Juvenile K−2− 投稿者: ゾロGL91
「”彼”が消えたそうじゃないか・・・」
 薄暗い一室。グロテスクにさえ思える、ケーブルや基盤のはみ出した機材に囲まれた部屋で、車椅子に腰掛けた人物が、唯一明かりを灯す小型ディスプレイに口を開いた。
『すぐに行方はつかむ。何も心配はいらない』
「それは結構なことで・・・」
ディスプレイの脇にとりつけられたスピーカーから多少の雑音が混じって、相手の男の声が聞こえてくる。
『面倒なことに暴れ回っている輩がいてな、今は時間がない。そういうわけで通信は終わりだ。動きがあったら連絡をする』
「了解」
通信が切られ、砂嵐が覆ったかと思うとすぐに電源は切られた。室内には再び暗黒と静寂が戻る。
「・・・ついにこの時が来たか」
車椅子の人物はわずかに気配を揺らして呟いた。


EPISODE2「The Silent Type」


 逃げ惑う人々。混沌の渦と化した繁華街で、一人建物と建物の間の物陰から何かを探るように首を回している男がいた。その手はジャンパーの中に忍ばせている。
「くそ、陽動が派手すぎるぜ・・・!」
 この騒ぎを起こしたテロの一味、南は自分の仲間の不手際に舌を鳴らした。彼は今、この喧騒の中あるものを探し出そうとしている。しかし、あまりに騒ぎが大きくなってしまったため、それは困難な状況にあった。
「しかも、アーミーまで・・・」
 南はさらに顔をしかめた。正面道路だけでなく路地裏からでさえ、武装したアーミー達が湧き出してくる。その数ざっと10人。体に身につけた防弾チョッキと、両手の中にあるマシンガンが威圧する。アーミーの登場に人々の混乱した。
 そのアーミーに追い立てられるかのように、数名の男達が飛び出してきた。手にある拳銃はアーミーを相手にするにはあまりにもお粗末過ぎる。
「死ぬ気か!?」
 男達が道の真ん中でアーミーと向かい合ったのを見て、南は叫ばずにはいられなかった。男達は皆、南がよく知っている戦友であった。
「政府の犬めーっ!」
 一人が引き金を引いた。ズドン!という音の次には、仕返しとばかりに絶え間ない銃声が響き渡る。
「馬鹿野郎が・・・」
 南は顔をしかめて視線を反らす。一方で呼吸を落ち着かせると、囮となってくれた仲間のためにも本来の目的に徹しようとした。そんな南の視界に天の采配とも言える少女の姿が入った。
 子供のようにかなり低い身長は報告通り。間違いないと、南は反対側の歩道にいる少女の元に走り出した。アーミー達は死体の処理に手をかけている。
 上手く目を盗んで少女の元へ駆け寄る。少女は状況がわかっていないのか、きょろきょろと辺りを見回していた。そして、その手を掴んだ。
「ふえ?」
「大丈夫だ」
 それだけ言って、南は少女を連れて路地裏に入った。しかし、彼は重大な事を忘れていた。指令で探すことを命じられた少女は”言葉を話せない”ということに。


