彼女のいる風景 投稿者: 天王寺澪
1時間待った

春が近いとはいえ寒かった

ドレスの開いた肩口が冷えた

彼女は階段のところに座っていた

電話しても無駄だとわかっていた

家へ行っても会えないとわかっていた

そうだ

わかっている

彼は来ない

でも心のどこかで

今日はまだ来るかもしれない

そう思っている自分がいた



3時間待った

西の空の向こうの端に太陽が見えた

赤く染まった空に雲が輝いていた

辺りはすっかり暗くなっていた

階段から夕暮れの町が見えた

町のあちこちで灯りが点きはじめた

子供たちが

彼女の影を踏みながら

帰っていった

やはり来なかった

もうここにいても無駄だとわかっていた

でも帰らなかった

帰れなかった

今日のこの時間をずっと惜しんでいた



もうどれぐらい待っただろう

いつの間にか公園にも

灯りが点っていた

クリスマスに踊った噴水が

下の方に見えた

その向こうに夜の町が広がる

町の灯

電車が走っている

家に帰る人たちが乗っている

みんな家へと向かっている

遥か遠くで

小さな光が

たくさん瞬いていた

寂しかった

凍えていた



帰ることにした

ああごめんね

帰ってごめんね

そう思った

うつむいたら

涙が少し零れた

でも顔をあげた

もう泣かない

会えるまでは

もう二度と泣かない

そう決めた

振り返りながら

明日もここに来ればいい

きっと明日もここに来よう

そう思った

そう思わないと

とても帰れなかったから



それが最初の一日

彼女にとって長い日々の

最初の一日の

終わりだった


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気に入ってもらえたら…嬉しいです
このHNで投稿するのは二回目になります