繭のとくべつなみゅー(3) 投稿者: 奈伊朗
  ど〜もっ。ご無沙汰しておりました、奈伊朗で御座います。
  ようやく三話目が、書けましたぁ!  ←書くの遅すぎ
  一話と二話は、別に読んでなくてもわかると思いますが、既にりーふ図書館に
入れて頂いてますので、(う〜っ、嬉しいよーっ。どうしたら載っけて貰えるん
だろうと思ってたんですぅ)お時間のある方は、読んでやって下さいませ。

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                             これまでのお話し

  な、なんと。椎名繭には、みゅーの幽霊が憑いていた!
  でも。コイツは、友達思いの良い動物霊だ。
  斯くして、穴掘り兄さんこと浩平を追って、学校にやってきた繭とみゅー。
  だが、みゅーは此処で自分の存在意義に疑問を感じ、繭との訣別を決意する。

  飽く迄みゅーとの絆を求め、追いかける繭。
  沈黙を守るみゅー。みゅーは言った。
「ぼくがいたら、マユの足枷になってしまうんだ」

  そんなことないよ。そんなはずないよ・・・・・・。

  だって、君は・・・・・・・・・。

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                 『繭のとくべつなみゅー』第参回            大須 奈伊朗 
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  ようやく学校が終わり、校門から出てきた二人。
  ・・・駆け寄っていくマユ。

「べつに待ってなくて良かったのに・・・」
  そういって、マユの頭をなでながら微笑むミズカ姉さんに、コウヘイ兄さんが
訊ねる。
「どうするんだ・・・?」
「家まで送ってゆくよ」
  コウヘイ兄さんは、少し考えてからいった。
「オレもいくよ。少し話したいこともあるしな」
「この子と・・・?」
  ちょっと首を傾げ、不思議そうな顔をするミズカ姉さん。
「いや、そいつの保護者にだよ」
「あ、そうだね。話し聞いておくといいかもしれないね」
「じゃあ、おまえの家に連れていってくれよな」
  コウヘイ兄さんは、そういってマユの頭に手をのせ、ミズカ姉さんが話し終わ
るまえに歩きだした。

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  マユが合鍵でドアを開け。
「・・・・・・ただいま」
  と、いった途端。お母さんがホッとした表情で、すぐに奥から駆け寄ってきた。
「繭!  行き先も言わないで、どこいってたの?  お母さん心配したじゃない」
  だけど、マユの後ろに立っている二人の姿を見るなり、お母さんの顔が急に険
しくなる・・・。
  ミズカ姉さんが、おずおずと訊ねた。
「あ、あのー。繭ちゃんのお母さん・・・ですか?」
「ええ、そうですが・・・」
コウヘイ兄さんが、お母さんを見ながら感心する。
「こりゃまた、随分若く見えますね。たいしたもんだ」
「・・・実際に若いんです。わたしも夫も、まだ二十代ですから」
  それを聞いて、コウヘイ兄さんとミズカ姉さんが、顔を見合わせる。
「・・・・・・うちの繭が、何かしましたでしょうか!?」
  お母さんは、マユを抱き寄せていった。ぼくが今まで聞いた事のない、厳しい
声だった。
  キッ・・・と二人を睨みつけるお母さん・・・。
「い・・・いえっ。そうじゃなくて・・・わたし達、怪しいものじゃないです。ただ、
繭ちゃんについてお話をうかがいたくて・・・・・・」
  お母さんの剣幕に、しどろもどろになりながらミズカ姉さんは今までの経緯
(いきさつ)を説明した。
「そうですか・・・そんなことが。――とにかく、こんな所ではなんですので、奥
にお入りください」
  お母さんは、表情を和らげ二人を応接間に招きいれたんだ。

