「新世界だよもん教!」 投稿者: だよだよ星人

おことわり:長森瑞佳、および住井フリークの方はご気分を害される恐れがあります.

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<前回までのあらすじ>

悪魔母長森瑞佳の率いる『だよもん教』がついに日本征服の烽火を上げた.
街を覆い尽くす炎、爆発.政治の中枢まで入り込んだ信徒達による首都占拠、新政府樹立宣言.
魔術と近代兵器を駆使する信徒達によって、日本全域がその支配下におかれるまでそれほど時間はかからなかった.
日本中に蔓延する異様な猫の紋章.『だよもん教国』の印.

しかし、まだあきらめていない者達がいた.
必死に抵抗を繰り返す浩平と茜.
地下活動を繰り広げる澪、七瀬、繭.
そして浩平たちを導くみさきと、その背後で暗躍する評議会.

現人神として君臨する瑞佳がその伴侶として選んだ浩平に魔の手が迫る!
はたして浩平たちは、悪魔母瑞佳の野望を打ち砕くことができるのであろうか!!

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第24話 巨大女神像を破壊せよ


辺りに鳴り響く「だよも〜んっだよも〜んっ」の声.

「ああっうるさいわねえ.どうにかしてよ、あのうっとしい声」
「みゅ〜(そんなこと言っても無理ですよ.七瀬さん)」
『無理なの』
「ったく...夜も寝られやしない」
ここ潜んでもう何日たったろうか.
「いいかげん風呂に入りたいよ」
銃を磨きながら、七瀬がぼやく.
「みゅ〜(そうですね.でも次の連絡が入れば、移動できますから)」
「移動先の町に風呂があればいいけど」
きゅっきゅっ
澪は一生懸命ナイフを砥いでいる.
「...楽しそうね.澪」
こくんっ
きゅっきゅっきゅっ
顔を真っ赤にして砥いでいる.
その横では繭が破れた迷彩服を縫っていた.
ちくちくちくちくっ
「いい子ね...あんた達」
七瀬は小さな窓から外をうかがう.廃虚となった倉庫の3階.
夜の街のあちこちで空が赤く輝いている.
抵抗戦線はとっくに移動しているので、信徒達の燃やすかがり火だろうか.
火のまわりを猫面をつけて踊っているのを前に見たことがある.
だよも〜んっだよも〜んっと言いながら一晩中踊り続けるのだ.
「...ほんと馬鹿みたいよね」

不意に繭が顔を上げた.
「!」
七瀬が窓の蓋を閉める.部屋は真っ暗になった.
決められた通りに散る.ドアの右手に澪.左に七瀬.繭は天井裏.
「...」
何者かが倉庫に入ってきた.階段を上がって来る.
こういう時の繭の感覚は本当に役にたつ.嗅覚というか何というか、野性の勘というのだろうか.
ドアの向こうで立ち止まる気配.
「ワッフル」
「クレープ」
...茜からの?
「あすふたまるさんまる学校跡に」
「了解」
声が遠ざかった.

「やっと来たみたいね」
「みゅ〜(移動経路は?)」
「下水しかないわ.川に出てそこから公園に抜けて」
「みゅ〜(裏山ですね)」
繭は少し考えるとつぶやいた.
「みゅ〜(お墓参りしていこうかな)」
「...時間があればね」
『もう寝るの』
「そうね...明日の時間は...」
行動予定を確認すると交替で眠りにつく.
信徒達の声が遠く夜の底から響きわたってくる.だよも〜んっだよも〜んっだよも〜ん...
七瀬は眠りながら、不思議な声に闇の中に引き込まれるような気がした.
だから嫌いなのよあいつらは......


「はあっはあっはあっ」
ダダダダダダッダダダダダダッ
マシンガンの音.吹っ飛ぶ窓.
走ってビルの陰に飛び込む.
「くそっ茜とはぐれちまった」
浩平は手榴弾を投げると、近くのマンホールに飛び込んだ.
ドオオオオオオオオオッ
頭の上で爆発音.

