浩平とドライブする。 「行くぞ」 「うん」 朝の光に白く輝くビル街。まだ少し夜の色を残した空。 もう起きている人たちがたくさんいる。これから家に帰る人もいるのだろうか。 少し眠い。昨日は夜更かしをしちゃったから。 「寝てていいぞ」 「うん。でももったいないから」 高速に乗り西へ。 ただ走るだけ。本当にただのドライブ。 私たちはそういうのが好きだ。行き先を決めずに出たりする。 これからどこまで行くのか誰にもわからない。 後ろに乗せた籠の中にはメイが入っている。 みゅーから数えて3匹めの家族。 真正面、西の方角に山。霞がかかって青いが、ちらほら紅葉が見える。 もうそんな季節なんだ。ジープで良かった。山を見るなら屋根は余計だもの。 「山へ行くか」 「同じ事考えてたね」 「なかなかやるじゃないか」 「当然」 とりあえず最初の行き先は決まったね。 「腹減ったな」 「まだ走りはじめたばっかだよ」 私は笑いながら、バスケットからフランスパンを取り出した。 給食マーガリンを塗って渡す。もぐもぐ噛む浩平。 「うまい。朝はやっぱりこれだな」 「小学生みたいだね浩平」 「そうか?」 でも一緒に食べる私もおいしいと思う。 うん。おいしい。 「さすがに朝からてりやきでもないだろ」 「それはもう無理」 どうしてあんなにてりやきばっかり食べてたんだろう。不思議だ。 不思議な生き物だった。私という存在は。 西行きの高速はこの時間はまだ空いていて、とても快適だった。 でも反対車線は既に車が多い。働いている人たち。 私たちも普段は働いている。でも今日は二人で休みをとったから。 毎日通っている工場が向こうに見えてきた。 「見えてるな。おまえんとこ」 「うん」 いつもは電車だから変な感じだ。まだこの時間は誰もきていないだろう。 最近はラインも空いていて、あまり景気は良くない。 だから晩は止まるようになったし、こうやって休みもとれる。 あまり喜んでいいことじゃないけど。 「紅葉綺麗だといいな」 「少し早いかもしれないぞ」 「そう?」 雲がところどころで、少しずつ山にかかっている。 上は結構寒いかもしれないな。ジャンバー持ってきて良かった。 それより遭難が心配だ。 「今日はまっすぐ走ってね」 「俺がいつもまっすぐ走ってないみたいじゃないか」 「…走ってない」 浩平すぐ河原とかにジープ乗り入れちゃうから。 まあ浩平に言わせると、ジープ乗りはみんなそうらしい。 わざわざ崖に向かって言ってウインチを使ったりするのが好きなのだ。 まあ昔からわけわかんないのはお互い様だけど。 赤い鉄橋が左手に見えてきた辺りで高速を降りる。左手に清酒工場が並んでいる。 少し行くと右手に曲がって登山口を目指す。 JRをくぐると傾斜がきつくなってきた。 さらに私鉄を越えると背中に押し付けられる感じになる。 ジープは格好の割に馬力がない。 「大丈夫かな」 「大丈夫だろう」 「本当?」 「たぶん」 「………」 大学の横を通ってケーブルを過ぎてさらに登る。 まあこの時間なら上りはすいている。後続に気を遣う必要はない。 ゆっくりと、だが確実に登っていく。 「久しぶりだねここに来るの」 「昔はよく夜景見に来てたもんな」 「うん」 私ときたら、山上のレストハウスにてりやきがないので泣いて騒いだのだ。 いま考えると顔からマグマが吹き出る。 ふと横を見ると浩平がにやにや笑っている。 「痛っ」 「何思い出してるのよ」 「くっ…何でわかるんだ…」 「野性の勘ってやつかな」 確かに私は勘が鋭い。まあ小さい頃から何かと敏感だった。 だから動物とは仲が良かったけれど、なかなか人間とはうまくいかなかった。 それが今の母との間で結構ぎくしゃくしてしまった…理由の一つだったと思う。 ペットが新しい飼い主に馴染まない…傍から見ていたらそう見えただろう。 「おっ紅葉だぞ」 「本当だ。すごーい」 幌を外したジープからは、360度全部パノラマだった。 どっちをどう向いても山が見れる。 赤や黄色が混じった木々はとても綺麗だった。 山のなだらかな起伏も良い味を出している。 