  ソファーにマユとお母さんが並んで座り、テーブルをはさんでコウヘイ兄さん
とミズカ姉さんが座っている。
  テーブル上の四杯の紅茶は、まったく手付かずのまま完全に冷めきっていた。
  ミズカ姉さんの説明を聞いているうち、お母さんも少しずつ、マユの生い立ち
や境遇について話し始めた。
  ミズカ姉さんは、ときどき相槌を打ちながら鼻をスンスンならして・・・。
  コウヘイ兄さんは、腕をくみただ黙って、お母さんの話しを聞いている。
  話しが一段落すると、お母さんはマユに向き直り頭をなでながら聞いた。
「どうして高校に行きたいのかな?  繭の学校じゃだめなの?」
「みゅーが・・・。あのね・・・・・・みゅーがね・・・・・・」
  そういって、黙りこんでしまうマユに、ミズカ姉さんが話しかける。
「あのー。わたし達、席を外そーか?  お母さんにだったら、話せるでしょ・・・」
  うつむいてプルプル首を降るマユをみて、お母さんが寂しそうな顔でいった。
「そう・・・。それじゃあ・・・・・・仕方がないわね・・・」
「・・・どうして仕方がないんですか?」
  それまで、ずっと黙りこくっていたコウヘイ兄さんが、初めて口を開いた。
  お母さんは、とまどったような顔で黙りこみ、やがて言葉をえらぶようにゆっ
くりといった。
「私は・・・本当の母親じゃないですから・・・」
  コウヘイ兄さんが、それに言葉を被せるように聞く。
「それじゃあ・・・あなたは一体なんですか?」
  お母さんは、うろたえ言葉につまる。
「でっ・・・ですから・・・さっき話したように、・・・繭は義姉の私生児で、その女性
(ひと)が亡くなって親類縁者をたらい回しにされているのを見兼ね、夫と相談し
て・・・・・・」
  コウヘイ兄さんは、腕をくみソファーに身をあずけたまま、感情を圧し殺した
ような抑揚のない声でいった。
「いえ・・・そうじゃなくて。オレの聞いているのはそんな事じゃなくて。――繭
にとって、あなたは何ですか?  ――あなたにとって、繭は何なんですか?」
  お母さんはコウヘイ兄さんを睨みつけ、その肩をわずかに震わせる。
「だから・・・答えてるじゃないですかっ!  繭を産んだ本当の母親は、わたしじ
ゃないんです!  わたしも夫も・・・繭とは。――血の繋がりが・・・ないんですよ!!」
  そういって、テーブルをドンと掌でたたく。ティーカップがガチャガチャと音
をたてた。
  だけど、声を荒げるお母さんにたいしても、コウヘイ兄さんはまったく動ぜず。
「違うでしょ・・・オレの聞いていることはそうじゃないでしょう。――繭はあな
たの娘なんですか?  それとも違うんですか?  娘ならYES、違うならNOと
いってくださいよ」
  突然お母さんは、ソファーから腰を浮かせ、テーブルに身体を乗りだす様にし
て叫んだ。
「娘です!!  ――繭は、わたしの娘です!  そっ、そんなの・・・あたりまえじゃ
ないですかっ!!」
  ハアハアと、肩で息をするお母さん。今にもコウヘイ兄さんに、掴みかかりそ
うな勢いだった。テーブルがなかったら、実際そうしていたかも知れない。
  ・・・・・・こっ、恐い。ミズカ姉さんの身体が、だんだん二人から引いていく。
「あなたは・・・誰に対してでも、そういえますか?」
  相変わらずその声からは、いかなる感情も読み取れない。
「もっ、勿論ですともっ!」
  お母さんはさらにテーブルの上に身を乗りだし、コウヘイ兄さんに詰め寄る。
  喉の奥から、ウゥゥと低い唸り声をあげ、まるでコウヘイ兄さんがマユを取っ
て食おうとでもしたかのように、もの凄い形相で睨んでいる。
  なんだか、猫の喧嘩みたいだ。
  マユは、事情が呑み込めないらしく、ポカンとお母さんを見ていた。
  二人の遣り取りに気圧され自失していたミズカ姉さんが、ハッと我にかえる。
「なっ、何てこというのよ浩平!  謝りなさいよーっ!」
  コウヘイ兄さんは、それを無視して話しを続けた。
「嘘だ!  何故なら、あなたはそれを最もいわなくてはならない人間にいっちゃ
いない!  だから・・・繭はいつまでたっても、あなたを本当の母親と認めないん
だ!」
  その声は、今までの抑揚のない言葉とは違っていた。ミズカ姉さんが、横から
ユサユサとコウヘイ兄さんを揺さぶる。
「こっ、浩平!  やめなさいってばぁーっ!」
  お母さんは、それを無視して話しを続けた。
「繭は、わたしの娘・・・・・・。それを・・・最もいわなくちゃいけない人間・・・・・・」
「わかっている筈です。だって・・・それはあなたの心の中にいるのだから・・・・・・。
――人間は死んだら、それでお仕舞ですよ。どんなに繭のことを想っていても、
死んだらもう愛してやれない・・・。繭を産んだ女性は、もう死んだのでしょう?
  母親に本物も偽者もありゃしない。繭を愛してやれる母親は、世界に一人しか
いないんだ・・・。――あなたの心に巣食っているのは、繭の本当の母親なんかじ
ゃない!  だって繭を産んだ女性は、誰よりも・・・あなたがそれをいってくれる
のを、望んでいる筈だから。――あなたに憑いているのは、鬼子母(きしも)とい
う他人の子を奪って喰う妖怪だ!!」
  お母さんの身体から、すぅーっと力が抜けていく。
「そうか・・・そうだったんだ。いわなくちゃいけなかったんだ・・・。ごめんね繭。
本当に・・・ごめんなさい・・・・・・。――わ・・・わたしは・・・・・・母親失格です・・・」
  そして・・・その目から、ぼろぼろと涙が零れた。
「そんな事ないですよ・・・。だって鬼子母はその後、改心して母親を守護する護
法神になるのですから。それが・・・。――鬼子母神(きしぼじん)です」
  お母さんは、ソファーの背もたれに身体を沈め、視点の定まらない眼差しで、
しばらく天井を見つめていた・・・・・・・・・。

