Juvenile K−8− 投稿者: ゾロGL91【感想メールのみ】
 消毒液の匂いが染み付いた病室、その雰囲気は浩平は好きではない。暴れてでも逃げたかったが、今の彼はどうすることもできなかった。手足は寝台のベルトに括り付けられ動くこともできない。
(僕は、どうなるんだ・・・?)
 先ほどからCTスキャンのような機械で、浩平は自身の体を透析されている。しかし、浩平の受ける感じではこの機械はもっと違うものに思えた。
 まるで自分の中を覗き込まれるような不快感が伴う。
 薬のおかげでぼんやりとした意識を振り絞り、浩平は薄目を開けてみた。すると、視界は照明により真っ白に覆われる中、何かがグングンと駆動音を立てて上下しているのがわかった。
 だんだんと目が慣れ視線を転じると、足の先のガラスの向こうに何人かの白衣の男達とあの髭の男が見えた
(サード・・・イレイザー?)
 浩平のおぼつかない記憶の中で、それは確かに一つの歯車だった。


EPISODE8「Army Bill」


「ここか・・・」
 全長800m近くあるガラス張りの巨大なタワービル。”アーミービル”それが金網の先にある。住井は屋上まで見上げて身を震わせた。
(折原のためにこんな所まで来ちまうなんて、俺も馬鹿だな)
 溜め息を一つつくと、住井は懐の拳銃を取り出し銃弾の確認をした。
 倉庫埠頭でアーミーに浩平と澪は捕らえられてから、住井は車でアーミーのトラック2台をここまで追跡してきた。
 トラックが到着したのはネオ中崎郊外の果て、旧市街の跡地に出来上がったアーミービル。半ば予想していたが、いざ来てみると見上げるビルは果てしなく威圧的だった。
 その経緯について、少し時をさかのぼってみよう。


 数時間前、暴れる浩平がアーミーの白塗りのトラックに連れて行かれる様子を住井は倉庫の陰から覗き見していた。
 一旦は浩平を囮とし、脱出のために車を走らせた彼だったが浩平を見捨てる気はさらさらなかった。連中の視界の届かない所まで車を走らせると、繭を残し住井はぎりぎりのここまで戻って来たのだ。
(まさか殺しちまうなんてことはないだろうが・・・、ちと面倒だな)
 司令官服を着た髭の背中を見送りながら、住井は悪態をついた。そして、普段はくだらないことにしか使わない頭でこれからの算段を立てていく。その結果は・・・・・。
「追うか」
 全員が乗り込んだトラックはエンジンをふかして、大きく埠頭を旋回しながら去っていった。その方向が車が置いてある方向じゃないことに、住井は安堵した。
 先ほどまでの抗争が嘘だったかのように、埠頭は静寂を取り戻している。海面は素知らぬ顔でただ白い波を打ち付けていた。
 住井は倉庫の陰から体を出すと壁際に落ちていた自分の拳銃を拾い上げた。それを仕舞い込むと、代わりに携帯電話を取り出す。
 プッシュボタンを押し始めた住井は、これから応対に出るであろう哀れな男のことを考え口元を笑いに歪めた。
「もしもし、わたしとても遊び相手の欲しい女子高生ですぅ」
『裏声くらい使え、住井』
「今日も残業ご苦労さん、南森」
 住井が電話をかけた相手は、刑事科の居残り常習犯南森だった。報告書を仕上げるのに追われ、南森の声は少し機嫌が悪い。と、言っても半分は住井が押し付けた始末書なのだが、これが南森を束縛しているのは言うまでもない。
『お前、例のコトは進めてくれるんだろうな?でなかったら、もう頼まれないぞ』
「次のコンパはお前中心に進めるってやつだろ?任せとけ、お前が狙った女の子は全部やるよ」
『それでよし。で、何の用だ?わざわざ冷やかすほど暇じゃないだろ』
「頼みがあるんだ」
 住井は真面目な声でいくつかの事を南森に頼み込んだ。それは繭をここまで預かりに来ること、それから瑞佳の元へと送り届けることだった。
『次のコンパ、お前のおごりな』
「わかったよ」
 少々の後悔を覚えつつも住井は電話の電源を切った。


