「ごめんね・・・」<前編> 投稿者: 雀バル雀
折原浩平が永遠の世界へと旅立ってから、はや数ヶ月・・・。季節は例年よりも穏やかな夏へと変わっていた。
浩平がいなくとも、地球は回る。季節も巡るし、暦も変わる。人間一人が消える事など、この世界には珍しい事でもない。皆それぞれの日常を、それなりに忙しく生きている。
だが、その流れから取り残された人間も何人かは存在する。七瀬留美もそんな人間の一人であった・・・

「なにやってるんだろうなー・・・あたし・・・」
浩平がこの世界から消え去って数ヶ月、七瀬はいまでも時間を見つけてはココに来ていた。
浩平と待ち合わせの約束をした場所・・・・思い出の公園である。
初夏とはいえ、その日差しは容赦ない。意にはそぐわないが、今日は木陰のベンチで過ごす事にしていた。
「暑いなあ・・・・」
例年よりも涼しいとはいえ、やはり夏である。さすがにこれからはドレス姿ではきついだろう。
だが、もちろん着替える気など無い。このドレスを脱ぐのは浩平とのデートが終ってから、それがどんなに先のことでも七瀬は待つつもりだった。
「・・・・退屈・・・・」
いろんなことを考えていた。浩平と過ごした日々、学校のこと、そして
昔のこと・・・・・
そうしているうちに、やがて睡魔が彼女を襲う。
木陰に吹く涼やかな風が・・・・・いつのまにか彼女を眠りへと誘っていた。

「ホラ、いましたぜ姉御。・・・噂どおりだ」
「ホントだー、ちゃんとドレス着てるし。冗談かと思ってたけど、やっぱ七瀬ってオカシクなっちゃったみたいですね。カワイソ・・・」
そう口にするわりには、ちっとも情がこもっていない。
「いいわね、あんたたち。・・・・しくじるんじゃないよ!」
「はい、分かっております。・・・いいな、A子!B子!」
「へへへ、分かってまーす」
「まあ、見ててください広瀬さん・・・あたし達も前々からあのオンナ、気に食わなかったんですよね」
眠っている七瀬を見ながら良からぬコトを企む4人の少女。広瀬真希と、そのとりまき三人である。4人は七瀬の噂を聞きつけ、彼女を精神的にも肉体的にも痛めつけるつもりでこの公園までやって来たのだ。
広瀬の子分、A子、B子、C美の三人組が、もはや民族衣装とまで称されている
『やたらと長いスカートに、おばさんパーマに厚化粧』という古き良き時代のヤンキーの遺産ともいうべき姿で、木陰のベンチへと近づいて行く。
「コラ、寝てんじゃねぇよ!」
どが!!
A子がベンチに蹴りをいれる。その衝撃が伝わり、ベンチ横の樹が何枚か葉を落とす。
「ん・・・あ、あれ?・・・」
目の前の事態を七瀬はまだ理解できていない。寝ぼけて目をこする彼女の膝に、数枚の葉が落ちた。
「ねぼけてんじゃねーよ!」
「彼氏と待ち合わせ?待ちくたびれちゃったのかなー、おっひめさまー」
「そんなカッコで・・・バカじゃねえのコイツ?」
ようやく事態を把握したのか、面白くもなさそうに呟く。
「・・・服装のコト、あんた達には言われたくないわよ。・・・そっちこそ何?そのドリフみたいなカッコ」
「ぐっ!」
「あ、あたいらだって好きでこんなカッコしてるわけじゃねぇよ!!・・・広瀬さんが、こういうシーンでは『由緒正しい』服装でって、無理やり着せたんだよ!」
「B子嫌だって言ったのにぃ!」
なるほど、と一人納得する七瀬。確かにいままでの彼女達のいやがらせからして、古典的すぎる。おおかた、どこぞのB級ドラマからでもそのまま引用したのであろう。
「で、何の用なの?・・・まさか、あたしをアンタ達のコントに付き合わせるつもり?」
心底嫌そうに三人を見つめる。正直彼女達の相手をする気にはなれなかった。
(言いたいだけ・・・言わせればいい・・・なんかもう、こういう事には疲れたのよ・・・・)
だが、その態度が逆に三人の闘志に火をつけた。
「ざけんじゃねぇぞ七瀬!てめえの態度、前々から気に食わなかったんだよ!」
「ちょっと見可愛いからって、調子にのってんじゃねぇ!」
「人気投票に一位になったぐらいで、生意気だぞ」
「・・・・・・」
七瀬は何も答えない。彼女はもう、争いには厭いていたのだから・・・・・
しかし、今の三人には彼女の悲しみなど理解できまい。
「シカトすんじゃねぇよ!」
突如、A子が懐から手を出し、それを一閃する。
「きゃ」
自分の胸元を見る七瀬、そこには刃物でつけられた鋭い切り口があった。
「ケッ、ビビッてんじゃねぇよ」
なんと、A子の指先には剃刀が挟まれていたのだ。恐るべし・・・・
七瀬は切られた布地を見つめながら震えていた。
ただし、それは恐怖ではない。
「へへ、さすがに剃刀は怖いよなぁ、七瀬?」
「A子ちゃんひど〜い」
「・・・・・・・」
今の彼女の態度を見て、恐れていると三人は感じていた。
だが、三人のうち一人でも闘気を感じとる事が出来たのなら、その後のようなバカな行動はせずに、さっさと逃げ出していただろう。
「おい、何とか言いな」
A子が七瀬の胸倉を掴もうとする、だが・・・
どん!と、七瀬はその手を乱暴に振り払った。
「あいつが・・・・初めてくれた・・・まともなプレゼントなのに・・・」
怒りだった。彼女は怒りのあまり震えていたのだ。
「な、なんだぁ」
ようやく事態の急変を飲み込めた3人。他の二人もそれぞれに自分の武器を取る。
「・・・・ベルマークとか・・・消しゴムのカスとか・・・数年前の年賀状とかばっかりで・・・・大切な・・・大切なドレスなのに・・・」
素人でも感じ取れるほど、尋常ではない闘気が膨れ上がる。
そのあまりの迫力に、後ずさる広瀬子分ズ。
「・・・よく考えたら・・・もう・・・あいつ以外の前で・・・猫被ってる必要なんて・・・・ないんだ。・・・・折原・・・こんな乱暴なお姫様でも・・・好きでいて・・・くれるよね?・・・」
七瀬の目に輝きが戻る・・・さっきまでの虚無的な瞳をした少女はもう、いない。
「このぉ、・・・おい、B子、C美。フォーメーションだ!」
冷静な判断力を失ったのか、恐怖に震えながらも数を頼みに襲いかかる。
A子の剃刀が、B子のリリアン棒が、そしてC子の木刀が、それぞれ七瀬へと牙をむく。
「A子、いくわよ!」「OK,B子?」「大丈夫、いくよ!」

