〜えいえんのかたち〜 投稿者: 智波
  雨が降っていた。
  そのことを知ったのは、家を出てからだった。
  家に引き返し、傘立てから傘を取り、再び表にでる。
  行き先は決まっていた。
  あの場所へ。
  浩平と別れたあの場所へ。

  去年の事だった。
  雨が降ると、私はあの人を待っていた。
  微かな希望にすがって、
    裏切られて、
      絶望して、
  それでも今度こそはって…。
  その繰り返しだった。
  無意味に繰り返される非日常。
  そんなときあの空き地に現れたのが浩平だった。
  希望なんてないって、とっくに気づいていたはずなのに…。
  それでも私にはそれしかなかったから…。
  だけど、本当は…。
  だれかに止めてほしかった。
  もう、あの人は絶対に帰ってこないって言って欲しかった。
  お前のしていることは無意味だって、なじって欲しかった。
  だから…。
『お前は…ふられたんだ』
  嬉しかった。
  その一言で、私は救われたんだから。
  そして、浩平との新しい日常。
  もうこの日常が壊れることはないって信じてた。
  だけど…。
  だけど私は…。

  またこの場所に立っている。



  えいえんのかたち



「…雨、止んだみたいですね」
  真っ青な空から差し込む眩しい光に、嬉しそうに瞳を細める。
  さっきの通り雨が嘘のように澄み渡った空。
「虹の一つも見えればいいのにな」
  飛行機雲さえない青空を見上げる。
「それは、贅沢です」
  そういって彼女が微笑む。
「雨が止んでくれただけでも嬉しいです」
「…そうだなぁ」
「せっかくのお休みですから」
  限りある日常。
  だからこそ、その移り変わりは早くて…。
  退屈な生活は、その時々によって様々な姿を見せる…。
  限りあるからこそ見えるもの…。
  限りあるからそこ気づくもの…。
  そんな日常に囲まれて…。
  過ぎ去っていく時間の中で…。
  ただ精一杯…。
  その時々の幸せを感じながら…。
「…確か、誕生日にお返し貰えるんですよね」
  一緒に歩みたい人と…。
「なにっ、まだ覚えてたのか…」
「はい」
「そう言えばいつなんだ、茜の誕生日?」
「今日です」
「なにっ、マジか」
「はい」
「嘘ついてないか?」
「ついてないです」
「本当か?」
「本当です」
「本当に本当か?」
「本当に本当です」
「うわ〜、なんも用意してないぞ」
「大丈夫です。これから二人で買いに行くんですから。欲しいものも決まって
ます」
「ま、まさか『あれ』か…?」
「あれです」
「あれだけは勘弁してくれ〜」
  見上げれば、どこまでも澄み渡った青空。
  本当に、さっきまでの大雨が嘘のように…。
  二人でこの小径を歩いて行く。
「なあ、茜。折角だから手でも繋いでみようかと思うんだが…」
「…嫌です」
  どこまでも、一緒に…。
「恥ずかしいから、嫌です」
  本当に好きな人と一緒に。
「……」
  歩いていくはずだった…。
「…浩平?」

  私は信じられない思いで、春の陽光が飽和した公園の並木を眺めていた。そ
こにいるはずの人がいる空間を。
「…どう、して?」
  そこにはなんの予兆も、前触れもなかった。
  あまりにもいきなりすぎて、私は立ち尽くした。

  永遠が無いことは知っていた。
  あの日、あの人が消えたその時から…。
  それまでそんな悲しいことがあるなんて知らなかった…。
  私と詩子とあの人と…。
  いつまでも楽しくはしゃぎあっていられるのだと思っていた…。
  終わりは唐突で…、あまりにも唐突で…。

『お前は…、振られたんだ』

  それは終わりの終わり。始まりの始まり。そして閉塞の始まり。

「えいえんはあるよ」

  そんなはずはないと思っていた。
  永遠ではなく…、退屈な日常…。
  私の求めたもの…。

「ここにあるよ」

  私はどこに立っているのだろう…?
  春の公園、雨上がりの公園…。

    ざぁーーーーーーーーーーーー!!

  雨、止んだはずなのに…。

    ぬかるんだ地面に足が沈んでいる…。

    またこの場所に立っている。

    今度こそあの人は帰ってくる…。

  あの人は消えてしまった…。

    絶望の色をした希望にすがり…、灰色の空の下で…、あの人を待つ。

「えいえんだからおわらないせかい」

    虚ろに見つめる虚空は、あの人の消えた場所…。

「くりかえされるせかい」

    耳に聞こえる雨の音は、あの人の最後の声…。

「もうそこにいるんだよ」

    求めても得られないと知りながら…、

「ここがえいえんだよ」

    私はまたこの場所に立っている。

−−−−

  はじめまして、智波と申します。
  ここへの投稿は始めてです。これからたまに投稿するかもしれませんが、よ
ろしくお願いしますね。
  この作品については、ゲームが終われば、当然、プレイヤーの分身たる主人
公は消滅するわけで、その無責任さを突きつけたかったのですが、何故か、ゲ
ーム自体が茜が迷い込んだ永遠ということになってしまいました。(苦笑)
  このパターンで、気が向けば、別のキャラも書いてみたいと思います。
  それでは、失礼。

http://www6.big.or.jp/~tearoom/entrance/