新世界だよもん教!劇場版 2 投稿者: だよだよ星人

奇怪な風景。水晶のような空間。液体か固体か判別できない物質で満たされている。

「座標を確認せよ」
「確認」
「撃て」
「撃破確認」
「次の攻撃目標」

声があちこちで響いている。良く見ると円周を描くように、空間のあちこちに窓が次々と現れると、
戦況を報告してはまた消えていった。その中でも絶えず常駐している大きな窓が八つ。将軍たち。
中央の計測円台の上で浮遊する大きな宝玉。その上に座っている女が刻一刻と変わるそれらを眺めている。
八つの窓の一つから報告が上がった。

「ドッペル出現を確認。交戦状態に入りました」
「ぐずぐずしないことだよ」
「承知しております」
「浩平はもうどうでも良い」
「はい」

早くこの国を支配下に置くこと。それが最優先だ。
もはや今までの瑞佳ではなかった。その瞳には冷たい力が宿っている。
…やつらがどれほど抵抗したところで、あと半日ももつまい。
こちらが掴んでいるドッペルの数は二人。問題はあの女…あの組織の生き残り。
だが今の瑞佳には誰にも負けない自信があった。

「このタワーがある限り…私に負けはないんだよ。みさおちゃん」

瑞佳が話し掛けると、その横に白い光が輝き始め、幼い少女の形をとりはじめた。

『そうだね。でもお兄ちゃんのことは本当にあきらめるの?』
「まさか…でも死んだら生き返らせればいいんだよ」

クスクスと笑う。闇の影がその後ろに漂っていた。

「私には何でもできるんだよ。何でもね」
『もう一度私も生き返りたいな』
「大丈夫だよ。浩平の体の一部を使って再生してあげるから」
『うれしいっ…待ち遠しいな』

そうだよ。今度は三人で暮らせばいいんだ。そうすれば寂しくなんかない。
誰にも邪魔させない。私は今まで我慢してきたのだから。もう誰にも負けたりするものか。
過去のつらい思いだけが瑞佳の中で膨れ上がった。茜に浩平を奪われた時のつらい思い出。
楽しい思い出は闇の力で影を潜め、恨みだけが増殖していく。

「永遠なんてなかったんだ」
『永遠の世界?』
「そうだよ。永遠の世界。でも私はつくるよ」
『永遠の世界を?』
「そうだよ。そこで暮らすんだ。猫たちも連れて行くよ」
『永遠の世界で?』
「ずっとずっと暮らすんだ」

何もかも私のものだ。何もかも。

「『アハハハハハッ」』

二人の笑い声がいつのまにか重なっている。
横で笑う少女の口が頬まで裂けている。だが瑞佳はそれに気がつかない。



絶え間ない砲撃。地響き。
硝煙と肉の焦げた匂いが周りに漂う。
飛び散った血と肉の固まりがあちこちに落ちていた。

「何よこいつら。今までの連中と違うわ」

茜と七瀬はいつのまにか孤立していた。味方の部隊はあっと言う間にやられてしまったのだ。
敵の信徒達はそのほとんどが半人半獣化していて、片づけるのに思ったより手間取る。
しかもその背後にいる大きな猫。小山ほどもある。あれが将軍なのか。
さっきまでは二本足で歩いていたはずだが、これが本来の姿らしい。
ライオンなんてこれに比べれば小猫のようなものだ。

大猫が口を開けると、耳障りな声で話しはじめる。

「うまそうだ。お前たち」
「そりゃどうも」
「…嬉しくないです」

頭上から圧力を感じた。大きな岩が落ちて来る。
ドゴオオオオオオオオッ
瞬時に避けて走る。岩だと思ったものはもう一匹の大猫だった。
こんなのが八匹もいるのか。勘弁してほしい。
まだ全部集まってはいないようだが。

「茜。こりゃまずいわ」
「…はい」

七瀬が圧縮した空気を両手から放つ。
ガオンガオンッ
だめだ。いくら攻撃しても、大猫は身軽によけてしまう。
身代わりになった信徒達が次々に吹っ飛んだ。
二人の力で普通の信徒達は片づけてきたが、大猫はまったく無傷だ。
おまけに強力な衝撃波を飛ばして来る。かといって接近戦などしたくない相手だ。
逃げるだけで精いっぱいだった。
ズゴゴゴゴッ
ビルが崩れていく。大猫がもう一匹現れた。さらにもう一匹…

