除夜の鐘響く、大晦日の夜。 ・・・一人の男が・・・いいや、『漢』がその命を絶とうとしていた。 懸命に、その名を呼ぶ。 「沢口!」 「・・・南だ」 沢口が、うめくように言う。 「相沢・・・お前・・・俺が・・・嫌いなのか?」 「いいや。お前は、俺の尊敬する友だ」 「・・・そうか・・・なら、いい」 そして、別の方向を向く。そこには・・・ 「・・・化け物め・・・」 「沢口!」 「南だ!」 「くそ!幻聴よ、静まれ!」 「南だって言ってるだろうが!何で、お前は俺のことを沢口にしたがるんだよ!」 「・・・古来より『沢口』という名前には『勇敢な者』という意味がある(全国の沢口さん。これは嘘です。ごめんなさい)」 「・・・死ね」 だが、死に掛けているのは沢口の方だった。 「浩平君・・・さっきから失礼なこと言ってない?」 「・・・先輩。大事な話の途中なんだ。ちょっと、待っててくれるか?」 「うー・・・何か、つまんないよー」 文句を言いながらも、素直に従う先輩。 「・・・何者なのだ・・・あの女性は」 「・・・川名みさき。年齢は、俺達より一つ上。不幸な事故が原因で目が見えないそうだ。あとは、いたって普通の女性」 「嘘付け!俺はこう見えても、『商店街カレー早食い大会』で優勝した男だぞ!」 「・・・それは『早い』だけだ。『量』では、上がいたということだ」 「上過ぎる!」 怒鳴る・・・と同時に、顔色が悪くなる。 「あ、こら!吐くなよ!俺の家なんだぞ!ここは。掃除する方の身にもなれよ!」 俺の言葉を聞いたせいかどうか・・・沢口は、ギリギリで堪えた。 「くそ・・・負けるわけには・・・」 そして、果敢にも次の料理にとりかかる。 「・・・ねえ、沢口君大丈夫なの?」 先輩が、俺に尋ねてくる。 「ああ。大丈夫だ。こいつは『早食いチャンピオン』だからな。先輩も遠慮しないでもいいぞ」 「・・・・・・・・・本当?」 先輩の瞳が輝いた・・・気がした。 「え?」 ・・・『リミッターオフ』・・・何となく、そんな言葉が似合う瞬間。 『あけまして、おめでとうございまーす!』 テレビから聞こえてきた声に、俺の視線は時計へと向く。 1月1日、午前0時。 時報と同時に倒れる沢口と食べつづける先輩。 『年越し大食い大会』の結果である。 「ちがう・・・ただ・・・『奇麗な女性と食事』っていうから・・・」 沢口が、断末魔の声をあげる。 ・・・俺の年明けは、そんな感じだった。 1月2日。 俺は仏壇に向かって、静かに手を合わせる。 『沢口・・・お前の死は無駄にしない』 思いっきり無駄な死をとげた(死んでません)沢口の為に、仏壇に飾られた写真に向かって挨拶する。 ちなみに、沢口本人のCG・・・じゃねえや、写真は存在しなかったため、犬の写真で代用した。 「・・・どうしたの?その犬・・・」 「・・・病魔との戦いに敗れた」 「・・・病名は?」 「『後天性、対でじこ免疫不全症候群』」 自分でも何のことだかさっぱりわからない病名を言い、ふりかえる。 「よっす。おはよう」 「早いね、浩平」 「それだと、俺がいつも寝坊して、長森に迷惑をかけているように聞こえるぞ?」 「・・・その通りなんだよ」 「何!それは、濡れ衣というものだぞ!」 「はあ・・・」 新年最初のため息・・・ 「どうして普段は、早起きしてくれないの?」 「ははは、馬鹿だなあ・・・長森。普段早起きしたら、ここぞという時にありがたみが無くなるんだぞ」 「馬鹿は浩平だよ。ありがたみなんて無くてもいいから、早起きしてよ」 「断る。早起きするくらいなら、寝る」 「寝ないでよ」 何だか、わけのわからない問答になってきたな。 「・・・まあ、その話はどうでもいいとしてだ」 「良くない・・・」 「他の連中、どうした?」 「そろそろ、時間だから・・・」 と、時計を確認する。 今日は、新年会みたいなものを開こうということになっている。 そういう物は、大晦日のカウントダウンをして、新年になった瞬間に開始しなければ意味が無い。 そう、長森に提案した所・・・ 「だって、眠いもん」 とのこと。 そんなんだから、遅刻回数が増えるんだぞ。 「それは浩平が悪い」 ・・・そうなのか・・・ 「みゅー!」 「よう、椎名」 「みゅー」 新年早々元気な椎名。 「あけましておめでとう。繭」 「みゅー・・・おめでとー」 長森と新年の挨拶をする椎名を見て、俺は椎名の頭を撫でてやりながら言う。 「おお、ちゃんと挨拶できるじゃないか。偉いぞ、椎名」 「そうだよねー。