今を奏でるピアノ その二 投稿者: どんぐり
12月22日
四時間目が終わったあと、オレは美菜子先輩を探しに、三年の教室を歩いていた。
「浩平君」
ふと、声がかかる。この声は・・・。
「みさき先輩」
「珍しいね。浩平君が三年の教室の方に来るなんて」
「ああ。人を探しに来たんだけど、どこのクラスか、分からなくて」
「私でよかったら、力になるよ」
「ありがとう、先輩」
「ところで・・・誰を捜してるの?」
「杉原美菜子先輩がどこのクラスか、先輩、知らないか?」
「それって・・・ミナちゃんの事?」
「多分、そうだと思う」
すると、みさき先輩は不思議そうな顔をして言った。
「ちっとも知らなかったよ。ミナちゃんが復学してたなんて」
「復学・・・?」
「そう。ミナちゃん、去年、車の事故に遭って、長いこと病院に居たんだよ」
「病院・・・」
「それにしてもミナちゃん、いつの間に退院してたんだ。今度、会いにいかなきゃね」
「・・・・・・」
「どうしたの? 浩平くん」
まさか・・・。
オレは考えた。考えて、考えて・・・とある一つの仮説に辿り着いた。
「まさか・・・な。」
だが、他には考えられなかった。
「みさき先輩、美菜子先輩が入院していた病院、場所を知らないか?」
「平石川病院だよ。」

平石川病院・・・。
日本でも有数の大病院だ。場所はオレの町からは列車で二時間ほど行ったところにある。
忘れるはずもない。オレはそこに行ったことがあるから。
何度も、何度も。
小さかった子供の足で。
思い出もある。

「悲しい思い出しかない・・・が」

オレは駆け出した。みさき先輩の
「浩平君」
と言う声に、
「じゃあな、先輩」
と、答えて。
髭の姿に、
「今日、早退します」
と、答えて。
オレは走った。
駅に向かって。
平石川病院に向かって。

病院に着いたオレは、受付の人にこう、尋ねた。
「杉原美菜子さんの病室はどこですか」
受付の人は怪訝そうな顔をして、オレに聞く。
「失礼ですが・・・杉原さんのお知り合いの方ですか?」
無理もない。見知らぬ男子学生が、しかも本来ならば授業中である時間に女性の見舞いに訪れたのだから。
「学校の・・・後輩です」
そう答えたオレに対し、受付の人はそれ以上は何も聞かずに、言ってくれた。
「323号室です。面会時間は午後五時までです。」
本来は学校に連絡を取られかねないはずだったが、オレの様子を見て察してくれたのかもしれない。
オレは病室に早足で急ぐ。
先輩の病室は一般病棟の最上階の個室の病室だった。
階段を上り、教えられた病室に辿り着く。

「323 杉原美菜子様」

間違いない。病室入り口のドアにそう書かれたプレ−トが掛かっている。
オレは急いできたせいで高鳴っている心臓の鼓動を、一息ついて押さえ、ドアをノックする。
「はい」
中に誰か居る。
「失礼します」
オレはドアを開けた。
病室の中は白いカ−テンのようなものでドア側と窓側に分けられている。
そして、窓のそばに花が生けられた花瓶が一つ載った本棚が一つと、ベッドが一つ。
オレが探していたこの部屋の主は、ベッドで深い眠りについていた。
「どなたですか?」
気が付かなかったが、ベッドのそばの椅子に、医者だろうか。白衣を着た男が座っていた。
声は・・・どちらかと言えば、優しい雰囲気。歳は三十代半ば位だろうか。
「彼女の・・・後輩です。折原と言います」
「そうですか。私は彼女の担当医の奥野と言います」
「あの・・・先輩は・・・」
「・・・見ての通り、彼女は事故以来眠ったままです」
「どんな・・・事故だったのですか」
「・・・酷い事故でした。」
奥野さんは事故のことをゆっくりと話し始めてくれた。

「彼女は幼なじみの青年と共に、県の演奏会に出ることになっていました。彼女がピアノの演奏者、青年がそのパ−トナ−として、サックスを吹くという事で」
「彼ら、小さいときからの音楽仲間で、ずっと練習してきたそうなんです。その甲斐あって、市のコンク−ルで上位に入って、県の方に招待されていました」
・・・だから彼女、サックスの扱いが手慣れていたんだ。
「・・・事故は会場に向かう途中で起きたそうです」
「車に乗っていたのは四人。彼女と、青年と、彼女の両親・・・。大型トラックに突っ込まれて・・・」
・・・・・・重い沈黙がのし掛かった。だが、オレはその沈黙を破った。
「どうなったのですか」
「・・・・・・酷いものでした。この病院に運ばれてきた時には、既に彼女の両親は息が無く、青年も意識が無い状態でした」
「・・・人間、守りたいものは自分の身を犠牲にしても守りたいと思うのですね。彼女は少々の外傷はあったものの、意識もはっきりしていました」
「少し後で警察の方から聞きましたが、彼女の両親と青年が彼女に覆い被さるように車の中に倒れていたそうですよ」
「・・・・・・」
「青年は息を引き取る間際に意識をほんの間だけ取り戻し、側に居た彼女にこう、言い残しました」

