ヒロイン 3話 投稿者: 雀バル雀
シンデレラ。

女の子の夢が詰まったお話。

夢…

でもそれは残酷な現実でもあるの。

女の子は

誰もがシンデレラになりたくて

でも主役は一人だけ。

王子様も一人だけ。

主役をあきらめることが出来た賢い子から

順に役が決まって行く

…それでも主役を諦めることが出来なかった子は

みーんなエキストラ。その他の大勢。有象無象。動くカキワリ。

バカだよ…

主役は最初から決まってるんだから。

だから魔法使いにも継母にも、意地悪姉にすらなれずに…名前さえない役なんて

けど

王子と踊るシンデレラに心奪われてしまう彼女達だって

王子様が好きなんだよね。

王子と結ばれるのはシンデレラだけなのに。

………

でさ、物語はこう閉じられるの。

「王子とシンデレラはいつまでも幸せに暮しましたとさ」

めでたし、めでたし…ってね。

………

ホントにそう思う?

魔法はもう消えたのよ。

ここからは

誰も助けてはくれない。

シンデレラは自分の力だけで王子様を縛り付ていかなきゃなんないんだからね。


「ヒロイン」 第3話


変わらないはずよ。

だってあの二人は前から付き合ってるようなものなのだから。


今更だ…


けれど


違う


以前と違う。


自信なんかないけど


今の二人の間には


隙間が見える


  *

「ジングルベール♪ ジングルベール♪クリスマス〜♪」


広瀬がさっきから頭の悪そうな歌を歌ってる。
今コイツの脳天かち割ってみれば、きっと脳みそが薔薇色に染まってるのは分かるだろう。

ま、初めて恋人同士でクリスマスを過ごすって言うんだから、浮かれるのもムリもないだろうけどさ。


…恋人同士…か。


「ポニ子はクリスマスどうすんの?」
「嫌味かい!…女だけのさみしーいクリスマス会よ」
「あははは!そりゃさみしい…」

ばきぃ!

「調子にのんな!」


顎に軽く掌底を食らわしてやる。
しかし、ちっとも堪えてないようで…うへへへと不気味な笑い声。…怖いぞ

恋する女は無敵よねぇ


「嫉妬〜、嫉妬〜。うへへへ」


傍から見てるとバカみたいに浮かれて、でも本人達は大マジメ。

…………

クリスマスだもんね

恋人同士だもんね

当然か。

…でも…

ちらりと後ろを振り返る。
教室の一番遠い場所…左最後部。

折原くん…

あの顔だ。

…胸がちくちく痛む…

彼の横顔…寂しそうで、まるで…迷子の子供のような…

まだ、見つかってないとでも言うの?

ここは自分の居場所ではないとでも言うの?

変わってない…

ちっとも変わってないよ

長森さん

   *

靴だけを履き替えて家を出る。

母さんと優はクリスマスパーティの準備で台所で奮闘中。
そういや、優、ローストチキン作るんだってはりきってたっもんね。

今日のパーティは持ちよりって言ってたから、ほんとは何か作って行きたかったが仕方がない。
途中でなにか買っておこう。

「行ってきまーす」

「行ってらっしゃい」
「おねえちゃん、いってらっしゃーい!」

台所から声だけお返事。
手が離せないのだろうか。

…………

がちゃり

「・…………」

なんか思い出すな
あたしも優くらいの頃はクリスマスが楽しくって仕方がなかった。
家族と…友達とわいわい騒いで。

そして…

…いつからだろう?
それほど楽しいと思えなくなったのは。
別にキライなわけじゃないけど…あの頃に比べたら…

優が生まれてから?
“おねえちゃん”になったから?

………

バカバカしい

この歳になって家族とクリスマスを過ごしたいなんて娘もいまい。
友達や恋人と過ごすほうが楽しいに決まってる。
母さんだってそれを理解してるから…

けど

「何時に帰ってくるの?…くらいは訊いて欲しかったな」

ふと空を見上げる。

重い…空。

「寒くなりそう」

今は違うんだ。
今は優がお姫様

    *

「さーて、制服じゃあ酒は買えないからね、フライドチキンでも…ん?」

駅前の時計塔の前で佇む白い可愛らしいコートを着た彼女。

偶然だ。

通り道なんだからね。

「長森さん、デートの待ち合わせ?」
「あっ!ポニ子」

手には綺麗にラッピングされた紙袋。大方手袋かなにかだろう。
猫のシールがいかにも長森さん好みだ。

「ポニ子もデートなの?」
「うん!…って言いたいんだけど、まあ、女同士のクリスマスもたまにはね」
「佐織ん家でパーティ?楽しそう♪」
「…みんなの前でそんな事言ったら殺されるわよ」
「わ、わぁ!…ご、ごめん」
「ふふふ」

