天使のいる風景 〜 Angelic View 〜 投稿者: 千乃幸
「では、川名さんゆっくり目を開けてください…」
声…
私を促す声
それは希望への道標
二度と戻れないと思っていた『日常』への誘い

「どうですか?」

光…
襲い来る奔流
それは白く…
しかし暖かい

「さて、問題。この指何本?」

差し出された右手と質問
不意に横から聞こえた声
無機質な確認?
でも…

「五本だよ」
「おかしいな、大食らいにだけ見える指がここに一本あるはずなんだが…」

そう言って、彼は左手の人差し指を添えてみせる

「五本しか見えないよ…」

瞳が光以外のものに反応して…

「浩平君…」

笑い声と溢れる涙

こうして私の『日常』は再び戻って来た


『天使のいる風景 〜 Angelic View 〜』 序章「新たな『日常』」


〜 一年後 〜

「み〜ちゃん」
「はい?」

自分の机の整理をしていた私は、後ろから聞こえた声に反応し、振り返った

「いたるさん…、その呼び方はやめてくださいよぅ…」
「ははは…、ごめんごめん」

軽く抗議すると、編集長…鷺野屋 格 (さぎのや いたる)は椅子に腰掛けたままで
ちょこんと頭を下げた

ここは『月刊 景』という風景写真と写真技術の雑誌の編集室
…と言っても、雑居ビルの一室なんだけどね

「で? その呼び方をしたということは…」
「そう、お・仕・事」
「やっぱり」

親が言う言葉を先読みした子供のように、私は得意満面の笑顔で編集長を見た

「…で、どこに行けばいいんですか?」
「お、話が早いな…」
「楽しいからですよ」

笑顔のまま編集長の席に行き、私は話を続けた

「あのさ…」
「うんうん…」

打ち合わせはいつも、編集長の席で机を挟んでこんな感じだ

「わかったよぉ〜」
「うぉ〜い、んじゃ頼んだよ」
「うん、任せといてよ」

簡単に打ち合わせを終えて編集長に背を向ける
そして『仕事道具』を持って部屋を出ようとすると
一人の男性が目の前に現れた

「お? み〜ちゃん、これから仕事?」
「みさおさんまで…」

ぷぅ〜っと顔を膨らませる

「ごめんごめん、編集長の言い方が移った…」

そう言って、みさおさん…小鷲 操(こわし みさお)さんが笑顔で手を合わせ、片目を瞑る

「でも、み〜ちゃんの写真なら俺に任せてくれよ!?」

っと、胸をどんっと打つ…と咳き込んだ

「げほっ!げほっ…」
「(こういうのをお約束って言うんだよね…)」
「み〜ちゃん、見てないで介抱してよ…」
「えっと…、裏手ツッコミでいいですか?」
「何でそうなんねん!」

逆につっこまれた
ちなみに、みさおさんは現像技師、頼りになるおじさまだ

「だ〜れが、『おじさま』だって?」
「ひらひほほ〜〜」

声に出ていたらしい
いつのまにか復活したみさおさんに両頬を引っ張られた
「いたいよぉ〜」がうまく言えなかった

「まだ三十半ばなんだから、『おじさま』はやめてくれよ…」
「一廻り以上うえ…」
「何だってぇぇぇ〜〜!!?」
「何でもありませぇ〜〜〜〜〜〜ん」

笑顔で迫ってくる操さんを避けて、こうして私は編集室を出た


事の発端は六ヶ月程前に溯る

手術を終え、視力の回復した私は写真に興味を持った
それは多分、今まで見られなかった風景を自分なりに見たかったから
年が過ぎ、おばあちゃんになって景色が移り変わっても
その変わった様子が分かるように
そして、『昔の風景』というものを思い出せるように

手始めに、お母さんが買ってくれたポケットカメラで街の風景を撮る
こういうとき助手が有能だと頼りになる

「みさきせ…」
「何?」
「じゃなかったみさき!」

眉を顰め始めた私の表情に反応して言い直す

「あっちの空き地がもうすぐ無くなるらしいぞ!」
「あ、それは大変だね…、写真にとっておこうよ」

常時こんな感じで、その日の標的を決めて写真を撮り続けた
写真の技術はないけれど、情報収拾には長けている助手
私がもっとも頼りにしている男性を引き連れて…

そんなある日
彼は唐突に言った

「あ、この間の写真…」
「うん?」
「風景写真雑誌に投稿しておいたから」
「うん…」

一瞬の間
そして…

「えっええっ!!?」

私の絶叫
全く…、この『助手』はいつも私の考えを上回って行動を起こすんだ

「いや…、良い『絵』だと思ったから…」

苦笑いをしつつ、私の最良の『助手』は説明をした

その一月後、私は思いもよらないものを見る羽目になる

『編集長特別賞 川名みさき 題名「都会の片隅」』

その寸評は…

『まるで無垢な少女の視点から見た作品 次作を期待』

つまり『何も考えていない少女が純粋な気持ちで撮った写真』と評されたわけで

「私、大人だよぅ…」
「はは…」

嬉しくも悲しい、ただ苦笑するしかない寸評だった

しかし、その次の日
編集長から電話を貰うことになる

『あ〜いう絵を撮れる人が欲しかったんだ。うちで働いてみない?』

とんでもない評価だった
しかし、実は只のスナップ写真であったこと
全くの素人であったこと
本人の意思で応募した訳ではないこと
全てを話して丁重に辞退した
…が、

「こんにちは、川名みさきさんのお宅はこちらでしょうか?」

編集長は諦めず、自宅まで押しかけてきた
そこで全てを話す
盲目だった過去を…
でも、

「分かりました。では当分はアルバイトということで…」

編集長は諦めなかった

そして、半ば強引に話しは進み
いつしか就職
独り暮らしまで始めた

たまに遊びに来てくれる『助手』の存在が嬉しかったことを特記しておく

そして月日は流れ…
現在に至る

私は独り立ちへの道を進み始めた

−−−−−

多分、ほとんどの方に「はじめまして」と言わなければならない状況ですね…
断筆明けの千乃幸です。 m(__)m

この2ヶ月SSを書くどころか、このコーナーにすら来ていませんでした。

とりあえず、『リハビリSS』と称して先人によって使い古されたネタを自分なりに
表現し、みさき先輩シナリオのその後を書いてみようと思います。
多分5話程度になると思います。
しかも、オリキャラばかりのSS…
正直、皆さんに受け入れられるか心配です。

そんな訳で、今回に限りメアドを公表します。
文句、中傷…何でも送ってきてください。

さて話は変わりますが、一部の皆さんへ
完全復活次第、中断しているプロジェクトを再開します。
もう少しお待ちください m(__)m
#特に、ポン太ちゃん、まてつやさんネ… (^^;;

でわ、今日はこれくらいで… ((((^^/~~