新世界だよもん教!劇場版 3 投稿者: だよだよ星人

「何?…どうしたの?」

瞬く間に大きい窓のうちの五つが消えてしまった。
馬鹿な。あと少しであの女たちをこの世から消滅できたのに。

「ドッペルです。いえ。違う…ぐあああああああ」

また窓が消える。あと二つ。
一体何が起こっているというの?
魔力を持つ将軍たち。それがこんなに簡単に。
歪んだ窓の一つに敵の姿が映った。

「!?」

廃虚に立つ一人の女。白く輝いていてよく見えない。
将軍たちが闇の力を放っている。だがそれが届く前に、全てかき消えてしまう。
跳ね返しているのではなく、打ち消されているようだ。
不思議な光。画面で見ていても苦しくなってくる。猫たちも苦しんでいるようだ。
まるで聖母が降り立ったような風景だった。

『さあ猫ちゃんたち…おいたがすぎたわね』

白い光が女の周囲で輝くと、将軍たちはまったく動けなくなる。
と見る間にまた一つ窓が消えた。とうとう残りはあと一匹になってしまった。
違う。今までの相手は力でぶつかってきたから負けなかったが、この女は違う。
しかも優しく微笑んでいるではないか。

「あれは…何?」

瑞佳にはそれがわからなかった。あれは誰だ?葉子ではない。
横にいた少女が光を見て苦しみはじめる。

『ぐぐうううううううっ』
「みさおっ」
『ぐっぐああああああっ』

みさお…だったそれは形をとどめることができない。
奇怪な姿に崩れはじめ…やがて塵になった。

「そんな…そんな馬鹿な」

窓を通しても伝わってくる力。
瑞佳は必死に思い出そうとする。里村葉子ではない。巳間晴香でもない。
だが…あと一人…いやそんなことはありえない。
あの女はこの世界にはいないはずだ。
だが窓に映った女。笑いながら金色の猫に近づくこの女の顔。いけない!

「逃げなさいっ!」

だが猫は魅入られたように動けない。
女は大猫の背中に片手を当てた。閃光。そこで全ての窓が閉じてしまった。



「ギャアアアアアアアアッ」

最後の猫が小さくなって逃げていった。
大猫がみんな消えてしまった。まるで夢を見ているようだ。
横倒しになった鉄塔にしがみついたまま、きょとんとする七瀬と茜。二人とも顔は埃だらけだ。
向こうから女が近づいてきた。

「大丈夫?」
「…」
「母親の顔を忘れたの?」
「おっおっ…」
「留美…」にっこり
「お母さんっ!!」

七瀬が抱きついた。お母さんお母さん。え〜ん。泣きじゃくっている。

「ほらほら…ちいちゃい子供みたいねえ。留美は」

そこでぱっと顔を上げる。興奮して話しまくる七瀬。

「どこに行ってたの〜っ!ずっといなかったのにいきなり現れてびっくりしちゃったわ〜っ」
「うふふ…」
「ねっどうやって猫をやっつけちゃったの?嘘みたいっ手品みたいっすごいわお母さんっ」
「ええと…」
「…ありがとうございました」
「ああ。あなたね。葉子の娘さんて」
「…はい」
「そうだ。葉子に会いたいの。どこにいるか知ってる?」
「そんなことより先に私の質問に答えてよ〜っぷんぷんっ」
「はいはいはい…それじゃあとりあえず下に戻りましょうか」
「あ〜お母さんっ置いてかないでよ〜っねえってば〜っ」

茜を残して、七瀬は母親の後を追いかけて行ってしまった。

「…お母さん子だったんだ…留美って」

でもさっきのあの力。いったい。あれは何だったのだろう。ドッペルなんてものじゃない。
そうだ。聖の属性の力。HTフィールド。
前に話には聞いたことがあるが、見るのは初めてだった。



「…郁未…」
「予想外だったな」
「…生きているとは」
「君が始末したと思っていたが」
「…」
「娘さんがドッペル化したら、君が出ていって猫を皆殺しにする。シナリオではそうなっていたはずだが?」
「…はい」
「君は娘さんをドッペルにしたくなかった。違うかい?」
「娘が生き残るためにドッペルは不可欠です」
「君は母親を殺したそうだが」
「!」
「君も恐いんだろう?娘に殺されるのが」
「…」
「ふ…まあいい。あとはあの坊やがどこまで頑張ってくれるかだ」
「…はい」
「結界が消えた時…手に入れるんだ。魔法の猫を」

男は椅子から立ちあがると、金属製の腕で葉子を抱き寄せた。



なんだ?ここは…
気がつくと周りは霧に包まれていた。
前の方にぼんやりと壁が見える。近づいてみると硬い石の壁で、霧で濡れてしっとりとしている。
上を見ると…いやよく見えない。この壁はどれぐらいの高さなのか。
壁は少し湾曲している。かなりの大きさだが、円柱のようだ。なるほど…

