Juvenile K−10− 投稿者: ゾロGL91【感想メールのみ】
 激流は何もかも飲み込んでいた。スクラップ、汚物、そして・・・人までも。
「げほっ、げほっ!・・・こんな所で溺れ死にたくねぇぇぇーーーっ!」
 激流に揉まれる中、何とか顔を出した住井は息をつくと共に叫んだ。だが、すぐにその叫びと頭は波に覆い隠された。
「ぷはぁっ!俺だって、ごめんだぁぁぁ!」
 入れ代わりに浩平が水の中から顔を出した。しかし、そんな彼らの悲鳴を、無情にも激流は押し流していった。


EPISODE10「Born Assasin」


「ごほっ、ごほっ、うえ・・・はぁ、はぁ、死ぬかと思った」
 激流に揉まれながらも、何とか脇のコンクリートの上に上がることが出来た。住井は下水を飲んだのか、せき込みながら喉を押さえている。
「うっぷ、下水くせー」
 同じくコンクリの縁を掴んで、いまだ下半身を水につけた浩平も涙目になっていた。それでもはいつくばりながらも、体を陸に上げた。
 両者共ひどい姿だった。顔は泥にまみれ、着ているものなぞ、ぐっしょりと汚水に濡れている。
「うえ、俺の一張羅がぁ」
 アーミーの制服の上着をしぼりながら住井は嘆いている。そして、その怒りは浩平へと向けられた。
「こんな目に合ったのはお前のせいだ!責任取ればかやろーっ!」
「何ぃ?てめえが勝手に来たんだろうが!俺一人だったら、あんな奴等ぶっ倒してるわ!」
「人が助けに来てやったのに、何だその態度は!」
 拳を構え、二人は構え合う。一触即発の緊張が両者の空間に漂った。そして、殴りかかろうと同時に飛び出した。が、接近した途端、二人は顔を背けて鼻をつまんだ。
「くっせーぞ!住井!」
「お前もだ!」
 自分達の有り様を理解した二人の意見は、ここをさっさと脱出することに一致した。同時にいまだ危険な立場にいることを実感する。
「そういえば髭のおっさんは?」
 住井は激流の方を見て言った。黄土色の汚水は時折、ここまで水を跳ねさせるほど流れが早い。
「さあな、でも死にはしねーだろ」
 確信して浩平はそう言った。それから目についたタラップの方へと歩く。今どこにいるのかわからないが、今は一秒でも早く外の空気を吸いたかった。


「この緊急事態って何々だ?」
「詳しいことはわからんが、侵入者に大佐が人質に取られているらしいぜ」
 アーミービルの正面出口、二人の隊員が談話をしながら歩いていた。今、アーミー内では緊急指令により隊員が駆り出されていた。皆、武装をしてビル内だけでなく周辺を見回っている。
 もちろんこれはあの紳士の命令によるものである。そして、目標は浩平。
「そうだ、ちょっと聞いたんだが”ストレングス”が動いてるらしいじゃないか?」
「ああ、あの多目的対人兵器だろ、実際に見たことはないが、あんなもんまで出すなんてよほどのことなんだろうぜ」
「大佐だったらペンギンも出動させるんじゃないか?」
「あはは、違いない」
 二人が笑い合った時、目の前にあったマンホールの蓋がごとごとと揺れ始めた。
「な、何だ!?」
 ライフルを構えマンホールを見下ろす。二人が注目する中、蓋がゆっくりと開き始めた。異臭が漂う。
「た、大佐!?」
 話題に出した当の髭が現れ、隊員は腰を抜かしそうになる。
 髭はものすごい風体だった。ライトブルーの制服は見る影もなく泥に汚れ、口にたたえた髭も雫が垂れている。そして、隊員を最もおびえさせたのは、髭の険しい表情だった。
「中崎会長を止めろ・・・・・」
「は?」
「あの老人を捕らえるんだ!今すぐにだ!」
「はっ、はい!」
 髭のあまりの剣幕に、事情を知らないまま敬礼を返して二人は走り出した。髭はその背中を忌々しげに見つめていたが、瞳は別のものを見ていた。