 すぐに南森がやって来るとはいえ、繭を一人で埠頭に置いていくのはさすがに気が引けた。それでも浩平と澪のことを考えると少しの時間でも惜しかった。
 そして今、住井はここにいる。
 自分がどうしてここまでするのかは住井にもよくわからなかった。確かに浩平のため、ということもあるだろうが、それだけでここまで尽くす道理はない。
 好奇心、というのは確かにある。謎に包まれた二人の存在。しかし、本当にそれだけなのだろうか?
「ま、いいかぁ」
 だんだんこんがらがってきた思考を切断し、住井は金網に沿って歩き出した。敷地を隔離するかのようにそびえる金網は高圧電流が上方に流れていてだめだ。それに真っ向から挑んで中に入れるはずがない。
 住井の向かう先、それ住は金網の外に置かれたジオフロントの排水管理室。ネオ中崎の入り組んだ配電・配水システムになると地下施設の排水の検査・修復も手間取るものになる。そのため、わざわざ地面を掘り起こさないようにジオフロントを作りパイプラインを形成しているのだ。
 住井は車庫程度の大きさの建物の前に立った。もちろんドアには鍵がかかっている。周りに人の気配がないのを確認すると、住井は取り出した拳銃をドアノブに狙いをつけた。狙いを外さぬように引き金を引いた。甲高い銃声は辺りに想像以上に響き渡る。ぎくりとして慌てて見渡すが、幸運なことに騒ぎ出す者はいなかった。
 ドアノブは衝撃でぐにゃりと変形し、鍵も壊れた。住井はそれを掴んで回し、わずかな抵抗を受けながらも強引に開け開いた。
 中は計器とパイプの入り組んだ無機質な世界。週に一度、点検に来る程度で人の匂いを感じさせない。
 住井はグオン、グオンと音を鳴らす墓標のような機械に目もくれず、奥へと入り込む。そして、取っ手のついた色違いの床の所までやって来た。
 この下がジオフロントに続いているのを、住井は職業柄知っている。前にジオフロント内に逃げ込んだ爆弾犯を追いかけるということがあったからだ。ちなみにその時は、住井の撃った銃が爆弾の入ったバッグに命中、爆発、ネオ中崎の広い区域を停電にさせるという事態まで起こしてしまった。
(今度は俺が追われる番かもな・・・)
 そんな皮肉めいた考えが頭をよぎりつつ、住井は取っ手を引いて地下への入り口を開いた。真っ暗な空洞から冷たい風が撫でるように吹き付けて来る。
 住井は狭い空洞の中をタラップを使って、ジオフロント内へと降りていった。


「覚醒はしている。それは間違いない。だが、あの記憶障害は何々だ?」
 髭は司令室の豪奢な椅子に深々と腰掛け、デスクの上の小型ディスプレイと向かい合っていた。
『さあね。そこまではプログラムした覚えはないし、予測できたことじゃない。最も・・・未来なんて誰もわからないんだけどね』
 スピーカーから返って来る声は若い男のものだった。それに比べて中年をいった髭のものは、全く対等な立場にかけるものだった。
「んあー・・・面倒なことにならなければいいのだが」
『アクシデントは付き物さ。でなかったら、人が為す行為は単なる計算上のものになってしまう。そんなスリルを失ったものは無意味だよ』
 髭は声の主が言わんとすることは理解できた。ただ、それに共感できるかどうかは別だった。彼は軍人である。詩人のようなことをいう科学者が時には嫌になることもある。
 だが、今話している人物の言葉は、静かだが核心を得たものを感じさせた。そのせいで、髭は何の反論もできないのだった。
「すぐにでもそちらに試料を送ろう。そっちの準備は出来てるんだろうな?」
『もちろん、随分も前にね。急いでくれると嬉しい。そうそう、アンプルを与えるのを忘れないでよ。それじゃあ・・・』
 笑いかけるような口調を余韻に残し、回線は切られた。
「ふぅ・・・」
 視線をディスプレイの横にやると、時計が11時を指すのが見えた。日付が変わっても髭にはしなければならないことがたくさんある。それを考えると気が滅入るのが人情というものであろう。 
 髭はそんな重たい気分を晴らすために、シャワーに入ることを決めていた。