  いつのまにか、ちゃっかりコウヘイ兄さんとミズカ姉さんの間に割り込んだマ
ユが、コウヘイ兄さんにしがみつきながら聞いた。
「死んじゃったら、おしまいなの?」
「ああ・・・、そうさ。おまえを産んだ母さんは、おまえをおいて逝っちまったん
だ・・・・・・・・・」
「わたしをおいて・・・いっちゃったの?  みゅーも、わたしをおいて・・・いっちゃ
うの?」
  繭の目が、涙で潤んでいく。そこにミズカ姉さんが、わってはいった。
「浩平!  なんで!?  どうして・・・・・・そんな酷いこというのよー!」
「だって、それが現実だろ?  どうにもならない絆もあるんだ!  想いだけじゃ
繋ぎ止められない・・・そんな絆もあるんだよ!!」
  ミズカ姉さんはゆっくりと視線をそらし、うつむいた。
「そう・・・なのかな・・・?  どうにもならないのかなぁ!?  だって、そんなの悲し
すぎるじゃない・・・・・・」
  ソファーの上で膝を抱え、顔をうずめるマユ。
「みゅー・・・・・・。わたしをおいて・・・いかないで・・・。うぐぅ・・・ぐすっ・・・」

  お母さんは、二人を見送りにでて、そのままドアの外で話しこんでいる。
  マユは、ソファーで眠っていた。お母さんが掛けてくれた毛布にくるまれて、
すーすーと気持ちよさそうに・・・。仔猫みたいにまるくなって。
  ドアの外から、三人の話し声が聞こえる。ぼくはフェレットだから、人間より
何倍も耳がいいんだ、タンスの裏を歩くゴキブリの足音だってちゃんと聞こえる
んだよ。
「繭は、私に泣き付かない子だから。いつだって、ひとりで泣く子だから・・・。
――ずっと自分ひとりで、泣いて・・・・・・ずっと慰められることを知らずに生きて
きたんです・・・。――何か・・・ご迷惑おかけしましたでしょうか?」
「い、いえっ・・・ぜんぜんっ!」
「ただ、さっきのこと、聞きに来ただけですから」

  明日から学校だね・・・。頑張るんだよ、マユ・・・。

「ええ。私のほうは一向に構いません。――あの子が自分からそんな集団の中に
身を置きたがるなんて初めてですから、正直驚きましたが・・・。――しかし、お
二人がた・・・それにその学校のほうも、ご迷惑なのでは・・・」
「だから、ぜんぜん迷惑じゃないですって」
「学校のほうは、どうにでもなると思います」

「いっちゃイヤだよぉ・・・わたしを・・・・・・おいて・・・いかないで・・・・・・みゅー」
  寝言か・・・どんな夢をみてるんだろう?  ぼくは、ちゃんとマユを見ているよ。

「そうですか・・・。そういうことでしたら、よろしくお願いします」
「ええ」

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  12月9日、今日からマユは高校に通う。初日ということで、マユは夜が明け
る前から起きだしてなんだかソワソワ落ち着かない。
  お墓参りの後、家と学校の間を行ったり来たり・・・。
  お昼前から学校の裏庭で、じっと二人を待つ。約束の時間までまだ随分間があ
る。

