Juvenile K−9− 投稿者: ゾロGL91【感想メールのみ】
 少年の目の前に広がる青の世界。揺れる波間に時折、陽光を光らせて広がっている。水平線は真っ直ぐに伸び、空と水の狭間に輝きを保っていた。
 少年は砂浜の上でそれをひたすらに眺めている。

(一つだけ願いがかなうとしたら何を願う?)

―多分、きみが願うことと同じだよ

(僕の願いは・・・・・)

―永遠、だね

(そう、永遠だ。戻ることもできず進むこともできない。その勇気がなかったから僕は・・・・・)

 少年は隣に座る少女にうなづき、今度は上をあおいだ。青空を一杯にひしめき合う雲達、風に流され何処かへと向かっていく。しかし、少年はこの光景を繰り返し見続けてきた。

(そろそろかな、見極めなければならないのは)

―行く?

(うん・・・でも、その前に夕日が沈むのが見たいな。流れる星も見たい)

 少年はまだここにいることに決めた。でも、もうすぐ行かなければならないのだろう。知らなければならないことははとても悲しく、知りたくもなかった。だけど、少年は抗らうことはできない。

(全ては流れの中にあるから)


EPISODE9「Memories Of Dead」


「浩平、あなたには真実を知ってもらいます」
 目の前に立つ制服姿の少女、里村茜は確かにその名を呼んだ。浩平は心臓を掴まれたかのように息を止めた。
 照明のない室内にいやに茜の体ははっきりとした輪郭をもっている。浩平は混乱する気持ちを落ち着かせて、ぎこちなく口を開いた。
「お、お姉さんどうして僕のことを知っているの?それに真実って何?ここはどこなの!?」
「あなたはわたしのことは知らないでしょう、でもわたしは知っています。50年も前から・・・・・」
「50年!」
 浩平が驚くのも無理はない。目の前に立つのは高校生ぐらいにしか見えない少女だからだ。どう考えても計算が合わない。
 そんな浩平の心中を察したのか、茜は軽く微笑み手を差し出してきた。意図を掴めないまま、恐る恐る浩平がそれを掴もうとした。
「うわっ!」
 浩平の手は茜に触れることなく通り抜けた。ぎょっとして手を引く。
「ど、ど、どうなってるのこれ!?ゆ、ゆ・・・ゆ、幽霊!?」
「・・・違います。でも同じようなものかもしれませんね。肉体を持たず精神だけが残り、永劫の時を変革を待ち生き続ける。それがわたしの存在」
 自嘲気味な茜の言葉。人間の思考パターン、記憶をプログラム化し性格形成を行う生体ホログラフィが肉体を持たない茜の存在だった。
 その姿は当時の記憶により投影され、言動も人格プログラムが反映されたものだが、今浩平の目の前に立っているのは生の人間を感じさせた。
「浩平、あなたはここを覚えていますか?」
「え?あ、はっきりしないけど・・・・・確かに僕はこの場所を・・・・」
「・・・・・あなたはこの中で眠っていたのです」
 茜が指さした先、一台のコールドポッドが鎮座している。愕然とした表情で浩平はそれに歩み寄った。ナンバープレートには”No3”と刻印されている。
「100年も前、正確には87年ですけど、あなたはある出来事に力を覚醒し、その呪われた力によりここで眠りについていた」
「何を・・・何を言っているんだ!」
「・・・・・しかし、12年前。あるプロジェクトによりあなたは眠りから解放され、このネオ中崎に降り立ったのです」
 信じられるはずがない。浩平はパニックに陥った。でも、反論はできなかった。
「・・・このビルができてから、わたしはずっとこうして待っていました。全ては復讐のために・・・・・。さあ、思い出してください。記憶の底の本当の自分を」
 茜の体が足音もなく浩平の前に立った。そして、掲げた右手を浩平の額に添えた。白く細い手はそのまますっ、と通り抜けた。
「う・・・うあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 浩平の絶叫が暗い室内に響き渡り、がくがくと浩平の体が震える。茜に手を差し込まれた瞬間、浩平の脳内をかき乱す衝撃が走り回った。だんだんと視界が真っ白になり、浩平は何も考えることができなくなった。
 そして、封じられた記憶が甦っていく・・・・・・・。


