天使のいる風景 〜 Angelic View 〜 投稿者: 千乃幸
「遅れちゃうよぉ〜」
走っていた

「私の分残っているかなぁ…」

走るのは好きだけど、空腹時の運動って嫌だよ…

それより、約束を破るのが嫌だった
大切な人との大事な約束…


『天使のいる風景 〜 Angelic View 〜』 第二章「順風満帆」


バン!!

「みんなどこぉ〜!!?」

し〜〜〜〜〜ん

場所が悪かった・・・
ここは時々来る居酒屋

板さんさんと仲良くなって以来、料理の分量が多くなったという素晴らしいお店
多少の無理は聞いてくれる
でも、今日は金曜日
当然人がいっぱいで
全く知らない人ばかりで… 

「みさき〜、ここよ〜」

声は小さいけど今の状態ならよく聞こえた
親友の声
同性に限れば、最も信頼でき、そして一番大切な人

「雪ちゃん…」

とっとっと…

私は小走りに友人の待つテーブルに近寄っていった
…と、

「もう! あんたのせいで恥かいたじゃない!!」
「ごめんね〜」

いきなり怒られた
こぶしを振り上げて……笑顔だ
どうやら本気で怒っている訳ではないみたい

『お疲れ様なの』

こっちは雪ちゃんの部の後輩にあたる澪ちゃん

「澪ちゃんもごめんね〜」

手を合わせて謝る

今二人は劇団を設立するために東奔西走している
劇団員を集めるのも大変だが、さし当たっては後見人…つまり、スポンサーを
探すのに苦労しているそうだ

しかし、それらの問題も雪ちゃんの行動力と澪ちゃんの素質をもってすれば、
すぐに解決するだろう
事実、すでに解決の目処が立っている
そこで、ささやかながら”パーティー”を…と、いつものところに来たわけ
…私の『光』を取り戻してからの一周年記念も兼ねているんだけどね

…
…あれ?

「ねぇねぇ、雪ちゃん」
「なに?おかわりは自腹よ」
「そんなこと聞いてないよぉ〜」

私は7皿目の串盛りに手をつけながら言った

「浩平君は?」

そう、今日の”パーティー”の発起人である浩平君がここにいなかった
来ていないはずはないんだけど…

「あぁ、彼はTELに行っているわよ」
「電話?」
「そう、電話。女性にかしらね〜」

っと、雪ちゃんがからかう

「…」
「…」
「…」
「…ごめんなさい、私が悪かったわ」
「そうそう、人間、素直に誤る勇気も必要だ!」
「字が違うよ〜」
「…そうか?細かいことを気にする必要があるような気がしないでもいないが…」
「言ってることが分からないよ〜」

終始こんな感じだ…
異性を含めて、私が最も信頼でき、一番大切で、かけがえのない…大好きな人

「遅いよ〜、浩平君…」
「はは、ごめんごめん ちょっと罠にかからなくってな…」
「罠?」
「あぁ、この”パーティー”にいろんなやつを呼ぼうとしたんだが…」

どうやら浩平君は人集めのために電話を掛け捲っていたようだ
その結果は…

「ごめんね、今日は先約があって…」
「ごめんなさい、あの娘、寝ちゃったのよ…」
「乙女は飲み屋なんかに行かないものよ!」
「− ただいま留守にしております −」
「すまんな、今企画しているものが最終段階なんだ…」
「制服はもらえるのか?」
「俺は南だ〜〜〜〜!!」