ま、嫌味に聞こえないのがこの娘のスゴイところなんだけど。
広瀬が言えば…躊躇なく殴ってるな、あたし。

「今日は七瀬さんも遊びに来るみたいだからね。これがきっかけで仲良くなれたらいいな」
「そだね。…七瀬さんおもしろいからすぐ打ち解けると思うよ」
「楽しみだな…あ!もう6時だ。急がなきゃ」
「え?…そ、そう…もう6時なんだ」

…………

別に急いでなんかはないけど…折原くんが来た時、今のように気軽に接する自信はまだないから。

「じゃあね、メリークリスマス」
「うん!メリークリスマス」


メリークリスマス、折原くん。

手をふって別れる。

…………

駅前のKフライドチキンに入る直前、ふと思い返して振り返ってみた。

「………」

なぜだろう?

今のあたしには長森さん…

普通の女の子に見える。

   *

女だけのクリスマスイブはくやしいほど楽しかった。

最初は七瀬さんが遠慮しててちぐはぐしてたけど、広瀬のバカが酒と彼氏を連れ込んで来てから事態は一変。やっぱ酒の力ってスゴイわ…

「しっかし、七瀬さんは面白かったなぁ」

まさか酔うとあんなに変わるとは思わなかった。
いや、たぶん普段のあれが演技でこっちがすっぴんなのでしょうね。
長森さんが『面白い』って言ってた意味が理解できたよ。

広瀬もすごかった。
最初は彼氏見せつけに来たんだろうけど…口惜しいからばんばん飲ませてやったらもう…クククッ
普段からお調子もんだけど…機会があったらまた飲ませてやろうっと。
今度会ったら思いっきり冷やかしてやろう。忘れたふりをしても、証拠にちゃんとビデオに撮っておいたし。

最高だったのは広瀬と七瀬さん、酒の勢いとはいえ意気投合しちゃったし。
10年来のマブダチみたいだったよ。最後は留美ちゃん真希ちゃんだしね。
広瀬のアレ…同族嫌悪だったんじゃないのかな。似たもの同士だし。

彼氏くんだけ恥ずかしそうにうつむいてたな。ま、そりゃそうか、男一人だけだしね。
…大方広瀬に無理やり連れてこられたんでしょうねぇ…気弱そうだし。
対照的な二人よねぇ。

『真希のやつが迷惑かけてどうもすいません』って、酔っ払い背負って帰ってったたけど。
広瀬、ホントは起きてただろうなぁ。

…………

…お似合いだったな…あの二人。

「おめでとう、広瀬」

そして、メリークリスマス。

街の明かりは消えて、駅前の時計塔の明りだけがやけに明るく見えた。

時間は…0時10分………え?

「…長森さん…?」

…駅前の時計塔の前で佇む白い可愛らしいコートを着た彼女。

偶然だ。

通り道なんだからね。

「…………」

手には綺麗にラッピングされた紙袋。
それだけが、蛍光灯の青白い光のおかげではっきりと見て取れる。

「…………」

表情は伺えない。
うつむいていて…



少しだけ迷う。

…………

義務も権利もない。

・………

いや、あるにはあるか。

あたし達…『友達』なんだから

………


慌てて迂回をしてしまう…



「あたし…イヤ女だ」



声なんて…かけられない。


「長森さんは…知ってるのかしら?」


…胸がちくちく痛む…


寒さに震えながら立ちすくむ彼女の横顔…寂しそうで、まるで…


「折原くんと…おんなじ」


迷子の子供のように見えた。

   *

時間は容赦なく過ぎて行く。

同じ時にあたしはいない…惰性で歩んで行く。

今年も、数日が過ぎた。


昼休み。

「するかっ!」

今日もあいかわらず折原くんと七瀬さんが夫婦漫才を繰り広げているようだ。

見たくないから見ない。
見なくったって分かる。

七瀬さんをからかう折原くん。

その側に…長森さんはいない。

変わらないと思ってた。
変わらないって信じてた。いつまでも綺麗な瞳でいられるって…

折原くんも…あの頃から変わってない。

そう信じてた…

けど

    *

「ほーぁたぁ!秘技『鶴の舞い』!」

「マジメにやらんかぁ!」

ばきぃ!

