Cry for the moon. 投稿者: 雀バル雀
人は願う

神に
希望に
明日に
夢に

人は祈る

神に
希望に
明日に
夢に

そして――



叶うことも、ある。




運命の


悪戯か




思いは


刃となり





言葉が


貫き



心を



食む



そして

気づきもしない



叶えば



瞬間


どこかの夢が



壊われる…






『Cry for the moon.』





2話



『凪の夜』








学童保育というヤツがある。
共稼ぎの両親に代わって、子供の面倒を見る。



――この教団の前身が、それであることを知るものは少ない。



ほんの10年前まで、
FARGO…いや、『白い家』は自然崇拝を信仰の柱とする、温和な新興教団にすぎなかった。


ある日、事件は起こった。


保育所に通っていた児童の親が、『子供に洗脳教育を施していた』と訴えたのだ。

赤軍派など物騒な事件が続いていたことで、世間もこういった事件に過敏な時期。
さらに当時のオカルトブームへの強い反動からか、マスコミは一斉に事件に飛び付いた。


一方的な批判報道は、教団を孤立化させ
所長――いや、教祖が心労により自殺したことで、決定的となる。


教団の主要メンバーはライトバンに乗って全国を逃走
信者の親が入信した娘を「連れ去られた」とマスコミに訴えたことで、事件はいっそう加熱する。


――現代の“魔女狩り”


純粋な彼らの信仰心は
国民の好奇と狂気の眼差しのまえに、ズタズタにされた。

ある者は自殺――
ある者は街中で暴行を受けて死亡――


正義の裁きと名を変えた暴力――殉教の果てに、やがて彼らは時代の波へと消えていった。
昭和史に辛うじて名を残すのみである。






「………」


モニターに写った文字を、凝視する。
明かりの消えた暗い部屋のなか、そこだけが不気味に淡く浮かび上がる。


「…ここまでか」


この2ヶ月の間、隙を見ては探りつづけた教団の真相。
それは樹海のように深く、迷い込めばどこまでも行けそうで
――そして、引き返せない。
暗く、複雑に入り組み、真実を見誤まらせる。


「………」


モニターのスイッチを切ると、堪えていた息を吐く。
どうにか緊張が解けた。


(俺…いったいなにやってんだろう?)


何万回と繰り返してきた答えのない問い。
満たされない渇きと
気だるい満足。
「こんなはずじゃなかった」という、人生への後悔。
未来への漠然とした期待と不安。


『不毛』


自分を
――いや、ここのすべてを表すにふさわしい言葉だ。


「………」


真っ暗な部屋。
光など欲しくなかった。


なにも見たくない。
目を潰す勇気もないから、暗闇だけが頼り。


「………」


目を閉じと
さらに訪れる闇――


ここは楽だ。
考えなくても、生きて行ける。

自分さえ見つめなければ
案外…


食事も
衣服も

仕事も

夢も
希望も
絶望も

女も


目的も、すべて――


教団が与えてくれる。


「………」


なにが不足なのだろう?

いま自分がやっていることは、間違いなく反逆。
見つかれば――消される。


「………」


スリル…いや、恐怖。
それを欲しているのだろうか?

現実に怯え
日常から逃げ出した自分が――


「…ふっ…」


鼻で笑う。
どこまでも愚かしい自分を。

我ながらたいした度胸だ。


「…どうしてあの頃、できなかったんだろうな…」


目を開く。
変わらぬ暗闇――


いや、違う。



目を凝らせば、うっすらとだが部屋が見渡せる。
機材の放つ鈍い輝き。扉の隙間から漏れる明かり――


光を拒んでいるだけ。
真の闇とはほど遠い。


「………」


もう1度息を吐くと
ゆっくりと立ち上がる。


長居は無用。
まだ死にたくはない。




     *





廊下が続く――。

コンクリート剥き出しの壁に、赤茶けた染みが覗えた。
いつのものかは知らない。


(…幽霊でもでなきゃいいがな)


月に数回、“修行”に耐えられずに狂ってしまった信者を“処理”することがある。
あるいは、逃亡者だろうか?