(ここは・・・・・・)
 気がつくと浩平は廊下に立っていた。真っ白な床を直線が続いている。脇にある窓からは木漏れ日が優しく差し込み、目の前の風景を黄金に染め上げていた。
 消毒液くさいに匂いをかぎとった瞬間、浩平はここがどこなのかを思い出した。
(病院・・・あの病院だ)
 浩平の背後からばたばたと走ってくる音が聞こえてきた。それに何げなく振り向いた浩平だったが、その表情は硬直した。こちらに走ってくるのは間違えようのない自分、幼い頃の自分だった。
(おっ、お、俺じゃないか!?)
 少年は浩平の姿を目に止めることなく突っ込んでくる。浩平は身を引こうと思ったが、それは必要じゃなかった。
(何っ!?)
 幼い自分は浩平にぶつかることなく浩平の体をすり抜けた。そして、そのまま走り抜けある病室の前で止まった。
「みさおー!見舞いに来てやったぞー!」
 忘れていた名前、その名を余韻にしながら浩平の視界は再び真っ白に塞がれていった。


「まだ外に出れないのかなー」
「もう少しの辛抱だ」
 狭い一人部屋、素っ気なく飾られた病室だった。ベッドの上には一人の少女が寝ていて、その傍らに幼い浩平が座っている。そして、自らの記憶を覗く浩平はそんな二人をドアの所で眺めていた。
(みさお・・・・・!)
 その少女を見た時、浩平はどんなに胸を締めつけられただろうか。実の妹がそこにいるのだから。しかし、浩平は今まで忘れていた。
(どうしてこんな悲しいものを見なくちゃいけないんだ!?ずっと俺は記憶をふさいでいたのに!もう・・・もう泣きたくないんだ!)
 天井を見上げ誰に向けるものでなく浩平は叫んだ。溢れた涙で視界が歪む。しかし、その叫びに耳を傾ける者はいない。
(みさおはもういなんだ!)


 別の光景。しかし、場所は同じだった。ベッドにいるみさおも、その傍らにいる少年も変わらない。だが、みさおはやせ細り、髪の毛も無くなり別人のようになっていた。そして、これは浩平が最も見たくなく、最も悲しい光景だった。
「苦しいよっ、助けてお兄ちゃん!」
「大丈夫、お兄ちゃんはここにいるぞっ」
 みさおの手を取り、必死に呼びかける幼い浩平。しかし、それを離れて見つめる浩平は知っていた。それが何の意味もなさなかったことを。
(やめろ!やめてくれ!俺は・・・俺は!)
 浩平は頭を抱え込みそのままうずくまった。あの時の悲しみと痛みが流れ込んでくる。逃げたしたかった。


「・・・・・・・・・」
 浩平は歪んだ視界に自分の膝だけを入れていた。まだ幼く小さな手は膝の上で固く組まれている。
「・・・・ぐ」
 ひたすら浩平は泣いている。みさおを失った悲しみと痛みに。この、無機質な見知らぬ部屋で。
「・・・・・精神が安定しないせいか、力の発現が顕著なんです」
「・・・・・今はそれ所じゃないといった所か・・・・」
 遠くから大人達の声が聞こえてくる。でも、浩平にはどうでもよいことだった。今の彼に泣くことしかできない。
 みさおが死に、少ししてから浩平は見知らぬ大人達にここに連れてこられた。どこかは全く分からない。ただ、胸を圧迫するようなこの四方の壁だけが浩平は覚えている。
「・・・・・後、脳波に異常が見られるんです。懸念されることが・・・・・・」
「暴走、か」
 遠ざかっていく大人達の声、代わりに聞き覚えのある声が響いてくる。それが誰の者か確かめる前に、浩平の目の前はぐにゃりと崩れていった。


 不思議だった。どうしてこの少女はいつも側にいてくれるのだろうと。
「どうしたの?」
「ん・・・何でもない」
 浩平はそう言って視線を反らした。
 公園のベンチに座る二人。手に持つ缶ジュースを時折口に運びながら。
「次はお前のおごりだからな」
「えー、何でだよー。浩平がおごってくれるって言ったんだよ」
 聞いてない、とばかりに少女は慌て始める。
「世の中そんなおいしい話があるか。それに受けた礼は返すものだぞ」
「はぁ、それだったら浩平にはたくさん貸しがあるよ。何回宿題見せたと思ってるの?」
「それはそれ、これはこれだ」
 頬を膨らます少女を横目に、浩平は一人考え込む。全くもって奇妙だった。この少女との交わりは出会いの時の恨みであり、それ以上の危害を加えている。それでもなお少女は浩平を見放すことをしない。
「変な奴だよなぁ・・・」
「何だよ、いきなり」
「お前のことだ」
「はうー」
 見上げる空は真っ黒でいつ雨が降るかわからなかった。この黒雲は晴れることがない。青空も、夕日もこの時代に見ることはできないのだ。
 だが、浩平は思う。
「この空は僕の知っている空じゃない・・・・・」
「・・・・うん、わたしもそう思うよ」
 ふとつぶやいたことだったが、少女はそんな浩平を馬鹿にすることなくうなづいた。そんなささいなことがとても浩平にはうれしかった。