「食らえ!合体殺法『偽りのテンペスト!!!』」

どういう意味があるのかは不明だが、三人がそれぞれ肩を組み前転しながら襲ってくる。
それを七瀬は避けようとさえしなかった。

「ほいやあ!」

掛け声と同時に、三人が宙に舞う。まるで、なにか巨大な力に弾き跳ばされたかのように・・・
ドスン・・・ドスン・・・ドスン
そして、鈍い音とともに七瀬の周りに落下する。三人ともすでに気絶していた。

「ふん、この程度の技など。・・・折原のタックルのほうがよっぽど効いたわよ!・・・出てらっしゃい、広瀬真希!そこに隠れているのは分かってるんだから!」
「ふふふ・・さすがは七瀬留美。こいつら程度じゃお話にもならないか・・・。それにしても、最近の剣道家は『合気』まで使えるのね」
木陰からゆっくりと姿を現す広瀬。
その表情を、普段の彼女を知る者が見たら驚愕したであろう。ねちねちとセコイ意地悪を生きがいとする彼女の本当の顔・・・・グラップラー真希だ!!!
        <後編へ続く・・・>
*************************************
「こんばんはです、雀バル雀です。そして・・・」
「アシスタントの『長森EDで、教室での告白という事態も無視して外を眺める青髪のポニーテールの美少女』です・・・しかしあんたも毎日よく続くわねぇ。よっぽど暇なのかしら?」
「ふん、友達はみんな実家に帰って、誰も遊んでくれないし、バイトが終ればやることないからなぁ・・・。って、それよりポニ子、作品紹介だ!」
「『ポニ子』じゃないもん!・・・だいたいコレまだ終ってないじゃない。」
「うむ。今回は長くなるからな、前後編にしてみたんだ。」
「後編もますますバカくさい話になりそう・・」
「うむ。アクション有り!涙有り!の超エンターテイメントだ!・・・七瀬の隠された過去!そして広瀬との因縁が今、あきらかに!」
「・・・・そのくらいにしたら・・・どうせ誰も読まないんだし」
「うぐう!!」
「『恥の上塗り』って言葉知ってる?」
「ぐはあ!・・・・そ、それを言うなァ・・・あうう・・」
「・・・・あら?・・・言いすぎたかしら・・・でもホントのコトだしねぇ・・それじゃあ今回はこのへんで!失礼いたしましたぁ!」
「・・あうう・・・・」