どっかの誰かは、私が来ても『よう、長森』としか言わなかったもんねー。繭とは大違いだよねー」 「みゅー」 「そうか・・・そいつは酷い奴だな」 俺は、深くうなずく。 まったく、新年の挨拶も出来ないとは・・・ 「浩平のことだよ」 「・・・何!?」 そういえば・・・そんな気がする・・・・・・なんて、認めるはず無い。 「そんなわけないぞ!俺は、お前が来るよりも前にちゃんと挨拶したぞ!」 「・・・それじゃ意味無いよ・・・ちゃんと、本人を前にして挨拶しないと駄目なんだよ」 「馬鹿な!俺とお前の仲じゃないか。それくらい、テレパシーで感じ取ってだなあ!」 「・・・はあ・・・浩平には、ちゃんとした人が・・・」 「うるさい!」 新年早々、それか・・・ 「んで、他の連中は?」 「・・・まだみたい」 うむ・・・珍しく、この俺が早起きしたのに待たされるとは・・・ 『珍しく』なんて自分で言っている時点で、何かが終わっている気がするが、まあいいだろう。 「じっとしてるのも何だし、散歩がてら家の前を歩いてくる」 そう言って、俺は立ち上がる。 「みゅー」 椎名が、俺の腕に掴まる。 「何だ?付いてくるのか?」 「みゅー」 「そうか。んじゃ、行くか」 俺は、玄関で靴を履き外へ出た。 今年最初の月の空気は、凍てつくように冷たい。 くだらない思い付きで、暖房器具の結界から外に出たことを死ぬほど後悔した。 「・・・みゅー?」 そんな俺を、椎名が見ていた。 「な・・・何だ?俺が、寒さに震える貧弱君に見えるのか?」 「・・・・・・」 「何故黙る」 「・・・みえる」 く・・・くそ。何だか、腹が立つぞ。 「ははは!俺は、こんなにも元気な輩だ!付いてこれるか!?椎名!」 俺は、いきなり走り出した。 慌てて付いてくる椎名。 「ははははは!遅いぞ!その程度で、新型機に勝てると思うなよ!」 いつから機械になったんだろ・・・俺・・・ 「みゅー!」 椎名の声。 「ははは!・・・って、お?」 前方に、七瀬を発見する。 「よし!七瀬の所まで競争だ!」 「みゅー!」 椎名は、こういう意味の無い競争が好きだ。 そして、それ以上に俺の方が意味の無いことを好きだったりする。 『負けるわけには・・・いかないな』 馬鹿馬鹿しいことほど、全力を出すのが俺。 というわけで、いきなり全力疾走。 「うおおおおおおおおおおおお!なーなーせー!」 「ひい!?」 俺達の様子に驚いている七瀬は、その足を止めてしまった。 このまま行けば・・・俺の勝ちだな。 「うおおおおおおおおおおおおお!」 勢いを殺さず、七瀬を捕まえようと手を伸ばす。 「ちょっと折原!?一体、何をす・・・」 ドガン! 激突。 だが、いつかと同じ失敗を繰り返すほど、俺は愚かな人間ではない。 接触と同時に、肘鉄を叩き込んでおいた。 ・・・ちなみに、肘には鉄製の板が巻き付けてあり、あの時よりも攻撃力は倍増している。 「って・・・・・・・・・あ」 いかん・・・日ごろの特訓の成果を示してしまった。 ありがとう!特訓のパートナー、『ラビ山バニイ』(ラビ山バニ夫の弟)! じゃなくて・・・さすがに、これは・・・ 「みゅーも!」 「何!?」 ゴン! 「ぐあ・・・」 その瞬間が、スローモーションになった気がした。 倒れた七瀬は、怒鳴り声をあげようと顔を上げる。 そこに・・・椎名の蹴りが命中。 「・・・これは・・・まさか・・・」 そう・・・これこそが・・・ 『過失致死』!(椎名の) ・・・七瀬・・・不幸な奴だった・・・だが、誰をも怨むことはできない・・・だって『過失』だから、椎名の。 「死んでないわあああああああああああああああああああ!」 意外に元気な七瀬が、怒鳴り声を上げる。 その顔に、くっきりと靴の跡が残っていた。 続く・・・の・・・はやめるか・・・な 『わたしはいつだってあとがきのことを考えてるよ』 ・・・なんていう俺は、馬鹿ですか?そうですね。 はじめまして。新人の『そりっど猫』と申しますです、はい。 初投稿で、こんなもんやっていいのか?俺・・・ しばらくONEやってなかったもんだから、キャラの性格や一人称とか違うかもしれません。 笑って許してくださいな・・・と。 ネタかぶり・・・恐くないぜ!・・・恐いよー・・・本当は、死ぬほど恐いよー。 誰か気が付いたら、報告と同時にその方のSSの置き場所を教えてください。 ONEのショートストーリーって、あんまり読んだことないんです。 ・・・パソコンのレスポンス、遅いもんで。