花火
投稿者: 幸せのおとしご  投稿日: 2月23日(水)23時10分

「…なさいよー」
 遠くから声が聞こえてくる。
 何時も良く聞く声な気がする。
 …でも、眠い。
 しかし、そんな浩平の意思とは関係なしに口が勝手に話
し出す。
「あー、長森か?あと3軒寝かせてくれぇ」
 長森?そうか長森が起こしに来たのかと、浩平はぼんや
りと頭の中でそう納得する。
「うー、単位がめちゃくちゃだよ〜」

 …そして一瞬の沈黙

「ほらっ、3軒たったよ」
「3軒どころか1軒も建つかぁ」
 思わず浩平はそう答えていた。
 するとさっきまで眠くて仕方がなかった浩平の目も一
気に覚めていたから不思議だ。
「言ってる事が意味不明だもんっ」
 目をあけると目の前には瑞佳が、顔をアップにしてそ
うまくし立てる。いきなりの瑞佳のドアップに少しドキ
ドキするのを隠すように浩平はまくし立てる。
「なんだとー」
「なによー」
「うー」
「ふぅぅぅ」
「ふかぁぁぁぁ」
「がぁぁぁぁぁ」
 そして、何時ものように朝がはじまる。
「あれっ?長森、朝にしては真っ暗だぞ?今日は日食か
?」
 窓の外は本当に真っ暗だった。そういえば、部屋も電
気が点いている。
「違うよっ、今は夜だもん」
「なっ、まさかっ、夜這いか長森っ」
「ちっ、違うもん」
 顔を真っ赤にして瑞佳はそう答える。
「なんだ、長森も大胆になったなぁ、そういうことなら」
 かちゃかちゃ
「ちょっと浩平違うよっ、って、なに脱いでるんだよ」
「えっ、だから夜這い…ってもしかして違うのか?」
「はぁぁぁ、やっぱり忘れてるよぉ〜。今日は一緒に花
火大会に行くんだよ」
 そう言うと、瑞佳はしょうがないなぁという顔をして
ため息をつく。花火大会…そう言えばこの前一緒に行こ
うと約束したなぁ、と浩平は思い出していた。

「よし、いくぞ」
「うんっ!」
 がばっと、布団から起きだすこうへい。
「!〆§☆」
「どーした?」
「こっ、浩平ぇ〜、ズボン脱いだらちゃんと履てよ〜」
 顔を真っ赤にして指で目を隠しながらそう言う瑞佳。
 しかし、指の間からこっそり見ていたりする。そこを
浩平に見られて
「おー、長森エッチだなぁ」
「う〜、違うもん」
「俺の見事な脚線美に惚れるなよっ」
「馬鹿なこと言ってないで急いでよっ。それにもう惚れ
てるよっ」
 と恥ずかしい一言を言い放ち、瑞佳は部屋を出てとん
とん、と階段を降りていくのだった。
 そんなことを言われ一人浩平は立ち尽くすのだった。


 数分後どたどたとっ、と浩平が階段を降りていくと玄
関で瑞佳が待っていた。
「やっと来たー」
 瑞佳は待ちに待っていたという感だ。そこで浩平は瑞
佳に少し違和感を感じた。なんだろうと、瑞佳を見てい
ると、ああっいつもと服装が違うんだと気づいた。
「あれっ、長森…いつの間に浴衣に着替えたんだ?」
「はぁぁぁ、何言ってるんだよ浩平ぇ、私は最初から浴
衣だよ」
「そうだったのか、気づかなかった…」
「はぁぁぁぁ」
 浩平に浴衣を誉めてもらおうと思うのはやっぱり無理
だったかな?と思いながら瑞佳はふかぁぁいため息をつ
くのだった。
 その時外からばらばらばらばらっ、と爆竹を鳴らした
ような音が響いてきた。
 …一瞬の沈黙。
「長森?あれ花火の音じゃないのか?」
「うん、きっとそうだよ、って時間」
 そこで、腕時計を見ると
「あぁぁぁ、もうはじまる時間だよぉ」
「おまえが起こしに来てからすぐじゃないかよっ」
「う〜、でも起きてなかった浩平も悪いよっ」
「なんだとぉぉぉ」
「なによぉぉぉぉ」
 ひゅぅぅぅぅ、どかぁぁぁぁん。
「…」
「…」
 聞こえてくる花火の音に思わず見詰め合う二人。
「こんなことしてる場合じゃない、長森上行くぞっ」
 どたどたどたっと、降りてきたときと同じような音を
させながら浩平は階段を上っていった。
「えっ、上って?…あっ、浩平待ってよぉ」
 そして、瑞佳も浩平の後を追いかけていくのだった。

