Cry for the moon.  投稿者:雀バル雀



そこは聖域だった…




世に生まれ
弾かれ


光に怯え
温もりを避け
馴れ合いに傷つき




痛みを抱いて




人の世に
別れを告げた者たち




その暗がりは
優しい




光届かぬ
永続の夜



抱き
抱かれ



傷つけ
傷つき




輪郭を持った悪夢?
それとも、消えない幻?




時は止まったまま


容赦なく


日々が、繰り返す





夜は続く


惰眠を貪り


朝を拒み


ただ


ひたすら……


弱きものたち…


赤い月の


祭――








けれど


知らない





夜は



闇よりも



暗いものが



棲む――








Episode 「Cry for the moon.」








1話   



「夜の底」















頬を拭う



白い粘液



饐えた香り



臭い



「………」



ペロリ



舐めてみる



苦い



――無気力な抵抗




「………」



濁った瞳で、闇を見渡す。



(…暗い…)



救いだ


見ずに済む。




「………」



光など欲しくなかった。


なにも見たくない。


目を潰す勇気もないから、暗闇だけが頼りだ。



よろよろと立ちあがると
縛めとして使用されたタオルで、全身を拭う。



「………」



こんな布着れ1枚で、汚れを拭き落とせるはずもない。
不快な感触。
なにより臭い。



(でも、いい…)



慣れた。

感覚は、ほとんど死に絶えている。

それに、誰も気にしない。


「………」


ここは楽だ。

考えなくても、生きて行ける。

クズの溜まり――

自分さえ見つめなければ

案外…



「………」



求めたからこそ

ここに在る。


教団――

ここにいる自分――



「………」


服を着る。
べとつく感触…無視する。



『慣れた』


優越感。
泣き喚く新入りたちを見下せる希望。


『下がいる』


苦しみ。
泣き喚く女たち
それを嘲笑できる。


クズの誇り――。



ぺろり

甲を舐める



「…フン」


舌に広がる苦味。
唾と共に飲み下す。


“陵辱”などと、考えなければいい。

支配に酔いしれ、演技も見抜けぬ間抜なゲスども――自力で女を得られぬ哀れなオスどもに、精液をぶちまけさせてやっている…それだけだ。


「ふふ…」


胃の中に落とした欲情の残滓。
糞尿に変えてやる。


知りもしまい。
女がどれほど演じているのか、
自分すら欺ける生き物であるということを。


「ふふ…」


笑った。
必死に。
心を逸らすために。


がちゃり

ノブを掴む。
凍りつくほど冷たかった。



「精錬」の終り――。






      *





「いいかげん泣くのはよしなっ!うっせぇんだよ!」
「きゃああ!」


壁に叩き付けられる中年女性。
抵抗すらせず、崩れ落ちる。


「………」


止める者はいない。
関心が薄いのだろう。
なにより、傷つくことが怖いのだ。


「うううう…うわあああああ」


号泣する。
祥子の言葉など聞こえてもいまい。
泣くことだけが、女性の支えなのだろう。


「………」


哀れではある。
だが、泣くことができるだけ、幸せなのだ。


「うっせぇって言っんだろっ」
「きゃああ」


髪を引っ張ると、強引に持ち上げ、そのまま床に叩き付ける。
嫌な音が響いた。


「やめなさいよっ!」


気丈にも、若い娘が止めに入る。
ここには相応しくない、強い瞳を持った娘――歳は17、8といったとこだろうか。
あの女性と共に入信してきた…たしか、巳間とかいう名だった。


