天使のいる風景 〜 えんぢぇりっく びゅ〜 〜 下典 投稿者: 千乃幸
さて、電話とはまさしく文明の利器である。
どれだけ距離が離れていようとも、一瞬にしてその距離を0にしてしまう。

しかし確実にお互いは離れており、受話器の向こう側にも『世界』が存在する。
そして、向こう側の『世界』を視覚的に認識することは不可能である。

今回は受話器の向こう側の『世界』がどうなっていたか、ちょっとだけ話そうとおもう。


『天使のいる風景 〜 Angelic View 〜』 外典『電話の向こう側』


To 瑞佳
「もしも〜し」
「はい、長森です」
「よう、長森! 相変わらずだよもんか!?」
「何言ってるんだよ! 私はそんなこと言ってないもん!!」
「いきなりだよもんとは参った…」
「もう…、それで?何??」
「あぁ、今から出てこれないか?」
「どうして?」
「一緒に飲もうかなってな…」

どきんっ!

「え…、それって二人で?」
「あ…、いや、他にもいるんだけど…」
「…」
「ほら、いつも言っているだろ? 深山先輩と澪と…、みさき…先輩だ」
「…そう」
「そうって、何だよ…」
「あ、あははは…、ごめんね、今日は先約があって…」
「そうか、じゃあ長森はパスだな…」
「…うん」
「久しぶりに会いたかったんだけどな…」
「うん、ごめんね…」
「ま、しょうがないな…」
「また、今度誘ってね」
「おう、期待して待ってろ!」
「それじゃぁね〜」
「ああ、またな…」

かちゃっ! ツーツーツー

…知ってるよ、浩平
何が言いたかったか…
何をするつもりなのか…

もう…
私は隣にいるべきではないんだよね…
隣にいる女性は私ではないんだよね…
分かっているんだよ…

分かっているんだけど
分からなければならないんだけど…
どうしても心で理解できないんだよ

祝福したいんだけど
今すぐ会いたいんだけど…
会ったら…
そして、浩平から真実を聞かされたら…
私…
自分を押さえ切れないかもしれないよ…

だから、今は
今だけはここでお祝いするね…

『おめでとう、浩平』



To 繭

「もしもし、折原言いますが…」
「あ、折原君?」
「あぁ、華穂さんですか…」
「どうしたの?今日は??」
「あ、いえね、椎名を大人の世界に誘おうかと…」
「あらあら、困ったわね、母としては止めるところなんだけど…」
「あ〜、いえ、その〜、ごめんなさい」
「別に謝らなくてもいいのよ…」
「え?」
「だって、折原君が責任とってくれるんでしょ?」
「え? え?」
「それなら安心だわ…」
「あ…、いや、え?? う〜ん…」
「ふふっ、冗談よ」
「…」
「どうせ、晩御飯のお誘いでしょ?」
「…まぁ、そんなとこです」
「それなら大歓迎よ」
「それじゃあ…」
「…でもね」
「はい?」
「ごめんなさい、あの娘、寝ちゃったのよ…」
「あちゃ〜」
「だから、また今度誘ってあげてくださいね」
「はい」
「昼ごろに電話してくれれば夜も起きていると思うから…」
「分かりました」
「じゃあ、お願いしますね」
「はい、では失礼します」
「はい、さようなら」

がちゃん、ツーツーツー

「さて…と、私も繭を部屋まで連れて行かなくちゃ…」

受話器を置いて今に向かう華穂さん
今では繭がぬいぐるみを抱いて寝ています

「あらあら、これは私だけじゃちょっと無理ね…」

少し考えこんで…

パチンっ!!

指を鳴らした

「…お呼びでしょうか?」
「えぇ、繭を部屋まで連れていってちょうだい…」

なんと、屋根裏から現われたのは…

「でも繭にちょっかいだしたらどうなるか、分かっているわね? 藤井さん…」

藤井勇気さんだった

「あ、それから…」
「なんでしょう?」
「照八さんの姿が見えないいだけど…、何もやってないわよねぇ…」
「ぎくっ!!」

さっ!!