カツンカツンカツンッ
暗い下水の中を歩く.
「ふうっまいったな」
見張り猫がいたのに気がつかなかったのが、失敗だ.
瑞佳の猫を操る力を忘れていた.まさか塀の上にいたとは.
「茜...無事に逃げ延びたかな」
まあめったなことではあいつは死なないだろう.何しろ茜には...母親ゆずりの力があるからな.
「さてと...」
まずどこに行くのか決めよう.
いくら下水の中に猫信徒達が入ってこれないと言っても、ゆっくりするわけにはいかない.
やつらは猫の習性があるために、こんなじめじめしたところは嫌いなのだ.
それでも上から爆破されたら終わりだ.実際あちこちの下水が既に破壊されていた.
「本当にネズミみたいだな俺たちは...」
下水をちょろちょろとして、猫に立ち向かう.まるでネズミのようだ.
またたびや猫だましなど数々のゲリラ作戦で何とか抵抗してきたが、あと一つ決定打に欠けていた.
なんとかして瑞佳の目を覚まさないと、このままではもたない.
しかも嫌な噂が耳に入っていた.やつらが最終兵器をつくりつつあるというのだ.
「とりあえず...集合場所へ急ぐか」
浩平は歩き出した.


ゴオオオオオオオオオオオッ
突風.
「うわあああっ」「ぐああああっ」
猫信徒達が絶叫しながら吹き飛ぶ.少女は逆方向に走った.
ズキューンッ
「!!」
腕をかすめた.狙撃されている.
空気の渦をつくって体を覆う...弾が逸れていった.
ズキューンッパフッ
ズキューンッパフッ
「...あった」
ガコンッ
マンホールの蓋が手も触れないのに持ち上がる.
まっすぐに飛び込む.また蓋がひとりでに動いて閉まった.

真っ暗な床に速度を落としてふわりと着地する.
「くっ...」
左腕から血が滲んでいた.ジャンパーの袖が破れている.
右手を当てて念を送る.暗い下水の中でそこだけがぼんやりと光りはじめた.
「......ふうっ」
血が止まり、傷口が直っていた.少し跡が残っているだけだ.
茜はあたりを見回す...浩平の居所をつかまないと.
「...だめだ」
呼びかけているが、応答がない.あまり遠くまで念を飛ばすと瑞佳に感づかれる.
しょうがない...一人で行くしかないのか.
とりあえず歩き始める.集合場所へ行けば七瀬たちとも合流できるだろう.
それにしても...
「ワッフル...」
もう何日甘いものを食べていないだろう.限界だ.
山葉堂が信徒達に占拠されていたのを見たとき、思わず怒りで吹き飛ばしてしまった.あれがいけなかった.
「...失敗です」
どこかに甘いもの売ってないかしら.蜂蜜練乳入りとか贅沢は言わないから.
評議会から物資の補給を受けてはいるものの、甘いものは小さい子達にあげてしまうのでなかなかもらえない.
「...はあ...」
力を極端に使ってしまったので、疲れてしまった.少し休もう.
非常食のカンパンを食べる.ちっとも甘くない.練乳でもあれば全然違うのに.
「...あっ...そう言えば」
集合場所...あそこに行けば甘いものがあるって浩平が言ってたっけ.
でも...もし澪や繭に先に食べられたりしたら...
「みゅ〜(おいしい〜)」
『おいしいの』
すくっ
茜は全身からオーラを出しながら立ち上がった.
「...急ぎます」


かつて学校であった場所...校舎は既にほとんど破壊され、見る影もなかった.
既に何も残っていないためか、信徒達のチェックも甘い...実際ここが前線だったのはもう2ヶ月も前のことだ.
夜の闇に紛れて一匹の小動物が走る.
シュタタタタタタッ
いや人間だ.ただ足の速さが尋常ではない.
それは安全を確認すると石をぶつけて音を出した.カチッカチッ..
「繭の合図だ.行こう」
七瀬と澪が塀を乗り越える.
シュタッ
校舎...というより瓦礫の山に隠れて進む.さっきの人影が前で待っていた.
「...繭.ご苦労」「みゅ〜(大丈夫)」
足元が崩れそうで危ない.ここが学校だったとは誰にもわからないだろう.
「行くぞ」
目標の場所は一つ.
学校の中で一個所だけ破壊を免れた場所.
例のあかずの間から降りる地下室だった.
かつて、学校が建てられる前...そこは防空壕だった.
と言っても一部の人間しか知らない.学校の有力者や関係者しか、
その後、入り口を隠して上の部屋が資料室として使われたりしたが、ある事故が元で閉鎖されてしまった.
だから誰も入ることはなかった.こんなことでもなければ.

