新世界だよもん教!劇場版 4 投稿者: だよだよ星人

「結界が不安定になっています」
「それで現れたのね…肉眼で見るのは初めてだわ」
「また移動するかもしれません」
「…じゃあ行きましょうか」
「まだ危険です。いつ取り込まれるか…」
「大丈夫よ。その時は…その時」

首都中心部。タワー上空の輸送機。葉子は一気に飛び降りた。

ゴオオオオオオオオオオオオオオオッ

1000m上空から…金色の髪を風圧ではためかせながら。

ズドォォォォォォンッ

着地した。舞い上がる粉塵。
現れる影。白いスーツ。ハイヒール。いつもと同じ。
信徒達はどうしたことかまったく攻撃してこない。あちこちでただ踊り続けている。
もっとも八将軍のいない今、彼女の相手ができるものはここにはいなかったが。

「もうコントロールがされてないようね…いや…あるいは」

タワーを見上げる。揺らめく外形。周りを包んでいた霧は晴れたが、存在自体がまだ不安定だ。

「大きな変化の前触れ…か」
「久しぶりね」
「!」

青い髪をなびかせて、女が現れた。

「招待しておいて、自分だけこんなところにいるなんて…どういうことかしら」
「思ったより早かったわね…郁未」

転送機は破壊されていた…いったいこの女。どうやって?

「娘にちょっとつかまってたけどね…って、そう意味じゃないか」
「てっきり死んだと思っていたわ」
「ええ…大変だったわ。あの世界は…」

葉子に近づく。30m…25m…20m…
常人でさえもう気がつくほど、二人の間の圧力が高まっている。歪む風景。
いまこの圧力に耐えられるものがいるとすれば…深海魚だけだ。

「まさか帰ってくるとは…思わなかったわ」
「…おかげさまでね」
「面白かった?」」
「…楽しかったわ。お花畑の先を見せてもらえて」

郁未の顔が変わった。金色の瞳。

「地獄だったわ」
「…そう」
「うまく騙してくれたわね」
「でも新しい力を手に入れた…よかったじゃない」
「あの人を縛り付けていたものも見てきた」
「すぐにここでも見られるわよ」
「馬鹿なことはやめなさい」
「これはあの人の…意志よ」

数歩手前で足を止める。

「川名さんも…彼の命令で?」
「さあね」
「葉子」
「彼女はよけいなことをしすぎたわ」
「よけいなこと?」
「転送機の座標を狂わせたの」
「…」
「あの男の子を遠くに逃がそうとした」
「だから消したのね」
「あの人の邪魔はさせない」
「あの人…だったモノね」
「会いたいでしょう?」

郁未は笑った。とても悲しげな微笑み。
私を救うために両腕を失ったあの人。一度死んだはずのあの人。
両腕を凶器に変えて蘇った。いや…蘇らされた。
あの組織の命令でどれだけの命を奪ってきたのか。
たくさんの血がしみ込んだ…あの腕。金属の塊。
もうやさしかったあの人じゃない。ただの操り人形ではないか。

「ここを破壊するわ…もっとひどいものが出てこないうちにね」
「それだけの力があるのに…恐いの?」
「恐いわ」
「猫ちゃんたちをあっという間に片づけた人が何を言ってるの」
「あんなのはゴミみたいなもの。これから出て来るものに比べればね」
「…そう」
「どきなさい」
「始めましょうか」
「勝てないわ…わかっているはず」
「いくわよ」
「葉子!」
「…」