「うぎゃあああ!!…な、なにすんだよ、ポニ子!?試合前の大切な体にケガさせる気か?」
「試合まであと一週間しかないってのになに遊んでんのよ?」
「ふふふっ、これは今度の試合用にミヤギさんから伝授してもらった…」
「ハイハイ馬鹿はそのくらいにして、じゃあ3セット5分、いくわよ?」
「…うぃーす」

「ははは!主将もポニ子さんには勝てませんね」

「うるせっ、いくぞ!」

「押忍」

ケムマキの気持ちも分かる。
不安なんだ。
主将である以上ヘタな試合は出来ない。

だから、わざとふざけて見せる。
自分と…そして後輩達の緊張をほぐしてあげるために。

主将としての気配り。
あたしは…そんなことさえ気付かなかった。
自分しか見てなかった。

だから…

「おらっ!もういっちょいくぞ!」
「押忍」

あんたはスゴイよ…ケムマキ。
昔よりもずっとスゴイ。

真っ直ぐで…変わらないね、ちっとも。

あたしとは、違う。

「止め!」

「時間か?…じゃあ今日はこれにて終了。礼!」

「押忍!!」


「ホラ、タオル」
「押忍!ポニ子サンキュー」
「ど?調子のほうは。調整は万端?」
「まあ、優秀なマネージャーのおかげかな。どうやら万全の態勢で望めそうだ」
「感謝してる?」
「…ああ、感謝してるぜ。…だからお礼に」

ぶん!

拳が空を切る。
素人のあたしが見ても分かるよ。キレイだもん。

「優勝してやるよ」
「へぇー、言うからには約束よ」
「ああ、約束してやる。…だから」

「…………」

約束…か

「…ケムマキ…あたし戻れるかな?」
「ん?」
「あの頃の自分に戻れるかな?…そしたら」


あたしはまた輝ける。
主役に…お姫様になれる。

そしたら

長森さんにだって…負けないのに。


「ああ!お前ならやれるさ。…だって、俺は今でも…」


「主将ー!この人が主将とお話があるそうです」

「ん?誰だ?」
「え?」


折原…くん?
どうして…ここに…


「おっ!折原じゃねぇか。…なんだ、入部希望かよ。待ってろ、今行く!」


折原くんがケムマキに…
あの二人って、特に仲が良かったわけでもないし…

…………

「さて、じゃあ洗濯するからあんた達の道着持ってきて」

「うぃーす」

「こらぁ!着替えは更衣室でしろー!仮にも乙女の前で……」


(「折原ー!ふざけんなよ、てめぇ!)

ばきぃ!!


え?

…ケムマキ?…まさかっ!


なんで?
なんで?
なんで?


洗濯物をほっぽり出して外に出る。
間違い無い…けど、なんで?

「ちょっ!なにやってんのよ、ケムマキ?」

外に飛び出したあたしが見た最初の光景。
それは…

ばきぃ!

「ひっ!」

殴ってる…

「てめぇマジで言ってんのかよ!?ええっ!?」

なに…

なによ…

「ああ」

ばきぃ!

「くっ!」

「バカかおめーは!」

やめて…

やめて…

「そんな腐った野郎だったとはな…折原ぁ!」

ぎちぎち

「うっ…うぐう」

やめて…

やめて…

「やめてよぉ!!」

なんで?
なんで、あんたが折原くんを?

なんで?

「ポニ子!放せ!」
「放さないよ!…なんでそんなことすんのよぉ!?」

「放せって言ってるだろうがぁ!」

…え?

ばっ

「きゃあああああ!!!」

どさっ

…………

…痛いよ…どうして…

…どうして


「ちっ!…折原…てめぇマジで最低だよ…クズだ」


「……」


「…最低は…最低はあんたのほうでしょ!」


…そうだ

…なんで折原くんを殴るのよ


「無抵抗の人間を痛め付けて…最低はあんたのほうよ!」


…そうだ

…最低だ


「…ポニ子…お前…」


…そうだ

折原くん!


「折原くん!折原くん!…しっかりして!」


ひどい

ひどいよ…


「大丈夫!?骨とか折れてない?ねぇ!そうだ!保健室…」

「触んな」

ばっ


え?

…お、折原…くん?


「折原ぁ!てめぇ!!」

「やめて!」


ケムマキを必死で掴む。
今放したら…殺されちゃう。


「…………」

「逃げんのかぁ!?折原ぁ!」


折原くん、早く行ってよ…
こんなの…

なによ?

なんなのよ…これ?

   (続く)
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雀バル雀です。
とにかく現在このシリーズに全力投球中なのですが…
な、長い…いまだに「永遠」が始まらねぇ(^^;
広瀬が結構いい味だしてますね。
さて、続きを書かねば。
じゃ!

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/8321