 
 記憶の波が途切れ、浩平の自我は再び現実に戻ってきた。
「・・・・・ごめんなさい、あなたの傷を思い出させてしまって。でも、思い出さなければあなたは進むことができないのです」
「・・・・・・・・・」
 ナンバーズルームと呼ばれる閉ざされた一室。この時の止まった空間に、浩平は膝をついてうずくまっていた。声は聞こえないが、時折肩を震わせている。
「さあ、立ち上がってください。そして、あなたの使命を、彼の果たせなかった使命を・・・・・」
 茜がそこまで言った時、突如強烈な閃光が暗闇を引き裂いた。
「動くな!動けば撃つぞ!」
「・・・・・来ましたね」
 茜は表情を一変させて光の方向を睨んだ。浩平が入ってきた出入口。そのドアは固くロックされていたが、人一人分の穴がぽっかりと生じていた。そして、そこからわらわらと兵隊達が湧き出してくる。
「折原!今すぐ戻るんだ!」
 照明を背に、床に長く影を伸ばした髭が大声を響かせる。しかし、浩平はぴくりとも反応しない。そんな浩平に髭は歩み寄ろうとしたが、その前を茜が音も無く立ちふさがった。
「んあ・・・貴様は」
「・・・・・お久しぶりですね。と言っても、このビルにいる者は皆わたしの端末に触れているのですけど」
「ホログラフィ風情が散歩か?しかも、こんな所にまで足を伸ばすとはな」
「・・・・わたしはここを知りつくしてますから」
 髭の言葉には重たい威圧感が込められ、茜を威嚇している。しかし、茜はそれに一歩もひくことなく髭を見すえている。
「折原をどうするつもりだ?」
「どうもしません。ただ・・・復讐を手伝ってもらうだけです」
「何ぃ・・・!?だが、無駄なことだ。お前に私達を止める所か、触れることもできまい。小僧は返してもらうぞ。奴を回収しろ」
 髭が部下達に命令し、隊員達は慌てたように浩平を取り囲んだ。
「・・・・どうぞご自由に。でも、今の彼を止めるのは不可能ですよ」
 茜はそれだけ言うと、自らの姿を止める映像をかき消した。わずかなノイズ音を余韻に、茜の姿は見えなくった。髭は別段それを止めることをしない。今は浩平の身柄を確保することが先決だった。
「うわぁぁぁ!!!」
 髭が浩平の方に視線を向けたのと、悲鳴が上がったのは同時だった。
「腕が!俺の腕が無くなっちまったぁぁぁぁぁ!!!」
 隊員の一人が浩平の肩を触った時にそれは起きた。浩平の肩に触れた瞬間、男の手首から先が消滅したのだ。突然起こった信じられない出来事に、周りの者は青ざめてたじろいでいる。
 すっぱりと無くなった傷口からは真っ赤な鮮血が吹き出す。
「・・・・・・・」
 それに対して浩平は無言で立ち上がった。その空間にいた者全員が浩平に注目する。皆の視線を集める浩平は真っすぐに髭の方へと歩き出した。
「と、と、止まれ!」
「撃つんじゃない!」
 髭の制止も無駄だった。尋常じゃない浩平に恐れを抱いた隊員の一人のライフルが火を吹いた。至近距離で伸びる凶弾。しかし。
「あ、あ・・・まさかっ」
 髭も、周りの兵隊も我を忘れた。目にも止まらぬ速さで撃ち出された銃弾は、浩平に胸に命中する寸前に弾け飛んだのだ。いや、弾けたのは金色の残光で、薬きょうも何も残っていない。そう、銃弾までもが消滅したのだ。
「そんなことしたって・・・・・無駄だ」
 静かだがはっきりと含まれる怒りの声。浩平は髭の前に立ち、その大柄な体を見上げた。
「俺をこの冷凍庫に閉じ込めた奴はどこだ?」
 浩平がコールドポッドの方を顎で指し示した。
「知らぬな」
「嘘をつくな!」
「ぬおおっ!?」
 浩平の怒りが炸裂し、浩平の髪が浮き上がったかと思うと、突如強烈な風圧が髭を吹き飛ばした。
「100年前の人間が生きているはずがなかろう!」
 床に叩き付けられても、顔を上げて叫ぶ髭。
「いや!奴は生きている!俺が再び起きた時、間違いなくあいつはここにいた!100年前のあの時と変わらぬ姿でっ!!俺の体をいじくり回しやがって・・・・!こんな力はいらなかったんだっ!!」
「くっ・・・折原よ!興奮するんじゃない、力の行使はお前にとっても危険なんだぞ!さあ、大人しく我々に従うんだ!」
「うるせ・・・」
 再び浩平の髪が舞い上がり、足元にあった床の破片も浩平の周りに生じた力場に浮き上がった。
 しかし、その時髭の後方で格闘音が聞こえてきた。
「折原ぁーっ!逃げるぞ!」
「住井・・・・・・?どうしてここに?」
 浩平が思いも寄らない知り合いの存在に目を丸くする中、まぎれていた住井は隊員達の隙を突き浩平の元に走っていた。最初は浩平の変貌に戸惑ったが立ち止まるわけにもいかない。
「ほら、早く行くぞ!」
 隠し持っていた自らの拳銃を取り出し、住井は浩平の手をひいた。だが、その足元を行く手をさえぎる銃撃が襲った。
「ちっ・・・!こいつがどうなってもいいのか!?」
 足元に転がっていた髭に銃口を向け隊員達を睨みつける住井。隊員達はそれを見た途端、萎縮したようにライフルを下げた。
「ほれ、立ちなおっさん。悪いが俺達が脱出するまで付き合ってもらうぜ」
「貴様・・・こんなことをして只で済むと思うなよ」
「期限付きで覚えててやるよ」
 住井が銃を髭の背中に押しつけ歩かせる。浩平はその後を続いた。隊員達はなす術もなく立ち尽くしていた。
「すぐに無線で管制室に知らせろ!ビルの周りを囲むんだ!」
 三人が視界から消えると慌てたように動き出し始めた。