 外は夜明けを迎えていた、と言っても暗雲が万年のように立ちこめ、朝の訪れを実感することはできない。
 それでも風は早朝独特の冷たさを持っていた。その空気が、今までずっと狭い壁に囲まれていた浩平と住井には嬉しかった。
「大丈夫だ、周りには誰もいない」
 マンホールの蓋をわずかに開いて、そこから辺りを見回す浩平。人の気配がないのを確認すると、蓋をずらして体を乗り上げた。後ろからは住井も続く。
「ここってどこなんだろうな?」
「滑走路・・・かな。今は戦闘機も出払ってるみたいだけど」
 住井は答えつつ、首を回した。広大な滑走路には輸送機が何台かしかない。後ろを見ると、巨大なアーミービルが来た時と変わりなくそびえている。
「こんな場所は長居は無用だ。さっさと行こうぜ」
「でも、まだ澪が・・・・」
 浩平がそう口を開きかけた時、突如強烈なライトが二人を照らした。
「侵入者がいたぞぉーっ!」
「ちっ、見つかった!折原、こっちだ!」
 管制室らしき建物から、ライトが降り注がれていた。走る二人をライトはめまぐるしく追いかける。それだけでなく巡回をしていた隊員達のざわめきも聞こえてきた。
「逃げるってどこに逃げんだよ!?」
「あそこに俺の車がある」
「あぁ?あのボロ車でか」
「んなこと言ってる場合か!」
 言いあいながらも二人は走った。目指すは金網の向こうにある住井の車。駐車していた近くに出てきたのは運がよかった。
 一方の追跡する3人の隊員達は困惑していた。追うのはいい、だが浩平には発砲することを許されていないのだ。かなり距離が開いている上に、浩平の顔を知らない彼らに判別しようがない。
「どうすんだ!?これじゃあ、逃げられるぞ!」
「ああー、俺の出世がぁ!」
「おい待て、何か聞こえないか?」
 慌てふためく二人とは別に、一人の隊員が聞き慣れない音を聞いて足を止めた。
「どうした・・・あっ!?」
 足を止めた男に、残りの二人が振り向いた。その瞬間、その表情は凍りついた。
 滑走路の向こう、本来は飛行機が走るはずの道を、大きさも形状も全く異なったものが、ものすごい勢いで走ってくる者があった。
 夜の闇に栄える銀色の風。耳障りな機械音。それを見る者は恐怖を覚えた。
 ”Mr−ST”、猟犬は放たれたのだ。
 いや、この場合猟犬という表現は合わないのかもしれない。なぜなら、この鋼鉄の人体模型には、不似合いな猫耳と尻尾がういているからだ。
 四肢をはいつくばるスタイルで、不自然なほど規則正しく走るその姿は気持ち悪い。2mを超える鋼鉄の人体模型は、隊員達に迫った。
「うわぁぁぁ、来るなぁーっ!」
 目前と迫るストレングスに悲鳴を上げる隊員達。そして、衝突するかと思われた時、ストレングスは両肘、両ひざを伸ばすと勢いよく跳躍した。巻き起こった風圧に、隊員の帽子が飛ばされる。
 がしゃん!と、アスファルトをへこませて着地した。そして、何事もなかったかのように再び走り出した。
「な、何だあれ・・・・?」
 ストレングスの異様な姿に、隊員達はぽかんとして立ち尽くしていた。
『モ・ク・ヒ・ョ・ウ・・・カクニン』
 後に赤い残光を残すアイカメラが、金網の向こうに獲物を捕らえた。丁度車に乗り込もうとしている浩平達を見て、さらにその速度を速めた。
「お前は後ろに乗れ」
「何でだよ?」
「俺は助手席には女しか乗せない主義なんだ」
(なら、今まで誰も乗ってないな)
 正解である。
「ん?何だ、あれ?」
 浩平があの機械音を耳にして、ふと先ほど越えた金網の方を向いた。だが、こちらに地を這いながら走ってくる鋼の骸骨を見て、息を飲んだ。
「住井!何かやばそうだぜ!」
「ああ?・・・げっ!折原、早く乗れ!」
 住井に促されるまでもなく浩平は後部座席に乗り込んだ。住井はキーを回してエンジンをかけようとするが、中古の国産車はなかなか言うことを聞いてくれない。
「お、おい!そこまで来てるぞ!」
「わかってるわい!」
 慌てまくる二人に、ストレングスは確実に迫っていた。そして、勢いを殺さぬまま、金網へとまっすぐぶちあたる。堅固な金網も、ストレングスの前には無力だった。引き裂くように金網を突き破ると、目前にある車にその腕を伸ばした。
「かかった!」
 ストレングスの腕が伸びた時、間一髪エンジンがかかった。歓喜に溢れた顔で、住井はアクセルを踏んだ。
 急発進した車に、ストレングスは後部を掴み損ねる。
「てめえ、出るなら出るって言え!」
 後部座席では浩平がのけぞりながら怒鳴っている。
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。まあ、何とかここは乗り切ったから・・・・」
「おい、住井・・・・・」
「ん?ぐあっ」
 バックミラーで浩平の方を見ようとした時、自然と後方の様子も見えてしまった。
 赤く燃える瞳で、追ってくるストレングスの姿を。時速80k以上出ている車との距離が離れないのだ、尋常じゃない。
「何々だよ、あの骸骨野郎は!?」
「俺が知るか!」
 逃走する国産車と、それを追う骸骨、ものすごく異様な組み合わせは、まっすぐに伸びる道路を疾走した。


