Juvenile K 投稿者: ゾロGL91
 

(・・・・・・・)
 ずきずきとこめかみが痛む。安らかな朝の眠りを、小鳥のさえずりではなく雷鳴で起こされたようなものだ。おかげで目覚めは最悪だった。
(・・・・・・?)
 いまだ頭痛が続く中、目を開くと目の前を灰色のベールが包んでいる。しかし、少し時間を置いてみると、それが薄闇の室内の天井だということがわかった。
 それが確認できる頃には少女は自分が”目覚めた”ことに気づいた。外の喧騒が嫌に耳に触る。自分の寝ていた機械づくめの”ベッド”のキャノピーが吹き飛んでいたので、小女は体を起こすことができた。
 周りを見渡すとそこは彼女の記憶と変わらない部屋。そして、傍らにあるスケッチブックも眠る前と変わっていなかった。
(・・・・・・)
 スケッチブックを胸の中に抱くと、少女はその足を床に落とした。素足に床の無機質な冷たさが伝わる。そして、少女は歩き出した。未知が待つ外界へと。


 A・D2099年 日本
 発展する都市文明と荒廃する地球環境。空を覆う暗黒の雲は、旧世紀の吐き出した晴れることのないスモッグの固まり。人々は澄み渡る青空を見ることがなく、広大な草原を見ることがなくなった。
 空気も淀み都市の至る所で働いている浄化装置がなければ、まず生きていくことなど不可能な世界。
 そんなすたれた世界でも人は順応し、それなりの幸せと不満を抱いて生活している。
 21世紀を迎えたこの日本のとある都市で、全ては始まった。


EPISODE1「Disapeair in the day」

 
 第二副都心に位置するネオ・中崎。巨大なビルをようするミラー張りの建物。この街の治安を”肩書き”では維持している中崎中央署の刑事科では、今日も罵声が響き渡っていた。
「何度言ったらわかるんだ!お前の仕事は張り込みと連絡役!ホシが動いたら、すぐに上に伝えることだ!」
 辺りの目を気にすることなくデスクを叩く小太りの中年。少し禿かかった頭が寂しい。しかし、これでもこの刑事科を仕切る課長なのだ。
「いいか!次ぃ、失敗してみろ!その首がないと思え!」
「はい・・・」
 課長の前で萎縮しているのは住井護。この中崎中央署の若手刑事。
 住井は課長の叱責にいかにもしおらしくしているが、内心では全くうわの空である。
 叱責の理由は麻薬のバイヤーの張り込み・連絡を住井が担っていたのだが、独断・単独で突入、バイヤーを取り逃がすという始末。しかも、住井はこの独断行為の常習犯だった。
 普通だったらとっくに首になっていただろう。それでも、叱責・始末書で済んでいるのは、その活躍にあった。
 近頃の犯罪も多様化・進歩し、現状ではついていけないのが本音である。そのため”アーミー”による武力行使がものを言っている。しかし、このようなセオリーに流されない住井の行動は犯罪者の裏をかくのだ。
「俺が若い頃はなぁ・・・」
(また始まったよ・・・)
 課長お得意の昔話が始まると、住井は心底うんざりした。
 教訓は所詮訓話にしか取らない彼にとって、課長の言葉は苦痛にしか過ぎない。くどくど話を続ける課長に、いい加減頭痛を感じた時、住井に天の助けとも言える同僚の声がかかった。
「住井〜、客だぞ〜」
 それを聞いてしめたとばかりに、住井は背筋を伸ばして敬礼をした。
「課長!全く遺憾でありますが、我々が守るべき一般市民を待たすわけにはいかないので、これで失礼します!」
「お、おい!」
 課長の制止も聞かず、住井はドアの方に向かった。ドアの前には住井に声をかけた同僚がにやにやとしている。
「いつ、あんな美人をひっかけたんだ?今度紹介しろよ」
「・・・女か?」
「応接室に通した」
 住井は刑事科を出ると、同階の廊下を応接室に向かって歩いた。
 その間、客について考える。女の客等思い当たるものがなかった。この仕事について以来、女縁がないのが自慢である。住井は奇妙な期待と不思議な気持ちで応接室のドアを開いた。
 そこで住井を迎えたのはまさに思いもよらない人物であった。
「な、長森さん!?」
住井君、久しぶり!」
 応接室のソファに座っていたのは住井の高校時代の同級生、長森瑞佳だった。久しぶりに見る懐かしさか、瑞佳は笑顔で顔をほころばせている。
 住井は意外な来客に気が動転していた。ここに来る理由も見当たらないし、何よりも相手はクラスで1・2の人気を争った瑞佳だ。密かに好意を抱いていた住井がどぎまぎしないわけがない。
 当時の思い出が嵐のように駆け巡る。
「と、突然どうしたの。・・・その子は?」
 住井はその時になって初めて瑞佳の隣に、黒いフードをすっぽりと被った子供に気づいた。顔を下げているため、性別の判断がつかない。
「まさか折原との子供じゃ・・・」
「そんなわけないよ。大体、浩平とはそんな仲じゃないし」
「そういえば折原はどうしてんの?」
「それが・・・・・」
 住井がその名を出すと、瑞佳の表情は途端に暗くなった。住井は何かまずいことを言ったのではないかと、あたふたする。
 それから瑞佳は語り出した。”信じられない”出来事を。


