「いいわよ、もう!別に気にしてないから」
「…本当に気にしてないわよ、一応約束守ってくれたんだし。」
「え、…『それじゃあ俺の気が納まらない』って?ふ〜ん、あんたらしくもない」
「そうよ。……あんた、自分のデリカシーの無さ全く自覚していないのねぇ。……えっ、なに?あきれたぁ…。ええ、世の中広しとはいえ、クリスマスイブにキムチラーメンご馳走してくれるような『素敵な彼氏』は、そうはいないでしょうねぇ。おかげであたしのファーストキスの味は、キムチの味なのよ!」
「『それは俺も同じ』だぁ!?…女と男のそれとは重みが全然ちがうの!」
「確かにそれでも嬉しかった、あの時はね!雰囲気に流されてそう思えたのよ。……でも、今あの時のこと思い返すと、真っ先にあのキムチの味を思い出すのよ!はあ〜…乙女のファーストキスが…」
「別に『キムチが嫌い』っていう意味じゃないわよ!…ハイハイ、韓国の食文化への冒涜ですねよねぇ…。アタシが言いたいのは、どうしてあんたがこんなに鈍感で無限大のアホで非常識なのかっ、てこと」
「そこまで言われるようなことばかりしているのよ!さっきだって、あんたが変なことばかりしてるから!」
「それは言葉のあやなの、気にしてないわけ無いでしょうが。何?そうよ、怒ってるわよ!」
「あたりまえでしょ!」
「とっても…とっても楽しみにしてたのよ。だって一年よ!一年も待ってたのよ…それなのに…」
「………」
「泣いてなんかないわよ!……コレは…ただの、心の汗よ…」
「……笑わないでよ!あたし本気で怒ってるんだから」
「何バカな事言ってるの…アタシがあんたのために泣く訳けないじゃ……」
「……っ……」
「えぐっ、ん?……あ、ありがとう…ってあんた何よこのハンカチ!」
「『ハンカチとは汚れなどをふくもの』だぁ!?アホ!これはもう雑巾よ。こんなんで顔ふけるかぁ!……何が『贅沢な奴』、よ。可愛い恋人の顔をなんだと…もう最低」
「私よ!ええ、あんたみたいなダメ男の恋人が、他にいるわけないじゃない!」
「く〜〜〜。やっと落ち着いてきたつもりだったけど、逆だわ。怒りが極限を通り越して平静になり、さらにそれを超えてもう一度、怒りに戻ってきたみたい。」
「だいたい、あれのどこがダンスホールなの!え?…普通は言わないわよ!あれは『日舞の道場』でしょうが!」
「どこが『似たようなもの』よ!いえ、全然違うわ。…確かに『踊る』という点では共通しているけど、あたしのイメージとは全然・・…って、え?『現実とはこんなものだ』ですって!?嫌よこんな現実。」
「別に日舞にも恨みはないわよ!…ハイハイ日本の伝統芸能への冒涜よねぇ。…あたしが言いたいのは、どうしてあんたがこんなにアホで、どうしようもないアホで、たとえようも無いアホで、際限無くアホなのか、ってこと。」
「恥ずかしいわよ!……他人の視線だって気にもなるわよ。ええ、あそこまで情けないときは、そういうものなの!」
「だってそうでしょう、この格好の男女がそのまま道場にずかずかと臆面もなく入っていって『予約していた折原ですけど』とくれば驚かない方が不思議よ!あからさまに不審者よ、あたし達。……『あの人はおばさんの友人だから心配無い』ですってえ!?そういう問題じゃないでしょ!現に唖然としてたでしょうが」
「そして、立ちすくむアタシに『踊ろうぜ、七瀬』ときともんだわ。……感激するわけないでしょ!あれは呆れてたの。」
「しかもフォークダンスやらフラメンコやら挙句にランバダとか踊ろうとするし…違うわよ!普通はダンスといえばチークダンスのことなの!しかも調子に乗ってコサックダンスとか踊り出すし…そりゃあ道場の人達には受けたでしょうよ!…だいたいなに?最後に踊ってたあの変な前衛舞踏……『沖縄のカチャーシイ』?『パーティのラストを飾る踊り』?…そんなの知るわけないでしょうが!」
「はあああ!やっぱり折原に期待したあたしがダメだったのかな…。こんなカッコ悪い舞踏会なんて有史に例をみないはずよ…」
「『贅沢な奴』ですって!?……そうよ、あたしは贅沢な奴なのよ!……だって…だって一年も、ううん、もっと前から!…大好きな人と…折原と踊るのが夢だったんだからぁ!」
「………なによ………」
「……『ごめん』ってなによ!なんであんたが謝るの?」
「だからどうして折原が謝るのよ!」
「『俺が悪かった』って…なんで、折原は悪くない!」
「…『それでも』…『俺が悪い』…?」
「…ごめんね…あたしが全部悪いのにね…。ううん!…何も言わないで。」
「…折原は…ちゃんと約束守ってくれたんだよね。ちょっと…すごくカッコ悪かったけど…約束守ってくれたの……だけどあたしは…」
「うん・…ありがとう…」
「長かったから…一年って…とっても長かったから……だから…」
「ホントは、凄く嬉しいんだ…。だけど…素直に喜べない自分もいて…そんな自分に腹が立って……」
「だけど、折原だって…。こんなに…待たせて……。」
「……だけど…こうしていてくれるなら……ずっと…抱きしめていてくれるなら…」
「うん?なに?」
「……『恥ずかしい奴だな』ですってえ!!!!……折原!!!こらっ逃げるなあ」
「うるさーーい、聴く耳もたんわぁ!……何ィ……『みんながこっち見てる』だぁ?…ふふふっ…甘いわね!そんなもの、もう気にならないわよ!待ってなさい、一発殴ってやるから!」
「……なに?……『それでこそ七瀬だ!』…ふん!」
「逃げられると思わないでよ!……なにせアタシは恋人を一年も待ちつづける程、執念深い女なんだからね!」
<おわり>
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「こんにちはです、雀バル雀です。そしてアシスタントの・・」
「『長森ラストで外を眺めている青髪のポニーテール美少女』です。はあ・・・」
「どうしたポニ子?そんなにKiroroの綾乃のトーク、ため息が出るほど面白かったのか?」
「『ポニ子』じゃないもん!確かに今日の「ヘイ!ヘイ!ヘイ!スペシャル」は面白かったわね」
「しかし・・・キンパリの娘がなぁ・・・あんなにメジャーになるとは正直思わなかったぞ。それでは作品紹介だ」
「あのさぁ、これってTファン同盟に書いたSSでしょ?なんでいまさら・・・・」
「うむ。タクSSもそろそろ15本を越えるのでな、原点に返ってみるということで最初に書いたSSを読んでみたのだがな・・・・・・恥ずかしくて、少し直してみたんだ」
「1発目から変化球だったんだね・・・。でも、これって読んでいる人、最初は戸惑うんじゃないかな?」
「『七瀬の台詞のみで書く』というのは大変だったぞ。・・・まあ、書いていて楽しかったけどな」
「舞台は七瀬ED後です。それではまた・・・」
「お、おい?感想は?」
「ごめんね・・・時間がないの。それじゃあみなさんごきげんよう!」
「次回は『茜草記』の外伝か、『一窮さん。三話』でお会いしましょう・・・さよなら!」