Juvenile K−12− 投稿者: ゾロGL91【感想メールのみ】
 いつも飽きるほど見慣れていた灰色の風景。それはいつもと変わらなかった。だけど、少年は気分が良かった。
 初めて外気に触れた感触、初めて自らの足で立つ喜び、そして、初めて見る大勢の人間達。
 少年は心踊る気持ちでそれを見ていた。自然と笑顔さえも浮かぶ。しかし、少年の頭の中で、別の自分がこう呟いた。

(全てを消し去れ)

 少年は一つうなずくと、右手を差し出した。全てを無に帰すために。


EPISODE12「Giving Is Always Important」


 その場にいる者は対処に困っていた。培養槽から現れた一人の少年。腕をかかげ、こちらにゆっくりと歩いてくる姿は敵意を微塵に感じさせない。それが判断の遅れに繋がったのだ。
 最も前列にいた隊員と少年の距離が近づいた時、隊員の腕にあった重みが消えて、彼は自分の腕の中を見た。だが、そこには何もない。何もないのだ。
「うわぁぁぁっ!?」
 持っていたライフルもまとめて、肘の先が消滅している。切断部分からは血がぽたぽたと滴っている。
 その異常さに気づいた隊員は、発狂したかのように床を転がり始めた。それが、呪縛を解くきっかけとなった。
「何をしている!早く奴を止めろ!」
 紳士の檄が飛び、隊員達は我に返ってライフルを構え始めた。標的は迫り来る少年。
「それ以上近づけば撃つぞ!」
 警告をかけるが、少年は歩みを止めない。
 いつの間にか、床で転がっていた隊員の悲鳴が消えている。少年との距離が縮み、その存在が消滅したのだ。
(これがイレイザーの力か・・・!?)
 紳士は戦慄していた。恐るべき力を秘めた生き物を目の前にして、会社や金のことなぞ吹き飛んでいた。
「撃てぇ!」
 紳士の号令を待っていたかのように、一斉にライフルの銃口が火を吹いた。鼓膜が破れるぎりぎりの銃声が響き渡った。
 濛々と沸き立つ白煙に少年の姿は見えない。
「やったか・・・?」
 訝しげに白煙の中を見つめる。そして、ゆらりと風がひと吹きしたかのように、白煙がゆらいだ。そこには少年が変わらぬ姿で立っていた。全く外傷は見当たらず、笑みすら浮かべている。
「無駄だよ。そんな玩具で彼は倒せないよ」
 後方では氷上が愉快そうに笑う。
「折原、大丈夫?」
「・・・・・大丈夫に、見えるか?」
 氷上の脇で、うずくまる浩平は七瀬に体を起こされていた。撃ち抜かれた肩の痛みで、今にも気絶しそうになる。しかし、自らのクローンたる少年を前に気力を振り絞っていたが、限界が訪れようとしていた。
「ここは逃げるわよ」
「・・・できる、か。そん、なこと・・・・あいつを止めなくちゃ」
「死ぬわよ、あんた!」
 七瀬が浩平の体を強引に肩にかけると、浩平はあまりの痛みにうっとうめいて気絶した。
「逃げるのかい?なら、後ろにあるエレベーターを使うといい」
 二人の様子を見ていた氷上が、事もなげに言った。
「見逃すの?」
「生きながらえたければそうすればいい。でも、滅びは必ず訪れるんだ」
「・・・狂ってるわ」
「ありがとう」
 七瀬の最大の揶揄も、今の氷上には最大の賛辞にしか過ぎなかった。
 氷上に対する憤慨を押さえ付け、浩平を抱えて必死に進み始める。目指すは氷上の言葉の、エレベーター。それはすぐに見つかった。
 研究資材の搬入に使われると思える、上下開きのステンレス製の狭いエレベーター。普通は人が乗り入れするものではないが、この際贅沢は言えなかった。
 後ろで起こった新たな犠牲者の声も、焦りを募らせる。
「この場は一旦ひくぞ!」
 次々と消滅していく隊員達。少年が広げる特殊な力場は、一歩一歩歩むたびに地面をえぐりへこませていた。そして、その領域に入り込んだ銃弾、人を消し去った。微塵も破片も残さずに。
 入ってきた扉の方へと脱出するべく、隊員の一人が硝煙弾を撃った。円筒形の金属が床に跳ね返り、一斉に白煙が吹き出した。
 少年は視界をふさがれ、姿がかき消される。その間に紳士や生き残った数人の隊員達が、我先にと研究室を飛び出した。
 少年を包み込む白煙さえも、少年の力場に飲み込まれると消えていった。再び少年が姿を現した時には、潮がひいたように静寂が訪れていた。
 残された少年は判断を仰ぐように、氷上の方を振り返った。
「追わなくてもいいよ。どうせ消すことには変わらないんだ。さ、こっちにおいで」
 手招きされ、少年は嬉しそうに駆け寄った。氷上の膝に飛びつくと、氷上は目を細めて愛しそうに頭を撫でてやる。
「初めての仕事で疲れただろ?それにこんな格好だ、何か着ないと風邪をひいちゃうよ」
 氷上は優しく少年を抱き寄せた。
 

