ヒロイン 2話 投稿者: 雀バル雀
あたしには好きな人がいる。
折原浩平くん…同級生だ。

教室の一番遠い後ろの席にいて、授業中はその姿を見ることさえ叶わない。

勇気を出して振りかえってみて…そしてあたしは後悔する。

分かってたはずだ。…なのに…

長森さんが折原くんを見てる事なんて、そんなの分かってるはずなのに…

裏切られたような気分になるのは…どうしてなんだろう?


ヒロイン 第2話


時間は容赦なく過ぎて行く。

同じ時にあたしはいない…惰性で歩んで行く。

今年ももう、終わるんだな。


昼休み。

「折原ーっ!やめんかぃ!」

今日もあいかわらず折原くんと七瀬さんが夫婦漫才を繰り広げているようだ。

見たくないから見ない。
見なくったって分かる。

七瀬さんをからかう折原くん。

…それを笑いながらなだめてる長森さん。

…胸がちくちく痛む…

あたし…イヤ女だな。

「ふぅ…」

ため息1つ。

「目の前の俺様の美少年っぷりにため息が出たか?ポニ子」
「……誰が美形じゃ!ケムマキ」

ためしにケムマキの顔を眺めて見る。
…ケッ!

「冗談は顔だけにしなさいよね」
「全く、素直じゃないねぇ」

ばきぃ!

「うぎゃあああ!!」
「人が貴重な昼休みをあんたなんかの為に裂いてやってるんだからね!さっさと用件済ませて帰りなさいよ」
「そんな邪険にすることもないだろ?」
「次の時間は英語なの。了解?」
「了解。…じゃあ年明けの大会マネージャー兼応援、頼むぞ」
「いいわよ。救急道具と予備の道着、タオルとスポーツドリンク…これだけよね」
「おう。…それからな、ポニ子」
「ん?」

「な、なるべくオシャレしてこいよ。化粧もしてこい」

「はぁ?なんで裏方のあたしが…主役はあんた達でしょうが」
「い、いやー…実はお前がなぁ…その…主役だったり…」
「?」
「と、とにかくだ。我が伝統ある空手部のマネージャーに恥じない装いをしたまえ。じ、じゃな〜」

たったったっ…

なによあいつ?
練習で延髄蹴りでも食らっておかしくなったとか?

ま、いいか。
それよりも予習しとかないと。

   *

ふぅ…

真面目に予習した日に限って当たらないもんよねぇ。
広瀬がミスってくれたおかげで今日は安パイだわ。

「わ、分かりません…」

あはは!どうやら全く予習やってなかったみたいね。
こういう抜けてるところが憎めないんだよね、広瀬って。

………

しかし…退屈。
なんか、張り詰めてた分緊張の糸が切れちゃうと集中できないんだよね。

………

やめようよ、あたし。
もう…あそこは見ないんでしょ?

(「これよ…渡してくれ」)
(「はいよ」)

ん?
まーた男子が下らない遊びしてる。
この前は女子の人気投票だったよね。今度はクジ引きかぁ。
大方、住井くんあたりが起点かな。全く…ガキよねぇ、結構女の子のウケもいいのに彼女がいないってのもなんか納得。

おや?
次は…折原くん…か。

………

ありゃ、なんか知らないけど当たっちゃったみたいね。
かわいそうに。

…!…

ふぅ…

…びっくりしたぁ
いきなりこっちを見るんだから。

………

分かってる。
どうせ長森さんでしょ。

分かってるわよ…そんなの。
さて、学生の本分は勉強勉強と…

   
   *


「ポニ子〜!あたしを慰めて〜!」
「そんな趣味はないわよ」
「そんなつれないこと言わないでよ。ううっ、鬼塚の野郎めぇ!あとで画鋲&下剤入りのお茶飲ませてやるわ!」
「広瀬、あんたそんなことばかりしてたらいつかしっぺ返し食らうわよ…ま、今日はあんたがミスってくれたおかげで助かったけどね」
「じゃあさ、帰りにカラオケ寄ってかない?」
「いいよ、今日のお礼だと思えば安いもんよ。奢ってあげる」
「ほ、ホント?ポニ子ー!、あんただけよ。愛してるぅ〜」
「はははは」

