奥様は魔女(中編) 投稿者: だよだよ星人
『ikumiは魔女です』
「...おいおい」
僕はしばらく笑っていたが、そのうちだんだん顔がマジになっていった.
何度やっても、答が同じだったからだ.

『ikumiは魔女です.普通の人間ではありません』

エラーやバグの類と考えられたらどんなに良かったか...でもシステムを知り尽くしている僕には、
こんな形でのエラーはありえないということがわかっていた.

僕は仕方なく、『魔女』という言葉をikumiから削除した.

『マ〜ジョです』
「どああああっ」

データをいくら消してもきりがなかった.次から次へと...結論をひねり出す.
『魔法を使います』『声は林原めぐみがいいな』...こんなのはまだいいほうだった.
『金星人です』『シリウス星人です』『アトランティス人です』『ネス湖に住んでいます』
『地震兵器です』『ファーストチルドレンです』『南極で発見されました』『おんぶしたら離れません』
『十本の角と七つの頭があります』『世界を破滅させるでしょう』『デスラー総統万歳』
...いったいどこからこんな知識が...

今でこそ何の疑問ももたずに、毎朝たらいを瞬間移動してもらっている僕だが、
この時はまだ、そういったオカルトやら超能力の類にはまったく理解も興味もなかった.
そんなことはトンデモ超現象であって、本当にあるはずがない...そう思っていたから、
自分が信じている機械がそれを口にした時、結構ショックだった.

とりあえず...話を聞かなければならない相手は一人しかいない...最初からわかっていたことだ.
でも恐かった...あの性格...もろに直球が飛んできそうじゃないか?

そして彼女はまったく期待を裏切らなかった.

「なあに?こんなところに人を呼び出して」
駅前のドーナッツ屋で会った途端、晴香は胡散臭そうな顔でこう言った.
「もしかして...浮気したくなったとか...」
「何言ってんだっ」
僕は自慢じゃないが、郁未を愛していた.もうむちゃくちゃ愛していたのだ.
「ぼっ僕はね〜っ」「はいはいっわかってるわよ.冗談よっ」
晴香はもう聞きたくもないって感じで手をひらひらさせた.
「あんたたちがLOVELOVEなのは、いまさら言わなくたって世界中の人が知ってるわ」
「だっだったら...」
「まっ浮気したくなったら...ふっ...わからないようにすることね...もっとも...」
顔を近づけて言う.
「絶対に隠せないと思うけど」
いきなりこれだ.
「どっどうして絶対なんだ?」
「今ごろ何言ってんのよ〜」
思いっきり馬鹿にしたような目.
「あんただって気づいてるでしょう?あの娘は...」
「あの娘は?」
「ま・じょ・な・の・よ〜〜〜っ」
椅子から転げ落ちそうになった.
「郁未を怒らせると...恐いわよ〜」
「そっそんな馬鹿なことが...」
ところが晴香は落ち着き払った調子で
「いい?見ててね」
晴香の目が一瞬金色に...光ったように見えた.すると...
「...!!」
目の前のドーナッツが、ひとりでにスパッと半分に切れてしまった.
「...」
「ね?驚いたでしょう?」
晴香は何食わぬ顔で切れたドーナッツを食べている.
「便利でしょう?」
「...確かに」
いやそういう問題じゃない.
「...いったいこれは...」
「おししいですねえ〜」
「!?」
「あっ由依っ...あんたどこから出できたのよっ」
「ふたりで...もぐもぐ...はにはだひてはんでふは〜?」
「...勝手にあたしのドーナッツ食べないでよっ」
「..あっいいよ...僕が金を払うから...」
「やっふぁあああっもっふぉもっふぉたほんでほよ〜っと」
「負けないわ...もぐもぐ...」
「......」

あまり詳しくは教えてもらえなかったが、それでもなんとか聞き出せたことは...
郁未、晴香、由依、そして葉子さんは、同じ精神鍛練の道場(としか言ってくれなかった)で修行した
仲間で、由依を除く三人は特殊な力を身につけているということだった.
その中でも...郁未は...ずば抜けていて、道場主のお月様(意味不明)を倒したそうだ.
郁未が本気で力を解放すると、ビルの一つぐらいは軽く吹き飛んでしまう...らしい.

僕は二人が山ほど食ったドーナッツ代を払うと、店を出た.
.....とぼとぼと歩く.

「もう何年も一緒に暮らしているのに...僕は郁未のことを何もしらないんだ.」

そういえば...彼女が晴香といるところに出くわして、無理矢理おごらされた...

「あれが最初だったな...」

郁未はやさしくて、綺麗で、でもどこか不思議な影のある娘だった.遥か先を見ているような、寂しげな瞳.
同世代の娘と比べて、いや会社で見るもっと年上の女性と比べても、まったく違う所に彼女は立っていた.
人生の修羅場を一通り経験して...でも決して斜に構えず、いつも真正面を向いている...
そんな孤高の強さとやさしさがあった.とても綺麗だった.

...で、3度目のデートで彼女はこう言った.
「私ね...赤ちゃんが欲しいの」
「えっ!?」
「嫌?」
「いっ嫌じゃないけど...でも」
「嬉しいっ...じゃあさっそくつくりましょうっ」
「えっちょっちょっと待ってっ!!」
呆然としている僕を引っ張って、彼女は自分の家に...
そして...できて...しまった.できてしまったできてしまったできて...わあああっ.

「いいのよ.本当に赤ちゃんが欲しかったの...子供を早く育てたかったの...」

本当に僕で良かったのかな...郁未は幸せなんだろうか...
郁未は...僕の知らないところで結構力とかを使っているのかも知れない.家族を助けるために...
いや、世界の平和を守るために、秘密の組織で日夜戦っているのかも...5人ぐらいのチームにいて、
なんとかレッドとかピンクとか呼ばれてたりして...大きな合体するロボットに乗ってたりして...
いやいやそれは...いやでも...まてまて...「イクミレェッッッドッ」いやいやいや...

どちらにせよ僕は、彼女のことを何も知らないで、自分の幸せの上に安穏としてきた...そんな気がした.
もしかすると、彼女は赤ちゃんと二人でも、立派に生きて行けるだけの力があったのかもしれない.
そうだ...僕はおまけかもしれない...うううっ
僕は目をうるうるさせながら...またとぼとぼと...家へと戻っていった.

ところが、帰って来ると何やら騒がしい.もうすっかり顔なじみのご近所の奥さんたちだった.
「あっ旦那さんが帰ってきたわ」
「大変よっテレビ見てはやくっっ」
「えっ?」
「なんか爆弾持った人が...立てこもってるのよ」
「奥さんの行ってる会社じゃない?」
「えええっ!!」

後編に続く
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ちゅうことで中編です.途中はずしまくってますが...まあそれは置いといて...
感想いきます.
白久鮎さん>茜×2はゴージャス...囲まれてみたい...次回はどっちかの茜が危ない
浩平の家が楽しみ...って前に自分も茜H書いただろって(^^ゞ
GOMIMUSIさん>ええなあ瑞佳は...こういうテーマはじっくり読めていいっすね.
瑞佳のお母さんって瑞佳と似てそうだ...いやそっくりに違いない.
虚無僧さん>みさおネタは難しいですね.でもひらがなでうまく表現されてます.
僕もみさおやみずか、永遠の世界について、いつか書いてみたいです.