 低い音を立てて上下の鉄板が開け開く。窮屈なエレベーターから、苦しげにうめく浩平を肩にかけた七瀬が出てきた。
 出てきたのは病院の裏手にある、元はゴミの分別場だった。外の空気に触れ、わずかだが気が晴れる。
「折原、しっかりしてよ・・・!」
 浩平の肩の傷はひどいものだった。銃弾がまだ残っているせいか、出血もひどく青いシャツはいまや血ににじみ、青黒く変色していた。
 一刻も早く浩平を落ち着かせようと焦る七瀬だったが、正門跡の方に向かった時、アーミーのトラックが見えた。それを確認し、建物の陰に隠れた。
 しばし待つと、病院から脱出してきた紳士達がやって来て、トラックに乗り込んだ。それと共に、トラックのエンジンがふかされ走り出した。
 トラックが去ったのを見、七瀬は溜め息をつくと浩平を抱え直し歩き出した。
(早くしないと・・・・・!)
 浩平を気づかい、七瀬は必死だった。ここから市街の病院までは歩いてどれくらいの時間がかかるだろう?浩平の体力が持つかどうか疑わしい。そんな時、天の助けとも思える声がかった。
「死にそうだね、折原君」
「あなたは!?」
 崩れ欠けた壁を抜けた時、そこには見知った顔があった。高級リムジンを背にする小柄な少女、”C−LAND”のオーナー、柚木詩子だった。
「ほら、早くしないとほんとに死んじゃうよ」
「ええ」
 詩子の背中に最大の感謝を送りつつ、七瀬は後部座席に乗り込んだ。詩子は助手席だ。運転手の女を促し、車を発車させる。安堵に胸をおろす七瀬だったが、一つの不安が残っていた。
「あの・・・見返りとかは期待してませんよね?」
「あはは、変なこと言わないでよ七瀬さん」
「そ、そうですよね」
「冗談じゃなかったらどうするんだよ」
「え?」
 振り返った詩子の瞳が妖しく輝き、七瀬は背筋に寒気を覚えた。


