新世界だよもん教!劇場版 1 投稿者: だよだよ星人

Tac倫 980918
(下に小さい文字で未承認と書いてある)

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「瑞佳?」

反乱軍司令部。地下深くに造られた秘密の拠点。
機械の振動で僅かに震える金属の壁。静まり返った廊下で向かい合う二人。

「生きてるよ」

それを聞いた時、浩平は嬉しかった。
だが同時にやりきれない思いがした。

「…そうか」
「どうするの?浩平君」
「行くしかないだろう」
「そうだね。でも倒せるのかな?浩平君に。長森さんが」
「…つらいこと言うね。みさきさん」

みさきの青い透き通るような瞳。
浩平の姿をくっきりと映すそれは、最高のバイオ技術が造り上げた人工の宝石だった。
先輩。みさきさん。
その輝く高純度の結晶に、俺の顔はちゃんと見えているのかい。
それは俺の苦しみをちゃんと先輩に伝えているのかな。

「倒せないよ。浩平君」
「…正気に戻すさ」
「戻らないとしたら?」
「どういう意味だ」
「あれはもう長森さんじゃないよ」
「なぜそんなことがわかる?」
「言えないよ」
「先輩…瑞佳は…どこにいるんだ?」
「それじゃあね。浩平君」

カツンカツンカツン。廊下に響くみさきのハイヒールの音。紺色のスーツが遠ざかる。
残された浩平はそのまま立ち尽くした。彼女を追うこともできない。
もうそれ以上聞いても無駄なようだ。

だが、みさきがリニアEVを止めると、後ろから一緒に乗り込んできた…女。
一見普通のジャンパーだが、防弾防熱。ポケットには炭素繊維がしこんである。
茜ちゃん…お願いだからそれで私の首を切らないでね。

「酷ですね」
「…茜ちゃん。聞いてたんだね」
「何故わざわざ本当のことを教えるのですか?」
「…不思議かな」
「教えれば彼が行かないとでも思ったのですか?」
「…ううん。でもその場で知るより…いいはずだよ」
「そうでしょうか」
「彼は待ってるような人間じゃないからね」
「また私たちが待つわけですね」
「つらい?」
「…いいえ」
「あなたは殺せるの?長森さんを」
「…殺します。もし…」
「浩平が殺されたら…ね」
「…はい」


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title:新世界だよもん教 劇場版 - Remix - 

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「…七瀬はここだよな」

ドッペル発現後の七瀬は、揺り戻しに備えて瞑想室に入っていた。
初めてか、あるいは久しぶりに大きな力を使った後は、その反動も激しい。
だから瞑想をしながら徐々にたまったものを解放していく。そのための場所。
浩平はキーにカードを通すと、暗い部屋の中に足を踏み入れた。
壁と天井、そして床にまで青白い照明が施されている。
MINMES MkIII。
部屋の中に鎮座する大きな金属製のポッド。窓から中が見える。
七瀬がポッドの中に満たされた水の中で、膝を抱えて眠るように静かに漂っている。
青い髪が不思議な色に広がって綺麗だった。
…今は話しかけてもだめだな。
だが部屋を出ようとした時、どこからか声がした。

『用事があったんじゃないの?浩平』
「いいのか?七瀬」
『ちょっとなら大丈夫よ』
「…」

頭につけている特殊なカチューシャは、能力者の意志をそのまま信号に変えてスピーカーに伝える。
水の中でも会話ができるのはそのためだ。もちろん水も酸素を含んだ特別なもので、肺で呼吸ができる。
薄いボディスーツ。ほとんど裸と変わらない姿で、窓から彼を見ている七瀬。
端正な顔。綺麗な体の線…まるで人魚のようだ。神秘的な美しさに見とれてしまう。
このままずっと入っていれば、別の仕事ができそうだな。いい小遣い稼ぎになるぞと浩平は思った。

『また変なこと考えてるわね?』
「いけね。今は勘が鋭いんだな」
『馬鹿』

気のせいか頬が赤い。まあ何も隠すことはないか。お前は綺麗だよ七瀬。
もともと綺麗だったけど、久しぶりに会った時はマジに驚いたっけ。
見てるだけならお前が文句無しに一番だ。
…まだ考えがわかるのか、頬を赤くしたまま浩平を睨んでいる。

「瑞佳のことなんだが」
『はあ…茜が不憫でしょうがないわ』
「…」
『あんたときたら寝ても覚めても瑞佳瑞佳』
「しょうがないじゃないか。あいつを何とかしないと」
『それだけじゃないくせに』
「あのなあ。時間がないんだ」
『はいはい…わかってるわよ。で?何が聞きたいの』