 閉所恐怖症ではないが、今住井はその恐怖に近いものを覚えていた。ジオフロント内に降りるものの、通路はパイプや配線がむき出しで狭い。それが神経に触る駆動音を立てているから気分が良くない。
 迷宮のように入り組んだジオフロント、ここがどこかでアーミービルの電源室に繋がっている。それが狙いで潜り込んだ住井だったが、ここで問題が起きてしまった。
「・・・・・迷った」
 それを痛烈に実感し、住井はその場にへたり込んでしまった。頭をがっくりと下げ、自分の愚かさを悔いる。過去に爆弾犯の追跡の時に、一帯の地図は見た。それを頼りにしていたのだが、この数ヶ月でジオフロント内の工事・改修も進み、様子は一転していた。住井の記憶力の悪さも含まれるのだろうが。
「はぁ・・・」
 背後のパイプにもたれ、住井は大きく深呼吸をした。これまでの疲れがどっ、と押し寄せて来る。最近徹夜も多かったせいで睡魔まで襲って来た。欠伸を一つ、首を回すとポキポキと小気味よい音が鳴り響く。
 その時だった、不思議な音色を持った少女の声がかけられたのは。
「・・・何をしているんですか?」
「誰だ!?」
 低い天井に取り付けられた、ハロゲンランプの淡いオレンジ色の向こうから声が聞こえて来た。咄嗟にそちらに体を回転させた住井は息を飲んだ。いつの間にか、全くの気配を感じさせず数メートル先の距離に一人の少女が佇んでいたからだ。
「誰だ・・・?」
 同じことを繰り返す住井に、少女は音もなく歩み寄って来た。少女のおさげ髪は歩く度に揺れ、躍動感を感じさせる。しかし、住井はどこか少女の動きに違和感を覚えていた。
「こんな所で何をしているんですか・・・?」
「い、いや、ちょっと配電の調子がね。はは、上からの命令でさー」
「スーツ姿で工事ですか?」
「う・・・」
 潜入の現場を見られ、住井は上手い言い訳すら思い付かない。大体、こんな所に少女がいるのがおかしいのだ。
 住井は改めて少女を観察して見る。おさげ髪はランプの灯かりに照らされ、細く糸のように茜色に輝いている。その端正な顔立ちはまるで人形のように人を魅せるものだった。照らすハロゲンのせいで正確には特定できないが、身に纏う衣服は茶を基調したどこかの学生服。何から何まで場違いな少女だった。
「そっちこそ、何者なんだ?アーミーとは思えないし、制服姿の点検員か?」
「・・・・・どちらでもない。でも、上の建物に住んでいます」
「じゃあアーミーの一味か」
 舌打ちをした住井は胸ポケットの銃を取り出そうとした。しかし、その手を少女は手で制した。
「わたしはあなたに危害を加えるつもりはありません。むしろ助ける側です」
「助ける?どういうつもりだ?」
「・・・案内します」
 そう言って、少女は返事も聞かずに通路の奥へと歩き出した。住井は何も持たない右手を懐から出し、少女の後を追うことにした。信用したわけではない。だが、確かに敵意は感じられなかった。それに道を知りたいのは事実だった。
 二人は無言のまま入り組んだ通路を歩き続けた。住井が一定の距離を保ちつつ見送る少女の背中は、どこか希薄で他人の介入を拒否していた。それで住井は声をかけるのがためらわれた。そして、相変わらず少女は何か違和感を感じさせるものがある。
 その正体を確かめる間もなく、少女は通路の壁が凹になった所で足を止めた。そのくぼみにはタラップが下がり、上は狭い空洞がぽっかりと開いている。どうやらここがビルへと続くらしい。
「ここか」
「はい」
「名前、聞いてなかったな」
「・・・・・里村茜です」
 わずかな沈黙の後、茜は答えてくれた。そんな茜に笑いかけながら、自分の名前を告げると住井はタラップに足をかけた。そこでもう一度振り返る。
「ありがとう。おかげで助かったよ。でも、一体あんたは・・・って、あれ?どこ行った?」
 振返るとそこには誰もいなかった。まるで茜の存在を打ち消すかのように、何もない空間は住井の声を響かせる。通路に出て辺りを見渡しても茜の姿はない。どちらも一本道なので、隠れる場所もないのだ。大体、そんなことをする意味もない。
「ま、まさか幽霊・・・・?」
 ジオフロント内をさ迷う少女の霊、等と混乱した頭は想像を先走らせる。その想像に顔を青ざめさせると、住井は全力でタラップを駆け上がりはじめた。