 中崎中央署の7階の刑事科のデスク、住井は大量の始末書に囲まれていた。あまりのその量に住井は力尽き頭をデスクの上につける。
「あ〜、腹減ったぁ・・・」
 出るのは愚痴と腹の音ばかり。その憂さを晴らそうと、住井は後ろのデスクで報告書を書いていた同僚の南森に絡む。
「よ〜、何かおもしろことないのか?」
「さっさと始末書書けよ。そうすりゃあ、繁華街でも行って女の子ひっかけれるぜ」
「俺は今ここで刺激が欲しいんだ」
 そうぼやきつつ住井は手を伸ばして紙コップのコーヒーを掴む。すでに中身は冷えきり苦味だけが残る液体と化していた。
「そういえばよ、夕方の女の子はどうしたんだ?」
「ああ、ちょっとした頼まれ事さ。そうだ、お前人が突然消えるなんて信じられるか?」
「何だそりゃあ?まるで神隠しだな」
「神隠し?」
 南森の発した単語に住井は興味を持った。科学が先行し、そんな迷信めいたことが廃れている中でそんな言葉を聞くのは珍しい。
「突然人が消える。大昔じゃよくあったことらしいな。ま、原因は何だか知らないが、まあどっかのジャンキーか何かが言い出したんだろ」
「ふーん・・・・」
 住井は何かを考え込むようにして自分のデスクに向かい合った。そして、脇にあったノートパソコンを開く。署のデータバンクに繋がった端末は、犯罪者データ、事件ファイルを引き出せる。それだけでなく日常に関わる様々なことについても調べることができた。
 住井の指がキーボードを打っていく。”K”、”A”、・・・。
「神隠し・・・と」
 パソコンが読み込みを始め、データベースから”神隠し”に関するデータを画面上にびっしりと表示させた。それらを画面をスクロールさせつつ、ざっと目を通していく。そんな住井の目に止まる単語があった。
「Disapeair・・・存在が消える、か」
 ”Disapeair”、単なる英単語だが、住井はそれにおぼつかない不安を抱いた。浩平が消えたという事実がここで初めて異常なことに感じられる。住井の警鐘が鳴り響き、事件に対する好奇心が沸き上がる。
 ちょうどその時、ワイシャツの胸ポケットに忍ばせていた携帯電話が鳴り響く。
「はい・・・、あ、長森さんどうしたの?・・ええっ!?」
 電話越しに聞いた瑞佳の言葉に住井は絶句した。それから瑞佳に一言、二言告げると電話を切る。
「悪い、後頼むわ」
 電話をしまい込むと、デスクの片づけもままならず直ぐ様住井は椅子から立ち上がった。
「お、おい、頼むって何を?」
「課長にはお前が体を張って許しを得てくれ」
 後ろからの非難の声を聞き流しつつ、住井はジャケットを掴んで刑事科を出た。


 署を飛び出した住井は繁華街に向けて走っていた。瑞佳からかかってきた電話の内容は、繁華街で起こった爆発事件、そして、繭とはぐれてしまったことだった。
(全く、俺も人がいいよなぁ)
 瑞佳のために動いているということを自覚しつつも、住井は悪い気がしなかった。まるで少年のような気持ちが先行している。
「こりゃ、またついてない・・・」
 繁華街へと抜ける通りが検問で塞がれているのを見る。ここを抜けなければ瑞佳との待ち合わせ場所に行けなかった。しかも、爆発事件のこともあり、通してくれそうになかった。
(路地裏か・・・)
 別の通りを使えばだいぶ時間がかかるので、住井は近道にもなる路地裏を通ることにした。ただ、着ているものが汚れることに気が難点に思えたが。
 案の定、路地裏を進むことにした住井は後悔することになる。異臭漂う路地裏は煤けた色をジャケットにつけてくれた。
「ちくしょーっ、せっかく長森さんと会えるっていうのに・・・!」
 そう考えると住井はだんだんと苛立ちを覚えてきた。そして、その苛立ちのせいか歩みも荒々しくなる。強く一歩を踏み出した時に、大きく泥が跳ねた。飛び散った泥は闇の向こうにも届く。その時だ、闇の向こうで何かが動いたのは。
「・・・誰かいるのか?」
 闇の中で動く気配に気づいて住井は足を止めた。呼びかけてみるが、返事はない。代わりに嗚咽のような声が聞こえてくる。
「泣いているのか・・・?」
 住井が近づこうとすると、がしゃあっ!と暗がりで何かにぶつかったらしく大きな物音が響いた。住井はそのまま視界に入るまで近づく。
「子供?」
 泥の中に倒れる形となっているのは少女だった。頭に大きなリボンが目立つ。転んでもなお、手にしていたスケッチブックは無傷にしようと庇っていた。そのスケッチブックを見た時、住井は不思議に思った。そのスケッチブックは本物の紙で出来ている年代物だったからだ。