どちらでもいい。
死ねば、みないっしょだ。


「…………」


もちろん、自分も。



待遇は変われど、信者はすべて教団の『所有物』。
歯向かえば死が待っているだけ。



「結局…どこまでいっても」


現実は拒めない。


順列と
階級

特別な者と
そうでない大多数。


閉じているだけの――立派な“社会”。
人としてのしがらみからは、決して自由になれない。



(それでも…)



求めたからこそ

ここに在る。


教団――

ここにいる自分――



「………」


扉の向こうは、A棟。

いまの自分の――居場所。



  *


「………」


『強姦』

そんなにいいものではない。


抵抗するため、挿入しずらく――結局殴って気を失わせるしかない。
泣くし、喚くし、女は痛がるだけだし、終わったあとは後ろめたく…苦労の分には、割が合わない。
純粋に性欲を発散させようというなら、風俗に行くのが正解だ。
あるいは、自分で散らすか。

「………」


ただ、嗜虐心をそそるので、その興奮は間違いなくある。
趣味の問題だろう。

最初はみな『精錬』の係りに志願するも、たいていは1、2度で辞めてしまう。
そうやって淘汰され、やがては各棟の担当者は決まって行く。


「…ふぁぁ」


大きく伸びをする。
他の連中は『精錬』に参加。
誘いに乗る元気も、わざわざC棟まで行く気力もなかった。


「………」


時計を見る――2時。

時への感覚も、すっかり狂ってしまった。
針の進みは遅く、日の過ぎるのは早い。


(…最近…ひとりでいることが多いからかな?……)


やけに、感傷的。
とっくに死に絶えたと思いこんでいた感情が、胸を焼く。


――漠然とした不安。
――諦念を越える好奇心。





まだ、気づかない。

それこそ
後の惨劇の波紋
崩壊への――予兆。






「………」


かぶりを振る。
雑念を払うように。


『考えることは、不幸だ』


――教書の1節をかみ締める。


誰もが目を逸らす現実。

日々を無心で流されてゆく――
なにも疑わずに、あるがままを受け入れて――


(そんなことが…可能だろうか?)


入信してから覚えたタバコを、吸うでもなしに弄ぶ。
夜はまだ、長い。


ぷるるるるる!


静寂を打ち破る、電話の音。
警報が鳴らないところを見ると、戒厳ではないらしい。


(…だとすると)


がちゃ

受話器をとる。


『よう、小池!』


予想どうり、連中だ。
仮眠室か、警備員用の宿舎か、どちらかだろう。


『おまえも来ないか?――“あいつ”いるぜ』


電話の向こうから、微かに零れる荒い息。
その何倍もの、甲高い嬌声。


「例の女か?」
『そうそう。スゲーぞこいつ』
「………」


悲鳴とは明らかに種類が違う。
陽気で――淫蕩な吐息。

股間がうずき出す。


(………)


まだ会った事はないが――C棟には狂った少女がいて、男を漁る。
欲望のはけ口として飼われていると、もっぱらの噂だ。


(あそこは…別世界だな…)


今更、正論を吐く気もない。
女たちから見れば、我々はみな憎い『男』。
みないっしょ――同罪。

それでも、この穏やかなA棟に比べたら、天地の差がある。
なぜ…そこまで隔てがあるのだろうか?


『――で、どうする?来ないか?』
「あ、ああ…」


我に返る。
最近はすぐこれだ。


「分かった。これから行く。――けど、いいのか?全員が持ち場を離れて」
『大丈夫だって。なにか起きても俺たちじゃどうしようもないことだし。“屠殺班”の連中に任せりゃいいって』
「…そうだな。じゃあすぐ行く」


がちゃり

受話器を置く。


「………」

C棟――あそこは正直、気が参る。
空気が淀んでいるというのだろうか?
呼吸すら苦しい。


(まあ、いい)