 浩平のあてがわれた部屋は、ベッドと机、そして一台のテレビだけが置いてあるだけの簡素な所だった。壁紙も無味乾燥な白さだけが埋め尽くしている。
 浩平がこの部屋に運ばれてどれくらいが経っただろう。記憶は不確かで鮮明ではない。着ていたものは青いパジャマに代わり、半袖から伸びる右腕を見るとガーゼが巻き付いていた。おぼつかない記憶を辿ってみると、注射針を打たれたのを覚えている。
 ベッドの上で浩平は浅い眠りに身を委ねていた。精神は緊張したままだが、疲労した体はついてこれない。
(ん・・・・・誰?僕を呼ぶのは・・・・・・)
 現実と夢の狭間で彷徨う中、浩平は誰かの呼ぶ声を聞いた。風音のようにかすかな声。それは耳ではなく頭に直接響くような感じだった。
「だ・・・れ?」
 瞳を開ける浩平。まるで操り人形のような感情のない動きで体を起こす。そして、裸足のまま床に降り立ち歩き出した。虚ろで意志の灯らない瞳のまま。
 電子ロックのかかったドアはもちろん素手で開くはずがない。だが、浩平がゆっくりと手の平をロックに添えると、自然とドアは開き始めた。
「・・・・・・・」
 無言のまま廊下へと出た浩平の背後、ドアのロック部分はぽっかりと奇麗に円形に空間ができていた。


