NEURO−ONE 16 投稿者: 天王寺澪
第十六話「パーク・チェイサー」


屋敷からの帰り道、車を走らせる。
明るい通りを抜けて、公園横の少し寂しい辺りまで来た。
急に運転席の南が舌打ちする。

「どうした?」
「…おいでなすったぜ」
「?」
「気がついてないのか?護衛がみんないなくなった…」
「!…まさか」

茜が後ろを振り返った。確かに他の車が見えない。
助手席にいる浩平がディスプレイで確認する。さっきまでついてきていた仲間の車。
それを示す光が止まったままだ。どんどん離れていく。

「やられたんだ。残ったのは俺たちだけだ」
「どうする?」
「このまま突っ走りたいが…電気自動車じゃ…たいしたことはできん」

爆薬を使いたいが…ここはすぐ外が宇宙だからな。下手すりゃ吸い出される。
だからと言って肉弾戦で倒すには…恐らく向こうは大勢いるだろう。条件があまりに不利だな。

「…前!」

道を塞ぐ影が数人…。

「つかまれっ」

キュキュキュキュキュッ!

車を急転させる…と、横の繁みに突っ込んだ。
公園の中を突っ切っていく。目の前に広場と池。中央に噴水が見えた。

「よしっ!ここで食い止めるぞ。運転替ってくれっ!」

南は池の横で停めると車から飛び降りた。横に移動する浩平。

「浩平っ!早く車を出せっ!」
「南?」
「早くしろっ!!」

浩平はアクセルを踏んでハンドルを切ると、そのまま別の方角へ車を出した。





「さて…と」

南は腰の両側に差した刀を抜いた。右手に一振り。そして左手に…もう一振り。
左の刀は普通の長さだが…右のそれは…ひとまわり長い。

「久しぶりに暴れるかな…」

そこへ影が殺到してきた。全部で十四…五人はいる。

「…ほい」

ザシッ!

右手が一閃。
最初の一人…構えた刀ごと体を真っ二つにされた。
刀がたわむ間もない。血を吹き出しながら倒れる。

「グホォッ…」

その一太刀で刺客たちの足が止まった。

(…片手で…何という…豪腕だ)
(気をつけろ…この男の刀…)

「聞こえてるぜ」
「!」
「…知りたいか?これが何か」

こいつはな…。

カキィッ!
バシューーーーーーッ!

「!!」

一呼吸で首が二つ飛んだ。
右の大刀が、夜の空気の中で妖しい光を放った。

「…備前…新…長船…」

そしてこっちは…。

カンッカキィ!
ズバァッ!

「グァッ!」

今度は腕が二本…。
刺客たちは自らの間合いに入ることもできない。
左の刀が血を滴らせる。

「…虎徹…改…」

右手と左手。生き物のように違う動きをする二つの刀。
切先が舞うだけでまた何人か倒れていく。

(この男…まさか…)
(…そうだ…影の…頭目…)
(まともに戦っては…分が悪い)

「…だったらおとなしく帰りな」

誰もこっから先には行かせないぜ。

…だがその時、刺客のリーダーらしき男が不気味な笑いを浮かべた。

「…馬鹿め…もう遅いわ」
「何?」
「我々は…お前一人を仕留めれば良いのだ」
「!」

そうか…まだ他に。ぬかったっ。
浩平…茜…。
二人が危ない!

「どこを見ている!」
「おおっ!」

チェーンが体に巻きつく。一本…二本…三本。

「これで終わりだな」
「…そいつはどうかな」
「負け惜しみか?」
「自分たちの立っている場所をよく見ろ」
「…?」
「ほれ」

南がチェーンを引っ張る。凄い力。三人の刺客が南一人に引っ張られて池に引き摺り込まれた。

(ぐぅ…)
(…何て馬鹿力だ)

「…さて…」
「いかん!早く逃げろ!」
「遅い!」

池を揺るがす轟音。衝撃。





後部座席で茜が振り返った。

「…浩平」
「どうした?」

爆音が聞こえたような…気のせいだろうか?

「南さん…」
「…おや?」

公園の並木の中を伸びる一本道…その真正面に別の影がいくつか現れた。
一斉に車に向かってくる。

「茜っ!頭を引っ込めろっ!」
「きゃっ!」

ドゴォッ!
バクゥッ!