 二人は浩平の部屋にいた。
「ねぇ浩平、部屋に来てどうするの?」
「おぅ、ついて来い長森」
 と、言うと浩平はガラガラっと窓を開け窓枠に足をか
け始めた。
「えっ、えっ?」
 瑞佳は、まだ良くわからない様子だ。
「どっ、どうするんだよ、そんなとこに上って?危ない
よぉ」
「屋根だよ屋根。屋根の上に上れば花火が見えるだろっ」
「あっ、うん」
 そういって二人は屋根の上にあがる。

 ・・・

 ひゅぅぅぅぅ、どかぁぁぁん。

 屋根の上に座ろうとしている間も、花火は絶え間なく
夜空に花を咲かせつづけている。
「ねっねっ、浩平屋根の上なんて私、大丈夫かな大丈夫
かな?」
「大丈夫だよ、長森こっちこい」
 しかし、二人はそんな花火を見る暇もなくあたふたと
している。
「時間なくなるぞ、おいっ長森ここに座れ」
「えっ、あっ、うん」
 瑞佳は少し躊躇しながら浩平の指差す場所に行くと浴
衣の裾を抑えるようにして座る。
「ちょっと、不安だな。落ちないよね?」
 と不安そうに左右を見て、浩平を見上げながらが瑞佳
がそう言うと浩平が後ろから瑞佳を覆うように抱きしめ
てきた。
「えっ、あっあれっ?浩平?」
 浩平の急な行動に少し慌てる瑞佳。
「動くなよっ、こうやって後ろから抑えとけば安心だろ
?」
「あっ、…うん。そうだね」
 最初は緊張していた瑞佳も自然と浩平に体重を預けてい
った。
 そして、二人は花火を眺め始める。色とりどりに空を染
める光を見つめ瑞佳は「花火きれいだよね」ぽつりとつぶ
やく
「ああ」
 顔にかかる髪の香りに少しくらくらっとしながらも浩平
はぶっきらぼうにそう答える。
「ふふふっ」
「なんだ?」
「ううん、なんでもない」
 そして、二人は夜空を見上げるのだった。

 屋根の上で浩平と見る花火。
 少し普通じゃないかもしれない花火の見方。
 でも、こんなのも私たち二人には似合ってるんじゃない
かな?と思い、一つ屋根の上で二人だけの花火大会だねと
一人微笑む瑞佳だった。


(おしまい)




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 こんんばんわ、おとしごです。
 かなり、お久しぶりです。
 もしかして、はじめての方がかなりいらっしゃるかも
しれません。そういう方は始めまして。

 まぁ、なんですか、久々に書くとSSって難しい。な
んとなく書いてたことが懐かしいです。
 今回は、リハビリがてらに長森SSを一つ書いてみま
した。

 ちょっとこれから復活してけると良いなぁと思ってい
ます。
 それでは、また合える日までー。

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少し感想です


>みのりふさん
うーん、こういうなんていうんでしょ?文章って良いですよねぇ
個人的にすーと、心に入ってきました。最後に「おにいちゃん」
って台詞のしめるのもなかなか、良いなぁって思いました。

>ひささん
…利き牛乳ですか?これは一本取られたって感じです(^^)
それにたくさんの感想書かれてるみたいでご苦労様です。
俺も見ならわなきゃ(^^;

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