 重みのある蓋を軋みを上げながら押し開く。人一人が出れる大きさができると、住井は体をねじ込んだ。上半身が出た所で辺りを見回す。
 照明の入らない機械が埋め尽くす体育館ほどの電源室。照明はないが、無数に立ち並ぶタンク型の発電機に備え付けられた計器が、休みなくランプの光を点滅させているので視界は闇に塞がれることはなかった。
(へっ、どうせ監視カメラか何かあるんだ。ここは堂々といってやる)
 監視員などはいなかったものの、住井はそう腹をわって床の上に体を踊りだした。そして、真っ直ぐに伸びるドアへと歩く。
 ドアノブには鍵がかかっていなかった。それでもドアの向こうに出る時は、さすがに緊張しざるを得ない。飛び出した住井は素早く向こうの壁に張り付いた。しかし、廊下には人気が全くない。
「ふー」
 ほっと息を吐くと、延々と伸びる廊下の向こうへと歩き出した。
(・・・まずは折原の居場所をつかまなきゃな)
 コツコツとよく清掃された白い床に響く足音。だが、これからの事を考えていた住井の耳に、雑音が混じった。
「・・・・・!」
足を止めても住井とは別の足音がだんだんと近づいて来る。前方の廊下はカーブになっていて、来る者の姿が見えない。住井は壁に背中をつけ、右手で拳銃を何もない空間に向けた。
 近づく足音。そしてカーブを曲がって、アーミーの制服姿の男が身を現した。それを見た瞬間、住井は発砲した。威嚇で撃った弾丸は隊員の足元で炸裂する。壁が防音処理がなされているのか、銃声をよく吸収してくれた。
「動くなぁ!」
「な、何だ!?」
 丸腰の隊員が驚きに目を丸くしている間に、住井は間合いを詰め、隊員の眉間に銃口を突きつけた。
「折原の居場所を言え!埠頭で捕まった男だ!」
「し、知らんっ」
「嘘をつくな」
 ぎりっ、と住井の指が引き金を引いた。それを見て、隊員は真っ青になり、慌てたように口を割りはじめる。
「南館の生体分析室・・・!そ、そこに運び込まれたということしか知らない!」
「せいたいぶんせきしつ?何でそんな所に・・・?まぁ、いいか」
 聞きなれない言葉に首をかしげた住井は、銃を持った腕を高々と振り上げ、グリップが隊員の延髄を打った。うっ、とうめいて隊員は倒れ込む。
「この格好じゃ目立つからな。ちょっと着ているもの拝借するぜ」
 すでに気絶して返事を返さない隊員の制服に住井は手をかけた。
「さーて、いざ出陣しますかぁ」
 オレンジを基調としたブルゾンに身を包み、キャップを深々と被り変装した住井は歩き出す。その足元には住井が脱ぎ捨てたスーツやシャツを布団にする哀れな隊員が転がっていた。


 蛍光燈の乏しい薄暗い廊下。ここは外界とは違った空気を持っている。人が立ち入らないせいか、空気の流れは遮断され淀んでいる。しかし、何年ぶりになるのだろうか、この閉ざされた区域に一つの変革の種がもたされようとしている。いや、この表現は語弊がある。すでにこの空間には変革は訪れていた。壁や床に散らばる何かの破片、銃創がそれを物語っている。
 アーミービル特殊生体科学研究所。全30階の各室では様々な研究がなされている。遺伝子工学、細菌工学、その分野は数えたらきりがない。
 この研究所には”あかずの間”と呼ばれる階がある。地下2階、ここはほとんど立ち入った者がいないので有名であった。地下1階のあらゆる階段、エレベーターは封鎖されているのだ。
 今、この禁断の空間を、少年の心を持った折原浩平がいた。
「・・・・・・・」
 無言で意志のない表情で浩平は歩く。廊下の両脇にはいくつものドアがあった。ドアにはナンバープレートが下がるだけで向こうは見えない。
 もう何年も使われず、ドアは全てロックされている。それらには目もくれず浩平はひたすらに進んだ。そして、その眼前に他とは明らかに異なった鋼鉄製のドアがそびえ立った。
「・・・・・呼んでる」
 意図の見えない事を呟くと、浩平は分厚いドアに両手を添える。一瞬の間の後、添えた手の平を中心に波紋が広がるように鋼鉄が湾曲した。そして、うねりを見せたかと思うと浩平の掌に吸い込まれるかのように、鋼鉄の壁は消滅した。そう、消滅したのだ。
「・・・・」
 浩平は何事もなかったかのように、大人の人間大の穴が開いたドアをくぐった。


