゅーがいるもの・・・・・・」
  苛立ちを顕わにして、ヒロセが叫ぶ。
「チッ!  訳の分んないコトばっかりいいやがってっ!!  頭イカレてんじゃねえ
のかっ!?」
  プイッと顔を背けるヒロセに一歩詰め寄り、ポケットから取り出した千円札を
突きつけてマユはいった。
「広瀬さん・・・・・・。わたしの・・・お友達だよ」
  ヒロセは、それを引ったくるように受け取ると、
「ケッ!  つまんねーのっ。噺にもなんねーな!!」
  と・・・いいながら、取り巻きの二人を従えて繭の許を去っていった・・・・・・。
  去り際に千円札をビリビリと破き、クシャクシャに丸めてゴミ箱に放り込んで
・・・・・・。

「あはは・・・・・・。ねっ・・・わたしがんばってお友達つくったでしょ・・・・・・」
  ――そ・・・そうなのかい?  マユ・・・・・・。

「うん♪  ・・・・・・そうなんだよ・・・みゅー」
  マユには、ぼくに見えない何かが見えているのかな?

  ・・・・・・それが“絆”なのかな。

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  お昼休みになった。机に伏せりボーッとしているマユに、隣のルミ姉さんが声
をかける。
「ちょっと繭・・・・・・。お昼御飯はどうしたのよ?」
「うーっ、いらない・・・・・・。食べたくないの・・・・・・」
  ルミ姉さんは席を立ちマユの側に来ると、その前髪を掻き上げて自分の額をく
っ付ける。
「んー?  ・・・・・・熱は無いわねぇ。・・・・・・口開けて舌出してごらん」
「みゅわぁ〜ん」
「うーん・・・頭痛くない?  お腹壊してない?  身体だるくない?」
  いずれにもプルプルと首を振るマユ。
「――そう・・・具合悪かったらすぐ、あたしにいいなさいよ。――それと・・・少し
でもいいから、無理してでも食べなさいよ」
「あのね・・・お友達にお金貸してあげたから今日はいいの・・・・・・」
  それを聞いて、ルミ姉さんが素っとん狂な声をあげる。
「あんた!  お昼代を貸してどうすんのよっ!?」
「わたしどうせ食べたくないからっ・・・だからいいんだもぅん」
  そういってルミ姉さんの眼をじっと見るマユ。ルミ姉さんはその視線に圧され
るように一歩退き。
「あ・・・そう。じゃあ仕方がないわね・・・・・・」
  とかいって、しばらく考え込んでから教室を出ていった。それを待っていたか
のように、後ろのマモル兄さんが話しかけてくる。
「ねえ繭ちゃん。金を貸した友達ってのは広瀬さんかい?」
「あぅっ!?  あ・・・あのね。それは・・・でも・・・・・・」
「チッ・・・抜かったな・・・・・・。まさかそこまでやるとは・・・・・・。――金は俺が立
て替えるから学食に行っといで」
  そういってマユのポケットに千円札を押し込み、それから教室を見廻してちょ
うど教室を出て行こうとしていたアカネ姉さんを呼び止めた。
「――里村さん、学食かい?  ――じゃあ、ついでに繭ちゃんを連れてってくれ
ないかな?」
「はい・・・構いません。――さあ繭さん、いきましょう」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  学食で、ハグハグとハンバーガーを頬張るマユ。斜向かいにアカネ姉さんが座
り、その隣・・・繭の正面の席では大きなリボンの女の子が、ニコニコと嬉しそう
にウドンを啜っている。
  時々フーフーと息を吹きかけながら、一本ずつ麺を食べているので一向にはか
どらない。相当な猫舌のようだ。
  ちなみに、名前はミオちゃんだ。アカネ姉さんが紹介してくれた。