影が横と上に飛んだ…途端に車体の上半分が吹っ飛ぶ。
さらに運転席の真上の屋根は縦に切り裂かれて転がっていった。

「あっ!」

体を起こした茜が驚いた。運転席にいるはずの浩平の姿がない。

「こっ…浩平!」
「…こりゃ…オープンカーだな」

よっこいしょっ。浩平が首を出した。茜と同じ様に下に潜り込んで助かったらしい。
でなかったら上半身が屋根ごと持っていかれただろう。あるいは縦に真っ二つに…。

「もう…心臓が止まりかけました」
「あははっ」


だがまだ終わってはいなかった。
茜が振り返るとさっきの影が後ろを走って来る。しかも追手との距離は徐々にせばまっていた。
いくら電気自動車と行っても普通の人間なら…追いつけない…はず…。
車のスピードが落ちているのだ。振動が激しくなった。

「畜生っ!さっきタイヤをやられたんだっ!」
「浩平…追いつかれますっ!」
「くそ…」

茜がシートの下からショットガンを持ち出した。
ほどけた長い髪が風にひるがえる。

「…撃ちます!」

ドゴォッ!

一人吹っ飛んだ。

「あっ…」
「やるじゃないか。茜」

見ると茜は本当に嬉しそうだった。
しかしドレスにショットガン…。まるで昔見た西部劇だな。浩平はそう思った。

続けざまに撃つ。

ドゴォッ!
ドゴォッ!ドゴォッ!

また一人。

だが残った連中…レベルが違うのか。いくら撃っても当たらない。走りながら簡単にかわしている。
銃の向きを見て瞬時に判断しているのだ。やはりA級のニンジャには銃での直線的な攻撃は通用しない。
レーザーでもなければ。

カシンッカシンッ

とうとう弾が切れた。

「悔しいです…」

タイヤの空気が抜けてきたせいか、ハンドルが効かなくなった。揺れがひどい。
おまけに前方に橋が…。

「くっ!」
「浩平…!」

橋を大きくそれると、車は小川に突っ込んだ。水飛沫。空回りするタイヤ。
だめだ。もうこの車は捨てるしかない。

「走るぞ茜」
「はい…あっ!」

車を降りた二人。だが…既にその周りを取り囲む影。三人の刺客。
黒装束の輪郭…女?…くの一か。

「ゲームオーバーよ。あなたたち」
「残念でしたわね」
「でも…安心して下さい」

女性の方…そのお美しい顔には傷一つつけません。綺麗に片づけてあげます。

「首だけにしてね…ははは…」

くの一がみな刀を抜いた。
…ここで終わりか。

「茜」
「浩平…」

浩平は茜をかばうように立った。無駄とはわかっていたけれど。

「では…まず私から…いただきましょう」

一人が飛び上がった。


ゴオォッ

突風。
風に舞う葉。身を寄せ合う浩平と茜。

………?………静かだ。

「!?」

飛び上がったニンジャがいない。見上げると木の枝に串刺しになっていた。
他の二人は動かないで固まっている。しかも…目が飛び出そうだ。

「…え?」


グシャアッ!

「ガアッ…」

一人が血を吐きながらつぶれた。
人間だったものはただの肉の固まりと化した。
残った一人も木に叩き付けられる。

ドガァァァァアッ!

「グフゥッ」

全身がぺしゃんこになって…そのまま木に張りついてしまった。
根元が血で染まる。

沈黙。
茜が目をそむけている。
後に残された…二人。

「いったい…何が起こったんだ?」
「…!…あれっ!…浩平!」

茜が指差した方を見る。
橋の上、いや欄干の上に何者かが立っていた。
だがこちらからは遠くてよく見えない。

「…?」

それは…ふわっと浮き上がると…二人のすぐ横に静かに着地した。
まだ姿形が良く見えない。こちらに近づいてくる。
街灯の光に照らされた…姿…。

女だ。

「あっ…」

よく見ると肩に何か乗せている。その荷物は…人間だった。

「…南!」
「南さん…」
「…彼…たいしたものね」

連中を倒しながら池に誘い…入った途端に水中で爆弾…。

「…水の…中で?」
「浸かってた連中はみんなやられた。瞬間飛びあがって、残った奴等をぶった切り…凄い男」

そうか。静水衝撃だ。最初からそのつもりで…だから…。

「でも…彼もただではすまなかった。噴水も…」

女が示した先…さっきまでいた広場の方角…に、木々を越えて高く水の柱が見えた。



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16個目です。

南くんご苦労さま(^^;

南「…」