  ようやく約束の時間になり。二人がやってきた。
「みゅーっ・・・」
  ミズカ姉さんは、紙袋を持っている。
「あ、待った?」
「うん・・・」
  紙袋をマユに手渡しながら。
「ごめんごめん。――ほら、ここの制服だよ」
  さっそく袋の中身を取り出し、広げてみて。マユは嬉しそうな声をあげた。
「わぁ♪」
「オレが必死で手に入れてやったんだぞ。礼を言え」
「うんっ」
  マユの手を引きながら、ミズカ姉さんがいう。
「じゃあ、着替えさせてくるよ」

「う〜っ・・・、これ・・・大きい・・・」
  着替えながら、マユがボソリとミズカ姉さんにいった。
「・・・・・・だよねー。そういえば七瀬さん、わたしより背高いもん・・・。まっ、馴
れれば大丈夫だよ。――うんうん」
「はえ〜っ」

  着替えが終わると、ミズカ姉さんは先にコウヘイ兄さんのところへ戻って、
マユを呼んだ。
「おいで、繭っ」
  ちょっと恥ずかしそうに、二人の前に出ていくマユ。
「みゅーっ・・・」
「やっぱり少しデカイか・・・?」
  マユの表情が曇り、しゅんとなる。
「大丈夫よ、これくらい。似合ってるよ、繭」
  うん、とても素敵だよマユ。なんだか、急に大人になったみたいだ。
「♪」
「後は、机と椅子だな。空き教室から持ってくるよ」

  マユとミズカ姉さんが、教室に入る。マユはミズカ姉さんにヒッシとしがみつ
き、不安そうに教室の中をキョロキョロ見廻している。
  わぁーっ、人がいっぱいいる。ぼくは、こんなに沢山の人を見るのは初めてだ
よ。
  同じ人間でも、いろんな品種がいるんだなぁ。不思議なことに、雌の人間には
長毛種が結構多いのに雄の人間は短毛種ばかりのようだ。
  しばらくすると、コウヘイ兄さんが机と椅子を抱えて教室に入ってきた。
  コウヘイ兄さんは、半ば強引に机を列に割り込ませると。
「おい、椎名、ここがお前の席だぞっ」
  と、いった。
「ほえ〜」
  ミズカ姉さんが、近くにいた男の人に親しそうに話しかける。
「あは、住井くん、ごめんねぇ」
  そのスミイって人がマユに向き直る。
「えっと、俺は住井護。お嬢ちゃんは?  ――よろしくな」
  マユはマモル兄さんに、コクリと頷いた。
「うん」
  二人の間に女の人がわって入る。わっ、この人は、随分珍しい品種のようだ。
シッポが二本も生えている。しかもフェレットの目から見てもその毛並みは見事
なもので、枝毛一本見当たらない。心持ち左右の長さが違うのが気になるが・・・。
  マユの視線がそのシッポに引き寄せられ、思わず手にとってしげしげと見詰め
る。
「わ、これが言ってた子?  ――案外可愛い子じゃない・・・。――って、ギャ
――――ッ!」
  女の人が突然、鳴き声をあげる。見とれるあまり、マユがシッポを引っ張って
しまったようだ。
「みゅーっ♪」
  その反応に、マユは大喜びだ。コウヘイ兄さんが、女の人にいった。
「ほら、七瀬も自己紹介しろ」
  ナナセって人が、ため息と一緒に言葉をはきだす。
「はぁっ・・・あたしは七瀬留美・・・」
  ルミ姉さんか・・・、なんだかとてもいい人みたいだ。シッポを引っ張られたと
き、一瞬目が猛獣のように険しくなったような気がしたけど、どうやらぼくの気
のせいだったようだ。

  そんな事をしているうちに、いつのまにかマユの周りに人垣ができていた。
「ほえ?」
  訳がわからず、ただぼーっとしているマユに次々と質問が浴びせかけられる。
「誰だ?  誰の妹だっ?  ――わー、かわいいね、歳はいくつ?  ――また転校
生か?  え?  違うの?」
「はえ?」
  マユの表情に、怯えのいろが浮かぶ。コウヘイ兄さんが、マユの肩を抱きなが
ら。
「ばか、寄るな。椎名も答えなくていいぞ、いちいち。――ま、とにかくこいつ
らともゆっくりと馴染んでゆけばいい」
  そういって、マユの頭にポンと手をのせた。
「みゅっ」

