詩子...その愛 (第2話) 投稿者: だよだよ星人
...第2話です

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次の日も柚木は学校(もちろんオレのいるほう)にいた
「とにかく幼なじみの存在を忘れさせればいいんだろ?」
柚木はため息をついた
「忘れたくないって、ずっと思ってるから...手強いんだよ」
「なるほど...」
「それに...消えたって言ってるけど、もともといなかったら面倒だしね」
「...意味がわからんのだが?」
「あたしを避けるための口実かもしれないじゃないっ...しくしくっ」
「...女が女を断るのに、そんなまわりくどい話はいらんと思うが?」
「それとも...茜が自分で消したのかもしれないね...そういう不思議な力があるのかも」
「...全然違うゲームになりそうだな」
「しつこい幼なじみを自分の手で消したのかも...」
「...だったらおまえが真っ先に消されてるって」

結局幼なじみは謎のままだ
「とりあえず...具体的な戦略を練るねっ」
柚木がメモを取り出して、にこ〜っと笑う
「今度のクリスマスなんだけど...折原くんの家でパーティーってのはどう?」
がくっ
「...それが具体的な戦略か?」
「とにかく二人っきりになるチャンスがあればいいの」
「...オレの家で...茜を押し倒そうってのか?」
「やだ〜っいきなりそんなこと...でも部屋は空いてるんでしょっ?...ねっ?ねっ?」
柚木の頭の中がすっかりピンク色に染まっているのが、オレにも見えるようだった

「だめだっオレの部屋はラブホじゃない」
「え〜っ?どうして〜っ?」
ふくれる柚木...う〜む...まあここは別の可能性もあることだし...
「...しょうがないな...由起子さんの部屋はだめだから...オレの部屋しかないぞっ」
「わ〜いっやったねっ」
まあ万一の時は柚木と二人っきりで...
「じゃあ、折原君がケーキとか食料の買い出しに行ってる間が...勝負だねっ」
だあっ
「...オレが一人で行くことに...もうなってるのか??」
「もうどこにいるかわかんない幼なじみなんか...恐くないよっ」
すっかり舞い上がっていた
...しかし柚木は、もう一人やっかいな存在を忘れている
そう...どこからでも不意に現れる...歩くスケッチブック......あの娘だ
シナリオ通りだとすると、下駄箱かどこかで待ち構えているはずだ

「えっ澪ちゃん?」
「そうだ...あいつはどっからでもぶらさがってくるぞ?その後は引き離すのが大変だ」
オレは柚木に伸び切った左袖を見せた
「...こっこれはっ」「どうだっあいつの恐ろしさがわかったか...」
連日の澪の攻撃ですっかり伸び切って、オバQのハカセのようになったオレの上着...

スケッチブック娘は機嫌を損ねるとやっかいだ
「う〜っ」ふくれっつら
「えぐえぐっ」泣き落とし
「にこにこ」ぶらさがり
と必殺技がいろいろあって、どれも強力だ
防ぎようがない
あちこちのシナリオに姿をあらわす最強のキャラクターだけのことはある
「一緒に買い出しに連れて行けばいいんじゃない?」
「オレより茜を気に入ってるんだぞ...ついて来るもんか」
「正確には茜のおさげが気に入ってるんだけどね」
「......オレはおさげになんかしないからな」
茜のおさげは澪のもの...七瀬のおさげは繭のもの...まるで小動物のテリトリーだ
「でも澪ちゃんがいないと茜が来ないかも知れないね」
「...そう言えばそうだな」

確かに今の茜はクリスマスを楽しむような雰囲気じゃない
茜のおさげを引っ張って、オレの家まで来てもらう...澪の重要な役割だ
いくら茜が頑固でも逆らえないだろう...「えぐえぐっ」「...わかりました」てなものだ

しかし...澪は本当にどこからでも現れる...まさか...何人もいるとか?
もし隠れてる澪がいっぺんに現れたら...鈴なりになった澪が袖にぶら下がって
『お腹すいたの』『お腹』『すいたの』『お...』『すいた』『の』『...』『う〜』『』
だあああっっ
そんなに並べても、スケッチブックは一つしか見れんわ〜っ
それとも...上着の袖を100mぐらい伸ばされて、その両側に澪がぎっしり並んだりして...
『遊ぶの』『遊ぶの』『う〜』『えぐえぐっ』『遊ぶの』『にこ』『遊』『...』『』
...う〜ん
どこかのFCのメンバーが見たら、一人一個ずつ持って帰ってくれると思うが...あいにくここには
そんな連中はいなかった

「...どうしたの?」「いや...何でもない...」
「笑ってるんだか苦しんでるんだかわからない顔してたよ?」
「......」
ちょっとめまいがした...馬鹿なことを考えたものだ

しかし後から考えてみると、それは予感だったのだ
消すこともできれば増やすこともできたのだ...茜は...


でまたつづく...