隠れた想い 3 投稿者: スライムベス
清々しい風が舞い、木々がざわめく。
溢れんばかりに太陽の光が降り注ぎ、所々に残る雪に反射して眼に飛び込んでくる。
冬の終わり。
そして春の訪れ。
そんな中、オレは女の子と二人で町を歩いていた。
七瀬留美・・・・・・オレの彼女と。
記念すべき初デートだった。


「ところで、どこ行くんだ? 七瀬」
「えっとね、あ、その前に七瀬って呼ぶの変えてくれない?」
そう言って、足を止める。
「留美って呼んでよ!」
「留美? 七瀬の名前、留美だっけ?」
こぶしに力が込められているのが見て取れた。
それに反して顔は笑っていた、見た目は。
「あたしも名前で呼んでいいよね? 浩平だから・・・こーちゃんでいい?」
「え、紅茶?」
堅く握られたこぶしが、わなわなと振るえていた。
今にもオレに向かって飛んで来そうな様相だ。
・・・・・!?
突然息を吸いこみ、深呼吸を始める七瀬。いや留美。
「・・・ふぅ〜」
おおーっ!
立派な乙女になって・・・・・お父さんは嬉しいぞっ


オレと留美は商店街に足を運んでいた。
留美の話によると買い物がメインではなく、前の学校の友達にオレを紹介したいということだった。
ふっ、まあ自慢したい気持ちは痛いほど分かるが。
その友達は駅前にいた。
「やっほー、七瀬さんっ!」
「久しぶりね。元気だった? 留美」
小柄で明るそうな子と高慢そうな感じがする子だった。
「久しぶり由依、晴香。遠かったでしょ?」
二人の元へ駆け寄る留美。
オレはその様子を遠目に見ていた。
「あ、そうそう。電話で言ってたあたしの彼、紹介するねっ」
「えーっ!! 本当だったんですかぁ〜。私てっきり嘘かと思ってましたぁ」
「騙してるのよ、きっと」
「失礼ね。・・・でも、これであたしが乙女だってことが証明されたわけよね?」
留美がオレを手招きしている。
「うっ、結構格好いい」
「彼氏が出来たら乙女だって認めてくれるんだったわよね、由依、晴香」
「くっ・・・」
オレはゆっくりと3人の輪に入り込んだ。
留美がオレの腕に、自分の腕を絡めてくる。
「え〜と、あたしの‘彼’の浩平よ」
よく分からないが、二人の友達に得意げに紹介する。
「私、名倉由依って言います」
「晴香。巳間晴香よ」
「あ、折原浩平です」
自己紹介を終え、4人で商店街を歩いた。
話が途切れることなく、時間だけが刻々と過ぎていった。


西の空に夕日が赤く浮かんでいた。
由依、晴香を駅に送り、留美と二人だけに戻った。
これからオレたちだけのために時間が流れるのだ。
「今日はありがとね、折原」
「ああ」
「本当助かったわ、彼氏のふりしてくれて」
「なぁに、オレで良かったら・・・・・・って、彼氏のふり?」
「今度なんかおごるね」
オレの勘違い・・・だったのか?
記憶が、少しずつ甦る。

「そういう意味じゃなくて、私の彼氏になって欲しいの」
そう。
この後オレの思考が停止した。
「一日だけでいいから、お願い! 折原」
そう七瀬は言葉を続けていた。

ははは・・・。
あの胸の高鳴り、どきどき感は何だったんだ。
オレの想いは何だったんだっ!
・・・。
「・・・留美」
「え、七瀬でいいよ、もう」
「好きだ」
「何言ってんの、恋人ごっこは終わったのよ」
「‘ふり’じゃなくて、本当の彼女になってくれないか?」
「・・え・・・うそ・・・」


不器用な二人。
この二人がこれからどうなったか、それはさだかではない。
夕日の中でただ黙って頷く一人の乙女が、冬の終わりを告げていた。
春、そして輝く季節の訪れだった・・・。


 Fin.


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無事終了っ!!
澪ベス『なのなの』
さてと、感想行きますか!
澪ベス『感想なのなの』

・ばやんさま
 感想ありがとね、ばやんさんのムフフSS期待してます。

・いけだものさま
 最終回ですかぁ、惜しい気もします。
 茜、流れ星に何をお願いしようとしたのでしょうか?
 「わっふる、わっふる、わっ・・・消えちゃいました」
 ・・・・・だったりして(^^;

・まてつやさま
 七瀬の心の描写が上手いです。
 確かに七瀬が一番つらい別れをしてますよね。

・もももさま
 魎呼が七瀬かぁ。阿重霞役も面白いと思ったんですが・・・。
 ちなみに私は遥照が好きでした。格好良くて。
 髭はやめてねっ(^^;

・雫さま
 毎日一話づつですか。楽しみです。
 シリアス書いても上手いですね〜、さすがです。


感想これだけですいません。
澪ベス『なの』
次はあまりみんなに書かれていない、澪のSSにチャレンジするつもりです。
澪ベス『頑張れなの』
では、失礼しまーす。