う〜ん。これはメイにも見せてやらないと。起きてるかしら。 「メイ、メイ、起きてる?」 籠を開けると、中で丸くなっている。少し元気がない。 「元気ないよ」 「寒いからかな?」 「そうかもね」 私はメイを抱っこすると景色を見せてあげた。 「ほら、綺麗でしょう?」 「……」 メイはきょとんとしていたが、しばらくすると首をきょろきょろと動かしはじめた。 リードを付けて放ってやると、車の中を前へ後ろへと動きまわり始める。 「なんか大丈夫そう」 「耳がつんとしてたんじゃないのか?」 「あっ…そうかな」 私も耳がおかしくなっていたので唾を飲み込んだ。 結構高いところまで来た。左廻りの大きなカーブ。 もうここまで来ると遠い北の山々が見える。あと少しでT字路だ。 「あっという間だったな」 「もっと紅葉見たくなったね」 「じゃあ展望台行ってからその先へ抜けよう」 「うん」 T字路で右に曲がる。そのまま展望台の方へ。 見晴らしは最高だ。朝のこの道は車も少ない。 回転レストランの下に車を停めて降りる。 「おいでメイ」 「……」 リードを引っ張るとついて来る…当たり前か。 犬と違って離すとどこに行くかわからないから仕方がない。 それでも嬉しそうだった。考えてみたら山に登るのは初めてだね。 「誰もいないな」 「そりゃそうよ」 平日の朝っぱらからこんな所にいるのは私たちぐらいだ。 遠く街を見下ろす。海の手前。ミニチュアの街。 ぼんやりと朝の空気に包まれた、でもそろそろ動き出した生活たち。 「さてと…コーヒーでも買うか」 「うん。あそこにあるよ」 缶コーヒーを買ってから、再び東へ。 メイはもうすっかり起きてしまって、じっとしていない。 うまく言えないが楽しそうだ。私にはなんとなくわかる。メイがはしゃいでいるのが。 紅葉がこちらでもよく見えた。山が遠く近く彩りを変えていく。 ご機嫌だった。空の青さとよく合って、いくら見ても飽きない。 結構冷える。車を停めて二人ともジャンバーを羽織る。 幌を被せてヒーターを入れればいいのだが、今日は天気が良い。もったいない。 「さて…この向こうに良い『道』が…」 「だめよ今日は」 「うううっ」 「だってメイがいるんだもの」 「そうか…そうだな」 途中で北に抜ける道に来たので曲がった。 ここまで来て、まだ2時間ぐらいしか経っていない。 「いっそのこと日本海まで抜けるか」 「カニ食べる?」 「それもいいな」 「温泉とか」 「日帰りで?まあいいだろ」 「…」 「…」 私たちはよく途中でどうしたらいいかわからない状態に陥る。 もっともそれはしたいことがわからないのではない。あれもこれもいっぺんに思いつくからだった。 そんなことをしているうちに、気がついたら川べりをがたごとやっているのだ。 そしてどこにも行かないまま帰ってきてしまう。 誰かにどこまで行ったのって聞かれても「河原」と答えるしかない。 「うふふっ」 「何笑ってんだよ」 「だって可笑しいんだもん」 「変なやつだなあ」 浩平も笑っている。 そうだ。行けるところまでどこまでも行こう。ゆっくりと考えよう。 まだ朝の9時前なんだから。 つづく −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− どうもです WIL YOUさんのボードで質問の答えを考えてたら、繭と瑞佳メインを書いてないことに気がつきました。 とりあえず、だよもん教を瑞佳メインということにして(こらこら)繭でちょっと考えて書いてみました。 でも無理があったようです(TT)どこが繭なんだ。これのどこがっ。 設定としては、以前書いた4 YEARS AFTERの続き。瑞佳と茜に冷たくされて落ち込んでいた浩平が 同窓会ですっかり大人になった繭に再会して、つきあいはじめて、いつのまにか結婚していた…という話です。 オチもなければ盛り上がりもない、どこに行くのか登場人物はもちろん書き手もわからんという(笑) くそ長いだよもん教の合間に読んでもらえれば嬉しいです…でもあれ…次はいつ載せようかしら(--;