「しかし、安心したぜ。お前の記憶も戻ったし。にしても、一体どうしたんださっきの?」
 地下1階の廊下を歩きながら、ほっとした住井が浩平に話しかけた。相変わらず銃は前を行く髭に押しあてられている。
「全く分けわかんないぜ。突然消えるわ、子供に帰ってるだわ、アーミーに追っかけられる。ハプニングのオンパレードだな」
「・・・・・・」
「・・・ま、詳しいことは無事に逃げれたら聞くわ」
「知らない方がいいこともあるんだぜ」
 住井はすぐ後ろにいる浩平が別人のように思えて首をかしげた。どこかでこの非日常な世界に感覚が麻痺している。どう考えても、先ほどの浩平は普通じゃなかった。その言葉の内容も、その行いも。
「ま、お前が帰って来たっていうだけで、長森さんも喜ぶだろうからいいか」
「何でそこで長森を出すんだよ。俺とあいつは只の幼なじみだって」
 その時、今まで沈黙していた髭が抑え切れないようにこもった笑い声を上げた。
「はははっ、只の幼なじみか。どうやらまだお前は何もわかっていないようだな」
「何?どうしてお前が長森のことを知って・・・・・」
 浩平がそこまで言いかけた時、突如前後ろと目を射抜く光が三人を照らし出した。
「なっ、何だ!?」
 住井は左手で目を覆い首を回す。髭も目を細めて立ち止まっている。
「そこまでだ、鼠供」
 ばたばたと十数人の男達が包囲する中、一人のスーツ姿の紳士がこちらに歩いてきた。豊かな頭髪はシルバーに染まっているが、逆にそれが風格をもたらしている。
「失敗したものだな大佐」
「か、会長・・・どうしてあなたがここに?」
 髭は自分の名前を呼んだ紳士の方を見てうめく。
(この男どっかで・・・・)
 住井は紳士の顔に見覚えがあった。直接的な面識はない。だが、確かに覚えがある。だが、すぐに窮地に立たされていることを思い出し、背中に押しつけていた銃を、見せつけるように髭のこめかみに当てた。
「それ以上近づくな!こいつの頭が吹き飛んでもいいのか!?」
「構わんよ」
「!?」
 紳士のあっさりとした言葉に、住井は言葉の意味を一瞬掴めなかった。
「ほ、本気か?」
「ああ、たかだか人一人のために壮大な計画を潰すわけにはいかないのでね。それに大佐にはそろそろ舞台を降りてもらおうと思っていた頃だ」
「中崎会長!それはどういう意味ですか!?」
「ふふん、君だってアーミー全部を掌握しているわけではない。わたしの手の者もいるのだ」
 髭は動揺して紳士に叫ぶ。突きつけられた銃も全く目に入っていない。裏切られた、という言葉が髭の脳裏にうずまく。
「所詮我々とは違うのだよ。あまりにも君は実直すぎるのでね。計画を中止にでもされたら困るのだよ」
「まさか・・・あんたらは実行する気なのか!?いかん!あまりにもリスクが大きすぎる!」
「ふん、人々の命を天秤にかける価値が、このプロジェクトにはあるということだ」
 住井も浩平さえも彼らの会話の意味はわからなかった。
(中崎財閥の白髪じじいか・・・、アーミーにつながってることは考えられないことじゃないが)
 住井は紳士の正体を思い出した。中崎財閥の引退したとはいえ、実質の権力者と言われる老人がこの紳士だった。息子が社長を務め、そして”ASR”を影で操る孫に副社長に任せている。
「難しい話はわかんねーけど、このまま捕まるわけにはいかないんだ」
「折原!?」
 浩平が住井と髭の元から離れ、無防備な姿をさらけ出す。
「無駄なことはやめろ!お前は大切な存在なんだ!」
 髭もまた浩平の身を案じ叫んだ。