「あ、住井君!」
 繁華街を少し離れた公園。その脇には下水へと続く河川が流れている。瑞佳は公園の入り口から、やって来た住井に向けて大きく手を振った。しかし、笑顔だったその表情もやって来た住井を見て怪訝なものになった。
「ごめんごめん、ちょっと手間取って」
「ううん、全然」
「で、どうしたの?テ・・・爆発事件が起こって、ええと繭・・・ちゃんだっけ?いなくなったの」
「うん、ちょっと手が離れた時に・・・、探してはみたんだけどあの騒ぎで」
「そうか・・・でも、元気出しなよ。今ごろ家に帰って元気にしてるさ。それにこっちで身元とか調べてみるし」
 落胆する瑞佳を見て、住井は何故か自信たっぷりな態度で元気づける。こうでもしないと、瑞佳はますます落ち込みそうだったからだ。
「ところで住井君」
「何?」
「ずっと気になってたんだけど、その子は?」
「う・・・」
 瑞佳の視線の先、住井の腰の横には一人の少女がいた。先ほど路地裏で出会った少女である。泥にまみれたそのスカートは、裾がほころんでいる部分さえもある。
「もしかしてさらってきたの?」
「そんなわけないでしょ・・・っ!実はここに来る途中で出会ったんだけど、何か変なんだ。一言も喋らないし、このスケッチブック・・・本物の紙なんだ」
「レプリカじゃなくて?」
「うん。それで色々質問してたんだけど、何もわからずじまい。結局放っておくわけにもいかないから・・・」
 少女を見下ろすと大きく住井は溜め息をついた。
「ねえ、あなたのお名前は?」
 瑞佳は少女に多少の疑問を持ったが、笑顔を浮かべて話しかけた。少女はおびえるように住井の後ろに下がったが、瑞佳のその笑顔に気を許したのか、スケッチブックを開いて上着のポケットにあったペンで何かを書き始める。
『上月澪なの』
「こうづき・・・みおちゃん?」
『うんなの』
「いい名前だね」
名前を誉められて、澪は照れたのか顔をうつむけた。そんな素直な澪の様子に瑞佳は穏やかに微笑む。
「ねえ、お家はどこなの?」
『・・・・・・・』
「答えたくないんだったらいいよ。でも、子供がこんな時間に外で遊びまわったらだめだよ」
『子供じゃないのっ』
澪は不満そうに二人を見上げた。そして、ペンの走らせたスケッチブックを見て声を上げずにはいられなかった。
『16なの』
「えっ?本当に?」
「まじかよっ」
驚く二人をよそ目に澪はまたもペンを走らせた。今度はさらに二人を驚かせることになる。
『かくまって欲しいの』
「かくまう?」
『追われてるの、多分』
「多分って何だ、多分って」
住井の突っ込みにあからさまに怒りを込めて、澪がスケッチブックではたく。
「角はやめろって!」
「うーん、何かわけありみたいだけど、落ち着くまでならいいよ」
「え?」
『ほんとなの?』
「もちろんだよ」
素性の全く知れない少女をかくまうことを許した瑞佳に、住井は絶句した。恐ろしく思いつつも、さすが長森さん、と妙に納得できる。
(ま・・・こいつ自体は危険なさそうだな)
 一方で喜ぶ澪を見て住井は心底そう思った。