入り口に近づくと、トラップがないかチェックする.扉を叩くが何も反ってこない.
ギイイイイイッ
繭が匂いを嗅いだ.
「みゅ〜(中には誰もいないようです)」
階段を静かに降りていくと、空気が地下室から流れ出す.どこかに喚起口があるのだろう.
ランプを灯す.ここでは明かりが外に漏れることはない.
部屋の中には弾薬.食料.他いろいろ置いてあった.もっとも以前は古いものばかりで使い物にならなかった.
手分けして徐々に物資を集めてきたのだ.

「!」
ランプを消して銃を入り口に向ける
「...誰?...」
「みゅ〜(浩平さんです)」
「よおっ」
「無事だったみたいね...ん?茜はどうしたの」
「それがはぐれちまった」
どっかと腰を下ろすと
「あ〜腹減った.何か食わしてくれ」
「その辺にあるもの勝手に食べれば?」
「うっこんなに女がいるのに...」
「何ぶつぶつ言ってんのよ」
しょうがないので、後ろの非常食料...缶詰とかを適当に食べはじめる.
「...で...茜は来るの?」
「ここに来れば甘いものがあるって吹き込んどいたからな.何が何でもたどり着くさ」
「...どこにもないみたいだけど」
「まあ嘘も方便ってやつだ」
「来たらなんて言い訳するの?」
「七瀬が食ったってことに」
「...へえっ」銃を頭につきつける.
「いや...冗談だ」
「...で?今日の話は何なの?いつまでもここにいたら危ないわ.茜は知ってるんだったら先に話してよ」
「...わかった」

「新しい神殿に女神像が建てられた.大きさは...30Mぐらい.七瀬とほぼ同じってわけだ」
「はいはい...続けて」
「...それでだ.どうやら潜入した仲間によると、単なる祈祷用じゃないらしい.どうも兵器のようだ」
「みゅ〜(動くんですか?)」
「動力は不明だが、一度瑞佳が呪文を唱えた途端、首を持ち上げたらしい」
「本当なの?それ」
『大変なの』
「困ったことに他にもいくつか建造していく動きがあるみたいなんだ.そんなもの作られたらとても勝ち目はない」
「やっかいだね」
「評議会では女神像の破壊が最優先事項となったんだ」
「それで...?私たちってわけね」
『やるの』
「みゅ〜(でもどうやって?)」
「神殿になんか近づけないわよ.冗談じゃ...!」
言い終わらないうちに七瀬が振り返って銃を構える.

「...大丈夫です」
「あっ茜...いつの間に来たの?」
「浩平...甘いものはどこ?」
「えっ...えっとえっと...」
「...どこ?」
「あっ茜...目が危ないぞ」
「...どこ?」
「はっ話し合おう.いやもうすぐ運ばれて来る.きっと来るって」
「さ...みんな出ましょうか」
七瀬が繭と澪を連れて出て行く.
「おっお前ら見捨てるのか?待てっ...まだ作戦の説明が...」
「...私が後で話しておきます」
「助けてくれ〜〜〜っ」
ドゴオオオオオオオオオオオッ
...その後、地下室が使われることは二度となかったという.


