さよなら 投稿者: だよだよ星人

天使の姿でみさきさんが降りてきた.
ふわふわふわ.雲一つない青空から.
純白のドレス.背中から真っ白な翼.輝く光の翼だ.
とても綺麗だった.うまくいえないが.とても似合っていた.
そして光を吸い込むような、濃紺の瞳.
俺はただ見とれていた.

「浩平...君」
「...先輩...天使だったのか...」
「知らなかったの?」
「うん...そうか...だったらもう大丈夫だな」
「どうして?」
「もう俺なんかいなくても...天使なんだから...大丈夫だ」

俺は寂しかったけれど、先輩が天使に戻れたんだから、満足だった.

「浩平君...」

彼女は少し上に浮かぶと、俺をやさしく抱きしめて、そっとキスをしてくれた.
そしてそのままふわふわとまた上に昇っていった.

「さよなら〜っ浩平君」
「先輩っ!!」

がばっ

「......またか」

俺は目を覚ました.また同じ夢.ここんとこ毎日.

「...ったく縁起でもない」

天使の夢で縁起が悪いというのも不思議だが.
たくさん食っていいから...カレー何杯おかわりしてもいいから...頼むから天使になんかならないでほしい.


俺がいつもの待ち合わせ場所...校門前、すなわち先輩の家の前に行くと、もう先輩は待っていた.
おわっ今日は青いキャミソールだ.いっいったいどうしたんだ.先輩.肩がまぶしいぞ.

「せっ先輩」
「浩平君...足音でわかったよ」
「そっそれより...その服は...」
「雪ちゃんがこれにしろって...これで一発だって言ってたから」

...一発どころか百発くらった気分だ.頭がくらくらしている.

「おかしい?」
「いっいやっ全然おかしくない.むちゃくちゃ素敵だよ」
「うふふ...本当だと嬉しいな」

いかん.顔が熱くなってきた.
とっとりあえずどこに行くか考えないと.

「今日はどっか行きたいとこあるかい?先輩」
「海に行きたいな」
「よしっじゃあ電車に乗ろう」

駅で切符を買うと二人で改札へ向かう.もちろん自動改札は避けて...わあああっ

「せっ先輩.そっちは自動改札だよ」
「...一度でいいから通ってみたかったんだよ〜っ」

すんなり出てきた切符を取ると、抜けていく...良かった.
でも本当はドキドキしていたんだろう.
反対側で迎えた俺の手をつかむと、ほっとしたように見えた.
先輩の手を引くと、ホームまで行って電車を待つ.

...と、前を行く人の中に、白い杖を持った人がいる.

「......」

慣れたようにその人はホームにそって歩くと、やってきた各駅停車に乗った.

「先輩...」
「何?」
「先輩って杖持ってないよね...?」
「持ってるよ〜っ」
「でも見たことないけど」
「浩平君と会う時は浩平君が杖代わりだよ」
「...そっそうか」

急行が来たので乗り込む.

「涼しいね」
「本当だ」

...ん?...あれっ...

「先輩...」
「...なあに?」
「えっと...みんな見てる」
「...どうして?」

客の何人かが先輩の方をちらちら見ている.
だが先輩は自分が見られてるってことは...わからない.

「先輩にみとれてるんだ」
「ふふっ嬉しいよ.お世辞でも」
「お世辞じゃないって」
「うん.ありがとう」

にっこり.ふわっとした笑顔.
かなわないな.どうしたらわかってもらえるんだろう.
いつもそうだ...先輩と歩くと、結構人目を引く.ふしぎな雰囲気.ふしぎな空気.
でも今日は服の効果もあって、いつもより注目の的だ.
先輩...こんなに可愛いのに.視線を感じられないなんて...わかんないなんて.

「...どうしたの?浩平君」
「えっ?...あっああ.いや...」

もし先輩の目が見えていたら...俺と先輩は出会わなかったかもしれない.
俺もこの世界へ帰ってこれなかっただろう.いやそもそもあっちの世界にさえ行かなかったかもしれない.
あいかわらず、そこそこ楽しいが宙ぶらりんな毎日を続けていたんじゃないだろうか.
だから、俺にとっては目の見えない先輩でなけれなばならなかった.
変な話だけれど.

「今日は水着持ってきてるのか?」
「ううん.だってもう9月の半ばだよ.浩平君」
「あっそうだな.でも今ぐらいに泳いでる人見たことあるよ」
「えっ...本当に?元気な人がいるんだねっ」

去年の俺と住井だ.むちゃくちゃだったな.あれは.

「いい天気だ」
「うん.そうみたいだね」
「わかるのか.先輩」
「うん.なんとなくね.明るさが違うから」

光の加減は見えるらしい.そういえば昼と夜ぐらいはわかるって言ってたっけ.