  鐘がなって、授業とゆーのが始まった。みんな、センセイっていう人が緑色の
壁に書いているラクガキを、必死になってノートに書き写している。多分これは、
写経とかいう坊さんになるための修行だ。昔テレビでみたことがある。
  授業というのは理解する必要はまったくないが、記憶しとかなくちゃいけない
とマユがいってた。
  でっ、その当人はというと・・・・・・。
「みゅー、どこ?  ――いるんでしょ、みゅーっ・・・。――返事してよぉ、
みゅー」
  どうも授業に身がはいらないようだ。しばらくして、マユが静かになったと思
ったら・・・・・・。
「くーっ・・・」
  寝てる・・・。見廻してみると、他にも何人か眠っている人がいる。
  そうか、わかったぞ。これは寝てるんじゃない。瞑想という、坊さんになるた
めの修行だ。

  こうして、マユの高校生活一日目は無事に終わり、ミズカ姉さんといっしょに
家に帰ったんだ。

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  12月10日、高校生活二日目。教室にポツンと一人きりのマユ、登校一番乗
りだ。自分の席について、キョロキョロ不安そうに辺りを見廻す。
「みゅー、どこ?  でてきてよ・・・。みゅ―――っ!」

  しばらくすると他の生徒も登校して、教室は徐々にマユの知らない人達で溢れ
ていった。自分の席で、緊張に身を硬くするマユ。
「やぁ、おっはよー。繭ちゃん」
  そういって肩を叩かれ、マユの身体がビクッと震えた。マモル兄さんはマユの
後ろの席につくと、アハハと笑いながら。
「どうした繭ちゃん。なんか元気ないぞ」
  マユは、マモル兄さんの机によじ登ると、その首に腕をまわして抱きついた。
「みゅみゅー♪」
「あぁっ。ちょ、ちょっと繭ちゃん?  パンツが見えちゃうぞ」
  マユは気にする様子もなく、机を乗り越えマモル兄さんの膝にまたがると、そ
の胸にしがみつく。
「みゅ――っ♪」
「あわわ・・・。こらこら繭ちゃん!  どっ、どうしたんだい?  アハハ・・・しかた
がないなぁ・・・・・・」
  あたふたしながらも、マモル兄さんの顔が緩む。そして、マユの頭をグリグリ
なでた・・・。
  まんざらでもないようだ。
「す・・・すみ、住井くん・・・・・・。あぁ、あんたって・・・」
  女の人の震える声・・・。同時に振り向く、マユとマモル兄さん。
「ほえ?」
「へっ・・・・・・!?」
  声の主は、ルミ姉さんだった。目と口と鼻の穴を全開にして、これ以上ない驚
愕の表情をつくっている。
  これなら、50メートル離れていても驚いているのが分かるだろう。でもそれ
が、ルミ姉さんだとは分からないかもしれない。
「なっ、何てことなの!  あんたに、そんな性癖があったなんて!!」
  震える声で叫ぶルミ姉さん。手に持っていた鞄が床に落ち、ガタンと音をたて
た。
「はい?  セ、セイヘキ・・・・・・!?」
  マモル兄さんの表情が凍り付き、血の気が退いていく・・・。
「ま、まっ待ってくれ七瀬さん!  俺の話しを聞いてくれ!!」
  その声は、ルミ姉さんより更に震えていた。周りの人集りから、ヒソヒソと声
が漏れてくる。
「やぁーだぁー、住井君てそーゆー人だったんだぁー。――そんな嗜好の奴がい
るとは聞いていたが、まさか身近にいるとはな・・・。――怖いわ・・・わたし妹がい
るのよぉ。――前から怪しいと睨んでたんだが、矢っ張りそうだったか・・・。
――ケダモノだわ、警察は何してるの!  ――畜生、おれも繭ちゃんを狙ってた
のに・・・」
  ルミ姉さんが、ひきつった笑いを浮かべながら、猫なで声でいった。
「いいの・・・隠したがる気持ちは解かるわ。最近とくに、あんたみたいな人に風
当たりが強いものね。――大丈夫よ・・・・・・あたしだけは、あんたを理解してあげ
るから・・・」
  頭を抱えこみ、叫ぶマモル兄さん。
「それは、理解じゃなくて誤解だあぁぁっ!」
「何も言わないで!  あたしは、住井くんを信じているの。だからね・・・繭を傷
つけるような事は、しないでほしい・・・」
  と・・・いいながら、ルミ姉さんは“こっちに来なさい”と素早くマユに手招き
した。うーん、どうも話しがよく見えない・・・。人と人の絆というのは、なんだ
かとっても複雑なモノのようだ。フェレットの限界を感じるなぁ。
  手招きに誘われて、駆け寄るマユ。それを受けとめ、抱きしめるルミ姉さん。
「大丈夫だった、マユ?  あの変態に、何かされなかった?  って、ギャ――
――ッ!  ――だからぁ、おさげを引っ張るなって!  そーゆーことすると、こ
うだぞ!!」
  ルミ姉さんは、マユを抱きしめたままヒョイと持ち上げると、ブルン、ブルン
と3回転ほど振り回し、ストンと降ろす。
「みゅ♪、みゅ――――っ♪」
「あぁっ。こらこら!!  引っ張るんじゃないっ!」
  ルミ姉さんは堪らず、シッポを両手でつかんで逃げ出す。そのとき、コウヘイ
兄さんが教室に入ってきた。
「うぃっす、七瀬」
「みゅーっ」
  そこに、ミズカ姉さんもやって来る。
「おはよーっ、七瀬さん、繭ーっ。――ちゃんとひとりで来れたんだね、繭。
――今日は授業たくさんあるけど、頑張ろうね」
  マユが、こくこくと頷く。
「うんっ」