「俺がお前を守れるのはここまでだ。だが、お前にはまだやるべき事があると思う。だから、俺にとってのお前のように、心から信じられる人を探して、その人と一緒に日のあたる道を歩いてくれ。・・・俺の最後のわがままだ」

「・・・・・・」
「彼が息を引き取ったのは次の日の明け方でした。彼が息を引き取った後、彼女は・・・」
「先輩は?」
「まさしく人形のように何に対しても反応がなくて・・・。意識があるのか、ないのか、それすらも分かりかねる状態に・・・」
「・・・」
オレはただ、黙って奥野さんの話を聞いていた。
彼女の身におこった、真実を知るために。
「両親や青年の葬儀が終わった後で彼女、張り詰めていた糸が切れたように意識を失い、倒れ、ここに運ばれたのです」
「彼女、それから今まで眠り続けています。そう言えば・・・折原さん・・・といいましたよね」
「はい」
「折原さん・・・似ていますよ、そのときの青年に。私がこんな事を話したのも、そのせいかもしれません」
「そうです・・・か」
「長話になってしまいましたね。それでは…」
奥野さんは病室のドアを開け、他の病室へと歩いていった。
オレは面会時間ぎりぎりの夕方五時まで先輩の病室で一人、考えていた。
「先輩・・・・・・」
面会時間が終わった後、オレは商店街へと足を進めていた。
明後日は・・・
「大切な日だからな」

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ではでは、感想のコ−ナ−♪
感想を下さった方、どんぐりが知る方のSSの感想をランダムにて書いてます(^^;

雀バル雀さん>
この間はどうもでした(^^
早く借金を返さないと〜(爆)(Byみさき先輩)
ちなみに、いい所で「続く・・・」とするのは、どんぐりの得意技です(爆)
>ともだち
いかすぜ校長! いや、ス−さん!(爆)
対戦ゲ−ム、浩平Vsス−さんの世紀の一戦を見てみたい今日この頃(^^
>決意(改訂版)
うぐぅ・・・重い・・・重すぎるっすよ〜(爆)
世の中の流れを感じさせる一本ですね・・・。(−−
>苺しぇぃく! その7
流石です、またまた笑わせていただきました(^^;
新人の方々も続々登場で・・・いい感じです、ええ、いい感じです(謎爆)

ケット・シ−さん>
>終わらない日常 〜折原浩平〜

静止した世界、降り止んだ雨、澄み渡る空に移る虹・・・。
「わたしは、このにじがみたかったの」
そう言う少女の顔を見るのが、悲しくて・・・悲しくて・・・それでも少女が微笑むのが嬉しくて・・・安心して・・・最後に
「ありがとな、みずか。いや、長森」
オレはオレを見守って、見守り続けてくれた一人の少女に礼を告げて、日常に還っていった。

いや、なんとなく書いてみました(^^
どんぐりの技、感想SS〜♪

壱弥栖さん>
>〜武士道トハ死ヌ事ト見ツケタリ〜
が、合掌捻りとはかなりの技を使う七瀬・・・流石、乙女・・・(爆)
>おとめへの道
おっ、壱弥栖さんのシリアスものかなぁ〜と思ったら・・・こんな裏があったとは(笑)

ここにあるよ?さん>
>ONE〜輝く季節へ〜始まりその1〜5
まとめてドカンの四人SS〜♪
ONEの物語本編の始まる前の背景SSですね(^^
テスト勉強の時に国語の勉強〜ということで、長森の漢字っぷり(謎)が見たかったかも(^^;

WTTSさん>
うぅ〜替え歌、構想も手間も5%程度とは・・・どんぐりではこうはいきません(^^;
とにかく・・・どんぐりにこういう替え歌を聞かせると・・・
「あかね〜〜〜ミ☆」
となるのは間違い無し!(爆)

さて、現在どんぐりのすみかである関東はかなりの雨が降っています。
SS作家の方々は大丈夫でしょうか。
ではでは、今日はこの辺で。
感想お待ちしてます〜♪

http://www.cuc.ac.jp/~j810409/