 数時間前。
 長森瑞佳は幼なじみの折原浩平と街路を歩いていた。
 道脇にある商店のショーケースの中を時折覗き込みながら、普段と変わらない日常を送っていた。
「あ、浩平見て見て、あの電子キャット。ふさふさでかわいいよね」
「お前家に8匹飼ってるだろ。これ以上飼ったら電気代で破産するぞ」
「大丈夫だよ。最近はハイブリッド化してるから」
「ふーん」
 興味なさげに浩平は瑞佳の猫好きに付き合う。二人は小学校来の幼なじみである。共にネオ中崎の大学に通う2年生。ただし、浩平の場合はあまり大学には興味がなかったのだが、目的のない人生などいけない、と瑞佳に半強制的に受験勉強、個人指導もあいまって入学を果たしたのだ。
 そして、その努力を省みることなく日々を波の立たない平穏に過ごしている。
「そんなに見てると、目からレーザー光線が出てショーケースを焼き切ってしまうぞ」
「・・・・よくわかないよ、浩平」
「そんな気分だったんだ」
「ますますわかんないよ」
 浩平はいまだショーケースの中の電子キャットに魅入っている瑞佳に飽き、ふと車道の方を見た。
 厚い雲のおかげで太陽を拝むこともできず、太陽電池はこの時代がらくたにしかすぎなかった。ソーラーカーなどは夢物語に等しい。おかげで有害物質をまき散らすガソリン車が大手を振って走っている。しかも、エネルギーの逼迫して状況で、使われるのは合成燃料。もちろん質は最悪。
 横断歩道の点滅が始まる中、一人の小柄な少女が道を渡ろうとしているのに浩平は気づく。しかし、その少女は一般常識が欠けているのか、そろそろ信号が赤になろうとしているのにゆっくりと進んでいる。
 浩平は嫌な予感がした。そして、それは的中することになる。
「あ」
 少女が横断歩道の3分の2を渡った程度の所で信号は切り替わる。そこに運悪く気の荒い暴走トラックが突っ込んできた。クラクションを鳴り響かせるが、少女は状況がわかっておらず気の抜けた表情で立ち止まってしまった。
 トラックはブレーキも間に合わず少女に突っ込む。
「危ねーだろ!」
「ふえ?」
 少女の体を横合いから飛び出した浩平が突き飛ばす。その勢いで少女は歩道に達することができた。しかし、浩平は一人車道に取り残されることになる。
「浩平ーーーっ!」
 瑞佳がその光景を見て絶叫した。地面に倒れ動くことができない浩平に迫り来るトラック。視界が鉄の壁に埋め尽くされ浩平は死の覚悟をした。
 瑞佳もまた予想されるであろう事態を想像して、手で覆った顔を伏せた。
「・・・?」
 しかし、予想していた衝突音が響かず、瑞佳は怪訝に思っておそるおそる顔を上げた。
 道路にはトラックは止まっておらず普段通りに車が次々と行き交っている。アスファルトには血も何もついておらず、引きずられた跡もない。反対側の歩道に目を転じても、少女が何が起きたのかわからないといった表情で尻をつけたままにしていた。
「浩平?」
 瑞佳の呼びかけに答える者は誰もいない。そこで瑞佳は気づいた。浩平が消えてしまったということに。


