隠れた想い 2 投稿者: スライムベス
ほとんど雲さえない空。
この季節にしては、かなり暖かい気候だった。
歩道の隅にある茶色に変色した雪片が、その姿を維持するのは困難だろう。
心地よい風を感じ、オレは高台の公園に向かっていた。

「明後日の日曜日、買い物付き合って欲しいんだけど。・・・予定あいてる?」
一昨日の帰り道に七瀬がそう言ってきた。
「荷物持ちか? オレは」
「ん〜、まあそんなとこ」
「何買うんだ? 鉄アレイ? それとも筋肉増強剤か?」
「ん、そんなとこ」
・・・・・・・・マジ?
「冗談よ」
と、言葉を付け加える。
今まで見たことがない、満面の笑みで振り返る七瀬。
これまでの笑顔に比べて、どこか自然な笑顔。
可愛い。
そんな言葉がぴったりだった。
「か、かわ・・・」
おいっ! 何を口走ろうとしているんだ、オレは!
七瀬だぞ、七瀬。
落ち着け! 冷静になれっ
「どしたの? 折原」
「かわ、か、川名先輩の家だぞ! ここ」
咄嗟(とっさ)に目に入った表札が先輩の家で救われた。
「誰、それ?」
「人間に不可能はない、と言うことを教えてくれた先輩だっ」
「ふ〜ん、そうなの」
七瀬に告白されてから、どうも調子が狂ってるな。
まだ返事は保留しているけど・・・。
「そういうわけだから、明後日9時に公園で待ち合わせでいい?」
「お、おう。任せとけ」
「どういう返事よ、それ」
七瀬の一挙一動が心に響く・・・・・そんな感じだった。
告白されるまで気付かなかった自分の心。
オレも七瀬が好きだったんだな・・・。
明後日に答えを七瀬に伝えよう。
オレの正直な気持ちを。
隠れていた想いを。

高台の公園に着いたオレは、ゆっくりと噴水の脇に腰を下ろした。
公園の時計は8時半を指していた。
「何やってんだろうな・・・」
あの七瀬の笑顔。
あれが本来の七瀬なんだろうな。
いつもの作り笑いとは違う、感情のこもった自然な笑顔。
それがオレの心を麻痺させた。
・・・不思議なものだな、人間の心って。
「頑張って乙女を目指す・・・か」

タタタタタッ

「あ、折原。待った?」
七瀬がおさげを揺らして来る。
水色のワンピースが新鮮だった。
「夜9時から11時間半、しっかりとな」
「嘘、昨日から待ってたの?」
「ああ。おかげでおまえに傷つけられた古傷が疼いて困ったぞ」
「関係ないでしょ、全く」
七瀬の笑顔が眩しかった。
「さ、行くわよっ」

オレと七瀬の物語が始まったんだ。
ちょっと前まで予想すらしなかった日常が、穏やかな風のように流れ出した・・・。


 つづく


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読んで頂きありがとうございます。
澪ベス『なのなの♪』
次回で終わりの予定です。(たぶん)
感想は次回の時に書きたいと思います。
では。
澪ベス『ばいばいなの』(^^)/~