茜色の姉妹 第二章  「入植 〜immigration〜」 投稿者: 高砂蓬介
これまでのあらすじ(りーふ図書館掲載時削除希望)
あの空き地で浩平を待っていた茜の前に突如姿を現した少女、里村紅。
茜の双子の妹を名乗る彼女は、あたかも最初からいたように周囲の人間に受け入れられていた。
疑念を隠せない茜は、紅を自室に誘う。

ではどうぞ。
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茜は自室のドアを開け、紅を招き入れた。彼女の持ってきたお盆を受け取って机の上に置き、カップを一つ手にとってベッドに座る。
「へえ……姉さんの部屋って結構変わったのね」
もう一つのカップを手にした紅が、茜の部屋を見回している。
「どこか適当なところに座って下さい」
言ってから、カップに口を付ける。ジャスミン茶の芳香が心地よく茜の嗅覚をくすぐった。それからしばらくの間、二つのお茶をすする音だけが部屋に響く。
「……寒いわねー」
おそらくこの沈黙のことを言っているのだろう。紅がぼそりと感想を漏らした。
「で、確か私に訊きたいことがあったのよね?いろいろと」
「……はい」
癖なのだろうか、ポニーテールの先をくるくると指先でもてあそびながら、紅が先を促す。
「あなたは、『何』なんですか」
「せめて『誰』って言って欲しいわね」
その割にはさほど気分を害した風もなく、軽い口調で文句を付ける。
「言わなかった?私は里村紅。姉さんの双子の妹。それ以外の何者でもないわ」
「私に妹はいません」
「じゃあ、新しくできたって事にしといて」
ただの妹ならともかく、双子というのは新しくできるものなのだろうか?
「本当のことを言って下さい。……私にも我慢の限度があります」
「その前に、私の質問にも答えて欲しいわね。貴女に妹がいないっていう主張の根拠は?」
「それは……」
「姉さんがそれに答えられないなら、私も答えない。第一私が」
いったん言葉を切ってから、真剣な顔になって紅が言った。
「貴女の妹じゃなかったとして、そんなことになんの意味があるの? 私が何者であれ、世界は私を貴女の妹として認識してる。そんな議論は、し尽くしたところでそんなものよ」
いつの間にか空になったカップを机におき、紅は窓の外を見つめてつぶやいた。
「結構鋭いのね……男を見る目以外は」
「何ですか?」
よく聞き取れなかったので、茜が聞き返す。
「ううん、なんでもないわ。とにかく私は姉さんの妹なんだから、人前でくらいちょっとは愛想良くしてよね。それじゃ」
飲み終わったカップを片手に、紅が部屋を出る。
階段を下りる軽やかな足音を聞きながら、茜は憮然とした表情でつぶやいた。
「何なんですか? 一体……」

結局、夜が明けたので。
目を覚ました茜は、眠い目をこすりながら階段を下りた。弁当を作るためである。
しかし、ドアを開けて入ったキッチンには先客がいた。
「おはよう、姉さん。よく眠れた?」
一瞬、誰だか分からなくなってとまどう。しかし、すぐに相手が昨日からこの家に住むことになった人間だと分かった。どうやら夢ではなかったらしい。残念なことに。
「何をしてるんですか?」
「見て分からない?」
見れば、紅は弁当箱におかずを詰め込んでいる最中だった。茜が昨晩のうちに下ごしらえしておいた材料を使って弁当を作っていたらしい。
「あたしの記憶が正しければの話だけど、嫌いなものは入れてないわよ。まああたしと姉さんって食べ物の好み似てるしね」
そういって、茜の弁当箱を差し出してきた。なるほど、茜が作ろうとしていたものとほとんど変わらない内容だ。
「さ、朝ご飯にしましょ。手伝って」
なんだか分からないうちに、エプロンを放ってくる。それを身につけ、茜は紅と並んで料理をはじめた。

(一晩で、慣れてしまうものなんですね……)
一家四人の食卓が五人になっても、さほど違和感を覚えないのは茜にとって驚きだった。
食事を終わらせ、支度を整えて学校に向かう。一人で通学路を歩くことになれていたせいか、隣を歩く紅のことが気になってしまう。浩平と歩いていたのは短い間だけだったし、弟は早めに家を出るからということもある。
昨日の雨がまだ完全には乾かない空き地を横目に通り過ぎ、学校に近づくにつれて見知った顔が増えてくる。
「里村さん、おはよう」
声をかけてきたのは、長森瑞佳だった。
「おはようございます」
「おはよう……って、えっと……」
「あ、長森瑞佳だよ。昨日自己紹介したんだけど、忘れちゃったかな?」
「あはは、ごめんね。長森さん」
「里村さん……あ、紅さんって呼ばなきゃややこしいかな? 私のことも瑞佳でかまわないよ」
瑞佳と紅で、話が盛り上がっている。
何故か疎外感を感じながら、茜は二人に先立って校門をくぐった。

紅は、全く問題なくクラスにとけ込んでいた。話しかけてくる級友たちに笑顔を返し、談笑している様は昔からの友達のようだ。むしろ浩平以外の誰にも心を開いていなかった茜の方が、クラスから浮いているようだった。
だが。
ふとした瞬間に茜を振り返って浮かべる笑みに、茜は奇妙な感覚を覚えずにいられなかった。
紅の行動に何か作為的なものを感じるのは、茜のひがみ目なのだろうか?
何もかもが、分からなかった。

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さぼってた分を取り戻す計画その二。全七話ぐらいにするつもりです。

今後の構想。
オリキャラ登場長編SS・澪編と七瀬編を構想中です。
たぶん澪編の方が先に始まると思います。
明日は年下の女性たち(年齢1ケタ)と海に行って来るので(笑)明後日またお会いできればと思っています。
では。