ヒロイン(エピローグ) 投稿者: 雀バル雀
・エピローグ


時間は容赦なく過ぎて行く。

同じ時にあたしはいない…惰性でも歩んで行く。

今年ももう、終わるんだから。


「七瀬さん、おはよー!」
「おはよ、ポニ子」


2流の失恋物語に浸ってるヒマなんかない。


「里村さん、おはよう!」
「おはようございます」


そこまであたしはヒマじゃない。
二度と来ない高校生活だから。

「広瀬ー!とりゃああ!」

むにゅ

「きゃあああ!!む、胸をもみもみすんなぁ!」
「ヘヘヘ、挨拶代り。…少しは感じたかな?」
「じゃあお返し!」

むにゅ

「う、うやああ!!“乳首突き”とは…腕を上げたもんね」
「恋する女を舐めんなよ」


あたしの日常。
あたしの普通。
それだって物語の一部なんだ。

だから


「瑞佳、おはよう!」

「あっ!ポニ子。おはよう」

「どしたの?今日はめずらしくぎりぎりじゃない?」

「う、うん。…実は忘れ物しちゃって」

「ふ〜ん、もしかして『例のぬいぐるみ』」


例のぬいぐるみ…

アレを見るとまだ胸が痛くなる。


偶然だった

どういう由来があるのかはあたしは知らない。
ただ、あのテープの声を聴いた時。

『うっす、オレ、バニ山バニ夫!』

折原くんの想いを聴いた時

『どんなことをしたって、そいつはおまえのことが好きなんだからな!』

全てを思い出して、そして全てを知った時だ。

勝負してみたくなった。

真剣勝負。
お姫様との一騎討ち。
勝ったほうが本当のお姫様。

もし、テープを聴いて思い出せなかったらあたしの勝ち。

…結果は惨敗だった。

でも、後悔はしてない。

良い勝負だったよ。


そしてあの日から、あたし達は『友達』になれた


待った。
二人で折原くんを待つ日々が始まった。

もちろん瑞佳は知らない。


『壊れてないよね?…壊れてたら七瀬さんと広瀬の責任だからね』

『大丈夫?…よかった〜ぁ!それを確認しときたかっただけだから』


…ま、そういうことにしておいた。


夏…
暑い夏だった

みんなで海に行った。もちろん瑞佳も一緒に。
女だけの海はくやしいくらい楽しかった。

でも
夕日を見てると泣きたくなる。
…あたしには似合わないのに。

同じ想いを抱えた人間同士だったから…だから瑞佳と一緒にテトラポッドで海を眺めてた。
おかげでどうにか涙を堪えることができたんだ。

…瑞佳に感謝。


秋…

3キロも太った。
ダイエットを兼ねてソフト部に入部。

ブランクは長かったけど、思った以上にプレイできた。
なにより楽しい。
試合はコールド負けだったけど…ま、楽しかったから許す。

ただ1つ残念だったのは瑞佳が風邪を引いて応援に来れなかったことだけ…


冬…

バイトを始めてみようと決意。
しかし…さすが不景気というべきか、ろくなバイトがない。

時給の高さにつられてSS作家のアシスタントのバイトを始めた。

………

…瑞佳の言うとおりだ。辞めときゃよかった。

バイト代…いったい何時払ってくれるのだろう?


春…

…………

…………

…もういいよ

お願いだから帰ってきてあげて!

…どこまで瑞佳を苦しめる気なのよ!

早く!

戻ってくるなら早く!

…じゃないと…

…クッ!帰ってきたらぶん殴ってやる!

………


…早くしないとほんとに殴るわよ



ずっと永遠に繰り返される、季節のうつろい…

(二度と来ない高校生活です)

入学式の時に校長が言ってたクサイ台詞。

けど、それは間違いなく事実で…

3年過ぎた…あっという間だった

もうすぐ…卒業。

キ〜ンコ〜ンカ〜ン♪

鐘の音で現実に引き戻される。

「急ごう!瑞佳」
「わぁ!急がなきゃ遅刻しちゃう!」


もうすぐ卒業…

………

でも、悪い高校生活じゃなかったな。


    *

世の中には2種類の人間がいる。

ヒーローになれる人となれない人。
ヒロインになれる人となれない人が…

誰が決めたのかは知らないけどね、この世の大多数の人間はどうやっても「その他大勢」でしかないのよ。
子供の頃は誰だって同じなのに…

…そしてあたしも「その他大勢」の中の一人に過ぎない。残念だけどね。


春の柔らかい日差しよりも、夏の輝きよりも、秋の時雨よりも、冬の粉雪よりも…
今のあたしには寒空が一番合う。


けどね!