「おっさん、忘れたのか?俺はイレイザーなんだぜ・・・・・」
「!?」
 にやりとする浩平に、髭は一瞬戦慄した。
「!!」
 住井や髭、紳士や隊員達もまた息を飲んだ。浩平の中から巨大な力が噴き上がり、周囲にふわっ、と風が舞い上がった。そして次の瞬間、見えない壁にぶちあたったかのように、浩平達を取り囲む男達は弾け飛んだ。
 次に浩平は右手を壁の方に押しつけた。そして、わずかに眉間を寄せたかと思うと、特殊プラスチック製の壁がぐにゃりと変形し浩平の手のひらの中に吸い込まれた。
「な、な、何したんだお前!?」
 わずか10数秒間の間に起きた出来事に、住井は驚きを隠せず口をパクパクさせている。
「ほら、早く行くぞ!」
「お、おう」
「ほら、おっさんも!」
 戸惑う二人を促し浩平は壁の向こうに飛び込んだ。遅れて住井と髭が続く。間一髪、元いた場所を襲いかかった。
「逃がすなぁ!」
 怒りに任す紳士の形相は、今までのものとは一変していた。
「どうするんだよ!?」
 迫る追っ手に住井はパニックを起こしていた。壁の向こうはジオフロントの通風口につながっていた。浩平達は背をかがめて何とか進んでいる。
 後ろからの銃撃が心配だったが、むき出しのガス管としんがりに浩平がついたおかげで銃は撃ってこなかった。
「あそこが出口か!?」
 前方はわずかに明るくなっており、出口らしきものが見えた。
「いや・・・あれは」
 住井が顔を輝かせたが、髭は顔をしかめた。自然と足の早まる住井だが、漂う異臭に首をかしげた。
(まさかこれって・・・・)
「げっ!?」
 住井の予感は的中した。視界が開けると同時に進むべき道が消えている。下には急な水の流れ、しかもとびっきりの下水だ。これが異臭の原因である。
「最・・・悪っ」
「住井!早くしろ!」
「早くって・・・まさか、おい!?」
 急かす浩平に、住井の背筋は凍りついた。振り向き反抗しようとした住井の目の前は、浩平の裸足に一杯になった。
「もうそこまで来てんだよ!」
「んがっ!」
 浩平の足の裏は見事住井の顔面を蹴り上げた。その反動で住井の体は後ろへと流れていく。しかし、あるべき床はもうない。
「てめぇっ!覚えてろよぉぉぉーーー!!!」
「生きてたらなっ!」
 激流に飲み込まれ、流される住井の叫びが遠ざかっていく。
「おっさんも飛び込むかい?」
「んあ・・・気が進まないが仕方がない。しかし、小僧覚えておけよ。この場を乗り切れば、すぐにでもお前を追うぞ」
 髭の表情は真剣だった。それを感じ取った浩平ににやりとした。
「自分も狙われてるんだぜ?」
「わたしだってうどの大木じゃない」
 先ほど浩平達が通ってきた通路からは、男達の声が響いてきた。髭は下の激流を見て、ごくりと息を飲むと威勢と供に下水へとダイブした。
「いたぞぉーっ!」
「澪・・・・次は絶対に助けてやるからな」
 救出することができなかった澪を案じると、最後に残った浩平も激流へと飛び込んだ。水飛沫が舞い上がり、途端のその姿は隠された。
「くそぉ、逃がした!」
「中崎様、いかがいたしましょう?」
 隊員の一人が、汚れた壁にスーツを汚した紳士に命令を仰いだ。数秒の間何事かを思案していた紳士は、ゆっくりと閉じていたまぶたを開いた。
「Mr−STを出せ」
「しかし、あれは!?」
「いいから出せ!」
 紳士の言葉に隊員は青ざめた。そして反論しようとしたが、鋭い一喝にびくりと動きを止めた。
「Mr−STを出せ」
 2度目の言葉。しかし、さらにその声は冷気を帯びていた。
「了解!」


