茜草記 投稿者: 雀バル雀
七..

ぐしゃあ!

「ぎゃああああ!」

どさ

「ち、父上ー!ちちうえー!」
「殿ーーーー!」


ぱしゃ パシャ パシャ・・・

「こっちだ、はやく来いよ、みさお!」
「待ってよー兄様!母上が・・・母上がぁ・・・・」
「どうしたんだよ?早くしないと敵兵が・・・・・・・・母上?」
「・・・・・・・・・うふふ・・」
「母上・・・いったいどうしたの・・・・どうなっちゃったの、ねぇ?」
「ふふふふふふふ・・・・・ふはははっはは・・・・ひひひひひひぃひ・・」
「・・・・・・・・」
「ねぇ、母上どうしちゃったの?ねぇ、兄様」
「ひひひひひひ・・・・うひゃうひゃひゃひゃ・・・」


ばたん!

「ただいまー、みさお!お兄様のお帰りだぞー」
「・・・・・・」
「なんだ、またすねてるのか?ごめんな、最近全然遊んでやれなくて・・・でも、ほら」
「・・・・・・」
「じゃーん!!なんと餅だぞー!これで今年の正月は人並みに過ごせるぞー。どうだ?兄様ってスゴイだろ、誉めていいぞ」
「・・・・・・」
「なんだよ、無視しなくてもいいだろ?・・・・・ははーん。安心しろ、盗んだものじゃないって。落ちぶれても侍だぞ」
「・・・・・・」
「・・・・・・・みさお?」
「・・・・・・」
「・・・・・おい!?・・・・みさおおおおお!!!」

がばあ

「きゃあ」

はあはあはあ・・・

「ゆ・・め・・?」
「・・・・はい・・・・ずいぶんうなされてました」
「・・・そうか・・・」

またあの夢か・・・・ふふふ・・・何年同じ夢を見続けるんだろうな、俺・・

「ここのところ毎日ですね」
「ああ」

始めは・・そうだ、落城の時・・・
そして、水路から脱出しようとして・・・母上が・・・

「浩平・・・疲れてるんじゃないですか?」
「心配してくれてるのか?」
「・・・いいえ・・」

陋巷でみさおと過ごした1年間、みさおの薬代を稼ぐため体を鬻いできた・・・
あいつにだけは気付かれたくなかったから・・・・いろいろと変なことしてたなぁ
ふふふ・・バカ兄貴だと思われてたんだろうけど・・・

「心配ぐらいしてくれてもいいじゃないか?」
「浩平なら大丈夫です」

いや、今もそうか。
あいつが死んでから、もう何年も過ぎたのに・・・・

「もし、俺になにかがあったらどうするんだよ?」
「・・嫌です。そんなこと、言わないでください」

また、僕はこんなところにいる。
悲しい場所だ・・・・

  八.

「ここですか?」
「ああ」
「・・・・浩平・・・・これはちょっと・・・・」
「だめかな?」
「はい。これでは、みさおさんが浮かばれません。せめてお墓ぐらい、ちゃんと造ってあげましょう。私が卒塔婆を書きますから・・・」
「じゃあ、俺は板でも探してくるよ」

「しかし、茜のヤツ・・・・なんでみさおの墓参りがしたいなんて言い出したんだろう・・・・俺、みさおのことあいつに話したっけなぁ?」

「これでいいかな?」
「十分です。」

「浩平?」
「なんだ」
「これからは頻繁にココにお参りに来てあげてくださいね。また、みさおさんに祟られますよ」
「はあ?」
「浩平、ここに来るのは何年振りなのか知りませんけど、こんなに荒れるまでほっぽり出すのは良くないです」
「・・・・・・」
「毎晩、みさおさんの名前呼んでましたから・・・・浩平も心のどこかで気にかけていたんですよね」
「毎晩?」
「はい、毎晩です。『ごめんな、みさお』って」
「・・・そうか」

ごめんな・・・辛かったんだよ・・・・ここに来るのが・・・

「これからはちゃんとここに来て、謝ってあげてください。それなら、みさおさん許してくれますよ」
「・・・そうだな」
「・・・・・忘れ去られるって・・・悲しいことですよ・・・・」
「・・・・そうだな」

 九.