  先にハンバーガーを食べ終え、ミオちゃんを見つめているマユ。
  話したくてウズウズしているのだが、ミオちゃんがあまり楽しそうに食事して
いるので邪魔をするのが悪くて話しかけられないようだ。
  手持ち無沙汰のマユに、アカネ姉さんがいった。
「繭さん・・・毎日ハンバーガーばかりじゃ栄養のバランスが悪いですよ。それで
は大きくなれません」
  といいながらツナサンドを小鳥のように啄ばんでいる。ハンバーガーと大差な
いと思うのだが・・・・・・。
  実際、アカネ姉さんだって背が高いほうじゃない。もっとも、マユやミオちゃ
んはもっと小さい。
「だいじょうぶだもぅん。お母さんがね・・・・・・。――お昼は、お友達と繭の好き
な物を食べなさい。そのかわり朝と晩は、ちゃんとお母さんの作ったご飯を食べ
るのよ・・・って」
「そうですか・・・優しいお母さんですね」
「みゅ――っ♪」
「そうだ繭さん、今日は一緒に帰りましょう。それで途中、山葉堂でワッフルを
買いましょう。わたしの超お奨めを御馳走します」
  それを聞いてミオちゃんが、コホコホと咳き込む。そして膝のスケッチブック
にキュッキュと文字を書いてアカネ姉さんからは死角になるようにマユに見せた。
『アレはやめた方がいいの!  茜先輩はとっても好い人だけど、一緒に甘いもの
を食べに行っちゃいけないのっ!!』
  アカネ姉さんが、小首を傾げながら訊いた。
「おやっ・・・澪さん。内緒話ですか?」
  ミオちゃんはプルプルと首を振りながら、慌ててスケッチブックを見せる。だ
がその際アカネ姉さんに気付かれないように、素早くページをめくった。
  これは超能力という芸だ・・・たまにテレビでやっている。
『わたしは上月 澪(こうづき みお)。よろしくなの』
「・・・・・・?  自己紹介は、先程しましたが・・・・・・」
『そっ・・・そうでした。わたしボケてましたのっ』
  そう書きながら、眼でマユに合図する。
  ――マユ・・・これは動物の勘なんだけど、ミオちゃんのいうとおりにしようよ。

「みゅー・・・・・・。あのぉ・・・お母さんがね、晩ご飯が食べられなくなるから買い
食いはしちゃいけないって」
「そうですか・・・・・・。でも・・・たぶんワッフルのひとつくらい平気です」
『大嘘なのっ!  わたしはアレをひとくち食べただけで、次の日ゼンゼンご飯が
食べられなかったの』
「うん・・・・・・?  何ですか、澪さん」
  再び超能力を使うミオちゃん。
『椎名・・・繭ちゃん。――とってもいい名前ですの』
  不思議顔のアカネ姉さんに向かって、ポリポリと頭を掻きながらニコニコ笑う
ミオちゃん。
「はぁ・・・・・・?  ――まあ・・・お母さんのいいつけなら仕方がありません。山葉
堂は休日にでも、お母さんの許可を取って行きましょう」

  ようやくウドンを食べ終え、ミオちゃんはプラスチックの湯飲みでお茶を飲ん
でいる。
「ねえ・・・澪ちゃん。・・・・・・お友達ってなにかな?」
『わたし達、もうお友達なの』
「わたしとお友達になっても、澪ちゃんゼンゼン得しないよ・・・・・・」
『そんなこと無いの。お友達になったから、こうやってお話し出来るの。繭ちゃ
んと話せて、とっても楽しい・・・繭ちゃんに伝えたいことや、知りたいことが一
杯あるの。――わたしは沢山の人を知りたいし、沢山の人に伝えたいの・・・だっ
て、みんな大好きだから・・・・・・』
「みんな・・・大好き?  澪ちゃんには、嫌いな人いないの?」
  ちょっと考えてからミオちゃんは、マユの隣に席を移しテーブルの真ん中にス
ケッチブックを広げた。マユとアカネ姉さんがそれを覗き込む。
『あのね』
  同時に、コクコクと頷く二人。
『――わたしだって、嫌いな人はいるの。でも・・・わたしのいった“好き”の反
対は“嫌い”じゃないの。――わたしの“好き”の反対は“どうでもいい”なの。
――嫌いな人は、好きになれるかもしれないけど、興味が無い人は、好きにも嫌
いにもなれないの』
  マユがミオちゃんの言葉を、反すうするように繰り返す。
「好きの反対は・・・どうでもいい・・・・・・」
『嫌いな人がいるのは仕方がないと思うの・・・・・・。――でもね、繭ちゃん・・・・・・。
好きでも嫌いでもないのは一番良くないと・・・わたしは思うの』
「・・・・・・好きでも嫌いでもないのが・・・一番良くない。・・・・・・そうなんだ。お母
さん・・・ごめんなさい。――わたしどうしよう・・・どうしたらいいと思う?  
みゅー」
  ――ごめんよマユ、ぼくにも分からないよ・・・・・・。