嘘こけ。
広瀬…あんた彼氏いるじゃないの。

「じゃあさ、稲木とか村田とかも誘おうよ」
「そうだね、じゃああたしが声を……」

(「長森ー!」)



折原くん

「ん?ポニ子どしたの?」
「ご、ごめん。じゃあ二人にはあたしのほうから声かけとくよ」
「OK。ふふん♪カラオケなんて久しぶり〜」

な、なによ。折原くんが長森さんの名前呼んだくらいで…
最近のあたし…ヘンだ。


(「何?」)

(「長森っ、ずっと前から好きだったんだ。俺とつきあってくれっ」)


…………

…今…なんて言ったの?

…イマ…ナンテ…


(「うん、いいよ」)


…………

…分からないよ…

…何…それ…


(「…浩平がそう言うなら、わたしはいいよ」)


…………

…よくないよ…


ええええええええええええええええええええええ!!!!


…みんな何驚いてるの?

…胸が…どくどくいってる…


「ね!ね!ね!ね!、ポニ子ポニ子ポニ子ポニ子!今の聞いた?」


…広瀬…あれ?

…なんで…胸が苦しいよ…

…止まらないよ…ねぇ・・・


「あれってOKなんだよね。…うっわー!あの二人前から恋人同士みたいなもんだったけどさ。みんなの前で、告白って…マジー?って感じじゃない」


…恋人同士?…

…そうだっけ…

……知ってたの…

「七瀬が二人の間に入ってきてもつれるかな?って期待してたのにさぁ。じゃあ、あの女振られたってワケね、いい気味〜。きゃははは!ね、ポニ子もそう思わない?」
「え?…あ、うん」

………

…そうだ…

…知ってたのに…

…知ってたのに…

………


「いやー…こんなマンガみたいな場面に出会えるなんてねぇ。ホントにこういうことってあるのねー」
「…うん…」

…………

…知ってたのに…

…マンガのような恋愛なんてあたしにはもう縁のない世界なんだ。

…知ってたのに…

…そういうのはお姫様だけに与えられた特権。

…知ってたのに…

…………

…胸がちくちく痛む…


   *

よく憶えてない…

味なんて分からなかった

カラオケ?

そうだ…今日カラオケに行ったんだ

なに歌ったんだっけ

…………

歌ったっけ?

…そーいや広瀬の彼氏とかいう男が途中からやってきて

あんまりベタベタしてるから、みんなしらけちゃったんだよね

…………

…彼氏?

…恋人?

…………

…なんかあったよ

…カラオケ行く前にさ…

…今日はその話題で持ちきりだった…


『まあ、瑞佳と折原くんってお似合いかもね』


…え?


『あの二人前から恋人同士みたいなもんだったけどさ。みんなの前で、告白って…マジー?って感じじゃない』


…………


『瑞佳って折原くんっててっきりやってんのかと思ってたし』


…………

…瑞佳って誰だっけ?…長森さん?


『告白って今さらってカンジじゃん?だってあの二人前から恋人みたいなもんじゃん、ねぇ?』


…そうだよ

…長森さんと折原くんって…今さらじゃない…

………

知ってたのに

隙間なんてなかったのに

ムリだよ…最初からムリだったのに

………

知ってたのに

折原くん…あたしの名前すら知らないんだよ。

“クラスメートのポニ子”なんだよ。それだけじゃないの。

『風景』みたいなものなんだよ。


ふられたなんてさぁ…思いあがりもいいとこじゃないの。


長森さんに取られた、なんてさ…バカじゃない、あたし。


「あたし…イヤ女だ」

    *

変わらないはずよ。

だってあの二人は前から付き合ってるようなものなのだから。

今更だ…


けれど


違う


もう違うんだ。


だから


自信なんかないけど


これからは


ただのクラスメートなんだから。


  *

時間は容赦なく過ぎて行く。

同じ時にあたしはいない…惰性でも歩んで行く。

今年ももう、終わるんだから。


「七瀬さん、おはよー!」
「おはよ、ポニ子」


2流の失恋物語に浸ってるヒマなんかない。


「里村さん、おはよう!」
「おはようございます」


そこまであたしはヒマじゃない。
二度と来ない高校生活だから。

「広瀬ー!とりゃああ!」

どか!