  マモル兄さんは、机にうつ伏して訳の判らないことを呟いていた。
「・・・破滅だ。俺が今まで築き上げて来たものが・・・音をたてて、崩れていく・・・」
  それもやがて、始業の鐘の音に掻き消された・・・。

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  授業と休憩が何回か繰返してお昼になった。みんなお弁当を広げたり教室から
出ていったりと、慌ただしい。
  マユはその光景を、ただボーッと眺めている。

「どうした、椎名。飯は?」
  そんなマユに、コウヘイ兄さんが話しかけた。
「うぐ〜っ、おかねだけある・・・」
「なら、学食だな」
「がくしょく?」
  コウヘイ兄さんの話しによると、学校には“ガクショク”ってのがあって、
マユはそこにお昼を食べにいかなくちゃいけないらしい。
「まあ、わからないことがあれば周りの連中に聞いたりすれば大丈夫だよ」
「うん」
「じゃあ、いけ」
「う〜・・・」
  教室の出入り口を見つめ固まってしまうマユに、ミズカ姉さんがやって来て声
をかける。
「うん?  どうしたの、繭?」
  マユが、ミズカ姉さんに縋りつく。
「いや、椎名にひとりで学食いかせようとしてるんだけど・・・」
「みゅーっ・・・」
「浩平、やっぱりわたしが一緒にいってあげるよ」
「ばか、それじゃ学校に出てきてる意味がないだろ。――ほら、椎名。長森なん
かに泣きつくな。ひとりでいけ」
「うん・・・」

  コウヘイ兄さんの言葉に押されるように、二人のもとから駆けだすマユ。
  それを、ルミ姉さんの視線が追う。
  ・・・・・・その顔は、とても心配そうだった。

(つづく)
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  はぅ〜っ。長すぎて一度に書き込めなかったぁー!  ←バカ
  ・・・と、いう訳で。三話後半は四話として、明日書き込みますぅ。

                      ==感想で御座います==

  『独白』          静村 幸 様
  私も、他の方の作品を読んでて、勝手に続きや番外編を考えちゃったりするん
ですよぉ。
  練り込まれたストーリーというか、とても洗練されてる感じがしました。

  『チェンジ!4.5.6【4章】』
  『チェンジ!4.5.6【5章前半】』          WILYOU 様
  浩平の頑張りを余所に、事態は悪くなる一方なのが、メチャクチャ可笑しいで
す。
  今後どうなるのか、全然予想がつきません。

  『ONE〜輝く季節へ〜始まりその3』       ここにあるよ? 様
  殆どが、浩平と瑞佳の日常的な会話なのですけど、すごくいい感じですねー。
  こういうの好きですぅ。
  因みに私は、深炒りの豆で薄く入れたコーヒーが好きなの。
  瑞佳:「自分で入れなさいよーっ!」
  はい・・・・・・、すんすん。

  『NEURO−ONE 6』          天王寺澪 様
  わーいっ。さいばぁーぱんくだぁ〜っ。すごいなぁ。と、始まったときから喜
びっぱなしの私。こんなに密度の濃い話しを、こんなに早いペースで書けるのも、
凄いなぁ。


  それでは、これで失礼します。