 夜明けになれば、この眠ることのない街は活気づき始める。住宅街はさすがに静まっているが、交通の集まる駅や地下鉄の周りには、まばらではあるが人が通りを歩き始めていた。
 車のヘッドライトやネオンは、この不夜城を幻想の街に見せていた。欲望と思惑がごちゃ混ぜになったこの街を。
「所詮、人は飼い慣らされることでしか生きていけないのさ。誰かが先頭に立たねば、進むことのできない魚の群れと同じだ」
 ラウンジを思わせるような雰囲気と、豪奢な作りをもったどこかの一室。窓ガラスの向こうは、ネオ中崎を一望できた。
 中崎財閥の本社ビル。アーミービルほどの高さでないにしろ、ネオ中崎では最大級の高さを誇っている。そのビルの頂上近くの副社長室、部屋の主たる中崎の御曹司が椅子に座っていた。
 顔は窓の方に向け、客人には背中を見せている。
「そのリーダーたる人物があなたであると?」
「そう、であるといいが、それは君が許さないだろ?」
 皮肉めいた台詞を言いつつ、中崎が客人の方を向いた。そこには倉庫埠頭で、住井・アーミーと接戦を繰り広げた南がいた。半日ほど前までは、傷ついた体で海を渡り、命からがらで逃げてきたのだ。
 南は撃たれた肩に包帯を巻き、所々に絆創膏をつけている姿は痛々しい。疲れ切った体で、ここに呼び出されたのだ、哀れとしか言いようがない。
「ま、そう不機嫌な顔をするな。それだけ、君には期待してるんだ」
「・・・・・てっきり、失敗を責められると思っていましたけどね。で、次の指令は?」
「例の少女のことは後にしよう。順を追って手に入れればいい。うちのじいさんが何やら動いているようなのだが・・・・・、それに関わって、是非前に依頼したことを進めて欲しいのだ」
「ああ、例の買い物ですか」
 澪の奪回に気を取られていて、すっかり忘れていたことだった。
「前に米軍から”MrーST”を入れたのはわかったのだが、どうもそれだけじゃないようだ。それで、君にビル内に潜入、調査をして欲しい」
「潜入ですか?」
 気が進むはずがない。
「今、アーミー内部が騒がしい。この騒ぎに乗じてやって欲しい。まあ、さすがに今日はゆっくり休んでくれ」
「わかりました。次は必ず達成してみせます」
「いい返事だ」
 中崎は再び背を向けた。これで会合は終了だった。
(少しはけが人を気遣えよな・・・・・!)
 副社長室を退出しつつ、南は傲慢な企業家に嫌悪していた。
 