――女でも抱けば、気分も晴れる――

そう言い聞かせつつ、重い腰をあげた。




    *



「ねぇ、もう終わりなのぉ?きゃははは!」
「うるせ!さっさと歩け!」
「いやぁ〜ん」


事が済み、『姫様』を送り届ける。
少女とはいえ、気狂いの力は3人がかりでも余す。


「ねえ、ねえ!きゃはははは!」


ケラケラと笑いつづける。
視線は虚空をさ迷い――外見の秀麗さとあいまって、妖艶だ。
他の連中も笑いながら少女をあしらっている。


(………)


劣情が冷めると、薄ら寒い。
まるで精気を吸い取られたような気分で…

少女は――最高の娼婦。
自分らは、客。
支配しているつもりが、されているのは男。


(………)


気のせいならいい。
だが、少女の瞳から――ほんの一瞬だけ覗える、そのどうしようもない『暗さ』は、壊れた理性の残滓だろうか?

本当は――


「怖い顔〜♪」


ちゅ


頬に柔らかい感触――。


「うわっ!」
「おうおう、いいな〜」
「俺にもしてくれよ。キス」
「うん。ちゅーしよ☆」


絡み合いながら談笑する。
立ちすくんだまま、それを唖然と見送っていた。


(キス…だったのか?)


ぞっとするほど

冷たかった。



「なにボケーとしてんだ!」
「お、おうっ」


慌ててあとを追う。





   *



「こらこら、暴れるんじゃねぇよ!」
「きゃはは、もっとぉ。ねぇ、ねぇ、もっと遊ぼうよ〜。ねぇったらぁ♪」


部屋にほうり投げる。
中に入ることは、規則で禁じられているが故に。

それでも少女は狂った淫蕩な笑みを浮かべ、はだけた胸を見せつける。
小ぶりな乳房が揺れ――淫靡というより滑稽。


「もう終わりだ。続きは今度な」
「お前相手じゃもたねぇよ」


なにより、ここは陰気くさくてたまらない。

女たちの、死んだ魚のような視線。
――逃れるようと、すがる少女を足で払い、扉を閉める。
牢獄に――封印する。


「ばいば〜い♪」


きゃはははと笑い転げる少女。
亜麻色の細い髪が、そのたびに踊る。


(…!)



だが、その向こうに
扉の閉まる一瞬――


長い髪の女
疲れた微笑



(あの女…)




胸の奥に、鈍い痛覚。




(まさか…)



封じ込めた過去
忘れ得ぬ…記憶。


いま、開いた。








邂逅


それが


終りの、はじまり――。



  (続く)

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「こんばんはー!雀バル雀です!」
「アシスタントの『長森EDで窓から外をながめている青髪のポニーテール少女』でーす」
「おい、ポニ子。パン買ってこーい」
「ポニ子じゃないもん!それになんでパシられなきゃなんないの」
「…同人誌(ボソリ)」
「いてきまーす」(タラちゃん調)

  ・
  ドン  
  ・

「――普通パンって言ったら頭脳パンだろうが!」
「ご、ごめんなさい」
「まったく。このポニ子がぁ!」
「……ポニ子じゃないもん…」


  ・
  ・

「――なんど言ったら分かるんだ!ハンバーガーって言ったらジェフの『ゴーヤーバーガー』に決まってるだろうがっ!」
「…そんな沖縄でも南部にしかない超ローカルチェーン…」
「なんか言ったか、ポニ子!」
「…ポニ子じゃないもん…」
「んだとぅ!おまえなんざポニ子で十分だ!」
「…………」
「なんだ。その目は!同人誌もうつくってやんないぞ」
「…………」
「まあ、どうせ作っても売れないだろうしなぁ。あはは!」
「……(ブチっ)」


ばき! どがっ! ぐしゃっ!


「う、ううう…さからったなぁ…」
「………」


ぎりぎりぎり


「うぎゃああ!ロープ!ロープ」
「あんたごとぎがこのあたしに命令しようなんて、十年早いのよぉ」
「まいった!まいったから〜!」
「ふん。これにこりて…あれ?」


ばきっ


「うぎゃあああああああああ!」
「あ、とれちゃった。ゴメンネ〜」(何が?)
「いぎゃああああ!」
「あはは。それじゃみんな。また次回〜」
「し、子孫が絶える〜」

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/8321