  アカネ姉さんが、まるで独り言のようにポツリと呟いた。
「それは・・・たぶん理想論です。――でも・・・とても素敵だと思いますよ。・・・・・・
澪さん」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  昼食を終え教室に戻ると、ルミ姉さんとマモル兄さんが口論していた。
「――呆れたわね!  あんた知ってて知らん振りしてたのっ!?」
  いきり立つルミ姉さんを尻目に、マモル兄さんは、
「ふぅーん」
  とか、
「へーぇ」
  などと生返事をくり返しつつ、分厚い手帳をペラペラめくっている。
  ・・・・・・そしてルミ姉さんの話しが一段落した所でいった。
「アハハ・・・七瀬さん、物事にはね段取りというのがあるんだ。その件に関して
は、穏便に対処すべく俺の方で動いている。――だから七瀬さんは、この件から
手を引いてほしい」
  その言葉に、ますます憤るルミ姉さん。
「ふざけないで!  手を引くのは、あんたの方よっ!!  ――あんたみたいなボン
クラに任せておけるもんですかっ!  ああゆう性悪狐はガツンと一発かましてや
るに限るわっ!!」
  息巻くルミ姉さんをよそに、マモル兄さんは涼しい顔で手帳に視線を落とし何
か書き込んでいる。
「彼女は七瀬さんが思っているほど悪人じゃないよ。――まあ・・・現時点で俺に
いえるのは、これくらいだけどね・・・・・・」

  うーん。ルミ姉さんが一方的に詰め寄っているだけで、これは口論とはいえな
いなぁ。
「へーぇ・・・驚いた!  アイツの肩を持つの!?  あんな雌狐が好みだなんてずい
ぶん個性的な嗜好をお持ちでっ」
「彼女は理屈が通らないほど愚かでは無いし、意識的に自分を使い分けるほど狡
猾でもない。――俺のいう“悪人ではない”は、そうゆう事なのさ」
「それって、あたしに対する当て付けかしら?」
「おやっ・・・そう聞こえるかい?  アハハ・・・それはいけないなぁ・・・・・・」
  その時、教室に入ってきたミズカ姉さんがルミ姉さんの後ろから声をかけた。
「あれぇ、繭ーっ。それに七瀬さんと住井くん。三人とも何の話題で盛り上がっ
てるのかなーっ。――わっ!  七瀬さん、右腕なんか振り上げてどうしたの?  
拳が震えてるよぉ・・・・・・」
  突然話しかけられ硬直しているルミ姉さんに代わり、マモル兄さんが口を開い
た。
「いやね・・・・・・。七瀬さんがキムチラーメンのスープは、しょうゆ味に限るって
いうんだよ。――俺は具との調和を考えて、辛子味噌味が最善だと思うんだ。香
ばしく炒めたニンニクの薄切りも欠かせないね」
  ニンニクと聞いた途端、ミズカ姉さんの顔が蒼ざめる。
「そ・・・そうなんだ。あっ・・・そろそろ午後の授業が始まるねっ」
  そういって、そそくさと自分の席に戻るミズカ姉さん。そしてルミ姉さんも右
腕を振り上げた姿勢のまま席に着いた。


(つづく)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  あの広瀬さんに、意外にも暗い過去がぁっ!
(七瀬の椅子に画鋲を貼り付けたオチャメな真希ちゃんは、いったい何処に!?)
  次回!!  遂に登場!  長森三姉妹。
(ず〜っと言い続けてるなぁー)

  群衆A:「今回で終わりじゃなかったのかぁ!?」
  ごめんなさぁーい、あと二回あります。今日から三日連続ですぅ。
  どうかヒトツ、我慢して読んでやって下さいませませっ。

                      ==感想で御座います==

  『永遠縦断ONEクイズ 第3話』          うとんた 様
  広瀬さん可愛いです。最近ここは広瀬さんブームなのでしょうか?
  一服盛るのも、広瀬家のしきたりか……。
華穂さん:「わたしはCGが有るのですが……」
奈伊朗  :「おそらく『CGのある“女の子”キャラ』って部分に、引っ掛かっ 
           てしまったのでは?  ――ぐぁっ!  私を殴らないで下さい」

  『パッヘルベルの・・・』          PELSONA 様
  食べ物が絡むと、さしものみさき先輩も思考パターンが繭と同レベルになって
しまう……。(笑)
  タイトルの意味が判らない私は、だいぶアホかもしれない……。(涙)

  『全國大食い選手権』          PELSONA 様
  往年の名横綱、北ノ湖のように、ふてぶてしい態度で臨めば、悪役大食い選手
としてそれなりの人気を博するかも知れません。

  『全國甘味王選手権』          PELSONA 様
  世の中には、直接砂糖を舐めるより遥かに甘いお菓子があるのが不思議です。
  こめかみが痛くなるほど甘いの……。

  『一方その頃…広瀬(第15投稿)』          WTTS 様
  一読して「う〜ん」そして読み直して「う〜ん」です。
  読みやすくて面白い…今後、公平と茜に広瀬とその友人たちがどう絡んでいく
のか。続きが楽しみです。