カッ

爆発。衝撃波。
建物が数kmに渡って倒壊した。二人のいた場所を中心に…同心円状に。

ズズゥウウウウウウンッ

水面に落ちる雨が次々に波紋を残すように、街のあちこちで倒壊した建物の同心円ができていった。

ズゴォオォオォオオオオンッ
ズゥゥウウウウンッ
ドドォォォオォォオオオオッ



「なっ何あれ?」

ヘリから見下ろした七瀬。
茜、澪、繭も横から見ている。

「…二人が戦っています」
「化け物が踏みつぶしてるみたいね。とんでもないわ」
「…」こくこくっ
「信徒のつくった街だからどうでもいいけど」
「みゅ〜っ(止められないんですか?)」
「あの二人は…立っている場所が違いすぎる」
「晴香さん」
「みゅっ(…でもこのままじゃ)」
「どちらかに何かがあっても、覚悟しておくことね」
「そんなあっ」
「…わかってます」
「茜っ!」
「…タワーです」

茜は七瀬の声を無視するかのように窓の外を見る。
虹色に光り輝く不思議な塔。これが…ヒューネラルタワー。
ここからでも一番上が見えない。この高さでさえも。

「あそこに本当に浩平がいるの?晴香さん」
「そうよ」
「…」
「まっ悪いとは思ったけどね…彼にしかできないことだから…」
「危険すぎるわ」
「そうね…でも当事者にしかどうにもならないこともあるのよ」
「まるで痴情のもつれみたい…」
「あらそうよ…今回はすべてそこから始まっているの。ね?茜ちゃん」
「…」
「ここまで来たのはね。何かするためじゃないの。もうみんなにできることはたぶん残っていないわ」
「…」澪がじ〜っと見ている。
「万一のことが起こった時に、それを見届ける義務がみんなにあるから」
「瑞佳…」
「そう。彼女がどうなるか。彼がどうなるか」

ズドォオオオッ
ゴゴゴゴゴゴゴォッ
グァァァアアアッ

戦闘はまだ止まない。たった二人で首都の中心部を壊滅させてしまった。
信徒たちも無事ではすむまい。本当のドッペラー同士の戦いがここまでとは思わなかった。
七瀬はため息をついた。私はまだまだだね。お母さん。
でもこんな風にはなりたくないわ。やっぱり普通の乙女がいい。
あいつが聞いたら今ごろ何言ってるって笑うだろうけど。

でも…死んだと思っていたお母さんが戻ってきた。私…まだお母さんにいっぱい甘えたいんだよ。
茜もそうじゃないのかな。なんでそんなにあっさり了解できるのかな。
私…お母さんが死んでも葉子さんが死んでもいやだよ。父さんや姉さんに何て言えばいいの。
でも何もできないんだね。こうやって離れて見ているしか。


ヘリはタワーをぐるっと周回していく。戦闘に巻き込まれないように着陸地点を探しているようだ。
七瀬は違和感を感じていた。そう言えばみさきさんはどこにいるのか?八将軍の来襲の時もいなかった。
今も晴香さんが指揮をしている。彼女はどこに行ってしまったのだ。
晴香さんはそのことについて一切教えてくれない。


シュパーーーーーーーーーーーーーーーーーアッ

「あっ!」
「キャアアアアアアッ」

目も眩む閃光。衝撃。
機内が大きく傾いた。

ドドドドドドドドドォッ

後から大きな音がしたと思うと、静寂が訪れた。

「何?終わったの?」
「たぶんね」
「…茜」

茜が青ざめている。わかるのだ。母親の気が消えてしまったことが。


葉子は瓦礫の側で横たえられていた。郁未が側で立っている。。
茜が近寄ってかがみ込んだ。葉子の腹部には大きな穴があいている。とても再生できない。
か細い声で葉子が話した。

「茜…」
「…母さん」
「久しぶりね。そう呼んでくれたの…」
「…母さん?」
「…」
「!」

茜が抱き付いて揺さぶった。

「母さんっ…起きて…母さんっ!」



葉子の遺体を積むと、ヘリはいったん飛び去っていった。

「茜ちゃん…」
「…」
「…タワーが破壊されそうになった時、彼女が間に入ったの」
「…」
「全てが終わったら…」
「…はい」
「…」

七瀬は何も言えなかった。
茜の目から涙が後から後から零れて…それを澪が心配そうに見ていた。


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sect.4 end

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