「わたしも信じられなかったんだけど、浩平が消えちゃったのは事実なんだよ。それで、警察に言っても信じてもらえないだろうけど、住井君今でも浩平と遊んだりしてるでしょ?それで・・・」
「まあ、たまにだけどね。しかし、不思議なこともあるもんだ」
 住井はたっぷりとタバコを吸い込み、煙を吐き出してそう言った。瑞佳自身が”信じられない”という前振りをつけているのだから、住井が一聞して信じられるはずがない。
 それでも瑞佳の話なのだから多少は真剣に聞いていた。
「でも、折原のことだからさ。すぐにひょっこり顔を出すんじゃない?」
 慰めのようななっていないような言葉をかける。しかし、瑞佳の表情は晴れることがない。
 住井は高校時代からの悪友だけあって浩平のことはよく知っている。最近でもたまに会うこともあるが、当時から何を起こすかわからない性格は変わっていなかった。何よりも浩平の事に関しては瑞佳が最も理解しているはずだ。
(ちくしょー、折原の奴長森さんに心配してもらいやがって・・・)
 住井は忌々しげに浩平のことを思い、その憂さを晴らすようにタバコをもみ消した。ふと、目線を上げると前に座っている子供の裾が引きずったように汚れているのがわかった。
「長森さん、まさかその子が・・・」
「うん。この子も浩平が消えたのを見てるんだ」
 瑞佳がフードを取ると、そこには話に出た少女が顔をうつむかせていた。
 人見知りする性格なのか、時折ちらちらと住井の顔をうかがっている。
「ふむ。信号はちゃんと確認して渡るんだぞ。じゃ、長森さん、俺そろそろ仕事に戻らなくちゃいけないんだ」
「あ、ごめんね。変なことに巻き込んで。それで、浩平のことだけど・・・」
「大丈夫、俺に任せてくれ。これ、携帯の番号。何かあったら連絡して」
「本当にありがとう」
 住井から名刺を受け取り、瑞佳は心からの笑顔を見せた。それを見てますます住井は浩平のことを憎らしく思っていた。
 住井はこの時、瑞佳の話は半信半疑にしか思ってなかったし、これから自分が想像を絶する世界に巻き込まれることを知る由もなかった。


「雨だ。大変・・・!」
 署を出ると、厚い雲からしとしとと雨が降り始めた。慌てて瑞佳は自分の着ていたコートのフードを被った。同時に少女もフードを被ったのを確認する。
 この時代の酸性雨は人体に直接的な刺激を与えるほど、強いものになっている。人々は特殊繊維で出来た衣服を着なければ、たちまち雨に体を痛めていることだろう。
 建物も例外ではない。アスファルトやコンクリートも特殊加工がなされ、酸性雨に備えている。
 このような過酷とも言える環境を人々は”日常”として受け入れていた。
「あ、もうこんな時間だね。えっと・・・そういえば名前聞いてなかったよ」
 瑞佳が腕時計を見るとすでに時刻は夕方を過ぎていた。街は帰宅する会社員達が溢れかえっている。
 夕食時なので少女を家に帰さなければならないことを思い出した瑞佳だが、自分がまだ少女のことを何も知らないことに気づいたのだ。
 浩平が消えてから辺りを二人で散策することに夢中になり、当たり前のことを忘れていた。
「あなたの名前は?」
「繭・・・椎名繭」
「繭、うんいい名前だね。わたしは長森瑞佳、よろしくね」
 出会ってから数時間して初めて二人は自己紹介を交わした。その時、内蔵時計が精巧なのか繭のお腹がぐ〜っ、と気の抜けた音を立てた。瑞佳は苦笑してそれに答えた。
「お家に帰ろうか?お母さんも、心配してるよ」
「みゅ・・・お家帰りたくない」
「どうして?」
「・・・・・・・」
 質問には答えず、繭は黙り込む。その代わり腹の音だけはよく響いた。瑞佳は溜め息をついて口を開いた。
「何か食べようか?」
「ハンバーガーがいい♪」
甘い性格の瑞佳は強く言うこともできずに、繭から名前以上のことを聞き出せなかった。


 昼夜を問わずきらびやかなイルミネーションが彩る繁華街とは対照的に、その路地裏はタールを固めたようにどす黒い暗闇が支配している。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
 少女の耳を自分の手を引く男の荒い息が打つ。鬱地味な皮ジャンパーに鳥打ち帽。全く少女には見覚えのない人物だった。
 目覚めた少女の記憶はあれから定かではなかった。ただ、自分の周りで騒ぎ立てる大人の声だけは覚えている。そして、今はこの見知らぬ男にここにいた。
「いたぞぉ!あそこだぁ!」
「しまった!」
 後ろの闇からそんな声が響き、数人の足音がばたばたと聞こえてくる。男が振り返ったのと同時に、目を射ぬくような閃光が照らし出す。男は強力なライトの光りに姿をあぶり出されながらも、少女を後ろにかばった。
 次に懐に忍ばせた拳銃を取り出し、その引き金を引いた。銃声に少女はびくりとする中、銃弾はライトを打ち抜く。
 それに応戦するかのように、追っ手の機関銃が火を吹いた。いくつもの火線が男を襲う。
「うあっ!」
「止めろ!撃ってはいかん!」
 隊長らしき者の制止がかかり銃撃はぴたりと止まった。しかし、すでに男は腹を打ち抜かれ血を流していた。それでも少女をその背に隠そうとしている。
「に・・・逃げろ・・・!人込みに紛れれば、わかりはしない・・・・、後は仲間にぃ・・・」
 呻きつつ少女を路地の向こうに追いやる。少女は男の腹から流れ出る血を見て、ショックにしゃくり上げそうになった。
「は、早く逃げろぉ・・・!」
 男は少女の体を押し出すと、震える手で銃を構えた。
「おおおっ!」
 雄たけびを上げながら、力の続く限り引き金を引き続ける。それに対して銃弾の波が応酬となって返ってきた。
 その間に少女は涙を堪えながら走り出していた。