「はぁ・・・」
「みゅー♪」
南のため息はこれで何回目になるだろうか?無事にアジトにまで戻って来れたはいいが、何故か南の目の前では繭がハンバーガーを食べている。お世辞にも清潔とは言えない、殺風景な一室にはあまりにも繭の存在は不似合いだった。
「随分とお前の趣味も変わってるな。中学生は犯罪だぞ」
「俺はロリコンじゃない・・・・・」
南の後ろの壁に背をもたれていた仲間である箕浦が嫌みたっぷりに口を開いた。反論もできずに南は苦虫をかみつぶしたような表情をする。アジトを知られたが、無関係のものを殺すわけにもいかず、家に帰すわけにもいかず、南は繭の対処にほとほと困っていた。
南のテログループ”ASR(a supporting role)”が狙った”少女”を、繭と勘違いしたのは南の早合点だった。何人もの仲間の命をかけた作戦が無駄になってしまった、その事実が南を痛み付ける。
「中崎から連絡が来た。アーミーの動きがまだ収まっていないことから、まだ奴等も見つけてないのだろう。何としてでも、保護しろとのことだ」
「どんな手で?」
「自分で考えろ、だとよ」
「ちっ、全くあのお坊ちゃんもきついこと言ってくれるな」
「それとだ、アーミーが”でかい”買い物をしたらしい。それを掴めとも言っている」
「やれやれ・・・」
”ASR”を援助する中崎財閥の御曹司の顔を思い浮かべ、南の気分はますます重くなった。彼等の活動目的それはまさに国家転覆。政府より企業の実質の体制は旧世紀よりも、さらに肥大化していた。怠慢化した政治家なぞ、資本家にしてみれば金づるか、利潤を妨げる害虫にしか過ぎない。それが南達の思想と同じでないにしても、協力の形を取ることになったのだ。
「今夜は動くけないだろうからな。全てはこれからだ」
南はいまだハンバーガーを嬉しそうに食べている繭を見て、そう切り上げた。






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2回目の投稿となるゾロGL91です。今日はエルビスの顔面プリントネクタイが憎く決まっています。
覆面の幼子「アシスタントの・・・なんていえばいいの?」
・・・幼子(笑)さて、前回無理矢理に切ってしまったため、中途半端になってしまいました(汗)
ほとんど前回とくっつけてもらってくれれば幸いです。というわけで、あまり後記することが(汗汗)
覆面の幼子「でばんが・・・」
次回もお暇であれば付き合ってください。ではでは。
覆面の幼子「えいえんはあるよ♪」


ちょっと裏話:”ASR(a supporting role)”とは”脇役”の意味です(爆)

メールについて:あんまりチェックしないので、送っていただいた場合、レスはものすごく遅れます(汗)

少ないですけど感想なんか

シンさん:スケッチブック
動物とかの視点はありましたけど、これは新鮮ですね。冒頭の部分がなければ、”いい意味”で視点の正体がわからなかったと思います。これはアイディアの勝利だと思います。

サクラさん:七瀬留美・暗殺計画OP
・・・・恐ろしく”暗殺計画”にぴったりのOPですね(笑)

狂税炉さん:残酷な結末
こ、これはハードな話で・・・(汗)でも、実はこういうの好きだったりします(笑)ハッピーEDばかりじゃない、というのは共感できます。しかし、浩平の存在を覚えているだけに、逆に辛いでしょう・・・(泣)

Matsurugiさん:真夏のONE Phase#1
ええと、元ネタのコミックはわかりませんでした(汗)でも、十分おもしろかったと思います。まだまだ序盤なので、続きが気になるところです。
:ONE BRIGHT WAY
イヌ夫ですか(笑)台詞のみの構成ですが、なかなか雰囲気が伝わってくるので、すっきりしてよかったと思います。

ひささん:終わらない休日 第11話
猫を観察してかかれたのですか。なるほど、細かい部分もこだわっていらしゃる。猫の観察日記のように、登場する猫がいきいきとしてたのがすごいと思います。猫が欲しくなりますね(笑)

SOMOさん
感想ありがとうございました。さすがにまだ序盤というか、しかも中途半端に切ってしまったのでわかりにくかったと思います(汗)感想書きづらい場合は、飛ばしても構わないので(汗汗)暇でしょうがない時に読まれる場合は、続けて読むことをお勧めします。