 街は喧騒に包まれていた。ラッシュ前の街を、朝帰りの若者や始発に向かうサラリーマン達の、悲鳴と怒号が響き渡る。
 その原因は街中の入り組んだ車道を、信号も人並みも無視して突っ込む国産車と、四つんばいでそれを追跡する鋼の骸骨にあった。
「どけ、退け退け退けぇぇぇ!!!」
 ほとんど性格の変わった住井が操る暴走車は、ぼろぼろになっていた。サイドミラーは吹き飛び、フロントもサイドのガラスもひび割れている。これに注目しない者はいないだろう。
 そんな車内で二人はパニックになっていた。それも無理はない。アーミービルから旧市街を抜けて、この駅前までストレングスは追跡をやめない。これまでに何度か、捕らえられそうにもなりもした。
「どうすんだよ!あいつ、どこまでもついてくるぞ!」
「折原、長森さんは俺に任せろ!だから・・・安心してお前は降りろ!」
「ふざけんな、この野郎っ!」
「わっ、馬鹿!」
 浩平が身を乗り出し、住井の首を締め上げた。その瞬間、苦しがる住井はハンドルを誤ってしまった。
 あらぬ方向に車は突っ込む。そこは丁度地下鉄への入り口だった。
 入り口の手前で休停止し、浩平と住井はほっと息をついた。だが、安心する間もなく、無情にもストレングスは突っ込んできた。
『グオオオオォォォ!!!』
 数メートル離れた所で、ストレングスは地を蹴った。間接部に青白い火花が散る。ロケットスタートで飛び出したストレングスは、強烈な勢いでショルダータックルをかけた。
「ぬあああぁぁぁ」
「どわぁぁぁーーーっ!」
 体当たりに拍車をかけられ、車は階段を想像しい音を立てて転がっていく。ラッシュ前のおかげで人がいなかったのは幸いだった。
 一気に地下まで転がり落ちた車は、助手席側を壁に強烈に叩き付けた。衝撃で車体の半分が潰された。
「・・・・・・国産車で良かったぜ」
「助手席じゃなくて良かったよ」
 二人はそれぞれに感想をもらすと、素早い動きで車を飛び出した。それから一目散にプラットホームの方へ疾走する。
 その直後だ、大破した車にストレングスが突っ込んだのは。車にのしかかり、止めをさす。何かを考えるように、赤いモノアイが左右に動いた。
『ニンム・・・ゾッコウ』
 合成音が無機質に喋る。ストレングスは逃げた二人の方向を見ると、再びはいつくばって動き出した。
 一方の浩平達は必死だった。丁度始発時間で、人波もわずかにだが現れ始めた中を、ひたすらに走る。もちろん改札を飛び越え、駅員に怒鳴られたが、その駅員も後からやってきた骸骨の、異様な姿に腰を抜かした。
 プラットホームはもはや混沌と化していた。
「やべぇっ!地下鉄が出ちまう!」
「飛び込むぞ!」
 車両のドアは今まさに閉まろうとしていた。背後からはものすごい勢いでストレングスが迫る。迷わず二人は半分ほど閉じかかった車両に飛び込んだ。
 床を転がり、車内に入り込む。ドアはタイミングよく閉まってくれた。
「ふー、危機一髪だったな」
 浩平は額の汗をぬぐって息をついた。走り出した車両から見える風景に、ストレングスの姿はない。
 周囲の者はこの不思議な二人組に注目していた。それも無理はない。一人はアーミーの制服姿。もう一人は寝巻きのような格好で、しかも裸足なのだ。さらに、くさい。
 そんなことも窮地をくぐり抜けた彼らにはどうでもよかったが。
「まさか、追ってきてるなんてことは・・・・・」
 恐ろしい想像に住井は窓を開けて、後部車両の方を見てみた。暗いトンネルには、車両の走音しか響いていない。ストレングスの姿はどこにもなかった。
「はは、そんなことあるわけ・・・・・」
 住井がそう言って振り返ろうとした時、隣の車両で天井を突き破る派手な音と、客の甲高い悲鳴が響き渡った。
 破片をまき散らせながら、ストレングスは降り立つ。そして、曲げた膝を伸ばしゆっくりと立ち上がった。両目のモノアイが狂暴に輝く。
「前言撤回!」
「逃げるぞ、住井!」
「どこに!?」
「いいから走れ!」
 この密閉された空間の何処に逃げ場があるのだろうか?それでも二人は走り出した。少しでも距離を取ろうと、前両の方を目指す。
 浩平達に逃げ場がないとわかっているのか、ストレングスは今までとは違い、二の足で立ち、しかも悠然と歩いてくる。ガシャ、ガシャという間接の音は周囲の者の恐怖を煽った。
 そして、次の駅が近くなり停車の放送が聞こえてきた頃、ついに二人は最前列に達してしまった。
「ど、どうすんだよぉ・・・、そうだ!お前、あの力を使えよ!」
「あの力・・・?よし!」
 自らの恐るべき力を思い出したのか、浩平は余裕を取り戻し、ストレングスを迎え撃つべく仁王立ちした。
『モクヒョウトセッキン・・・・・ホカクニウツリマス』
「この骸骨野郎!てめえの腹に風穴開けてやる!」
 浩平は勇んで駆け出した。右手を力一杯握りしめ、勢いよく振り上げる。ストレングスは動かない。そして、浩平がその懐に飛び込み、掌を開いて腹部に押し当てた。
「消えろぉぉぉ!!!」
 浩平の叫びが車内に響く。周りは水を打ったかのように、静まり返った。車両の規則正しいゴトゴトという音だけが聞こえてくる。
「あれ?」
 何も起こらないのに、浩平自身が首をかしげた時、静寂をキシキシと、ストレングスの右腕が上がる音が打ち破った。
「ぐはっ!」
 鈍い音が響いて、浩平は顔面をその強固な拳で殴られた。浩平の捕獲が目的のためか、加減されていてもその一発は強烈だった。
「く、くそぉ、どうして力が出ないんだ!?」
 吹き飛ばされ、床に叩き付けられた浩平は、起き上がると切れた唇の端をぬぐった。血の味が口内を満たす。
 駅が近づき、車両は減速を始めた。
 ストレングスは浩平の脇にいる住井を、邪魔な存在と捉えたのか、唸りを上げて鋼鉄の腕を振るった。
「ひゃあ!」
 寸前の所でしゃがみ込み、住井は辛くも一撃をかわした。空振りした拳は横にあったガラスに叩き付けられ、盛大にガラス片を散らした。
 そして、駅に着いたのか暗いトンネルを抜け、明るい蛍光灯が目に入ってくる。
「・・・・!住井、やるぞ!」
「な、何を?」
「こうするんだよ!」
 追い詰められ、逃げ場をなくした浩平が取った手段。それは減速しているとはいえ、走行中の列車から飛び降りるというものだった。ストレングスが開けた窓ガラスを、さらに割って浩平は突っ込んだ。
「し、死ぬ気か!?」
 唖然とする一方で、住井はちらりとストレングスの方を向いた。両目のモノアイと視線が合う。
「あ、あはは・・・・・さ、さよなら!」
 じっとこちらを見つめてくるストレングスに別れを言うと、覚悟を決めた住井は浩平と同じようにトライした。
「ぐあっ!いってーっ」
 床を転がりながら、住井は肩を強打して痛みにうめいた。それをぐっと堪えて右の方を見ると、浩平が床に倒れていた。
「折原!?大丈夫か!」
 駆け寄ると、浩平は大丈夫だ、と笑ってみせた。しかし、飛び出す時にガラスで切ったのか、足首からどくどくと血が流れ出ている。
「こんなもんどうってことない・・・・・、それよりも」
 何とか起き上がった浩平は、停車した車両の方を見た。ドアが開く。すると、乗り込もうとしていた客は目の前に影を落とす存在を見て、大声を上げて飛びのいた。
 列車を降りてくるストレングス。サラリーマンに混じるその姿は滑稽にも思えた。
「くっ・・・!」
 痛む足をひきずりながら浩平は歩く。後ろからは二人をみとめたストレングスが向かってくる。
 その時、構内に下りの列車の到着の放送が流れた。
(やってみるか・・・・、でも失敗したら)
 浩平は悩んでいた。まさに追い詰められた鼠。だが、猫を噛む手段はあるのだ。
「住井、伝言を頼めるか?」
「・・・?おい、何をする気だ?」
「もし・・・・もしも、俺がだめだったら、長森にさ、もう起こしに来なくていいっ、て」
「お、おい!」
 肩を揺さぶる住井の手を振り切り、浩平は下りのホームぎりぎりに立った。住井が浩平を引き戻そうとしたが、それを突き飛ばした。
 じょじょに速度を上げてくるストレングス。それを正面に入れながら、浩平は張り詰めそうな緊張に耐えていた。
(さっきは力が使えなかった・・・・。でも、ここでできなかったら)
 浩平の背中を冷たい汗が走る。
 暗いトンネルから、ライトを光らせ列車がやってくる。
 目前に迫ったストレングス。
 そして、浩平は跳んだ。
「うおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」
「折原ぁぁぁーーー!!」
 線路の上へと飛び出した浩平を追い、ストレングスも飛び出した。空中で組み合う浩平とストレングス。その二つの影をライトの閃光が覆った。
 住井は正視することができなかった。構内に響き渡った衝突音と、何かが砕ける音。まるで時間が止まったかのように、それらがゆっくり聞こえた。
 その時間の流れを取り戻したのが、人々の喧騒だった。
「誰かが飛び込んだらしいぞ!」
「でも、つぶれてるのは・・・・・」
「な、何だあれ!?」
 人々の声が飛び込んでくるが、住井は虚ろにそれを聞いていた。それでもふらふらと線路の方へと歩く。なぜだかわからないが、見届けるのが使命に感じられた。
「お・・・折原?」
 急停車した車両の前を見下ろす住井。だが、その目は驚愕に見開かれていた。
 線路の上に転がる鋼の骸。折れた腕からはケーブルがむき出しになり、スパークを起こしている。首は奇妙にねじ曲がり、モノアイの片目は色を失っている。尻尾は千切れとび、レールの上でのたうち回っていた。
 それでも、いまだ動こうとしているその強靱さには驚かされる。しかし、ストレングスの姿はあっても、浩平の姿はどこにもなかった。
 車両には血痕も何もない。
「あいつ・・・・またかよ」
 全てが他人事のように感じられて、住井はがっくりと膝をついた。
 