「まだ浩平は見つからないの〜?」
大きな神殿.高い天井と柱.
広間にいる大勢の猫信徒達が、拝みながら声を上げている.
だよも〜んっだよも〜んっ
数段高くなった向こうにそびえる女神像.その前の玉座に座った女.
瑞佳だ.
きらびやかな猫衣装と猫冠.猫手の杖.すっかり女王としての風格が備わっている.
「はやく見つけてこないと...お前は処分するもん!」
「...もっもう少しお時間をいただきませんと...」
冷や汗をかきながら、ぺこぺこしている...住井だ.
かつてはクラスメートだったが、惚れた弱みからか、今ではすっかり側近...いや太鼓持ちとなっていた.
「私の霊感では奴等はまだあの辺りにいるはずだよ〜.はやく見つけてここに連れてこないと...」
「わっわかっております.こっこれお前たち...早く探しに行かないか」
命令された信徒達が神殿から出ていった.
「...やはりお前一人じゃ頼りにならないよ〜」
「...申し訳ございません」
「仕方がない...八将軍を呼び集めるもん」
「そっそれはいけませんっ」
各地でゲリラや外国の部隊を鎮圧している八将軍...瑞佳が魔界から呼び寄せた猫頭のモンスター達.
あれを呼び集めたら、せっかく占領した日本の大部分の地域を失ってしまう.
「今しばらく...今しばらくのご辛抱を...」
「浩平に会いたいよ〜っ昔は毎日会ってたんだよ〜っ」
それをこんな風にしたのはあんたでしょ〜と言いたいが、そこは我慢する.
「だっ大丈夫です.餌をまいておきましたので...まもなく自分からやって来るでしょう」
「餌?」「これです」女神像を指差す.
「この人形のこと?」
「やつらはこれを壊しにやってまいります.その時がチャンスかと...」
「ふうん...お前思ったより頭が働くんだね...ちょっと嬉しいよ〜」
「はっお褒めいただき光栄であります」
「はやく浩平に会いたいよ〜.会ったらいっぱいお話するんだもん」

瑞佳は考えた.そうだ.こんな人形の一つや二つ壊されたところで痛くも痒くもない.
当面気をつけなければならないのは茜だけだ.あの能力...まあいい.私の力でなんとかできるだろう.
それに...切り札がある.浩平...昔かけた暗示...いまこそ役に立ってもらうもん.にゃんにゃんっ


「で...?これが作戦なの?」
「...はい」
「まじ?」
「みさきさんから教えていただいた方法です.これを使わずに首都への潜入はありえません」
「これってつまりトロイの木馬でしょ?いまさら引っかかる奴なんているの?」
「...はい.評議会のみさきさんがこれを指示なさいました.間違いはないと思います」
「そうかなあ」
大きな猫の縫いぐるみの中に潜んで首都まで運んでもらう...考えただけで体中の力が抜けそうだ.
「とりあえずその後の段取りを決めておきます.よろしいですか?」
「ふぁああい」『頑張るの』「みゅ〜(頑張りま〜す)」
「...浩平...返事がありません」
「...おっおう...」体中に包帯を巻いているが、もちろん敵にやられたわけではない.


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アイキャッチャー
♪ちゃららら〜 「新世界だよもん教!」

<CM>

♪ワッフル一番電話は二番三時のおやつは山葉堂♪
「ワッフルは中央商店街山葉堂へ.甘くておいしい山葉堂のワッフル」

♪パンパンパタポ屋クレープ屋パンパンパタポ屋クレープ屋♪
「中央商店街パタポ屋のクレープに新メニュー追加.さあ今すぐゴー」

<CM終わり>

アイキャッチャー
♪ちゃららら〜 「新世界だよもん教!」
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「『鈴をつける者達』は予定どおり猫に入ったまま、首都潜入を果たしました」
「計画どおりだな...川名くん」
「...はい.敵側にも情報を漏らしておきましたから」
「瑞佳は浩平に会いたがっている.すんなり神殿まで通すだろう」
「しかし...その後帰ってこれる可能性はあるのでしょうか?」
「...それは...作戦の最終目的には関係がない」
「......」
「全ては彼ら次第...もともと女神像などどうでもいい.我々は猫の首に鈴さえつければ良いのだ」
「......はい」
「お前に新しい目を与えたのは我々だ...余計なことは考えないことだ」
「...わかっています」
浩平君...ごめんね.死なないで.でも私は信じてるよ...きっと帰ってきてくれるって.