華穂さんは素早くヨーヨーを装着した

「どうしたの?」
「あ、いや、偏西風に乗ってアメリカ大陸に行けるか、人体実験に使ったなんて知りませんよ…」
「そう…、またあなたの仕業なのね…」

ゆっくりとヨーヨーを構える華穂さん

「何度、あの人を瀕死に追い遣ったら…、そして何度瀕死になれば分かるのかしら?」

顔は笑っているが、目が笑っていない…
はっきり言って恐いぞ…、華穂さん

「まずは繭を部屋に連れていってちょうだい。それからは…、分かっているわね…」
「はい…」

勇気ちゃん号泣…
泣くぐらいならやるなよ… (笑)

一方その頃…

「ここはどこだ〜〜〜〜」

太平洋上で照八さんは風船おじさんよろしく、漂っていた



To 茜

「もしもし…」
「はい里村です…」
「あ、オレ、浩平だけど…」
「ただいま留守にしております…」
「げ、留守電かよ…」
「御用のある方は、Pi〜! という発進音の後…」
「『メッセージをお願いします』か…」
「御勧め甘味処を紹介してから、一言どうぞ… Pi〜!」
「あ、オレ…って、え?甘味処?? え〜とだな…」

(がちゃっ! ツーツーツー)

「あの娘に留守電の音声を頼んでから、まともなメッセージが入ってないのよね…」

茜の母はひとりごちていた…



To 住井

「いふいふ?」
「亀よ〜、亀さんよ〜」
「…」
「世界の内で〜おまえほど〜」
「…オレが先手を打ったのが不満か?」
「いや、マイペースこそ我がスタイル!!」
「それでこそ我が永遠の相棒!」
「おおともよ!! (がんがん!がん!!)」
「(がんがんがん!!)」
「くっ!相変わらずいいパンチしてるぜ…」
「お前もな…」
「じゃあな…」
「あぁ…、ぢゃねぇ〜!!」
「何だ? まだ用があるのか?」
「まだもなにも、本筋に入ってない!」
「何だ…、俺はてっきり友情を確かめに電話したのかと…」
「…」
「…」
「…すまん、妙な想像をしてしまった」
「…少しヘビーだったな…。で? 用件は何だ??」
「今、出てこられるか?」
「飲みか?」
「御名答」
「当然参加だ…と言いたいが…」
「どうした?」
「すまんな、今企画しているものが最終段階なんだ…」
「そうか、それじゃしかたないな…」
「おぉ、分かってくれるか!? 友よ!!」
「当然じゃないか! マイブラザー!!」
「…」
「…」
「…その表現、ヤバくないか?」
「…悪いが、オレにそういう趣味はない」
「…と、とにかくそういうことで、今回は不参加だ!」
「わかった。それからな…」
「何だ?」
「その内、オレから企画依頼が行くと思うが、よろしく頼む」
「あぁ、任せておけ」
「あとな…」
「まだあるのか?」
「今回の飲みは、オレ以外全員女性だ。でわ、さらばだ!!」
「ほぅ…って、なにぃぃぃぃ〜〜〜〜!!!?」

がしゃん!! ツーツーツー

「くそっ!俺のいないところでハーレムだと!!?」

…違います

「くっ!こうなりゃ、護君レーダーをフルに発揮して…」

あなたキャラ変わってます…

「よし! こっちだ〜〜〜〜!!」

住井は夜の街中に消えていった
蛇足になるが、翌朝、ぼったくりバーで伸びている住井が発見されたことを追記しておく



To 沢口

「もしもし?沢ぐ…」
「俺は南だ〜〜〜〜!!」

(がしゃん!!! ツーツーツー)

「くっ! あいつめ…また俺のことを『沢口』と呼びやがって…」

しょうがないじゃん…

「所詮あいつだって冒頭で名前変えたらそれまでの、デフォルトでしかないのにな…」

…それ言っちゃいけません

「どうしたんだい?マイサン!?」
「あ、パパ…、うん、何でもないよ…」
「聞けば、『沢口』という性が気に入っているそうじゃないか…」
「そうなんだ…って、え?」
「そこまで言うんだったら、改名しよう、一家揃ってな!」
「え? …え?」
「お〜い、ハニー!! 名字を変えるにはどうするんだったかな…」

キッチンに行ってしまった南パパ
そして取り残された沢ぐ…げふっ! げふ…、南君
さあ、君に明日はあるのか!!?

「俺は南だ…」

力なく言っても無駄だよ… (笑)



To ???

「もしもし…」
「えいえんはあるよ…」

がしゃん!!!!

くすくす…
ここにあるよ…



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やべっ!逃げろ!! (火暴)

PS.『えいえんの世界』直通の電話、僕も欲しいです。 (走召 火暴)