「どうしろって言うんだ」

マニュアルも何にもなしで海外ゲームやらされてる気分だ。
もちろん俺がいくら鈍いやつだといっても、これが例のタワーだということぐらいわかる。
それにしても…転送機にマーカーか。評議会が持っている技術力は普通じゃないな。
まあいい。あの連中が何をたくらんでいるか知らないが、せっかく来たんだ。
とりあえず入って見よう。入り口入り口…と。

浩平はぐるぐると壁に沿って回った。用心深く。ポケットから取り出した銃を握り締めて。
だが、敵らしい姿は見えない。まいったな。敵を倒して鍵を手に入れる。RPGのパターンだが。

「うわっ!」

いきなり目の前に扉が出現した。
手を触れただけで開く。
ギイィィィィィィィイイッ

どこかで瑞佳が見ているのか。
…でも行くしかないな。

浩平は中に足を踏み入れた。

広い広間。磨き込まれた石を敷き詰めた床。鏡のような壁に自分の姿が映っている。
どこかで金属が弾きあう音が聞こえる。高い周波数の…断続的な音。
…キンキンキン……風に何かが揺れてぶつかり合っているようだ。
見上げると天井はなく、ずっと上まで吹き抜けになっていた。遥か上に光が見える。
四角い穴があちこちに開いているが、そこから見える空は曇っていたり、晴れていたり様々だ。

広間の向こう、正面の壁に大きくて重そうな扉があった。
近づくとまた勝手に開く。
ズズズズズズズゥン…
次の部屋に入ると、真正面に広い階段。幅20mぐらいあるだろうか。
その上に踊り場があり、その向こうにそのまま階段が続いている。
馬鹿な。あんなに先に伸びていたら階段が壁を突き抜けて…しまうはずだ。
だがそのまま次の踊り場…また階段…踊り場…階段…この繰り返しだ。
遥か先はもう霞んで見えなくなっている。どういう構造になっているのか皆目検討がつかない。

他に上に行く方法はなさそうだった。しょうがない。階段を登りはじめる。
ここでいきなり段が平らになって滑り落ちるとか…
何回登っても同じ位置とか…
だがそんな心配は無用だった。気がつくと俺はかなり上まで来ていたのだから。
振り返ると今度は下が霞んで見えない。まだほんの少ししか登っていないのに。

それにしても…なぜ敵がいない?
まさか…司令部には…八将軍が全員攻めてきていた?
いけない。こんなところにいる場合じゃない。いやもう間に合わないかも。

浩平は胸のピンを弾く。だがうんともすんとも言わない。この通信機ではだめだ。

「浩平」
「!」

いきなり声がした。上の踊り場に女が立っている。

「…瑞佳」
「待っていたよ」
「おまえ一人なのか?」
「そうだよ」
「…やはりそうか」
「でも安心して…司令部は無事だから」
「なぜだ」
「将軍たちはみんなやられちゃったもん」
「何だって?」
「留美ちゃんのお母さんが来てたんだね。ずるいよ」
「…」
「あれに勝てるわけないもん」
「あれ?」
「そうだよ。あれはあっちの領域のものだよ」
「…意味がわからんのだが」
「そんなに心配だったら、これを使ったらいいよ」

カラカラカラン…
瑞佳が投げてよこしたもの。小さな丸い金属。

「知ってたけど、ずっと付けてあげてたんだよ」
「…マーカー…?」
「これなら亜空間通信ができるからね」
「…」

だが浩平が拾おうとすると、それはぐしゃりとつぶれた。

「!」
「うふふ…」
「瑞佳?」
「だめだよ浩平…もうどこにも行かせないよ」
「瑞佳…おまえ…」
「うふふふふ。茜のところなんか…」
『そうだよ。どこにも行っちゃだめだよ』

もう一つの声。瑞佳の横に白い影がゆらめいた。
それは徐々に固まると、少女の形になった。

「!…おまえ…」
「忘れたの?お兄ちゃん」
「…馬鹿な…おまえは」
「そうだよ。私は…みさお…みずか…みみみずみさみずみさみみみさおみずかさおさおさお…」

声が重なっている。だが間違いない。あの世界にいた少女。
浩平は首を振った。そんなはずはない。
俺がこの世界に戻ってきた時に消えたはずだ。

『消えなかったんだよ』
『後から来たんだよ』
『でも居場所がなかったんだ』
『だからお姉ちゃんのところに行ったの』
『お姉ちゃん苦しんでたからね』
『お兄ちゃんが先に公園に行ってしまったから』
『あのひとのところに』
『あの女の』
『ところに』

バシィッ
何かが裂ける音がした。少女の口が耳まで裂けた。
黒い影が部屋中に広がっていく。
瑞佳が倒れる…崩れて消えてしまった。
これも本体じゃなかった。

「おまえ…」
『それは抜け殻』
「本物の瑞佳はどこだ!」
『うふふふふ』

黒い影が浩平を飲み込んだ。

「…!」
『無駄だよ。お兄ちゃん』
『無駄だよ。浩平』

引きずり込まれた。


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sect.3 end

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3と4を続けてお送りします。毎度のことですが、長くてごめんなさい。