「ぐぉおお!!あ、朝からモンゴリアンチョップをかましてくるなんてぇ…ポニ子ね?」
「ヘヘヘ、挨拶代り」
「じゃあお返し!」

べしぃ!

「きゃあ!“燕返し”とは…腕を上げたもんね」
「恋する女を舐めんなよ」


あたしの日常。
あたしの普通。
それだって物語の一部なんだ。

だから


「長森さんおはよう!」

「あっ!…ポニ子。おはよう」

「どしたの?今日は折原くんと一緒じゃないの?」

「う、うん。…なんか浩平用事があるとか言って先に行っちゃった」

「ふ〜ん、日直なの?」

「違うんだよ。…わたし、なんか悪い事言ったのかな」

「ははん、きっと照れてるんだよ。長森さんが気に病む必要なんかないよ」

「…そうかな」

「そうだよ」

「ありがとうポニ子。…でもね、わたしのことは『瑞佳』って呼んで欲しいな。わたしだってニックネームで呼んでるわけだし」

「え?」

「だって友達でしょ?わたし達」


友達…か。
ま、この子にとっちゃ『喋ったことある人はみんな友達』なのかもね。

いい娘だよね…同性のあたしから見ても分かる。
まともな神経の男ならほおっては置かないだろう。

『お姫様』だし…当然か。


「そうね。…じゃあ改めて、おはよう!瑞佳」
「おはよう、ポニ子」


冬の日差しに照らされた長森さんの笑顔…

輝いて見えた。


   *

「ホラ、タオル」
「押忍!ポニ子サンキュー」
「ど?調子のほうは。調整は万端?」
「まぁ…そこそこだな。…しかし悪いな、試合の日だけって約束なのによ」
「ヒマだからね。大会までは雑用に気廻してる余裕なんてないでしょ」
「ああ、おかげで助かるよ。練習にも気合が入るしな。…主将として望む最初の大会だからな、万全の態勢で望みたいんだよ」
「ふぅん」

ケムマキのこういうところは素直に偉いと思う。
普段はいいかげんなヤツだけど、いざ任されるとものすごく責任感が強い。

…コイツはちっとも変わらないな。
男の子が羨ましいよ。いつまでも綺麗な瞳でいられる。
女の子は…変わっちゃうんだよね。

折原くんも…あの頃から変わってないもん。


「ま、あたしが折角マネージャーしてあげてるんだからね。これは優勝してもらわなきゃ」
「はは!まあ見てろって。じゃ、組手に入るか」
「ほどほどにしときなさいよ。大会前にケガしたら元も子もないんだからね」

ほんと、タフよね。
ま、体苛めとかないと不安だってのもあるでしょうけど。

「…なぁ、ポニ子」
「ん?」
「約束…してくれないか?」
「…なにを?」
「…もし!俺が今度の大会で優勝したら、またソフトやるって。…昔の輝いてたポニ子に戻ってくれるって…どうだ?」
「…………」

…………

今さら…だよ。


「俺がこの街を離れてた数年間でお前になにがあったのかは知らない。…けどな、俺の知ってるポニ子は、いつも前向きで、熱くてさ…」


買いかぶりなんだよ…それ


「かっこよかったぜ。ソフト部のエースで、クラス委員で…美人でさ、男まさりで…とにかく真っ直ぐなヤツだった」

「…やめてよ」


なんにも知らないくせに…


「…ポニ子?」

「今更やめてよ!…昔の話でしょ…今あんたの目の前にいるあたしが本当のあたしよ」


…そう、昔の話。

いつまでも夢を見ていられるわけじゃないのよ。


「道着…洗濯してくるから」


夢のお城から追い出されたお姫様は…唯の女の子。

なにも…できやしないんだ。


「逃げんのか?」


…………


「このまま終わるつもりかよ?」


…………


「…ごめん」

たったった…


「お、おい!待てよ!」



ごめん!

ごめんね。


あたし…強くないよ。絶対…

(続く)

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うむぅ…随分とまたしみったれった話になってきたなぁ(笑)
しかも展開が遅いのか早いのか…
あの「ラスト」まで辿りつけるといいんだけどね。

じゃ!

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/8321