神殿の中央に運び込まれた大きな招き猫.それを取り囲む猫信徒達.
「来ましたよ.女王様」住井が耳打ちする.「あの中に女王様がお待ちの...」
「トロイの木馬は夜中にならないと出てこないんだよ.知ってるもん」
「わざわざ待たなくても...今追い出せばいいじゃないですか」
「...あっそうか」ぺろっと舌を出す「そうだね.まかせるよ」
住井が指示を出す.
「銃で取り囲め.ぬいぐるみの中を調べろ」
信徒達が猫を調べる.お腹の辺りに扉があるのが見つかった.さっそく開けてみる.
しかし...中には誰もいない.がらんどうだ.
「......何?そんな馬鹿な」「...馬鹿はお前だ」「そっその声は...!」
ドカアアアアアアアアアアアアンッ
ダダダダダダダッダダダダダダッ
見ると廻りを取り囲んでいる信徒達の中に、浩平たちが...
「信徒達の中にも仲間はいる.途中でとっくに抜け出していたんだ」
猫の面を被っているので紛らわしい.同士討ちになりそうで、信徒達は攻撃できない.
「くそおおおっ構わんっ撃て撃て〜っ」
ゴオオオオオオオオオオオオオオッ
茜の突風が吹き荒れ、上に設置されたマシンガンや信徒達が次々に吹き飛ばされた.
その間に七瀬は撃ちまくり、澪が爆弾で撹乱する.
繭は神速で近づいて、ナイフで片っ端から倒してまわった.
浩平は一目散に女王のところまで走る.
「瑞佳〜〜〜っ」
「浩平...会いたかったよ〜っ」
って抱き合いそうになったが、慌てて銃を向ける.
「降伏しろ.そうすれば命だけは助けてやる」
「...ひどいよ浩平.幼なじみに銃を向けるなんて」
「何でもいいから止めさせるんだ」
「いいよ...みんな出ていって.攻撃を止めて...」
住井が攻撃を止めろと怒鳴ると、信徒達はみな広間から出ていった.
大きな扉が閉められる.急に辺りは静かになった.残ったのは浩平たちと瑞佳、住井だけだ.


「これ以上無駄な犠牲は払いたくないからね.うふふ」
「やけにもの分かりがいいじゃないか瑞佳」
「だって...私たちの...勝ちだもん」
「何?」
「気がつかないの?もう出て行けないんだよ.ここから」
「冗談はよせ」
その途端、茜が宙を跳んで後ろの壁に叩き付けられた.
「うくっ」「茜っ!!」
壁にめり込む...すごい力だ.
「私の力を甘く見てるようだね...茜ちゃんの力じゃ私には勝てないよ」
「こっこの...」
七瀬が銃を向けた途端、やはり後ろに弾き飛ばされた.
「どわああああああっ」...が、同時に撃つ.
ズキュンズキュンッ
...弾は瑞佳のすぐ手前で止まると、下に落ちた.
カランカランッ
「なっなんて奴だ」
繭が瑞佳めがけて飛び込んで行ったが、見えない壁に弾き飛ばされた.
「みゅ〜(だめですっ)」
「形勢逆転だな...おっと動かないでもらおうか」
いつの間にか住井が銃を拾って、澪に向けている.
「懐の爆弾から手を離せ...よしよしいい子だぞ」
う〜っ
「折原...銃を捨てろっ」
「......」
カランッ
「まっ最初からこうなるとわかっていたが」
住井が得意げだ.
「しょせんお前たちでは女王様の敵ではなかったのさ...わっはっはっ」
「くっくそっ」住井に笑われると、すごく悔しい.
「さあ浩平...私と来てもらうよ」
「何だと!」
「だって浩平と私は結ばれる運命なんだよ」
「...!!」
瑞佳は浩平の首に手を回すと、唇を重ねた.浩平は身動きができない.
「こっ浩平っ...」
茜が悔しそうに体を動かそうとするが、壁に押し付けられたままどうにもならない.
「...くっ...甘いものさえ食べていれば...」