がらっ!

窓を開けると春の新鮮な風が舞い込んでくる!
ついでに桜の花びらも数枚。

最近のあたしのお気に入りだ。
…春の日差しも捨てたもんじゃない。

心地よいそよ風があたしの相棒を揺らす。

「…また、少し伸びたね」

…そう
あたしと折原くんの結びつきはこれだけだ。

彼にとってはたいしたことでもなかっただろう。
でも、あたしにとっては…十分すぎる出来事だったんだ…

「こいつがある限り、いつかきっと…」

うふふ…あたしってばかっこいい♪

びゅうううううう!!

バタバタバタ

「あぎゃああああ!!」

容赦ない突っ込み。
突風でなびくポニーテールが顔面をしこたま打ちつける。

バタバタバタ

がしっ

「ぐわぁ! はあ はあ…」

やっと捕まえた。
まるで意志を持ったように風でバタバタなびく相棒。

そしておもむろに目を開くと…

…………

…………

…………

・…こりゃびっくり…

「…重役出勤とは、良いご身分ねぇ」

3時間目も終わったというのに鞄も持たずにのうのうと登校してくる男子生徒がいる。

ただ、真っ直ぐ前を向いて…

「探し物は見つかったみたいだね…折原くん」

良い顔してるよ、王子様。
早くおいで。お姫様、待ちくたびれてるんだからね。

玄関に入っていった。
教室に上がるまで5分とかかるまい。

瑞佳に知らせる?

………

…いや、せっかくだから驚かせてやろう。

………

でさ、物語はこう閉じられるの。

「王子とお姫様はいつまでも幸せに暮しましたとさ」

めでたし、めでたし…ってね。

………

ホントにそう思う?

魔法はもう消えたのよ。

ここからは

誰も助けてはくれない。

シンデレラは自分の力だけで王子様を縛り付ていかなきゃなんないんだからね。

だから

頑張れ!瑞佳。


ざわざわざわざわ…


騒がしくなってきた。
これから感動の再会と言ったとこね。


世の中には2種類の人間がいる。

ヒーローになれる人となれない人。
ヒロインになれる人となれない人が…


(「おい、どうしてたんだ。久しぶりだなぁ」)


誰が決めたのかは知らないけどね、この世の大多数の人間はどうやっても「その他大勢」でしかないのよ。

(「あのな、瑞佳」)


子供の頃は誰だって同じなのに…


(「ずっと前から好きだったんだ…俺と、もう一度、つきあってくれっ!」)


…そしてあたしも「その他大勢」の中の一人に過ぎない。


(「うんっ、いいよ」)


主役をあきらめることが出来た賢い子から

順に役が決まって行く

…………

だからなによ?

これはあたしの人生なのよ、脇役なんてさらさらごめん。

あいにくあたしはバカなのよ。

さあ、行こう

あたしが主役の物語を。

きっと最高のヒロインを演じて見せる!


「おーい!見ろよ、あの二人」


背後から聴き慣れた声、ケムマキだ。
おおかた今の騒動を聴きつけて来たんでしょうね…暇人。


「ま、折原にはやはり長森さんがお似合いだよなぁ・・。ああいうクサイシーンも絵になるもんな」


ま、そりゃそうでしょ。


「いいよなぁ…長森さん。美人だし落ちついてるし優しいし家庭的で…だーれかさんとは大違いだよなぁ」


ホント!なんでコイツは昔から嫌味ばかり。


「いいよなぁ…ポニ子が長森さんに勝ってる点って言ったら胸のデカさと髪の長さくらい…」


どうして…あんたはいつもそうなのよ。

ま、いいや。この際はっきりさせとこう。
折原くんなんて、もう関係ないんだから…

だからあたしは言ってやったんだ。

精一杯の笑顔で

振りかえって


「ポニ子じゃないもん!」


  (輝く季節へ…)

『名も知らぬ少女へ、この物語を捧げます』

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雀バル雀です。
多くは語りません。↑恥ずかしいことも書きました(^^;
でも全力で書きました。
ホント、必死で書きました。
稚拙ですが…その点だけでも酌んでやってください(ぺこり)

じゃ〜

(追記)
ポニ子へ…
私にとってはお前こそ最高のヒロインだよ(大笑)

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/8321