「…新入りがでしゃばるもんじゃないよ。この女にはみんな迷惑してるんだ」
「だからって、なにも殴ることないでしょ!」


強く、睨む。
祥子に逆らった女は、これで3人目…


「………」


正しさは、ここでは罪。
弱さを否定することは、ここを否定するも同じ。


「じゃ、あんたがこいつを黙らせな。うるさくて眠れやしない」


にやりと笑う。
新しい獲物が現れた喜び。


「ただし――10秒以内でね。できなかったら、あんた“ペット”になってもらうから」
「な!」


視線を隅に向ける。
ベルトを首に巻いた、半裸の少女が怯えた瞳で返す。

ペット――祥子に逆らった者の末…
C棟の底。つまりは、この世界で最も価値の低いモノ。
祥子の所有物。
皆の慰み者。


「あんた、最初見た時から、なーんか気にいらないのよね。あたしら見下してるでしょ?」
「………」


変わらぬ強い瞳。
肯定。


「忘れたの?ヤローにナマでザーメン注がれてさぁ、しかも、おもらしまでした女が、今更なにいきがってんのよ」
「!」


怒りで弾け、飛びかからんとする彼女を
頭を掴んで抑えつける。


「かはっ」


必死に抗う。
開いた口から、涎が零れ、床に染みをつくった。


「あたしらはAVやソープ嬢以下の『便器』なんだよ。笑わせるな」


否定できない事実。
相変わらず、強い。

…このC棟で、“現実”を言葉にできるのは祥子だけ。
人を刺し殺したというだけある。
私らがクズなら…さしずめダイオキシンといったところか。


ドゴッ


「グッ」

胸を蹴られ、転がる彼女。
激痛に顔を歪め、呼吸さえままならない。


「はあ はあ」
「ここじゃ、他人に構ってる余裕なんてないんだよ」


冷えた言葉。
だが、それは真実。


「うえええええええええええんんん」
「うっせぇ!ババァ」


怯えて、さらに号泣を強める女性を、容赦なく罵倒する。
それが逆効果と知りながら、だ。


「メアリー!」


呼ばれた少女がひっ、と竦む。
もはや、人としての名は失われていた。


「………」


ずりずりと、這って「飼主」の元へ歩く。
すべて、命令。


「お前の仲間を増やしてやるよ」


呟きながら、ポケットを探る。
そして、白い『飴玉』を数個取り出した。


(まずい…)


決意する。


「…貴重な“キャンディー”をこんな連中に使う気?もったいないわよ」


ぴくり

こちらを振り返る。
ぞっとするほど、冷たい視線で…


「………」


動機が激しくなる。
機嫌を損ねては、逆効果だ。
だが、ここで黙るわけにはいかない。
細心の注意を込めて


すぅ…と、気付かれぬよう息を吸う。


「大事に使おうよ。今度、いつ仕入れられるか分かんないんだから」
「………」


祥子の双眸が細まる。
必死に自分を落ち着かせながら、続ける。


「ほっときゃいいじゃない、こんなオバサン。…それにさぁ」


にやりと笑う。
我ながらたいした度胸だ。

…どうしてあの頃、できなかったのだろう…


「そうだねぇ。成美の言うとおりだわ」


低い笑い。
ぞっとする。
こんな女に『奉仕』してやるのか、と考えるだけで泣きたくなる。
精錬のほうが、まだマシだ。


(………)


幾方向から、視線を感じる。
無言の謝礼。
祥子に悟られぬよう、できるだけ意味ありげに微笑んで見せる。


(…感謝なさいよ…)


今は耐える。
いつか…この女を排除する時のために…


『きゃははははははははははは!』


甲高い声が、コンクリートに響く。
扉の向こうからだ。


「ちっ、もう帰ってきた」


吐き捨てるように呟く祥子。
扉を貫かんばかりに、睨みつける。


(…おかえり。今だけは感謝するよ)