「ちっちくしょう...」
七瀬が根性で立ち上がるとマシンガンを構えた.
「今撃ったら浩平にも当たるよ〜」「構うか〜っ」「まじかおいっやめろっ七瀬っこらっ」
ダダダダダダッダダダダダダッ
「うわああああああああっ」
だが弾は全部、二人の手前で落ちてしまう.
「なっ何よこれ...きゃっ」また見えない力で床に押し付けられる七瀬.
「だから無駄だって言ったもん...でもうるさいから住井...始末してやって」
「そうですね...悪く思うなよ...痛っ」
澪が住井の腕に噛みついた.
「こっこのガキめっお前からだ」
う〜っ 澪が睨んでいる.
「死ねっ」
住井が引き金を引いた瞬間...繭が神速で走り出た...澪と住井の間に!

ガアアアンッ
「みゅ〜っ(うっ)」
がたんっがたがたがたっ
階段を転がり落ちた.倒れたまま動かない.
「...繭っ!」「繭しっかりしろっ」
駆け寄った澪が泣きながら揺さぶっている.えぐえぐっ
「おっ...お前らっ...」
だがその時浩平は見た.瑞佳の瞳から涙が零れるのを...瞳の中に、本当の瑞佳の姿が映っている.
瑞佳...お前...やっぱり...
操られているのか.


「きっ貴様あああああああああああっ」
「えっ?」「何っ?」
急にとてつもない圧力を感じた全員が振り返ると...そこには...

七瀬が立ち上がっていた.髪と目が金色に光輝いている.
「繭に..なんてことを...しやがるんだあああああっ」
空間がすごい勢いで歪んでいく.
「すっすごい...この力は」
見ると茜の呪縛がとけている.瑞佳の魔力を打ち消してさらに押しているようだ.
「そっそんな馬鹿なっ!こんなこと聞いてないもん」
「おっおまえだけは...許さあああああああああんっ」
七瀬が叫ぶ.次の瞬間、瑞佳が後ろに吹き飛んだ.
「きゃあっ」
ズキューンズキューンッ
銃を撃つ住井...がさっきのお返しで全部途中で落ちてゆく.
「うっ嘘だっこんなところに...ドッペルがいるはずがないっ」
「死になっ!」
「うわあああああああああああああっ」
天井を突き破って、はるか彼方へと飛んでいった.

「繭は...?」
茜が繭の容体を見ている.
「大丈夫...急所ははずれたみたい.とりあえず止血しておきました」
「そっそうか...良かった」「ほら...もう泣かなくていいんだよっ澪」
う〜っ


「くっくやし〜っ」
瑞佳が女神像によりかかりながら体を起こす.
「こっ...こうなったら...」
両手を組むと何か呪文を唱えはじめた.
ダヨモ〜〜〜ン ソウダモ〜〜〜ン ダヨモ〜〜〜ン ソウダモ〜〜〜ン
ムクッ
モワーーーーンッ
女神像の目が光る...動き出した.
瑞佳をかたどった顔形.でも猫耳としっぽがついている.
「こっ浩平...」
「でっ...出たああっ」
ズシーンッズシーンッズシーンッ
天井や柱を壊しながら進む.神殿が崩れはじめた.
ガラガラガラガラガラッ...ドドドドドドドッ
ガッシャアアアアアアアアアアッ
「いかん.外に出るぞ」
「繭を...」
「俺が背負う」
茜と七瀬が扉を吹き飛ばすと、既に外は大混乱だった.
猫信徒達が逃げ惑っている.阿鼻叫喚の図だ.
「キャアアアアアアアアアッ」「ウワアアアアアアアッ」

ズシーンッズシーンッズシーンッ
ニャワアアアアアアアアアアアアアンッ
「...追って来ます」
こくこくっ
「任せてっ」
七瀬が振り返る...髪がまた輝きだした.空気がそこだけ固まり出す.
「くたばりやがれーーーーーーーっ」
凝縮した空気の固まりが女神像に向かって飛んでいく...首に命中した.
ズゴオオオオオオオオオオオンッ
「やったーーーーーっあれっ?」
かすり傷一つついていない.
その肩の上に杖を持った瑞佳の姿が見えた.
「茜...繭を頼む.七瀬はみんなを守ってやってくれ.澪は適当に車をかっぱらってこい」
「どこへ?」
「けりをつけて来る」
「浩平っ!!」
瑞佳...このままじゃ帰れないぞ.


