想い、貴女だけに……  第三話  投稿者:高砂蓬介


《前回までのあらすじ》
父の仕事の都合で中崎町に一人暮らしになってしまった留美のもとに現れた少女、雛森香苗(ひなもり かなえ)。なんと彼女は留美のために父が雇ったメイドさんだった! 戸惑う留美に対し、なぜだかとっても嬉しそうな香苗。なぜなら彼女は留美に一目惚れしちゃったレズビアンの少女だったのだ!
昼休み、弁当がないことに気づいた留美のもとに香苗がやってくる。
「お弁当をお持ちいたしました、ご主人様!」
っていうか、永遠に消えてる浩平の立場は?
では、本編です。(あらすじ長いかな?)

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どすどすどすどすどすっ!
とりあえず最初に石化状態から復活した留美は、香苗の細いわりには出るとこの出ている身体を教室外まで突っぱり出した。
「あ・ん・た・は・ね……何考えてんのよ、ボケっ!」
「え?」
「様付けが駄目ならご主人様あ!? どこをどういう風に考えたらそう言う呼び方をひねり出せるのよ!」
「お気に召しませんか?」
「召さない、召せない、召せるかっ!」
興奮のあまり留美はセリフの盗用までしてしまっている。その上『召す』という動詞にこの三段活用はあまりそぐわない。
まあ、それはそれとして。
留美はひったくるように香苗から弁当箱を奪い取ると、教室内に戻ろうとして……クラス中の好奇の視線に耐えかねてやめた。
「ご主人様、どちらへ?」
「どこでもいいでしょっ!」
留美は香苗を怒鳴りつけると、どすどすと全身で憤怒を表現しながら足早に歩き出した。かくなる上は屋上でも中庭でも、人のいないところで食べるしかあるまい。一緒に食べる約束をした瑞佳には気の毒だが事情が事情だ。

とりあえず中庭までやってきた留美は、そこに先客を発見した。
「あれ……里村さん?」
「七瀬さん。どうかなさったんですか?」
そこにいた女生徒……クラスメートの里村茜は、目線だけで留美を見上げ聞いてきた。
「ちょっと教室にいられない事情が出来ちゃって。御一緒させてもらってもいい?」
「構いませんが……お連れの方もですか?」
「連れ? って、ぎゃああああああああああ!」
「ご主人様、お飲物をお忘れですわ」
いつの間にかついてきていた香苗が、水筒を留美に差し出す。
「……ご主人様?」
「ちっちがうのよ里村さん、これには深いわけがあるのよっ!」
あからさまに疑惑の目で、茜が留美を見上げる。
「本っ当に、違うんだってばっ! 信じてお願いぷりーず!」
香苗の首根っこを掴んでがくがくと揺さぶりつつ、留美が茜に懇願する。茜は深々とため息をつき、言った。
「……キャラが変わってます」
「はあうっ……」
「ごちそうさまでした。失礼します」
まだ半分以上残っている弁当箱をしまい、茜はその場を立ち去った。
「ご主人様、紅茶とコーヒーどちらがお好みですか?」
「この期に及んでまだ言うかあああああああああああああっ!」
どごっ!
かいがいしい仕草で二つの水筒を取り出し、嬉々とした表情で尋ねる香苗を留美は殴り倒した。
「あうう……痛いですご主人様あ……」
しかし留美の拳を顔面に埋め込まれながらもまだ喋れるあたり、香苗もただ者ではない。
「雛森サン? 貴女ハ私ニ何カ恨ミデモ有ルノカシラ?」
「香苗で結構ですわ、ご主人様」
怒りのあまりグレイ君トークになっている留美に『素』で返す香苗。留美は涙目になって、
「香苗って呼んであげたら……ご主人様ってのやめてくれる?」
「承知いたしました。それで……なんとお呼びすれば?」
「普通でいいのよ普通で。七瀬さん、とか、留美さん、とか」
「そういうわけには行きませんわ。貴女は私のご主人様なんですから」
香苗が本気であることは、目を見れば容易に分かった。この少女はどうしてこうも一途に留美を慕えるものだろうか? 
しかし、留美はすぐにあることに思い至った。この学校に転校してきて間もない頃、まだ乙女であろうとすることに執着していた頃の自分はどうだっただろう? 彼女と同じように、ひとつのもの以外が見えなくなっていたのでは無かろうか?
(あたしも……同じか)
留美はため息をついた。一度そのことに思い至ってしまうと、もうそこには香苗のことを責めるに責められない自分がいた。
「分かった。じゃせめて留美様にしてよね。ご主人様ってのは、却下」
「はいっ!」
そして、奇妙な主従の昼食会が始まった。