 駆動音が鳴り響く暗闇。わずかに点るランプだけが、時折照明になっていた。そして、今この暗室に緊急出動の警報が鳴り響いていた。
 天井の照明が次々と点灯され、縦の長いこの部屋の全貌が見渡せた。左右の壁には固定ジョイントが立ち並び、その寝台たるジョイントにはまさに石像のように眠りにつく主がいる。
 メタリックグレーの鋼鉄のボディがむき出しになり、まるで人体模型のような骸骨が形どられたフォルムは、死神のような冷たさを漂わせていた。
 ”Mr−ST(ストレングス)”、今この狂暴な力が目覚めようととしていた。数十体ほどが立ち並ぶ中、一機のストレングスの眼にあたる部分が、ぼっと真っ赤なモノアイに火がついた。
 きしきしと両手がゆっくり持ちあがる。足を踏み出すと、つながっていたケーブルがばちばちと電光を放って千切れ飛んだ。
『グゥゥゥ・・・・』
 産声の代わりに、鋼の骸は低くうめいた。
 







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J・Kの部屋
お久々です!いい加減後記のネタを突っ込んで欲しい、カブで北上中のゾロGL91と!
覆面の幼子「・・・・・だから、じこうしょうかいしにくいんだって」
いや、いや、お気にせずに(笑)
覆面の幼子「おい」
さて!恒例となってます、後記がめんどくせー、よって手短に一言!何が何だかわかんない方、許して(汗)それでは、読むのが面倒な方は読み飛ばしまくってください(笑)
覆面の幼子「わたしのでばんいらないんじゃ・・・・・」
ではでは♪
覆面の幼子「えいえんはあるよ♪」


宣伝:JKしか置いていない保管庫です(笑)用語集や、ふざけたキャラ紹介、ちょっと修正の入った過去作品があります(^^)・・・が!HPソフトの体験使用期限切れに更新されてません(><)近日中に何とかします(汗)

1ページ分の感想、申し訳ない(汗汗汗)

Matsurugiさん:おねめ〜わく たびたび… 続き
いや、このラジオ体操がいいんです!(爆)そう、世界はラジオ体操に始まり、ラジオ体操に終わる!
え?プール・・・?スクールみ・・・あ#
一風変わったほのぼのでおもしろいです(^^)

PELSONAさん:ダイオキシン発生装置の罠
わかるぜ、わかるぜ茜っち!たまにあるんですよ、両側から開きます、とかかいておきながら「あかねーじゃねーかっ!」な袋が(笑)特にたこ焼きのソース袋が(笑)

神凪 了さん:アルテミス
ええと、前回にも言ったような気ガスるんですけど、連載モノはリアルタイムか、続けて読みたいので感想は控えます(汗汗汗)いやー、もう40話ですかぁ。早いですね(^^)

本間ゆーじさん:必殺!(?)節穴eye!
きっと髭は気遣ってくれたんでしょう(笑)

矢田 洋さん:世紀末でも平気
あ、やっぱり(笑)前回の投稿時に、あれ?と思ったんですけど投稿してなかったので突っ込めませんでした(汗)
そしてはじめましてー(^^)こんなラブラブな二人にゃあ、きっと恐怖の大王も退散するでしょう(笑)そして、そんな二人に割って入る詩子は強い(爆)
・・・アトールが涙で見えませんか(笑)ふっ、Vの前には無力も同然・・・って、はっ#  

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/9561/