「うっふっふ〜っみんな踏み潰しちゃうよ〜っにゃにゃあーーんっ」
瑞佳が笑いながら杖を振ると、女神像はその方向へと歩いていく.
ビルも道路も何もかもがことごとく破壊されていった.周囲の信徒達は武器を抱えたまま呆然としている.
もともと瑞佳の魔力で操られている信徒達であり、女神像と瑞佳を攻撃することはできないのだろう.
「瑞佳っ!!」
「あっ浩平」
足元に浩平がいるのを見て、女神像を立ち止まらせる.
「浩平...戻ってきてくれたんだね.嬉しいよ〜っ」
「正気に戻れ瑞佳.お前は操られているんだ」
「もういいよっそんなこと.それより...」
瑞佳は女神像から降りると浩平に近づいた.
「一緒に来てもらうもん」
「...瑞佳.正気に戻ってくれ」
「だめだよ浩平...浩平は私には逆らえないんだよ〜」
「まだ言ってるのか」
瑞佳が、ゆっくりとその言葉を口にした.

「『永遠の盟約に従え』」
「何っ!!」
不思議な重さと響きを持った言葉.
目の前が白い光に包まれる.ずっと忘れていた昔の風景のようだ.
そこには幼い少女が立っていた.
「...みずか」
浩平の心の深いところでスイッチが切り替わった.
「一緒に来てくれるよね」
「...わかった」
何だ?俺は何を言ってるんだ.体が言うことをきかない.
「ふふっこれで私の勝ちだも〜ん」
瑞佳が浩平の手を握ろうとしたその時、
「させるかああああああああああああああああっ」
ドグアアアアアアアアアアアアッ
「!!」
女神像の片足に衝撃波が直撃した.バランスを失った女神像が傾きはじめる.
「浩平ーーーーーーーっ!!」
七瀬が浩平の体をつかむとそのまま飛び上がる...と、残った瑞佳めがけて女神像が倒れ込んだ.
ドドオオオオオオオオオオオオオンッグアラグアラグアラグアラグアラグアラッ
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドオッ
砂塵が大量に舞い上がった.力を失った女神像はばらばらに崩れていく.
七瀬と上空に浮かびながら、浩平はその瓦礫の山と粉塵がおさまるのを眺めていた.
「瑞佳...」
「...もう無理よ」
「み...ずか...」
降りて瑞佳の姿を探したかった...が、信徒が集まってきたので撤退するしかなかった.


崩れた神殿の中.女神像に踏み潰された招き猫の残骸.
その頭の部分がナイフで切り裂かれたように、ぽっかりと穴を開けている.
まるで何かが出ていったように見える.


町外れを疾走するジープ.砂煙を上げながら、ところどころ破壊された道路を突っ走る.
茜は奪ったジープに澪と繭を乗せると、巧みに障害物を避けながらひたすら西を目指した.
傷口を塞いだとはいえ、繭は失った血が多すぎる.一刻も早く輸血しないと危険だ.
七瀬と浩平はどうしたんだろう...女神像の倒れる音は聞こえたから、そろそろ追いついてきてもよさそうなものだが.

突然上空からローターの音がした.
「!!」
軍用ヘリだ.機体の横に...教団の紋章.
ズガガガガガガッズガガガガガガッ
ヘリのマシンガンが轟音を響かせた.
茜は大きく右に車を曲げる...道を外れて瓦礫の中に突っ込んでいく.追って来るヘリ.
ズガガガガガガッ
すばやくハンドルを切って蛇行させる...が、よけきれず車体に弾が当たった.
ガキュンキュンキュンッ
「!」
やられる...このままではみんなやられてしまう.
力もほとんど残っていない.失敗は許されない.
だが方法はある.澪と繭さえ助かればいいのだから.
迷ったりはしなかった.