「ふーん、お母さんと喧嘩したんだ」
「みゅ・・・」
 バニラシェイクのストローをくわえる瑞佳の前で、繭はハンバーガーにかじりつきながら頷いた。店内の明るい雰囲気に落ち着いたのか、繭は名前以上のことを話してくれた。
事情を聞いた所によると、繭は母親と喧嘩、そのまま家を飛び出すが行く当てもなくうろついていたらしい。そこを浩平に救われる形となったのだが、瑞佳には少し疑問が残った。
 繭は見た目から判断すると中学生。その割りには言動は世間知らずで、幼い。
「ねえ、どうして喧嘩なんかしたの?」
「みゅーが・・・みゅーが動かなくなったのに・・・」
「みゅー?」
「電子フェレット・・・みゅー、ともだち」
 何かを思い出したのか、急に繭の表情が崩れた。それを見て慌てて慰めようと顔を乗り出した時、外から爆発音が響いた。店内のガラス窓が風圧にびりびりと鳴いている。奥のフロアにいた瑞佳達は呆気に取られて、それを見ていた。
 またも爆発音が響いたかと思うと、今度は爆風に伸びた炎が確かに見えた。爆発はかなり近いのか、壁や天井をきしませてコンクリートの粉を落とす。
 店内にいた人々は動揺し、騒ぎ立てながら店を飛び出した。
「ここにいたら危ない!」
「ふえ?」
 状況がよくわからず未だハンバーガーをくわえたままの繭を引っ張り、瑞佳もまたテーブルを離れた。その際、代金を置いていくのも忘れない。
 ファーストフード店を飛び出すと、外は混乱の渦と化していた。何が起こったのかもわからずに、ただ逃げ惑う人々。その恐怖をかきたてるかのように、爆発音が響き渡る。
「一体何が起きてるんだ!?」
「テロだよ、テロ!」
 人込みの中からそんな怒鳴り声も聞こえる。瑞佳はそれを耳にしながら、繭の手を引いて繁華街を抜け出そうとしていた。その時、繭の肩が横を走ってきた人影にぶつかった。
「あ・・・ハンバーガァ・・・」
 ぶつかった拍子に繭はまだ手に持っていたハンバーガーをアスファルトの上に落としてしまった。それを拾おうとしゃがんだため、瑞佳の手を放してしまう。
「あ、繭・・・!」
 立ち止まってしまった繭の元に戻ろうとした瑞佳だが、押し寄せる人波に押し流され、すぐに繭の小柄な体は視界から消えてしまった。
「繭ーっ!」
 瑞佳の叫びをかき消すように、群衆の喚声の合間から銃撃音が鳴り響いた。








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J・Kの部屋

初めまして、カントリーウェスタンな怪しげな服装に、怪しげなシャネルのサングラスでその正体を隠しているけど、思いっきりばれてる気がするゾロGL91です。そして、アシスタントのち・・・
SE(ドフッ!)
ぐあっ!
覆面の幼子「それいじょうはいったらだめだよ(にっこり)」
うう・・・笑顔が某黒髪のお姉さん並の怖い・・・。
ええと、こんなどうでもいい前振りはさておき、これまたどうでもいい作品を投稿してごめんなさい。長い上に、こんな稚拙な作品で(汗)天王寺澪さんの”NEUROーONE”がありながら(汗汗汗)
覆面の幼子「くらべたらうすっぺらいよね、このはなし」
それは言わないで(泣)それと実は1話分がとても長くなったので(ワードで50K)変な切り方してしまいました(汗)なるべく数よりも一話に凝縮しようとしてしまいまして・・・・。
覆面の幼子「ながすぎ、ながすぎ」
なるべく短くいこうと思っていますので、お暇な方はおつきあいください。ではでは。
覆面の幼子「えいえんはあるよ♪」



ちょっと裏話:タイトルからわかる通り、本編は”AK◯RA”に影響を受けています(笑)

さらに裏話:後記が影響を受けているのは・・・わかった人はすごい(核爆)