 風俗街以上の妖しさをほこったスラム街に連れてこられた時には、七瀬は本気で貞操の危機を感じていた。未遂とはいえ、前科があるだけに恐ろしい。
 しかし、傷を負った浩平を放っておくわけにもいかず、案内されるままぼろぼろのビルに入った。
 入り口に錆ついた看板で、”深山クリニック”と半分消え欠けたものがかかっていた。
 点滅を繰り返す蛍光灯が不安をかきたてる廊下を歩いていると、奥の一室から男の悲鳴が空気を震わせて聞こえてきた。何事かと七瀬が目を丸くしていると、ドアをぶちやぶるように、上着を乱れさせた男が飛び出してきた。
「麻酔ぐらい使えぇ!このやぶ医者!」
「わたしだって、あんたみたいなヤクザを患者にしたくないわよ!」
 売り言葉に買い言葉、ヤクザの汚い言葉に対抗したのは驚くことに、女性のものだった。
 ヤクザは上着をただしながら、不機嫌そうにずかずかと七瀬達の脇を通り抜けていった。
「よかった。これで待ち時間がなくなったね」
「あ、あの、何々ですかここ?」
「何って、お医者さんだよ。折原君の怪我をなおさないと」
「本当に大丈夫なんですか?」
 ここが病院だと聞いて信じられるはずがない。しかし、詩子は冗談で言っている素振りではない。
「次の患者いるんでしょー!?さっさと来なさい!」
「ほら、早く行こう」
 詩子がためらいもなく行ってしまうので、七瀬は溜め息を一つ後についていった。
 診療室らしき部屋に入る時は、七瀬は内心びくついていた。こんな場末の所で、しかもヤクザを相手にしている女など、どんな人だろうと想像が先走った。
 そして、部屋の中に入った時、その医者の顔を見て驚いた。
「あら、あなただったの」
「こんにちわ」
 詩子と顔見知りらしく、それらしい対応をしているのは、白衣に身を包んだまだうら若い女性だったからだ。
「で、患者は?あなた?それとも、そっちのお嬢さん?」
「そっちのお嬢さんが抱えてる男の子」
「そう、それじゃあ早速そこに乗せて」
 医者が指さしたベッドに、戸惑いが抜けない中、七瀬はベッドに浩平を運んだ。その間に医者は手際よく器具の準備を整えていた。
「さ、七瀬さん。私達は外に出てよ。邪魔しちゃ悪いから」
 浩平は医者に任せて、詩子と七瀬は連れ立って診察室を出た。
「あの人、本当に大丈夫なんですか?」
「うん、腕は確かだよ」
「でも、こんな所に連れてこなくたって・・・・・」
「ここは余計な詮索はしなからね。楽なんだよ」
 詩子は医者を安心しきっているのか、廊下に置かれたぼろぼろの横長椅子に座った。
 無言の時間が流れる中、それを打ち破るような悲鳴が響き渡った。
「うぎゃあああっ!!!いてぇぇぇ!!!」
「静かにしなさい!手元が狂う!」
「その前に死ぬって!」
 あまりの痛みに気がついたらしい浩平と医者の問答。ものすごく七瀬は不安になる。
「ぐああぁぁぁぁぁっっっ!!!」
 断末魔のような叫びが聞こえたかと思うと、途端に静けさが戻った。ますます七瀬は不安になる。
 それからしばらく経つと、手術用の手袋を外しながら医者が出てきた。
「ふー、終わったわ。体内に残ってた銃弾は出して、縫合も済ませたから後は安静にするだけ」
「折原は・・・?」
「寝てるわ」
 気絶したのね、と心で思いながらも、七瀬は診察室に入った。
 ベッドでは肩に包帯の巻かれた浩平が、すやすやと寝息を立てていた。そのだれきった顔を見た瞬間、七瀬は吹き出しそうになる。
「能天気だよね、こんな時に」
 後ろからのぞき込む詩子に、ここで改めて疑問が湧いてきた。
「そういえば、どうしてあの病院に来たんですか?」
「あはは、七瀬さんのためだったら、どこにでも駆けつけるよ。そうだ、忘れてた。見返りをもらわないと・・・・・・」
「え?」
 詩子の瞳が妖しく輝き、七瀬は後ずさった。妖艶な笑みを浮かべながら、詩子はゆっくりと近づく。
「ここなら、誰にも邪魔されないから。ね?」
「いやぁぁぁぁ!!!」
「何が邪魔されないよ、人の仕事場で勝手に遊ばないの」
 詩子がまさに飛びかかろうとした時に、戸口で鋭い声が飛んだ。詩子はいかにも残念そうに振り返った。
「邪魔しないでよー、深山さん」
「あんたも、変わらないわね・・・」
「た、助かりました」
 額に流れた汗をぬぐいながら、七瀬は医者に感謝した。
「あ、紹介するの忘れてたね。この人は深山雪見さん。腕のいいお医者さんだよ」
「ま、今じゃこんな所で細々とやってるけどね」
 クールな雪見の表情に、様々な人生が合ったのがうかがえる。それが一体何々のかは想像もつかないが。
「ほら、さっさとこの子連れて帰ってよ。後がつかえてるんだから」
「予約も何もないくせに」
「何?」
「いえいえ。七瀬さん、折原君はどうしようか?わたしのとこで預かる?」
 浩平の処置に七瀬は少し迷ったが、詩子の提案にはうなずかなかった。
「わたしの所で預かります」
「あれ?意外だね」
「だって・・・」
 浩平を襲いかねない、と口を滑らしそうになったが、慌てて口を噤んだ。
 詩子はそれ以上の詮索はせずに、さっさと配下の女に浩平の移動を伝えていた。