 ビーッ、ビーッ、とけたたましい電子音がデスクのベルで鳴り響く。椅子に腰掛け、書類を眺めていた髭は腕だけを伸ばして受話器を取った。
「もしもし・・・・・・何ぃっ!?・・・地下のナンバーズルームがぁ!?あそこは厳重に凍結されていたはずだぞ!」
 電話の報告を聞き、髭は人生最大とも思える驚愕をした。目は見る者をぎょっとさせるほど見開かれ、口が外れんばかりに下がっている。
「と、とにかく緊急事態だ!すぐに隊員をかき集めろ!・・・そうだ、武装してだ。集合場所は南館、地下一階エレベーター前だ。いいな、即急にだぞ!」
 念入りをして髭は受話器を置いた。途切れる直前、髭の剣幕のあまりに恐れを抱いた相手が、ひきつった敬礼を返すのが響いた。
「なぜだ・・・、なぜあそこの封印が解かれたのだ・・・!?」
 立ち尽くした髭は自らの口を抑えてうめいた。


 何度か隊員とすれ違う度に、住井の背筋を冷や汗が走った。幾ら制服に着替えて変装しているとはいえ、認識プレートを見られたら元の子もない。それでも、今の所は呼び止められることもなく南館に向かうことができた。
 よく迷う者がいるのか、ご丁寧に現在位置が床にでかでかとプリントされているのが幸運だった。
「おいっ!貴様そこで何をしている!」
 そんな声が後ろからかかり、びくりと肩を震わせて振返った。緊張に顔をこわばらせて。
「緊急放送を聞いてないのか?動ける者は皆武装して南館に集まる命令だろ」
 住井の正体がばれたわけではないらしい。2人組みの隊員の内、声をかけた方が肩から下げたライフルを廊下の奥に向けた。
「緊急放送?ああ、さっきのか。でも、一体何があったんだ?具体的なことはいってないけど。・・・・・少し前に運ばれたっていう男が関係するのか?」
 住井はさぐりを含めて質問をしてみた。しかし、男達は肩をすくめて首を振った。どうやら何も聞いていないようだ。
「それにしてもお前丸腰じゃないか。まあいい。人数が揃えば大佐も何も言わないだろ。このまま行くぞ」
「ああ」
 思わぬ案内にほくそ笑みながら住井は男達に続いた。その一方で、このアーミービルで起こっている事態に、どこか戦慄めいたものを覚えていた。


 10数分後、南館地下一階の封鎖された階段前に何十人もの制服が蠢いていた。それらを正面に視界に入れ、髭は口を開いた。
「お前達を集めたのは他でもない。先日、テロが侵入して以来この地下ブロックは完全に凍結していた」
 髭の話を聞く隊員達の中に住井は紛れていた。周りの男達も緊張しているのを見て、この状況が緊急なのが実感できる。
「今、緊急解除もできなくなっているはずの地下2階、ナンバーズルームの扉が開かれた。これは誰も予測しえない事態だ。皆にはこれから地下2階に突入、潜伏していると思われる被験体の身柄を保護してもらう。よいか、決して殺してはいかん。わたしの命令あるまで発砲は許さんぞ!では、突入!」
 ざっと敬礼を返したかと思うと、隊員は足並み揃えて階段を降りはじめた。この階段も一枚の鉄板で封鎖されていたのだが、ぽっかりとえぐられたように穴が開いていた。
(折原・・・お前なのか?)
 友人であったはずの浩平が、遠い存在、いや得体の知れない存在になったかのように思えて住井は困惑していた。もしかしたら、浩平が撃たれるという事態を見ることになるかもしれない。
 階段を駆け降り地下2階へと降りる。隊員達の照らすライトに照らされ、通路の有り様が浮き彫りにされた。飛び散る破片に砕かれた壁。しかし、これは先ほどできたものよりも、少なくとも一週間以上は置かれたものだった。
 両脇にある無数のドア。それらを全く無視して隊員達は突き進んだ。そして、彼らの目の前に重厚な鋼鉄製の扉が立ちはだかった。
「大佐ぁ!これを!」
 たとえ戦車砲を用いたとしても破壊することのできない強度を誇る扉に、ぽっかりと奇麗に空間ができているのを見て隊員達は動揺した。
「ううむぅ・・・!ここまで成長していたのかっ。・・・行くぞ!」
 事かをうめいた髭だったが、自らが先頭になって穴をくぐった。