…で、全滅

「ま、いいじゃない。”パーティー”の楽しさは、必ずしも人数の多さと比例するわけ
  ではないわ」
「それはそうだが…」
『4人でも楽しいの』
「うん、そうだよ」

女性3人に諭され、複雑な表情の浩平君

「う〜、オレは大勢の前で言いたかったんだが…」

しかし、まだ不満そうに何か言っている

「ま、何はともあれ全員そろったんだから乾杯しない?」
「うん、しようしよう」
「だけどなぁ…」

乾杯しつつも、まだゴネている浩平君

「ぷはぁ〜! この一杯のために生きているなぁ〜」

…でもなかった
乾杯のジョッキは一気に飲み乾された

「…さて…っと…」

一瞬思いつめた表情を見せるといきなり彼は立ち上がり
そして後ろ手で私の前に立つ

「どうしたの?浩平君…」

私は5皿目のチャーハンを手前に寄せながら聞いた

「あ〜」

なんだかとっても話しにくそうだ

「う〜」

雪ちゃんが声を殺して笑い出した
澪ちゃんは笑顔だ

「え〜とだな…、その〜〜」

珍しくどもる浩平君
そんな彼に、私も少し鼓動が早くなる

「こ…これをみさきに!!」

っと差し出された手には……何もなかった…

「何もないよ?浩平君…」
「え…ぐあっ! どこに…」
「え〜と、これは指輪…だね」

浩平君の後ろから女性の声が聞こえた

「ん? …って、何ぃ!」

浩平君は心底驚いていた。
…こんなに取り乱している彼を見るのも珍しい

「何で柚木がこんなところにぃ!!?」
「これ、私にプレゼント?」
「どういう展開だ!?」

柚木と呼ばれた女性を指差しながら叫ぶ
…それは私のせりふだよ

「ん〜、4連のリングで『フォー』、そして『MISAKI』で『フォー詩子』だね」
「『だね』ぢゃね〜!! 今、自分が何て言ったか分かっているのか!?」
「え? 4連のリングで『フォー』…」
「その次!」
「『MISAKI』で『詩子』」
「そこ! 何で『MISAKI』が詩子と読める!?」
「え?違うの??」
「誰がお前に指輪なんて贈るか〜!!」
「あんなこと言ってるよ? 茜ぇ〜」
「お前に言っているんだ! って、え?茜??」

柚木さんが振り返って見た先にはブロンドの、大きな三つ編の似合う女性が立っていた

「茜…」
「…お久しぶりです」

動揺…
そう、明らかに彼は動揺していた
…私を横目で見ながら

そして奇妙な宴会が始まった

「きゃはは〜、澪ちゃんかわいぃ〜〜」
「おい、柚木! 澪が嫌がっているぞ」
「そんなことないよねぇ〜」
『〜〜〜〜』
「…ごめん読めない」
「…『苦しい』と言っています」
「読めるのか?」
「…表情を見れば明らかです」


「止めないで!私には行かなければならないところがあるの!」
「止めるわよ!今、あんたを注文に行かせたら、どうなることやら…」
「雪ちゃん、意地悪だよぉ〜」
「みんなの為よ!」
「おいしそうなのに…」
「…で?何を頼む気だったの?」
「から揚げを3皿追加…」
「みさきにしては珍しく謙虚…」
「…と、やきそば4皿、串盛り3皿、刺し身、カレー風味カレイフライなんて新メニューも…」
「却下!! あんたは座ってなさい!!!」
「え〜〜ん」


「だから私も苦労しているのよ〜」
「深山先輩…」
「そうだ! 折原君も劇団に入りなさい!」
「えぇ!?なんでまた…」
「君、結構ハンサムよ〜〜」
「…(まいったな…)」
「だめ! 折原君は渡さないよ!」
「ほぅ…、私の邪魔をするのね…、柚木さん」
「こっちには人質がいるんだから…」
『助けてなの』
「ふっ! 愚かね…、このプロフェッ…げふっ!げふん!!」
「…」
『…』
「(みんな相当に酔っているな…)」


「里村さん、飲んでる?」
「…はい」
「そいつ『ざる』なんだよ…」
「あ、脳みそおいしいらしいね〜」
「それは『猿』!」
「え〜と、暖かくていいよね〜」
「…ひょっとして『春』ですか?」
「えぇ〜〜と、斜めにしか動けないんだっけ?」
「それは将棋の『角』!! って、母音しか合ってないじゃないか!?」
「う〜〜、浩平君意地悪だよぉ〜〜」
「…女性を困らせるとは、感心しませんね…」
「オレか? オレが悪いのか!?」


こうして夜は更けていき…

「澪ちゃん〜、澪ちゃんが呼んでる〜〜」
「…詩子、帰らない気ですか?」

「上月さん、明日もがんばりましょうね」
『力ソバノレの』
「…(上月さん、明日起きれるかしら…)」

解散となった
ちなみに会費は…、秘密だよ

「さて…と、みんな帰ったし、オレたちも帰るか…?」
「うん」

頬を撫でる風が気持ちよかった
もう夏だというのに湿気を帯びていない風

「90点あげてもいいね」
「風か?」
「うん、そうだよ」
「しかし90点とは、大盤振る舞いだな…」
「今日は楽しかったし、浩平君と一緒にいるんだもん」
「はは、光栄だな…」