くるくると水の中で回る七瀬。揺れる髪が水面からの光を反射して、虹色に輝いた。
体の起伏が不思議な影をつくる。乳房、肋骨、腰の輪郭。

「あいつは…今どこにいるんだ?」
『みさきさんに聞いてないの?』
「教えてくれるもんか」
『そう…』

七瀬が一瞬ためらったように見えた。

『たぶん…あのタワーよ』
「タワー…って、まさか…?」

埋葬の塔。ヒューネラルタワー。聞いたことがある。
その驚異的な高さはまだ正確にはわかっていない。計測不可能な奇跡の塔。
しかもその高さにもかかわらず、重力計算を考えても到底信じられないような形状をしているという。
八将軍はここから降りてきたのだ。瑞佳が引き連れて。魔界と言う名の異次元から。

そこは瑞佳と八将軍以外の生き物は入れないようになっている。強力な結界があるようだった。
タワーそのものは肉眼はもちろんレーダー他一切の探知ができない。
かなり近くまで行けば見ることができる…らしい。
工作員たちからの連絡で存在は確認されているが、その後誰一人として帰ってこなかった。

「おまえ…タワーの場所がわかるのか?」
『まあね…ぼんやりとだけど』
「瑞佳は生きているのか?」
『…たぶんね。ここからでも波動を感じるの。力が覚醒してからずっと』
「先輩は前と違うって言ってたが?」
『確かに違うわね。あきらかに波動が邪悪になってるわ』
「波に邪悪も糞もないだろう」
『わかってないわね。あなたも私も所詮は波のようなもの。少し狂っただけで全然違うものになるのよ』
「難しくてわからん」
『問題はその本質ね。瑞佳が本当に発しているものなのか、あるいは…』
「あるいは?」
『瑞佳を似せて造った、共鳴する音叉のようなものか』
「偽者か」
『でももとは一つのはず』
「本物の瑞佳もそこにいるんだな?」
『さあ。どうかしらね。前に女神像の下敷きになったのが本物かもしれないわよ』
「いや。あれは違った」
『やけに自信があるのね』
「あるさ」

そうだ。あの時、繭が撃たれた時に泣いていた瑞佳。瞳の中に見えたのは本物の瑞佳だった。
恐らくタワーのどこかに閉じ込められているはずだ。どんな方法でかはわからないが。
何とかしてタワーへ行かないといけない。だが通常の方法では無理だ。だって見えないのだから。

「七瀬…座標を教えてくれ」
『そこまで掴めないの。それにあの塔は…時々動いているのよ』
「そんな…信じられん」
『さっまた瞑想に入らなきゃ…悪いけど』
「ああ。邪魔して悪かった」
『浩平』
「…ん?」

出口のところで振り返る。

『愛してるわ』
「…俺もだ(笑)」
『無茶しちゃだめよ』
「わかってる…じゃあな」

七瀬は静かに目を閉じる。でもなかなか心の揺れが静まらない。
浩平。馬鹿な奴。大馬鹿だわ。
そして少しだけ自分を抱きしめた。



「前に娘さんに会ったのはいつだい?」
「2年ぐらい前だと思いますが」
「君に似て美しくなってきたようだね」
「恐れ入ります。でもまだまだ子供ですわ」
「いやいや。力の方もすばらしい…君自身で試したことはあるのかい?」
「いえ…まだです」
「ふうん。なんだったら、会ってきたまえ」
「…」
「殺さぬ程度にね」
「…わかりました」



茜がマンホールから町に出た。司令部へと続く秘密の出入り口。
と言っても迷路のように入り組んだ道をかなり移動しなければならないが。
既にこの辺りは前の戦闘でほとんどが廃虚になっていた。
落ちた高速道路が、あちこちで川の流れをせきとめている。

「…?」

今日は偵察に来た。だが…外に出た途端戻りたくなった。
あまりいい気持ちがしない。何となく落着かない。
そう。微妙に空気が乱れている感じ…これは前にも感じたことがある。
近い波長のものがいて、干渉し合っているのだ。

「どこ?」

周りを見回す。しんと静まり返った川沿いの旧官庁街。
忘れられた遊歩道の花だけが、風に揺れている。

サワサワ…
サワサワ…

気がついた時には足元の地面がなくなっていた。
一瞬で移動すると、建物の陰に隠れる。
頭上で光がほとばしった。残っている電線が切れてスパークしている。
そして誰が敵かはもうわかっていた。

ドグァアッ
石造りのビルの壁が何か大きいものにえぐられたように吹き飛ぶ。
茜は建物の上に飛んだ。
どこにいるの…?
居場所がわからない。力の飛んで来る方向が巧みに変化するのでトレースできない。
ドグァアッ
ドグァァァアアアッ
常人では見えない速さで移動する茜。だがその後を巧みに衝撃波が追いかけて来る。
だが、茜もいたずらに走っているわけではなかった。ある一定の弧を描いて移動し、
爆発のタイミングから距離を測っていた。
大体あの辺りのはず……んっ!
高速道路の上…微妙に歪んだ空間が移動している。
そこか。
…いいだろう。とっておきのやつをお見舞いしてあげるわ。

走りながら右手に力を凝縮する。それを左手で反動をつけて…
振り返りざまに放った。
カッ
一瞬体が光る。飛んでいく光の弾。
バゴォォォォォォオオオッ
歪みの前後に渡って大爆発が起こった。おちてゆく道路。