 浩平はその光景に我を忘れていた。すっかり暗闇に慣れたせいで、照明のない部屋でも視界は効いていた。むき出しのケーブルや、巨大なケーブルが室内一杯にしめている。それらはそれぞれ室内に置かれた無数の卵型のポッドに繋がっている。
 メタリックシルバーのポッドは床に水平に置かれ、ベッドくらいの大きさを持っていた。よく見れば背後に冷却剤の入った缶もつながっている。コールドスリープ、そのための装置がこれである。
「こ、これはっ」
 震える手で浩平はフロントガラスに手を差し伸べた。冷たい感触が伝わって来る。強化ガラスの向こうは使用している様子はない。
(ここは・・・・ここは何々だ!?どうして僕はここを知っているんだ!?)
 愕然とする衝撃が浩平を襲う。たまらずに浩平は走り出した。
 一列に並ぶコールドポッドを駆け出して確認していく。どれにも人は入っていない。そして、最も壁際のポッドに来ると一台のポッドのキャノピーが開け放たれているのがわかった。
 恐る恐る覗いてみるが誰もいない。しかし、浩平はとあるものに気づいた。側面に付けられたナンバープレート、そこには”SILENT TYPE”と記されていた。
(何のことだ?それに・・・・)
 そこで浩平は思考を中断して振返った。突如、背後に何者かの気配を感じたからだ。
「誰!?」
「おびえないで下さい」
「お姉さん・・・誰?」
 浩平の目の前にはいつの間にか制服姿の少女が現れていた。住井を案内した里村茜である。
「わたしは里村茜。あなたの帰還を待っていた者です」
「き・・か・・・ん?」
「永く、永遠のように続いた闇の時間。でも・・・、これから全ては始まります」
「何・・・?何を言っているのかわからないよ!」
「サードイレイザー・・・いえ、浩平。あなたには思い出してもらいます。記憶の底に封じられた真実を・・・・・・」








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J・Kの部屋
今日はオレンジのつなぎがなめらかに決まっています。お久々のゾロGL91です。
ライダー永遠少年「おっす!俺・・・」
時間の都合によりカット!(笑)
永遠少年「おいっ!!」
ふー・・・だいぶ間が空いてしまいました(完全に無視)まぁ、読んでくれる人がいるのかどうかも微妙なので、開き直ったりしてますけど(汗)
永遠少年「おーい・・・」
さて!またしても後記が面倒なので一言だけ!とにかく時間がない!よって、書くペースめちゃくちゃ遅いです!と、まあ言い訳も終えた所で、本当に次回はいつになるのかわかりませんが、ではでは。
永遠少年「誰か相手して・・・・」


謝罪;読みにくくてすいません(汗汗汗)
今更だけど確認:タイトルは”ジュビナイル K”と読むのであって”ジュベナイル K”ではないのでご了承を(笑)意味についてはネタばれ何で、教えできません(汗)”AK〇RA”読んだ人はわかると思いますけど。

書く暇ないんで勘弁を(TT)のちょっぴり感想っす。

神凪 了さん: アルテミス
最初に謝罪(汗)全部読めてません(汗汗汗)連載ものはできれば一気に読んでしまいたいもので(汗)りーふ図書館に全部保管されたら一気に読みたいと思います。・・・気力があれば感想も(汗)

PELSONAさん:彼女は太宰が好き&森の南クン&王様ゲームとは
ひ、ひどいっす、茜っち(汗)南が一体何をしたんだ!?ただ、彼は社会の底辺をはいつくばる害虫なだけなのに!確かに森で会いたくないさ!そして、視界から消えて欲しいさ!(笑)
気になったのは文章に入る”空白”何ですけど、これって流行ですか?わりと入れてる方々はいるもんで(汗)

宣伝らしきもの:例によってJKしか置いてないSS保管庫です。

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/9561/