 まだ眠気がたっぷりと残る中、確実に七瀬は目覚めの時を迎えようとしていた。だが、今日はちょっと違った。
 寝室の向こうでごとごとと物音が聞こえてくる。寝ぼけていた七瀬はそれを聞き流していたが、覚醒を迎えるとがばっと飛び起きた。
(誰かいる・・・・!?)
 泥棒かと警戒して、物音を立てないようにベッドから降りる。足音を立てないように、寝室のドアの前に立つと、耳を押し当てて外界の音を聞いた。
 何やらごそごそ、と動く気配がわかる。冷蔵庫を開ける音も聞こえた。
 七瀬は拳に力を込めると、勢いよく寝室から飛び出した。
「誰!?お金なら、やらないわよ!」
 恐怖を押さえ込み、怒鳴る七瀬。
 その七瀬の目の前にいたのは・・・・。
「よう、七瀬」
 窓の前に立つ半裸の男。腰にはバスタオルを巻いている。シャワーに入ったらしく、髪は濡れていた。
 腰には手を当てて、手の中にある牛乳をまさに一気飲みしようとしていたらしい。
「お、お、お、折原ぁぁぁーーー!?」
 その瞬間、七瀬の頭は真っ白になり、ばたりと後ろに倒れた。
(嘘よ、こんなの何かの間違いよーーーっ!)
 自分の不幸を呪い、七瀬は破滅、の2文字を浮かべた。