ズズズズズズゥゥゥウウウッ
ザッパアアアアアアアアアアアアンッ
高く上がる水飛沫。その後で雨のように降って来る。
できた虹の上から飛び降りてきた者。白いスーツ。翻るスカート。
栗色の髪。碧色の瞳。茜と同じ。
彼女は橋の欄干の上に軽やかに立っている…重力など関係ないかのように。

「随分無駄な力の使い方ね…茜」
「…何しにここへ?」
「遊びに来たように見えるの?」
「…見えます」
「まあ…せっかく娘に会いに来たのに…冷たいわね」

茜の母親…里村葉子。旧姓鹿沼。

「評議会のメンバーがこんなところをうろついて…父さんはよく許しましたね」
「あら…もちろんお父さんには何も言ってないわ」

葉子はふわっと飛び降りると茜を向いて笑った。

「言う必要ないもの」
「…あいかわらずですね」

副議長の父さんも知らない…一体誰の命令で彼女は動いているのか。
それがわかれば動きやすいのだが……まさか…!?

「その程度では死ぬわよ茜」
「…今ごろ訓練ですか?」

茜の前の空気が歪む。レンズが入ったように。風景が歪んでいく。

「ドッペルになれない限り、彼を助けることはできないわよ」
「…帰ってください」
「よく考えてみることね…あなたには力が足りないわ」
「足りないかどうか…味わってみる?」
「坊やの身に何か起こらないと…無理そうね」
「!」

拳を握り締める。

「彼に……手を出したら」

パチッ…パチパチッ…茜の体からエネルギーがほとばしった。

「…許さない!」

至近距離で解放する…閃光…衝撃波…
時間が経ち視界がきくようになった時には、橋はもう跡形もなかった。

「…嫌な女」

離れた場所で辺りを見回すと、茜は歩き出した。
それを崩れた公会堂の屋根から眺める葉子。

「育てかた間違えたかしらね…」

その時、襟元のピンが低い音で唸った。高速言語。

「…そう。ついに来るのね…いよいよ本番ってわけ?小猫ちゃん」



反乱軍司令部の中に設けられた医療センター。その中の一室。
白かったはずの壁は、あちこち落書きだらけになっていた。食事を持ってきた詩子がため息をつく。

「もう二人とも…どこにでも落書きして〜!」
『楽しいの』にこっ
「みゅ〜っ」
「あっこらそこに書くな〜っ」
『いいの』にこにこっ
「みゅみゅ〜っ」
「…はあ…幼稚園だわ。ここ」

ベッドで繭がおとなしくしていたのは最初の三〜四日だけだった。
驚異的な回復力…今では傷もすっかり塞がっている。ドクターの話だと急所をはずせたのは偶然ではないらしい。
なぜなら、繭が撃たれたのはこれがはじめてではないからだ。
過去に何度も撃たれ、その度に野性の勘で致命傷にならないぎりぎりでかわしてきたのだ。

入院してからは、ずっと澪がよりそっていた。無理もない。繭は彼女の身代わりになってくれたのだから。
最初は澪もつらい顔をしていたが、繭がすっかり良くなったので今では明るさ百倍。毎日一緒に遊んでいる。
今日の繭は黄色のパジャマ、澪は紺色のオーバーオールに赤色のセーター。

「ほら。早くしないと冷めちゃうわよ」
こくこくっ
「みゅ〜っ」

ちょこんとベッドに座ってトレイから食事をする繭…澪はその横の椅子で食べている。牛乳をごくごく。
詩子はその間に、落ちていたクレヨンを拾って片づける。

「そういえば茜見なかった?」
ぷるぷるっ
ほえ?
「…そう。見てないのね。やっぱり外に出ていったのかな」

ここに来てから、山葉堂とまではいかないが、甘いものをたらふく食べた茜は、力が有り余っている感じだ。
茜ったら…そのうち飛び出していくだろうとは思っていたけれど…しょうがないなあ…
詩子も実は外に出ていきたかったが、一般の人間である彼女には簡単に許可など出ない。

「理由つけて一緒に出てもらおうと思ってたのに…」

もちろん今日は一緒に出ない方が良かったのだが、そんなことは知るはずもなかった。


突然サイレンが鳴り響いた。

「え?」
「!」

壁の赤い警告灯が点滅する。さっきまでの穏やかな空気が消えてしまった。

「何?どうしたの?」
「みゅ〜っ(敵の攻撃です)」
「何ですって?」

澪が詩子の袖を引っ張る。

『ここにいるの』
「澪…気をつけてね」
こくこくっ

部屋を飛び出していく。途中で戦闘服に着替えて作戦室へ。
集まっている主力メンバー達が全方位ディスプレイを見守っている。
そこに映っている敵の部隊…今までにない規模だ。一目で総攻撃とわかる。

「茨木、制圧されましたっ」
「松原、撤退です」
「箕面、応答がありません」

司令の髭が唸る。

「んあ〜。いかんなあ。これじゃあ」


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sect.1 end

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