「!」

電車が前後に揺れた.少し先輩がよろめいたので、腕を支えてあげる.

「びっくりしたね」
「ああ」

俺は先輩に何をあげたいって...それはもう一つしかない.
どこかのサイバーパンクSFみたいに人工眼球みたいなのがあれば...ナイコン社製だっけ.
でも現実のこの国にはまだそんなものはない.あっても手が出ないだろう.
でも現実にありさえすれば、どんなことをしても俺は手に入れるだろう.

「浩平君?」
「...えっ?」
「呼んでるのに...ひどいよ」
「あっいや...ちょっと考え事してたんだ」
「うふふふ...でも黙っちゃうと不安になるよ」
「ごめん...もうどこにも行かないから」

このセリフ...戻ってきてから百万回ぐらい言わされてるんじゃないか?
とにかく先輩と一緒にいる時は、手をつなぐかしゃべっていないといけない.そうしないと可愛らしい顔で怒られてしまう.
まあそんな先輩を見るのも楽しいのだけれど.
でもあの日の公園...一人で放り出された先輩のこと...デートをやり直した今でさえ、思い出すのはつらかった.

「...」
「...あ」

先輩は俺の手をとると、そのまま腕を絡ませてきた.やわらかい胸があたる.

「これで安心だね」
「電車の中じゃ、どこにも逃げだせないって」
「関係ないよ...浩平君の場合」

そりゃそうだ.何も言い返せない.
でも周囲の視線が気になる.
もしかして...これってよく電車の中でいちゃついてる馬鹿カップルモードでは?
だが俺には先輩の腕を振り解く勇気はなかった.そんなことしたら...先輩の方がもっと恐い...

「あとどれぐらいかな」
「10分ぐらいだろう」
「今何時...?」
「...時計見せて先輩」
「うふふ...おかしいよ.浩平君」

先輩が見やすいように自分の腕を持ち上げる.

「10時27分だよ先輩」
「うん」

先輩はよく俺に時間を尋ねる.
もちろん時計が見えないからだが、でも腕時計はちゃんとつけている.
だから時々俺は自分のではなく先輩の時計を見てあげるようにしていた.
別にたいしたことじゃないけれど.


駅を降りると海はすぐ横にあった.赤い灯台.砂浜.
海の家もたたまれ、もちろん泳いでる人なんかいない.
でもちらほらと歩いている人たちがいた.

「潮の香りがするね」
「ほんとだ」

雲が白く水平線の向こうに光っていた.波は少しくすんだ感じだ.
海鳥が水面をかすめて飛んでいる.
いつのまにか先輩が波打ち際まで歩いていく.
あっそろそろ危ないぞ.
でも止まらない...足が水に濡れた.

「冷たいよ〜っ」
「そりゃそうだって...」

二人で波打ち際を歩く.

「気をつけないと怪我するよ.先輩」
「大丈夫だよ.浩平君が連れて帰ってくれるから」
「...はいはい」

先輩の長い髪が風に揺れる.顔にかかる髪を手で払う.綺麗な横顔.海が本当に似合う.
俺は先輩が綺麗だって何度言ったかわからない.さりげなく、時には冗談めかして.
でも俺には先輩のすてきなことを、先輩に伝えきることができない.いくら言葉を費やしても.

俺の目が先輩の代わりになれば...どんなにいいだろう.
俺が先輩を見る気持ちも込めて、それが伝わったら.

砂.小石.波.流木.雲.水平線.防波堤.船.海鳥.そして先輩と俺.

先輩の目が見えて、もう俺のみさき先輩じゃなくなっても.ただ今のこの風景を見せてやりたい.
そう思った時、俺の心の中に不思議な声が聞こえてきた.

『そうだ.彼女の役×は...GA×Eで終わったは×だ.もう誰にも気を×かう必要はない.そう×ゃないか?』

「...先輩...」
「...え?」
「俺はずっと側にいる」
「...浩平君」
「だからもう目を開けてくれ」
「...」
「いいんだ.もう」
「本当?」
「うん」
「でも...」
「うん.分かってる」

彼女の濃紺の瞳に一瞬だが光が宿ったように見えた.
その時世界の色が一変して、雲も鳥もみんな褐色になって.
すべてが止まってしまった.

「さよなら.浩平君」

俺の前に問いが現れた.


「ONE〜輝く季節へ〜を終了しますか?」
はい(Y)いいえ(N)


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みさきweek参加(^^;遅いっっ

みさきさんに天使の格好をして欲しかったのと
一緒に海へ行きたかった...ただそれだけのSS(^^*

KOHさん>楽しい風呂場のシーン(*^^*)素敵です.ぱしゃぱしゃぱしゃ
T.kameさん>意外な展開にびっくりでした.いったいどうなるんだろう