=================================
J・Kの部屋
意外に早くアップできて自分でもびっくりの、ダルマを乗せて疾走中のゾロGL91です。
覆面の幼子「アシです」
・・・まじ?
覆面の幼子「まじ」
さて、アクションだけで一話ひっぱちゃいました(汗)うーん、疲れた(笑)
覆面の幼子「で、こうきしゅうりょうでしょ?」
うん(爆)ではでは
覆面の幼子「えいえんはあるよ♪」

突っ込まれる前にばらし:浩平は七瀬のことを覚えてるよん(^^)

ばらしその2:ストレングスの”猫耳””尻尾”の表現を前回忘れちゃいました(^^;

ぜんぜん書けまへんでしたわぁ〜(><)の、感想

A棟巡回員の怠惰なる日常・5:犬2号さん
うーん、この主人公の生々しさは・・・作者本人?(爆)そう考えて読むと、深みがあっておもしろかったです。
で、実際の所は?(笑)
二次創作長編小説作成計画ですかぁ、何か100話も1000話も続くとはすごうそうですねぇ。100話か・・・・・ふっ(謎)

新たなる趣味:サクラさん
何だかんだいってはまってるじゃん、七瀬(笑)・・・コスプレ会場て踊っていいんだぁ、知らなかった(^^)


宣伝:HPソフトも復旧して、無事に更新されています(^^)の、JKしか置いてない保管庫です。

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/9561/