「そのうち全部崩れて平らになる」
「どこにも姿を隠すことはできなくなる」
「どこに逃げる気だ?」
「猫のくせに頭いいのね〜」

確かにこのままだとまずい。じりじりと包囲されている。

「普段の餌はどうしてるのかしらね…あっ!!」

七瀬が茜を抱えて跳んだ。今いた場所に衝撃波が集中した。

ズゴォォォォォンッ

粉塵がおさまると地面には巨大な穴があいていた。
傾いた鉄塔の上に二人。

「ふう…」
「…助かりました」
「礼は後よ。それより囲まれたわ」
「そのようですね」

大猫が八匹集まってしまった。色の違う猫たち。
三毛、黒、白、茶、虎、赤、灰。そして金。
上から見ると小さくて可愛らしいのに。

援軍は期待できない。かといって司令部に降りれば繭たちが巻き添えになる。

「降りてこい」
「こないならこっちから行くぞ」
「どちらから食うかな」
「俺は青い方だ」
「ワシは栗色」
「僕にも肉を残しておいて」
「にゃあああああ」
「ふーーーーーーーっ」
「絶体絶命だわ〜っ」
「…ですね」
「何落ち着いてるのよ〜っ」
「…慌ててます」
「はあっ……あっ猫が減ってるっ」
「…本当です」
「しまった!基地に降りてったんだわっ!」
「そんなっ!…まずいです」

だが基地へ向かうことができない。待ち構えている大猫はまだ一、二…五匹もいる。

「くそ〜っ澪たちが危ないわっ」
「…隙を待つしかありません」
「…待ってくれないみたいよ」

猫が鉄塔に向かって一斉に衝撃波を放った。

「きゃあああっ」
「!」

メリメリメリメリッ…ズゴゴゴゴゴゴオッ
倒れていく鉄塔。
その先端にぶらさがったまま落ちていく二人。

「わああああああああんっもういやだああああっ」
「…終わりです」



ドドドドドドドオッ
ズズズズズッ
照明が切り替わった薄暗い廊下。
壁が振動で震える。真上まで来ているのか。

「こんな時に…いったい何の用だろう」

浩平はみさきさんに呼ばれて下層エリアに降りてきた。
だがどこにも彼女はいない。

「先輩…どこにいるんだ?」

こちらから連絡をとろうとするといつもいない。謎に包まれた評議会のメンバー。
反乱軍が組織されて活動を開始した時、なぜか援助系統の核として存在した評議会。
なぜ彼女がそこに属しているのか、最初はわからなかった。

みさきさんのあの瞳…ただであんなすごいものを与えるわけがない。
そうだ。あれに映るものはすべて連中に筒抜けなんだ。
浩平はみさきと再会した時のことを思い出した。彼女は泣いていた。
俺の顔を初めて見ることができて、本当に喜んでいたのに。

「くっ…みさきさん…」

その時、曲がり角のない廊下に突然現れた影。

「こっちよ」
「…晴香さん」

淡いパープルの髪。神秘的な雰囲気。
評議会の一人…かなり上の幹部クラス。めったに会うことはない。
しかし…葉子さんと同じ年だって聞いてるから、この人も40越えてるはずなのに。
全然そう見えない…まだ30前で十分通用する。
葉子さんもそうだが、この人たちはいったい…

「みさきちゃんちょっと…これなくなっちゃったの」

どこか様子が変だ。

「だから私が代わりに案内するわ」
「…え?」
「ついていらっしゃい」

浩平が連れて行かれたのは評議会の倉庫だった。
だが、その壁の一つに晴香が触れると、扉が現れた。そこから隣の部屋に入る。
奥の部屋の中央には、金属でできた大きなシリンダーのようなものが立っていた。

「何ですか?これは」
「転送機よ」
「えっ?そっそんなものが…」
「瑞佳の本体…らしきもの。先日つけたマーカーで自動追尾しているの」
「いつの間に…」
「女神像の騒ぎの時に、捕捉したのよ」
「ええっ?」
「タワーは結界があるから入れないけど…すぐ近くには行けるはず」
「おっ俺が行くの?」
「大丈夫よ。テストはしてないけどね」
「ちょっちょっと待ってっ」
「じゃあね」