さああああああ

「いい風ですね・・・」
「ああ。・・・・夏も、もう終りか・・・」

さああああああ

「・・・・浩平・・・ここは・・・」
「・・そうだ。・・・『赤根ヶ原』・・・・折原と里村が最後に殺り合った場所だ」

あの日・・この美しい野原は阿鼻叫喚の地獄へと化した。
白き花々は朱に染まり、・・・緋色の染料とはいえ・・洒落にもならん。

「・・・・・・・・」
「・・・だけど・・・見てみろよ、あの日から幾年も経たないというのに・・・」

さああああああ

「・・・真っ白で・・・きれいです・・・」

まるで夢のような風景だ・・・。
時間というものは・・・・あの惨状でさえ、洗い流してくれる。 

ならば、俺達だって・・・・

「茜・・・あのな・・」
「はい?」
「俺の妻に・・・・・・・・・」

さああああああああああ

風に煽られて舞う茜草の白い花びら
その中に立つ茜はとても美しく・・・・天女みたいで

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

だけど、その瞳はまるで・・・

「・・・・・・茜?」
「・・・・・は、はい!なんですか?、浩平」
「・・・聞いてなかったのか?」
「何か言いましたか?」
「もういいよ。たいした話ではないから・・」
「嫌です。・・・気になります」

さあああああ

他人を・・・見る目だった。


 十.

「・・・・どうしても行くのですか?」
「ああ」
「何故・・・・・」
「結局、俺も侍だからな・・・・戦場が恋しくなるのさ」
「真面目に答えてください」
「俺はいつだって真面目だ。」
「真面目に答えてください・・・」
「・・・・・・・・」

気付かなかった・・・・いつもそうだ。

内通者がいることを知っていたなら・・・・落城だって防げたかもしれない

母上に声の1つでもかけていたら・・・・気狂いにせずにすんだかもしれない

みさおの空元気を見破っていたなら・・・・最後まで側にいてやれたかもしれない

茜の様子がおかしいことに、もっと早く気付いていたならば・・・・・

もしかしたら?

「もう決めた事だ!扶持まで受け取っておいて、断ることはできない」
「・・・嫌です!」

いつもそうだ・・・・もう、遅い

「放せ」
「嫌です!」
「どのみち畳の上では死ねない渡世だ。・・・・これが最後の戦、せめて最後くらい侍らしく戦いたいんだ・・・」

嘘だ

「嫌です!大坂は落城寸前と聞きました・・・・この戦が終れば徳川の治世、太平の世が来るのですよ、なのに・・・」
「ごめんな・・・茜」

ごめんな茜・・・・偉そうなことばかり言ってたのにな・・・
でも、俺耐えられない・・・
あんな目で・・・他人を見る目で見られるのは・・・・嫌なんだ
お前に忘れ去られるくらいなら・・・・死んだほうがマシだ
泣いてるんだろうな・・・いつも無愛想なくせに・・・・

「浩平ーー!」

大丈夫・・・・俺のことなんてすぐに忘れるはずだから・・・
でも・・・そしたら悲しいな・・・・

   <つづく>

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「こんばんはです、雀バル雀です。そして・・」
「アシスタントの『長森ラストで外を眺めている青髪のポニーテール少女です・・はあ」
「そんなに鉄骨DASH!が見たいのか?ポニ子」
「『ポニ子』じゃないもん!・・・まだまだ苦しいわね・・」
「うむぅ・・出口が見えてこない・・スランプだな・・」
「とにかく今は頑張るしかないでしょ!それでは感想・・」
>はにゃまろさん『永遠紀行』
「このシリーズは初めてなので、最初はよくわかんなかったです。・・茜ちゃんまで永遠の世界へ行っちゃうなんて!」
「浩平君が最後のあたりで一生懸命他人を装うくだりが泣かせます。・・・しかしラストの台詞は???・・・『おかし戦記』も楽しみにしてます」
>雫さん『白い決意』
「おお!なんとシリーズだったのか。『白い』シリーズ・・山口百恵の『赤い』シリーズみたいだ」
「あんた幾つよ。・・でも、そうよねぇ・・・告白の直後・・しかも教室でなんて・・きゃ〜♪」
「なに恥ずかしがってるんだよ。お前なんか初めてが<ぴ〜〜〜〜〜>だもんなぁ・・・いやいや恐れ入っ・・・・って、わあ!」

ばこおおん!!

「・・・しばらくそこで死んでなさい。それじゃ、次」
>GOMIMUSIさん『D・S』
「いえいえ、すごく面白かったですよ。ようやく世界観もつかめてきて、キャラも揃ってきたし・・これからがすごく楽しみです。あと、感想ありがとうございました。」

「・・・『茜草記』の原案はとてもダークなお話なのです。コイツはぶっとんだギャグと死にたくなるような暗い話が大好きらしいんですよ・・・。どうにか書きなおさせたのですが、それでも所々ダークな部分が見え隠れしてますね。それに無理やり詰め込んだ部分もあって、いくつかは破綻をきたしてます。機会があれば全部手直しさせますので。・・それでは今回はこの辺で、さようなら!・・オイ!起きろ!もう終わりだよ・・・って!わああ!!死んでるぅ!」
「・・・・・・」
「いやああ!!!雀バル雀ーー!!死んじゃ嫌ー!!」
    <次回へ続く・・>