ぽりぽりと頬を掻きながら照れる浩平君

「…で? あと10点を補填するにはどうすればよろしいですか? お嬢様」
「…」

分かっていた
どうして10点足りないのか
そして、どうすれば満たされるのか…

でも、それは賭け…
下手をすると0点を付けたくなる

「…」
「…」

沈黙が二人の間に流れた…

「あのね」
「あのな」

ほとんど同時に口を開いた

「…」
「…」

再び訪れる沈黙
それは永遠に続くと思われるほどの瞬間

「…茜のことか?」

ポツリと彼は言った

「…うん」

そして私もポツリと答えた

「オレが…」
「うん」
「オレが高2の時の冬の話だ…」
「それって…」
「あぁ…」

忘れもしない冬
あの時、私たちは出会って
恋人同士になって
そして…
浩平君が消えた冬…

「茜は知っていたんだ…」
「知っていたって、浩平君が消えること?」
「あぁ…、詳しくはオレも知らないけどな」

そうだったんだ
私以外にもいたんだ…

「でも…」

言葉を続ける浩平君

「でもな、みさき…」

私の方に向き直し

「オレが戻ってこれたのはみさきとの絆のお陰だ! それは間違いない!!」

目が真剣だった
今日だけで何度、いつもと違う彼を見ただろう

「あんなオレを見せた後で、信じられないかもしれないけど…」

後ろ手に何かを探す

「改めて、これを受け取って欲しいんだ…」

そこには、さっき見た指輪があった

「ゆっくり考えてもらって構わない! オレはいつまでも待つから…」

手渡された指輪のケース
そしてその中身は…
確かにこれまでの一線を越える為のものだ
でも…

「浩平君…」
「…」
「時間なんて、指輪なんて要らないよ…」
「そっか…」

ゆっくりとした口調で言う私
すっ…と、彼が離れた

「…あ〜あ、フラレちまったい」

額を抑えてうめく彼

「自信はあったのにな…」

そしてどんどん離れていく…

「待ってよ…」
「…」
「違うよ?」
「え?」
「違うんだよ、浩平君」

彼を追いかけて、私は走った
やがて彼に追いついて、後ろから抱き付く形になっていた

「違うんだよ…」
「どう…」
「私ね、時間も、指輪も、何にも要らないの…」
「…」
「浩平君が今、一緒にいてくれる。私のことを好きだって言ってくれる…
  それだけで十分なんだよ…」

それは心から思うこと…

「それだけで十分なんだよ…」
「みさき…」
「私、馬鹿だからね…」
「あぁ、オレも負けないくらい馬鹿だけどな…」

そして向かい合う

「これも勝負かな?」
「あぁ、勝負だ…、どっちがより相手を好きか…のな」
「うん、負けないよ」
「オレだって…」

一つになる二つの影
あたかも、周りの闇に祝福されるように…
初夏の風に溶け込むように…

そして、翌日

「はろはろ〜」

当然のように天子ちゃんがそこにいた

すべては順調に進んでいると感じていた
そして変わらないと信じていた
このままずっと…

−−−−−

あぁ、長かった…
何がって?
第二章が書き終わるまで… (火暴)

つ〜か、この作品以前に、僕のことを知らない人もいるんぢゃないだろうか… (^^::
#第一章を投稿したのっていつだったっけ…? (^^;;;

ま、まぁ全部残業のせいということで… (--;;;

さて、この話の結末を知っている方もいるはずですが、第3章からついにシリアス
ターンに突入します。
また、今回のようにONEキャラが出てくることも無くなります。
多分… ( --)
#ま、予定は未定と言うことで… (自爆)

尚、今回も前回同様、リハビリSSですので感想は不要です。
イチャモンだけください m(__)m
また、ここには滅多に来ないので作品の下に付けられても読まないと思います。
お手数ですが、苦情・ご指摘はメールにてお願いします。
#この話も急いで書いたので、手直しがいっぱいあるような… (--;;;

でわ、できるだけ近いうちにお会いしましょう… (((((^^/~~