ドンッ
体を押された。シリンダーのドアが閉まる。ガチャッ

「やっ止めてくださいっ!ちょっと」

ドンドンドンッ
中からいくら押しても開かない。

「止めてくれーーーーーーーっ!」

ガラスの向こうの晴香に叫ぶ。だが聞こえていないようだ。
にっこり笑って手を振っている。すぐに機械音が。

キュィィィィィイイイイィィィィイイイイイインッ

「わあああああああああああああっ」

真っ暗闇に落ちていった。



ガコオオオオオオオオオオンッ
キュンキュンキュンッ
ドガガガガッドガガガガツ

「侵入されたぞ〜っ」
「5、7ゲートを封鎖しろ」

各ゲートの遮蔽壁が降りてきて封鎖される。核ミサイルの衝撃にも耐える。厚さ1mはあるだろうか。
しかし…そのドアがぐにゃりと曲がったと思うと、次の瞬間吹き飛んだ。

バゴォォォォオオオオオッ

「グルルルルッ」

大きな猫。いや化け物。そのまま廊下を進んでくる。

バリバリバリバリッ
バシュゥウウウウウウウウウウウッ

銃器の類がまったくきかない。
廊下は犠牲者の肉の固まりで埋め尽くされていった。
	
「ふっ他愛もない…これなら俺一匹で十分……むっ?」

横にあるドアに気配がした。

「隠れても無駄だ…」

ガコォオン。ドアを紙のように蹴破ると中に入る。途端に爆発。

ボガァァァアアアンッ
トラップ。だが全くこたえていない。
大猫はゆっくりと近づいていくと、口を開いた。

「…女か。それも小さいのが二人」

バリケードにしたベッドの裏から人影。
繭と、急いで降りてきた澪。

「みゅ〜っ(逃げてください。澪さん)」
「…」ぷるぷるっ
「みゅ〜っ(だめです)」
「…」ぷるぷるっ

今度は私が繭ちゃんを助けるの。だから戻ってきたの。

「ふっ…まあいい。ちょうど腹が減っていたところだ」
「…」爆弾を抱える。
「みゅ!(だめっ)」
「体当たりか?無駄なことは止めておくことだ」

大きな口を開けて笑った。鋭い牙が並んでいる。

「…」澪の目が繭に語りかける。

このベッドは爆発の衝撃に耐えられる。ここから動いては駄目。

「みゅ…うっ…ぐぅっ」涙が零れた。

すぐ…私も行きます。澪さん。

澪は大猫に向かって走り出した。
体が接触する時、澪は爆弾のスイッチを入れるつもりだった。

「ギャーーーーッ」

えっ?

猫が突然叫び声をあげて飛びすさった。自分で壊したドア、廊下の方を見ておびえている。

「…?」

廊下に何がいるというのだ。澪も繭もドアの方を見つめる。

「きさま…きさまは一体」

大猫が目を見開いている。
ドアの向こうから光が近づいてきた。真っ白な…光。
女の人。真っ白に光り輝く。

「ぐわあああああっやめろっ来るなっ」
「あら?おまえたちのレベルでも…私の力がわかるのね」
「グワァッ近づくなあああああっ」

バゴォオッバゴォオッバゴォオッバゴォオオオンッ
猫は狂ったように衝撃波を飛ばす。普通なら近くにいる澪たちもただではすまない。
しかし…何も起きなかったかのように、静かに打ち消される。
化け物はもう身動きさえできないようだ。
近づいてきた女の手が猫の体に触れる。

「グフッ…グワアアアアアアアアッ」

光を放つと、次の瞬間、大猫の姿が消えた。
見ると元の場所に普通の猫がいる。

「ニャアアアアアンッ」

部屋の外に走っていってしまった。

「大丈夫?二人とも。危ないとこだったわね」
「みゅ…」
「…」こくっ

この人は…?年がわからない。でも髪の色。顔形。
お姉ちゃんに…似ている。

後から入ってきた晴香。

「無事で良かったわね。ちびちゃんたち」
「…」こくこく
「みゅ〜っ」
「入ってきたのはこれで全部片づけたわ。晴香…彼は送ってくれた?」
「ええ…もとの座標でね。転送機も壊しといたわ」

晴香が声を落とす。

「…本当によかったの?」
「悔しいけど、今はこれしか方法はないのよ」

きょとんとしている澪と繭。話が見えていない。

「行きましょう」
「そうね。葉子に会わないと」
「久しぶりだものね。あなたは」
「…そう…でもその前に」

女が振り返る。青く長い髪。

「上の猫たちも片づけときましょう。留美が苦戦してるみたいだから」


そして…女が地上に姿を現して数分後。
中崎町一帯は沈黙した。


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sect.2 end

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