チャイムの音を皮切りに、一気に教室内が騒がしくなる。
「やっと終わったなっ、沢口!」
「俺は南だっ!」
住井と南のくだらない掛け合いを尻目に見つつ、授業を終えた留美は帰り支度を整えながら周りの女生徒たちと雑談をしていた。主な話題は、やはり香苗のことだ。
「それじゃ七瀬さん、あの娘と同棲してるんだ」
「同棲はやめて、お願いだから」
「あー、七瀬さん照れてるう」
泥沼だった。年頃の女の子たちというのは怖いものである。
とりあえず、留美は話題を変えることにした。
「で、瑞佳はあの娘のこと知ってるんでしょ? 部活一緒だったんなら」
「うん。ただの部活の先輩と後輩ってだけだけど」
少し考え込む素振りを見せてから、瑞佳は口を開いた。
「私の知ってる香苗ちゃんは、とっても一途な普通の女の子だよ。ひとつのことに打ち込むと周りが見え無くなっちゃう……っていうより、自分にとって何よりも優先したいことをすごく大事にする娘だと思う」
そうこうしているうちに、教室の入り口に香苗がやってきた。
「失礼します。留美様、お迎えに上がりました」
「香苗? わざわざここまで来たの?」
二年の教室は一階下なので、結構な回り道だ。
「留美様、部活などはおありですか? おありでしたらお先に失礼して買い物を済ませておきますが」
「特にないけど……」
「それでしたら、もうお帰りになりますよね。それとも、お邪魔してしまいましたか?」
留美が友人たちと話をしていたのを見て、香苗がいう。
「別にそんなこと無いわよ。せっかく迎えに来てくれたんだから」
背後から『七瀬さん、優しい☆』などと声がするのは無視して、留美は立ち上がった。
「それじゃまたね」
「うん、また明日」
友人たちと挨拶を交わし、教室を出る。待っていた香苗と肩を並べて――実際には身長差が結構あるが――廊下を歩き出す。
「留美様、今日はいかがでした?」
「何がよ?」
「いろいろです」
香苗は留美と並んで歩けることが嬉しくて仕方がないのか、笑顔で話しかけてくる。
「まあ、普通の一日だったわね。あんたにいろいろ引っかき回されはしたけど」
「普通が一番ですわ。中庸の徳という言葉もあります」
どうやら自分が一番『普通』を逸した存在であるという自覚はないようだった。
結局留美の家まで、香苗はスキップでもはじめそうな足取りのままで辿り着いてしまった。よく転ばなかったと留美は感心したが。
香苗は与えられた部屋に入っていくと、着替えを済ませて買い物かごを持ち出してきた。
「それでは、夕飯のお買い物に行って参りますね」
「って香苗……あんたその格好で行くわけ?」
そう。着替えた香苗はお約束通りメイド姿だったのである。
「いけませんか?」
心底意外そうな表情で首を傾げる香苗に、留美はもはやあらゆる抵抗をあきらめた。
「まあ……いいんじゃない。好きにして、もう……」
きっと翌朝の近所の主婦たちの話題は、七瀬家のメイドのことで持ちきりになることだろう。
亜麻色のショートヘアを揺らしながら玄関を出る香苗を見送りつつ、留美は漠然とそんなことを考えていた。

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わーい!一ヶ月ぶり以上かも知れない高砂でーす!
「何故かアシスタントを任された香苗です」
さて、中間試験のあといろいろゴタゴタあったのでなぜだかこんなに遅くなってしまいましたが。
「他の連載はどうなさるんです?」
次回は「茜色の姉妹」の予定。その次はいい加減に「彼女の扉を叩く者」を進めにゃいかんしなあ・・・
「執筆ペース遅いのに複数連載なんかするから・・・」
わかってるって。だってネタは浮かぶけど筆が進まないんだよー(涙)。
「カノンSSも書きたいくせにあっちの掲示板の更新ペースが速すぎるから怖くて手が出せないんですよね」
うるさいやい。次はもっと早く書けるようにするから。
「こんな作者に生み出されたオリキャラの私って・・・」
さて、今日はこのあたりで失礼したいと思います。それではまた。
「愛想尽かさないでやって下さいましね」
くっ・・・(今に見てろ)

さて、高砂のHPは只今開設準備中です。年内に完成するかどうか怪しいものですが・・・。