 白い壁紙がやたらと目立つ室内、その中央にある円いテーブルの上に暖かな湯気を立ち上らせる料理。それを前には少年が座っていた。子供らしいサマーセーターに身を包んでいる。
 ここは廃病院の小児科棟、すでに廃棄された病室の一室だった。こんな最果ての地で、あまりにもだった。
「さあ、食べなさい」
 少し離れた所で、車椅子に乗った氷上が促し、少年はこくりとうなずいてナイフとフォークを掴んだ。そして、皿の上にあるハンバーグにナイフを入れた。切り目から肉汁が滴り、食指をそそる芳香が漂う。
 少年は一切れを口に運んだ瞬間、初めての食事に自然と笑顔が生まれた。そんな少年を氷上は微笑みながら眺めている。
「食べながら聞いてくれ。君はこれから見定めねばならない。何故なら、君は真実であり核心であるから。だから、行かなければならない」
 少年と氷上の視線が交錯し、無言の空間が生じる。そして、少年にはうなずくことしかしなかった。


「腹、減ったぞー」
「うるさいわねー!大人しく寝てなさい!」
 すでに夜を迎えたネオ中崎。七瀬の部屋では、運びこまれた浩平が七瀬に絡んでいた。以前よりも騒がしく、七瀬の苦労は絶えない。
 浩平の自宅にはアーミーの手が入っている可能性が高いので、ここに運んだのだ。それは七瀬にも言えることなので、詩子の命による護衛が周囲に入っているらしい。
「また、チャーハンじゃないだろうな?」
「うるさいわねー、ならあんたが作りなさいよ」
「安心しろ。俺もチャーハンしか作れないから」
「・・・・・ここは無難にカレーね」
 しかし、無難にはほど遠く、悲鳴と破壊音が飛び交い、たっぷりの時間をかけてカレーが完成した。テーブルに二人が向かい合う。
「七瀬、先に食え」
 皿を見るなり、浩平はそう言った。見た目は普通のカレーだった。匂いも特に刺激臭はない。あったら恐ろしいが。
「ほら、折原は客じゃない?だから先に・・・」
「俺に毒味をさせる気か?」
「毒味とは何よ!居候の身で贅沢言わないの!」
「贅沢なのか?まあ、いいや。じゃあ、同時だな」
 浩平の提案に七瀬は渋々うなずいた。スプーンで一口すくい、目線の所にまで持ってくる。二人は視線を合わすと、目をつぶってそれを口に運んだ。
「「うっ・・・」」
 二人は同じようにうめいて硬直した。スプーンをくわえたまま、浩平は口をもごもごさせる。
「吐いていい?」
「・・・・・だめ」
 それから二人がカレーの処分に困ったのは言うまでもない。


 結局、夕食はチャーハンで済ませることになり、浩平と七瀬はリビングでくつろいでいた。
「ねえ、これからどうするつもり?」
「さあな・・・」
 聞きたいことは一杯あった。しかし、浩平はスクリーンに投影されたバラエティ番組を見て、生返事しか返さない。
「家には帰らなくていいの?家族の人いたでしょ。たしか伯母さんが・・・・・」
「いないよ」
 声のトーンが下がり、浩平の雰囲気が変わる。七瀬は由起子の事を指して言ったのだが、浩平は否定した。七瀬は混乱した。
「どういう意味?」
「・・・・・俺はピエロなんだよ」
「は?」
 七瀬がさらに言葉の意味を問いただそうとしたが、丁度その時、電話の呼び出し音が鳴り響いた。もちろん浩平が出る素振りはなく、七瀬は椅子から立ち上がり受話器を取った。
「はい、七瀬ですけど。・・・・?あの、どちら様ですか?・・・・ええっ!?」
 電話の内容の異変に気づき、眉をしかめて浩平は七瀬の方を見た。直ぐ様立ち上がると、受話器に耳を傾けた。
「住井君からよ」
「住井?」
 七瀬が受話器を投げてよこしたのを受け取り、微かに嫌な予感を覚えつつ浩平は応対に出る。
「もしもし、俺だけど・・・・」
 わずかな間、住井の言葉が浩平の脳天を捕らえた。雷を浴びたかのように立ち尽くす。呆然とする中、浩平は住井の言葉を繰り返した。
「長森がさらわれた・・・・・?」





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J・Kの間
めちゃくちゃ久しぶりな気がするだるま屋のゾロGL91です。そして、アシの覆面の幼子です。
覆面の幼子「おひさびさです」
まあ、何というか・・・PCにまともに向かう暇ないです(泣)以上(笑)
覆面の幼子「えいえんはあるよ♪」

感想・・・・いや、洒落抜きで無理でした。申し訳ない(汗汗汗)

相変わらずJKしかない保管庫です(^^)

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/9561/