ズザアアッ
茜は砂の中に車を急停止させると...立ち上がった.髪が夕日にきらめく.
自分の周りに空気を圧縮しはじめる.バシュウウウウウッ
くっ...やはり小さい固まりしかつくれない...限界だ.
いったん追い越したヘリが旋回して近づいてくる.
「...さよなら澪...一緒に帰れなくてごめんね」
「......」ぷるぷるぷるっ
目にいっぱい涙を溜めている.何を考えているかわかったのだろう.
「浩平に...よろしくって......お願い」
茜が...空気の固まりごと、ヘリに体当たりをかけようとした...その時.

「...え?」
背後から別のヘリの爆音.突風に舞い上がる砂.
茜が繭と澪に覆い被さるように伏せる...と、教団のヘリが爆発した.
ドオオオオオオオオオンッ
「...!」
炎に包まれて墜落する.後ろに二機のヘリが着陸した.
その中から姿を現したのは...
「みさきさん...!」
「茜ちゃん...間に合ったみたいだねっ」


先にヘリで運ばれる繭と澪を、見送る茜.そこにやっと浩平たちの車が.
「茜っ!無事か!?良かった...」
「...浩平」
さっきまでの自分たちのことを忘れて微笑む.
「良かった...浩平も無事で」
「あたしが助けたんだから当たり前よ」
「俺たちもすぐ撤収だ.信徒の首都防衛部隊が迫って来てる」
「あいつらしつこくって...引き離すのに苦労したわ」
「...浩平...瑞佳は?」
「......」少しうつむいて「...まあたぶん生きてるだろう.あいつのことだ.くたばったりするもんか」
「...はい」
穏やかな顔で浩平を見つめる.

もう一つのヘリに乗り込むと
「浩平君...」「みさきさん」
「ご苦労様...よかった.みんな無事で」
無断でヘリを出してよかった...みさきは本当にそう思った.
「繭がちょっとやられちまったけどな...でも七瀬には驚いたよ」
「ふふっ今回はあたしの独り舞台ね」鼻高々.
「まさか、あの女神像と相撲をとるとは思わなかったな」
「とってないわあっっ」
「留美...」
「ん?どうしたの茜」
「...いえ...何でもありません」

茜は知っていた.彼女の母親と七瀬の母親が昔同じ施設にいたことを.
そして七瀬の母親は、本当は留未と名づけたかったということも...
姉に出なかった力が、七瀬には受け継がれていたのだ.

「茜?」
壁にもたれながら、眠っている.す〜 す〜.
「...もう寝てるぞ.よっぽど疲れてたんだな」
「寝てると子供みたいだね」
「ほっぺが砂と埃だらけだわ」
「そう言えば甘いものが食いたいってぼやいてたな」
「じゃあ私がなんとかするよ」
「そりゃ助かる」
「別にあんたを助けるんじゃないのよ」
「いや助かるんだ(笑)本当に」
何しろ怒らせると...恐いんだ.茜は.
寝てるとこんなに可愛いのに.



「瑞佳の本体を捕捉しました」
「どうやら猫の首に鈴はついたようだな」
「ではいよいよ計画を実行に移そう」
「これですべては我々のものだ」



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予告編

驚異的な速さで首都を復興した猫信徒達.八将軍が終結し、ついに決戦への火蓋が切られた.
蘇った瑞佳が信徒全軍に総攻撃を命じる.迎え撃つ茜、七瀬たち反乱軍.
浩平たちに明日はあるのか!
そしていよいよ姿を現す評議会とは!!

次回第25話 決戦!中崎町
見逃すと、おかわりしちゃうぞ〜っ(みさきさんの声)

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長々となってすいませんでした(T-T)反省してます.感想も別途書きます.ごめんなさいです.
でもアクション物って難しいですね.わけわかんなくなってしまいました.
まさか信じてる人はいないと思いますが、前回も次回もありません(^^;この話だけです.念のため.
それから瑞佳ファンの人...ごめんなさい.他意はありません(涙)信じてください.うるうる.
でも僕なりに瑞佳のダークな部分について、いつかSSにしようと思っています(なんじゃそれは)
あと住井ファンの人にも...大丈夫ちゃんと生きてます(笑)

それでは