安堵のため息が零れそうなのを、なんとか堪える。
「お姫様」のご帰還だ。


「こらこら、暴れるんじゃねぇよ!」
「きゃはは、もっとぉ。ねぇ、ねぇ、もっと遊ぼうよ〜。ねぇったらぁ♪」


複数の男に押さえ付けられ、部屋に投げこまれる。
狂った淫蕩な笑みを浮かべて、はだけた胸を男たちに見せつける。
小ぶりな乳房が揺れる――淫靡というより滑稽だ。


「もう終わりだ。続きは今度な」
「お前相手じゃもたねぇよ」


縋りつく少女を、懸命に引きはがしながら
慌ててドアを閉じる。


「ばいば〜い♪」


きゃはははと笑い転げる。
亜麻色の細い髪が、そのたびに踊る。


「………」


狂っているせいだろうか。
妖しいくらい、可愛い。


「ちっ、気楽なもんだよ」


祥子の視線すら気にせず、ケラケラと笑い続ける。

通称「姫様」。
入信直後に、精錬で壊れてしまった哀れな娘。
あるいは「MINMES」や「ELPOD」の負荷によるものかもしれない。


「おまえなんざ、さっさと処分されちまえばいいんだよ!」
「え〜“しょぶん”っておいしぃ?」


殴る動作で脅そうとすると、「やぁ〜ん」と妙な声で鳴きながら逃げ
名倉という、お気に入りの女に抱きつく。
露骨に嫌そうな顔をするが、されるがまま。ただ、決して見ようとはしない。


「おねーちゃーん。あそぼーぉ」
「…そう呼ばないでって言ってるでしょ!」
「うう、おねーちゃんが叱るぅ」
「………」


彼女を含め、何人かがこの狂女の世話をしている。
「お姫様」の由来だ。
精錬とは違う男たちの個人的な伽として、「飼われている」。
厭きられるまでは、処分されることはない。


「………」


彼女のおかげで精錬の頻度が減る以上、無下にはできない。


そう、
ここで生き残るためには、「価値」を示さねばならないのだ。


「ううっうううううううう」
「なんで泣いてるのぉ。いじめられたのぉ?」


少女の問いに答える者はいない。
誰も、他人のことなど気にしたりしない。
助けなど求めないし、手を差し伸べることもできない。


だからこそ、ここに堕ちたのだ。

夜の底――。


「泣かないでよぉ〜。そうだ、セックスしよ☆」
「うううっ…え!」


押し倒される女性。
唇を唐突に奪われ、抵抗すら忘れているようだ。
ちゅぱちゅぱと粘膜の触れ合う音だけが、やけに響いた。


「んんん…」
「…ぁ…」


何度も繰り返されるキス。
深く、浅く。
口内を弄る。


「………」


静寂…いや、沈黙。
陵辱など見慣れているはずのみなが、息を呑んで見つめる。


「あ…」
「ほーら、泣き止んだ♪」


糸を引く唾液。
その煌きは、美しく…淫蕩。


ゴクリ


誰かが唾を飲む音。


(…ん…)

「セックス」
脳裏に閃く、久しく忘れた語彙。
体の奥に、痛覚にも似た刺激が走る。


「………」


繰り返される陵辱
いや…射精。

満たされることもなく
そそられることもない、ただの暴力。


「………」


慣れた。

感覚は、ほとんど死に絶えている。

それに、誰も気にしない。


けど


いま


疼いた――。







「―――」







「!」


(な、なに!?)



瞬きの間に、異変は消えた。



(い、いまの…いったい…)



光景は、変わらない。


殺風景な部屋――。
生気のない女たち――。
沈黙――。
狂った少女――。




なのに…




消えかかった記憶のひとかけら





一瞬の




(あの娘…)



出来事。





(私を見て…笑った?)







  (続く)


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「こんばんは〜。またまた登場の雀バル雀です」
「アシスタントの『長森EDで窓から外を眺めている青髪のポニーテール少女』でーす☆はぁ…」
「どうしたポニ子?便秘か?」
「ギ、ギクッ!…な、なーに言ってんのよ。それにポニ子じゃないもん!」
「うーん。お通じにはピンクの小粒だぞ。あれ美味そうだよなぁ」
「どういう感覚してんのよ。それに↑はなに?最近欲求不満なの?」
「だ,だってMOON.をベースにしたら、H抜きじゃ書けないよ」
「しかもオリキャラばっかで説明不足」
「ううう。今回はC棟が舞台の話なんだよぉ。だからこうするしかなかったんだぁ」
「あんた童話作家志望じゃなかったワケ?」
「うう…あくまでも夢ですから…」
「それではこれにて。次回はいつになるかわかんないみたいよ〜」
「つ、次は頑張るよ」
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/8321/